361. 羊たちの沈没
《ネタバレ》 この手のパロディ映画の中では、結構良く出来た品じゃないかなと思います。 笑いが下品過ぎなくて、観ていて不快になるシーンが皆無というだけでも安心させられるものがありましたね。 他のパロディ映画では、放屁だの嘔吐だのといった下ネタが多かったり、視覚的にキツい場面が頻出したりする事も珍しくないだけに(おぉ、意外と上品だな……)と感心させられたという形。 元ネタの作品を露骨に馬鹿にする笑いが皆無だったのも良かったと思います。 細かい不満点やら、目に付いた欠点やらを論ったらキリが無いだろうけど、それでも幾つかクスっとさせられる場面はあったし「腕時計」や「電話ボックス」の件なんかは、感心させられるものがありました。 「犯人は、アルフレッド・ヒッチコック……に変装した別人」というオチも、実に馬鹿々々しくて、憎めない。 ちょっと疲れている時とか、映画なんて単なる娯楽だろうと再確認したい時には、丁度良い一本かと。 [DVD(吹替)] 6点(2017-03-20 06:01:04) |
362. エグジット・スピード
《ネタバレ》 とにかく序盤の展開が早い早い。 登場人物の説明を手早く済ませ、バイカー集団との対決に至るまでをスピーディーに描き、痛快に突っ走ってくれます。 これは隠れた傑作ではないかとの期待が一気に膨らんで……その後、同じくらいの速度で萎んでしまった気がしますね。 如何せん、籠城戦に移行してからの展開が、非常にかったるいのです。 元々演出が冴えているとか、画作りにセンスがあるとか、そういう訳ではなく、ひたすら早く物語を展開させて、観客に余計な事を考えさせる暇を与えないからこそ、序盤は退屈せずに観賞出来たと思うのですよね。 その唯一にして最大の利点である「速度」が失われた後は、どうにもパッとしない。 終盤、じゃがいもバズーカが登場する辺りからは持ち直した感がありましたが、それでも中弛みの印象は拭い切れなかったように思えます。 敵となるバイカー集団が「悪魔の追跡」を連想させたり、じゃがいもバズーカ大活躍の件は「トレマーズ3」を連想させたりと、この監督さんとは映画の好みが合いそうだなぁ……と感じる場面もあっただけに、全面的に楽しめなかったのが残念でしたね。 言葉が通じないスペイン人のオジサンに、アーチェリーが得意なオタク気質の女性など、主人公以外にも個性的な面子が揃っているし、そんな中では地味な印象だった「子供想いのママさん」が、何としても生き延びて我が子と再会する為、止むを得ず人殺しを行う場面なども、良かったと思います。 最後は、お約束のハッピーエンドで〆てくれる辺りも、安心感がありましたね。 人物設定やストーリーなどは好みなのですが、個々の場面が今一つ洗練されておらず、退屈さを覚える時間も長かった為、胸を張って傑作とは言えない事がもどかしくなる……そんな一品でありました。 [DVD(吹替)] 5点(2017-03-20 05:57:39) |
363. GAMER ゲーマー
《ネタバレ》 同監督作「アドレナリン」のラストでもゲーム風の演出がありましたが、本作でもラストに「全てはゲームの中の出来事だった?」と思わせる演出がありましたね。 現実と非現実の対比、今いる世界もまた誰かに支配されているゲームの世界なのではないかと、作り手の真意について色々と考えさせられる深い映画……なんて事は全然無くて、お気楽SFアクションとして楽しむのが得策な一本なのだと思います。 序盤において主題となるゲーム「スレイヤーズ」の勝利条件が不明な事とか、不満点は色々あったりするのですが「そんなの気にせず楽しんだもん勝ちだよ」と思わせる作品としての大らかさがあるんですよね。 ラストのゲームオーバー画面にしたって「全てはゲームの中の出来事。だから劇中で科学考証とかが間違っていてもツッコまないでよ」という免罪符であり「その代わり、色々アクションとかエロスとか詰め込んで、ゲームらしい楽しい映画だったでしょう?」というメッセージでもあったように思います。 それでも、せっかく主人公とプレイヤーの少年が意思疎通出来るようになったのに、その後に二人が全く絡まず、何の絆も生まれず、ラスボスを倒すのに少し手助けしただけで終わったというのは、何とも寂しかったですね。 あくまでも「ゲームの中で操られている主人公が、自分を取り戻し、家族も取り戻す物語」で終わらせたかった為、意図的にプレイヤー側の出番を減らしたのだと思われますが、そこはもうちょっと欲張って、両者の交流を描いても良かったんじゃないでしょうか。 俳優陣は豪華な顔触れの為(こんな人達をゲームのキャラクターとして操作出来たら、そりゃあ楽しいだろうな……)なんていう、不謹慎な欲望を刺激するものがあり、作中で「ソサエティ」が流行っている事への説得力にも繋がっていて、良かったと思います。 主人公の奥さんが扇情的な恰好をさせられて、四つん這いになった時のお尻がエロかったとか、でもそんな奥さんを操作している男は極度の肥満で、しかも裸でプレイしている姿が最高に気持ち悪かったとか、この設定ならではの印象的な場面が幾つかあるのも好印象。 「窮地の主人公を前にして、黒幕が自らの目論見について得意気にベラベラ喋り、それが中継されているせいで墓穴を掘ってしまう」なんていうテンプレ展開を、堂々とやってみせる辺りも、短所ではなく長所であるように感じられましたね。 全力で肯定するのは難しいけど、楽しめたか否かという基準で判断すれば、しっかり楽しむ事が出来た一品でした。 [DVD(吹替)] 6点(2017-03-16 20:29:29) |
364. 白い嵐
《ネタバレ》 海洋学校を舞台とした青春ドラマ、嵐による遭難、船長の責任を問う裁判と、大まかに分けて三つのパートで構成されている本作。 何やら詰め込み過ぎな印象も受けますが、配分としては「青春ドラマ」が主である為、落ち付いて観賞出来ましたね。 確認してみたところ、映画が始まって九十分以上経過してから、ようやく嵐に遭遇し、残り三十分程で完結する形となっており、作り手としてもメインに据えたのは「嵐に遭遇する前の日々」である事が伝わってきます。 自分としては、海洋学校のパートは楽しかったし、嵐のパートも迫力や悲壮感があって良かったと思うのですが、ラストの裁判に関しては、ちょっと納得いかないものがありましたね。 無言で鐘を鳴らすというメッセージ、生徒側の弁護、船長の毅然とした態度など、きちんと見せ場は用意されているのですが、結論が「免許取り消しは保留された」「だが、船長が海へ戻る日は来るだろうか?」なんていう、実に曖昧な代物だったので、どうにも反応に困ってしまいます。 ハッピーエンドの爽快感も無いし、バッドエンドの重く沈む気持ちも味わえないし、何だか観ているこちらの心も宙ぶらりん。 この辺りは、実話ネタならではの歯痒さでしょうか。 その他、意地悪な見方かも知れませんが「自分が米国人だったら、もっと感情移入出来たかもなぁ……」と感じさせる描写も多かったですね。 宇宙開発やら冷戦やらについてのラジオ放送が、劇中で頻繁に流れる演出なのは、作中の時代背景を伝えるという以上に、米国人のノスタルジーに訴える効果を狙っていそう。 それと、イルカを殺した件をあんなにも重大事のように扱う辺りも(確かに可哀想だ)と思う一方で(外国の人達って、本当にイルカが好きだよな)なんて考えが浮かんだりもして、ちょっと作中人物に距離を感じてしまった気がします。 前述の冷戦やら何やらの放送にて「アメリカの正義」を主張されていたせいか、途中で「キューバの魔の手から、毅然とした態度で少年達を守るアメリカの船長」なんて場面がある事にも、少々鼻白むものがありましたね。 序盤にて「船からの飛び込み」という適度な山場を用意し、観客を映画の世界に招き入れる巧みさなんかは、流石リドリー・スコット監督という感じだし、あんまり褒められた事じゃないだろう「飲酒」「買春」などのパートを爽やかに描いて「これも少年達の成長に繋がる、青春の一ページ」と感じさせてくれる辺りは、良かったと思います。 タイトルに反し、嵐に出会う前の、主人公達が生き生きとした姿を見せてくれる場面の方が面白く感じられた一品でした。 [DVD(吹替)] 6点(2017-03-01 04:30:27)(良:1票) |
365. 罰ゲーム
《ネタバレ》 作中で行われる「サイモンセッズ」というゲームに対し、全く馴染みが無かった事もあってか、今一つ楽しみ切れなかったように思います。 「ジョージ・マクフライ」ことクリスピン・グローバーが殺人鬼を演じている為か、襲われる若者達よりも、彼の方が主人公と呼べそうな作品なのですよね。 だから「殺人鬼がヒロインを監禁して、双子を産ませるオチ」に関しても、彼の目線からすればハッピーエンドという可能性もあるのですが……やっぱり後味は悪くて、満足度は低め。 「双子は両方とも生きている」と匂わせる描写が幾つかあり、その答え合わせがスタッフロール後に行われる遊び心なんかは、決して嫌いではないのですけどね。 ただ、それも「生きてたのかよ!」とツッコませてくれる一方で、結局はサイモンも殺人やら監禁やらの片棒を担いでいるなら「善と悪の双子」という対比も崩れる訳だし、何だか中途半端な印象に繋がってしまった気がします。 自分としては、ヒーローになるかと思われたザックが無残に殺されてしまった辺りも残念でした。 良かった点としては、やはりツルハシを使った豪快な殺し方が挙げられるでしょうね。 不謹慎な話ですが、こういう映画では殺害シーンに一種の「気持ち良さ」「爽快さ」を求められるものでしょうし、その点に関しては平均ラインをクリアしていそう。 森の中に無数のツルハシが飛び交い、何とかそれを回避するアクション場面なんかは、視覚的にも楽しかったです。 上述のザックの死体の中に隠れ、そこから飛び出して殺人鬼に鉈で襲い掛かるヒロインの姿なんかも、迫力があったかと。 「悪魔のいけにえ」の晩餐風景などもオマージュされており、スラッシャー映画として押さえるべき点は押さえてある為、妙に憎めない映画でありました。 [DVD(吹替)] 5点(2017-02-13 21:18:11) |
366. ディスクロージャー
《ネタバレ》 主人公が窮地を脱するのが「間違い電話の録音」「盗み聞き」などの偶然によるイベント頼みである事。 「自分を陥れようとした悪女に証拠を突き付けて、見苦しい言い逃れをする相手に勝利する痛快さ」を二度続けて描いている事。 上記が難点となっているのですが、それを差し引いても面白い映画でしたね。 何といっても、配役が絶妙。 マイケル・ダグラスは如何にも好色そうで、周りから「セクハラしたんじゃない?」と疑われてしまうのも納得だし、それだけに彼が「家族」を選んで誘惑に打ち勝つ姿が光って見えました。 デミ・ムーアの方も性的魅力に満ちていて、中身は「嫌な女」なのに、観ていて全く不快に思えないから不思議。 本作の主人公からすれば紛れもない悪女な訳だけど、本人なりに「男性社会で苦労して出世してきた」という矜持のようなものはあったんだろうな……と感じさせる辺りが、役者さんの上手さなのでしょうね。 そもそも会社側が隠蔽工作の為、主人公をクビにしようと画策していた訳だし、彼女の誘惑は「彼と再び関係を結んで弱みを握り、仲間に引き込んで守ってあげる」のが目的という、歪んだ愛情表現だったのかも知れないと考える事も可能だと思います。 作中のあちこちにて「女性が世に出て働くようになった事を警戒する男性」が描かれているのも、特徴の一つですね。 「その内に精子を提供する者だけが少数残されて、残りの男は滅ぼされる」なんて際どいジョークが飛び出すのだから、当時の世相なども窺えるようで、興味深い。 女性が働いて出世するのが当たり前になった現代すると、何だか滑稽にも感じられるのですが、それでも当人達にとっては深刻な問題だったのだろうな、と思えます。 男性側の目線で描かれた作品であり、偏った世界観となってしまいそうな中で「最終的な勝者となったのは、副社長に就任した女性」となっている辺りも、上手いバランスだったかと。 結局、主人公の出世は叶わずに「Friend」の正体が明かされるというオチについては(まぁ、そんなものか)という程度で、さほど感銘を受けなかったのですが、その後に「家族からのメール」で〆る構成には、唸らされましたね。 思えば事前に「どんなに悪い噂を立てられても、子供達は父親の無実を信じている」という伏線が張られていた為「パパ、早く帰ってきて」というメッセージと、手描きのイラストの威力が倍増しているという形。 出世する喜びなどではなく、家族と一緒にいられる幸せを感じて笑う主人公の姿が、実に恰好良かったです。 「セクハラ問題」「会社内の権力闘争」と、ドロドロした内容が続いていただけに、気持ちの良いハッピーエンドでした。 [DVD(字幕)] 6点(2017-02-12 12:52:52)(良:1票) |
367. アナザー プラネット
《ネタバレ》 様々な寓意を感じ取る事が出来ました。 主人公がトイレの落書きを懸命に消そうとする姿は、己の過去の罪を消したいという気持ちの表れなのだろうし、ラストにて出会った「もう一人の自分」が一歩前に踏み出して終わるのは「罪から逃げずに前を向いて歩き出す」事を示唆したハッピーエンドなのだと思われます。 気になったのは「何故ジョンではなく、もう一人の自分と出会ったのか?」という点ですね。 彼女達が全く同じ存在であるなら、もう一人の自分もジョンにチケットを譲っており、自分同士が出会う事は無いはずです。 単に視覚的な効果を重視したという可能性もありますが、恐らく両者は全く同じような過程を経るも「ジョンにチケットを受け取ってもらえたか否か」という決定的な差があるのではないでしょうか。 あるいは、もっと皮肉に「もう一人の自分はジョンに交通事故で家族を殺されたので、ジョンからチケットを譲られてやってきた」という可能性だってあるかも。 途中まで「これは二つの地球で起こった出来事を交互に描いているのか?」とも考えましたが、それが確定する描写が存在していないので(例えば、目も耳も不自由になり入院してしまったはずの同僚が、元気に通勤している姿を背景で見せるなど、いくらでもやりようはあります)推測の域を出ませんね。 そもそも、あんな近くに地球と同等の星が存在するのは重力の観点からして有り得ないので、あの星は彼女の生み出した妄想とか、何とでも言い張る事が出来そう。 作り手としても、あえて明確な答えは示さずに、受け手次第で色んな解釈が出来るように仕上げてみせたように思えます。 こういった「考えさせる映画」って、観客の「気付き」が要求されるというか、ともすれば「この映画の良さを発見出来た自分は優秀であり、この映画を高く評価出来ない人は発見する力が足りなかっただけである」という選民思想のようなものに繋がりかねないので、ちょっと苦手だったりもしますね。 でも、観賞後に誰かと「あの映画って、どう思う?」と語りたくなる魅力を秘めているのも確かです。 自分としては、総じて楽しめた時間の方が長かったし、ラストシーンからは前向きな解釈を得られたので、一応は満足。 どんな映画であれ「観客次第で名作にも駄作にも成り得る」ものなのでしょうが、本作はそんな具合に、作り手が受け手の感性に頼った面が大きい一品であるように感じられました。 [DVD(吹替)] 6点(2017-02-06 14:48:57) |
368. PUSH 光と闇の能力者
《ネタバレ》 クリス・エヴァンスとダコタ・ファニングの共演という、二人が好きな自分にとっては夢のような映画です。 彼らが画面に映って、動いて、喋ってくれるだけでも満足……と言いたいところなのですが、ちょっと厳しかったですね。 監督の前作は「ラッキーナンバー7」との事なので、きっとドンデン返しが好きな人なのだろうなと推測しますが、どうも自分とは相性が良くないみたいで、残念。 思えば、あの作品も「ジョシュ・ハートネットが主演なのは嬉しいけど、内容の方は……」という感想だった為、それと同じ現象が再び起こってしまったようです。 細かい粗を指摘し出すとキリが無いのですが、大まかに三つだけ。 まず一つ目は、ヒロイン(カミーラ・ベル演じるキラの方)に感情移入出来ないというか、応援する気持ちになれない事。 なんせ彼女、登場して早々に「二人組の敵の片方を洗脳し、相棒を弟の仇だと思い込ませた上で、殺させる」なんて所業を披露してくれますからね。 これは流石に、やり口が悪役過ぎるというか、観ていてドン引きしてしまいました。 恐らく「洗脳によって殺人を行わせる事も出来る」と事前に描いておき、ラストの伏線にする意図があったのでしょうが、それ以前の問題として(こんなヒロイン、嫌だなぁ)と思ってしまった以上、どうしても受け入れ難いものがあります。 二つ目は、銃の弾切れのお蔭でピンチを脱するという展開が二度ある事。 まぁ、気にする程ではないかも知れませんが、そこはせめて一度っきりに留めて欲しかったなぁ、と。 あるいは、それも超能力のお蔭だったのかも知れませんが、自分が観ている限りでは「また弾切れかよ!」とツッコんじゃいました。 三つ目は、作中でスッキリと話が完結していない事。 キャシーの母親を救出する事が出来たかどうか不明だし、ラストのシーンも相手を殺せたかどうかハッキリ描いていないんですよね。 続編を意識していたのかも知れませんが、何とも消化不良な感じ。 超能力の演出はベタだけど、決して悪くないと思うし、演者の力もあってか主人公ニックとキャシーのコンビは好きだっただけに、物語に入り込めなかった事が残念です。 「状況を変えるにはスキルアップが必要」との台詞通り、作中で主人公の超能力が成長している辺りも観ていて楽しかったので、欲を言えばそれに説得力を与えるというか、細かい修行描写みたいなのがあれば、もっと好きになれたかも。 面白かったから続編が観たい……というよりは「これじゃ満足出来なかったから、続編で挽回して欲しい」「キャラクターや能力設定などは魅力的で、面白くなりそうな可能性は感じるから」という理由で、続編が観たくなってしまいました。 [DVD(吹替)] 5点(2017-02-06 07:41:01)(良:1票) |
369. ドラゴンハート
《ネタバレ》 王道のファンタジー映画として、綺麗に纏まっていますね。 何よりもドラゴンに存在感があって、彼が動き、喋り、飛ぶ姿を見ているだけでも楽しい。 ただ、主人公の設定が「凄腕のドラゴンハンター」というわりに、全然凄みが感じられないというか、ハッキリ言うなら強く見えないせいで、今一つ没頭出来なかったように思えます。 血生臭い発想ですが、彼がドレイコと出会う前の段階「凄腕のハンターとして各地のドラゴンを狩りまくる」話の方が面白くなるんじゃないか、なんてついつい考えてしまいました。 ストーリーの流れとしては「ドレイコと組んで村人相手に詐欺行為を働くほどに堕落していた主人公が、本物の騎士になる」という形でカタルシスを生み出そうとしているのは分かるのですが、その「詐欺行為」のパートが非常に楽しそうで、あんまり悪事を働いているようには見えなかった辺りも残念。 最後にドレイコが死ぬ自己犠牲展開になるのも、事前に「死んだら星座になりたい」と語られた通り、星座になってハッピーエンドというのが分かり切っており、完全に予定調和の内であるように思えて、ノリ切れませんでしたね。 この辺りは「王道の魅力」と褒める事も「先が読める退屈な内容」と貶す事も出来そうな、難しい部分。 そもそもドレイコが「心臓を分け与えて瀕死の王子を救う」理由が「善行を積めば死後に星座になれるから」というのだから、本作は非常に宗教的な話なのでしょうね。 その辺りが、信仰心の薄い自分の心には響かなかったのかも。 視覚的には十分に楽しめるし、キャラクター造形なども悪くない。 ハッピーエンドなので後味も良い。 色々と魅力的な要素は揃っているだけに、肌に合わない事が勿体無く思えた映画でした。 [DVD(字幕)] 5点(2017-01-30 07:05:06)(良:1票) |
370. HELL ヘル(2003)
《ネタバレ》 刑務所映画が好きで、ジャン=クロード・ヴァン・ダムが好きな自分としては期待しつつ観賞したのですが、それを裏切らない内容でありました。 まず、入所時の主人公が決して強くはない事が意外。 「これはアクション要素を極力排した、シリアスな刑務所物語なのか?」 と思わせて、事実その通りに陰鬱とした展開が続き、中盤にて「スパルカ」の存在が明かされて、一気にアクション映画の色合いが強くなる。 その後のトレーニングシーンは中々に心躍るものがあるし、ヴァン・ダムがヴァン・ダムらしい強さで敵となる囚人達を倒す姿には、大いに満足。 かと思えば終盤には主人公は戦う事を否定し始めて……といった具合に、二転三転する内容が飽きさせなかったですね。 「あれ? 結局どういった映画になるんだ?」 という興味も相まって、先の展開や結末を推理しながら楽しむ事が出来ました。 この構成は主役を演じたのがヴァン・ダムだからこそ、と思えますね。 アクション俳優として抜群の存在感がある彼が主役だからこそ、この映画は一体どちらなんだ? と考えを巡らせる事が出来るという。 また、主人公の妻がレイプされて殺されており、それがトラウマとなって何度も夢に出てくるのですが、そんな妻の姿と重なるように、主人公の同房人には少年期にレイプされた過去があるし、刑務所で仲間となった若い美男子も現在進行形で囚人達にレイプされている、という設定にも感心。 それゆえに、後者の死に衝撃を受けた主人公が「俺はもう看守の言いなりになって戦わない」という宣言に至る流れも理解出来るし、前者と共に脱獄を図る展開にも、自然と応援したくなる気持ちが湧いてきます。 逆に、他の囚人までもが主人公に影響を受けて「スパルカ」を否定する展開には、少々唐突なものを感じたのも事実ですね。 自分としては「これまで数多くの死者が出ていただけに、元々不満も溜まっていたのだ」と解釈しています。 全編に渡って暗い雰囲気が立ち込める映画であり、ラストシーンも解放された喜び、自由を手に入れた達成感などは希薄。 それでも、地獄のような刑務所生活の中でも、最後まで愛する妻が傍にいてくれたし、これからも共にい続けるのだ、と静かに再確認するかのような主人公の姿には、心を打たれるものがありました。 ヴァン・ダム主演映画の中では「その男ヴァン・ダム」と並んで好きな映画となりそうです。 [DVD(字幕)] 7点(2017-01-01 14:51:27) |
371. ライフ・オブ・デビッド・ゲイル
《ネタバレ》 クオリティの高さは分かるのだけど、どうにも作中の価値観やらメッセージやらが肌に合わなくて「面白い」と素直に言えないタイプの映画があります。 残念ながら本作もそんな一つとなってしまったみたいで、脚本の騙しのテクニックやら演出やらに感心させられつつも、観賞後は「うーむ」と腕を組んで考えさせられる破目になりました。 まず、この映画の最大のオチに関しては「無実の人が死刑された確かな証拠があれば、死刑停止に追い込める」という台詞をデビッド・ゲイルが耳にするシーンがある以上、多くの人が途中で気が付かれたのではないかな、と思います。 自分も、この台詞が飛び出す時点(映画が始まってから三十分程)でオチは読めていたので、衝撃という意味では薄かったのですが、ラストに長々と説明せず「デビッド・ゲイルも彼女が自殺であると承知の上であり、一連の計画の協力者であった」と映像で示すだけで、スパッと終わらせる演出は見事でしたね。 こういうパターンの場合、つい「こんな分かり易い伏線があるんだから、気が付くに決まっている」と作品を見下してしまいそうにもなりますが、ラストの演出で説明を最低限に済ます以上、このくらいのバランスで丁度良かったのではないでしょうか。 観客に対して、きちんと「推理する材料」を提示するという意味でも、非常に誠実な作りであったと思います。 で、上述の「肌に合わない」部分に関してなのですが……これ、どう考えても「死刑制度の問題点」を指摘しているとは思えないのですよね。 自分で死刑になるように行動しておいて「実は冤罪なのに殺されちゃいました」って、自業自得としか思えないし、この場合に明らかになった問題点とは「自ら積極的に死刑になろうと色々と工作した人間を死刑にしてしまう可能性がある」という話でしかない訳だから、台詞の通りに「死刑停止に追い込める」とは考えられないのです。 デビッド・ゲイルの動機としては「取材を受ける報酬として手にした大金を、別居中の妻と息子に贈りたい」「もうじき病死してしまう恋人と心中したい」という想いの方が強かったのではないかな、とも思えますが、劇中ではそれらの感情的な動機よりも、あくまで「死刑制度の是非」という点に重きが置かれている為、やっぱり「そんなやり方で死刑制度を廃止出来る訳ないじゃん」という結論に至ってしまう訳で、何とも中途半端。 本当に死刑制度の問題点を指摘したいなら、倫理的に許されないのを承知の上で「無関係な第三者を犯人に仕立て上げ、彼が必死に無実を訴えても死刑が宣告されるのを見届けてから、執行の直前に全てを自白する」という作戦を取った方が、よっぽど効果的だったのではないかと。 そんな困った人物である彼を、過度に美化する事は無く「公開討論番組で、知事に言い負かされた仕返しをしたかっただけ」「権力者を馬鹿にして、自分の方が利口だって証明したかっただけ」と示す描写も挟むなど、作り手の器の大きさというか、公平な視野を感じさせる辺りは、好ましく思えます。 それだけに、話の核となる部分から説得力が伝わってこなかった事が、実に勿体無く思える一品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-12-22 10:36:31) |
372. YETI イエティ<TVM>
《ネタバレ》 所謂「アンデスの聖餐」を元ネタとした作品。 飛行機事故で雪山に取り残され、生きる為に仲間の死体を食すべきか否かという極限状況の中で、イェティが襲い掛かってくるというんだから、余りにも無茶な組み合わせです。 作中にて「遺体を食べ続けるなんて、ケダモノにも劣る行為よ」なんて具合に、史実の事件を揶揄するような発言も飛び出すものだから、観ているこちらの方が(えぇっ……そんな事を言って良いの?)と不安になってしまいましたね。 肝心のイェティの描写はといえば、非現実的なジャンプを移動手段としているし、襲撃シーンでは男女が棒立ちのまま悲鳴をあげ続けて逃げる素振りを見せなかったりするしで、どうにも緊張感に欠けるという印象。 同じ遭難事故を元ネタとした傑作「生きてこそ」を意識したと思しき「生きる為に禁忌を犯すべきか?」と人間同士で言い争いする場面は意外と面白かったのに、本作の目玉であるはずのイェティが出てくると途端につまらなくなるという、非常に困った現象が起きている形です。 隠し持っていたチョコを食べていた事が仲間にバレて責められるとか、そういうシーンだけでも楽しめたのに、そこにイェティが絡んできちゃうものだから「来なくていいよ……」なんて思ってしまいましたね。 二通りの魅力を味わえるお得な映画、と言えない事もないのですが、自分としては「生きる為の究極の選択」「イェティの襲撃」どちらかに絞った作品を観てみたかったところです。 [DVD(吹替)] 4点(2016-12-21 10:44:00) |
373. ワンダラーズ
《ネタバレ》 昔に一度観たっきりで、美しい思い出となっていた本作を久々に観賞。 恰好良くスカジャンを着こなす主人公、坊主頭の敵軍団などは、日本の不良漫画「クローズ」に与えた影響も大きそうですね。 その他、劇中曲が有名なものばかりである点など、当時は分からなかった事にも色々と気が付けて、新鮮な気持ちで映画を楽しめたと思います。 ただ、思い出の中では「青春映画の傑作」という、非常に素晴らしい作品として記憶されていたのですが、今改めて観返してみると、少々退屈に感じる部分もあったりして、ちょっと残念でしたね。 主人公達はひたすら恰好良くて魅力的というイメージがあったのですが、実際は情けない場面も多いし、今一つ感情移入出来ない言動も多かったりしたのです。 記憶にも鮮烈に残っていた、導入部の「Walk Like a Man」の素晴らしさ。 そして「The Wanderer」のリズムに乗せて次々に仲間が集まり、喧嘩をしに向かう場面などは、今見ても胸躍るものがあったのですが、それと同時に(あっ、この場面の恰好良いイメージだけを憶えていたんだな……)と自分でも気が付いちゃったりして、何だか切なくなってしまいました。 序盤で如何にも大物といった感じで登場したペリーが、中盤以降は特に活躍する事も無く「個人の力も、大きな集団(=社会、時代などの象徴)の前では無力」劇中曲の歌詞通りに「鉄の拳があっても、何の役にもたたない」という描かれ方をしている辺りも、今となっては少々陳腐というか、単なる期待外れにも思えてしまいます。 それでも「ワンダラーズは永遠だ」という台詞は、やっぱり感動的だと思いますし、子供を卒業して大人になる事への不安、時代の変化と個人の成長、そして友との別れなど、映画の中で描かれた諸々に対し、今でも胸が熱くなるものがあったのは確かです。 勝手に思い出を美化していただけなのか、あるいは自分がこの映画に没頭出来る純粋さを失ってしまったのか、理由は定かではありませんが、かつての「青春映画の傑作」から「結構面白い、古き良き映画」という印象に変わってしまった形ですね。 確かな満足感と、ほんのり寂しい気持ち。 それらを同時に味わう事が出来た二時間でありました。 [ビデオ(字幕)] 6点(2016-12-20 14:14:30) |
374. サイド・エフェクト
《ネタバレ》 「女は小さい頃から演技を学ぶの」「多分、男が嘘を学ぶのと同じ頃に」という台詞が心に残ります。 映画が終わった後も、女は精神病院から解放される為に演技し続けなければいけないし、対する男が勝利出来たのは、嘘を吐いた御蔭。 医療問題、薬物依存をテーマに扱った社会派映画かと思いきや、騙し騙されのサスペンス映画であったという、この作品を象徴するような台詞でしたね。 序盤は重苦しい雰囲気で、これは苦手なタイプの映画かと警戒していたのですが、中盤から俄然面白くなり、以降は画面に釘付け。 エミリーが夫を刺殺したシーンの衝撃は凄かったですし、彼女が真実を告白する件も良かったと思います。 これは少々アンフェアで、人によっては不愉快に感じてしまう部分かも知れませんが、最初から視点を主人公のジョナサンに定めず、さながらエミリーの方が主人公であるかのように描いていたのが、巧妙な目眩ましとなっていましたね。 これによって、観客は彼女に自然と感情移入する形となり、騙されやすくなってしまう効果があったと思います。 自分としては、序盤の彼女の描き方が俯瞰に徹していたというか、内面描写にまでは踏み込んでいなかった点を考慮して、ギリギリセーフかと判定する次第。 そんな具合に「気持ち良く騙された!」「これは傑作だ」と大いに褒め称えたくなる一品なのですが、終盤の展開には不満もあり、残念でしたね。 幾ら何でも黒幕の女性がペラペラと喋り過ぎというか「証券詐欺に、殺人の共謀容疑」なんて丁寧に罪状まで言わせちゃって、それを逮捕の決め手にしちゃうだなんて、本当にガッカリ。 自白させる展開自体が間違っているとは思いませんが、もう少し時間を掛けるか(安易だなぁ……)と思わせない工夫が欲しかったところです。 せめて警官に「殺人の共謀容疑と証券詐欺で起訴します」と復唱させるのを止めるだけでも、少しは印象が違っていたのではないでしょうか。 結局、エミリーも精神病院に収監されて元の状態に戻っただけなので(何らかの手段でそこから脱出してしまうかも?)(主人公が復讐されてしまうかも?)と思うと、今一つ落ち着かなくて、ハッピーエンド色が薄いように感じられた辺りも残念。 失いかけた家族を取り戻す主人公の姿についても、詳しい過程が語られず「無事に元に戻りましたよ」と結果だけが示される形だったので、どうにもカタルシスを得られず仕舞いでした。 ソダーバーグ監督らしく、展開がスピーディーなのは長所でしょうし、種明かしを済ませた後は、スパッと短く終わらせるのも正解だとは思います。 それでも、もっと丁寧に描いて欲しかったなぁ……と、ついつい感じてしまった映画でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-12-15 07:38:26)(良:1票) |
375. サタンクロース
《ネタバレ》 クリスマスにサンタが人を殺しまくる映画といえば「悪魔のサンタクロース 惨殺の斧」などの前例があります。 けれど、あちらが「サンタの扮装をした殺人鬼」という扱いだったのに対し、こちらは本物のサンタという設定なのだから、よりインモラルですね。 煙突から家屋に侵入し、室内にいた人々を殺しまくる冒頭のシーンから、もう「掴みはOK」といった感じ。 こうして文字に起こしてみると、如何にも残酷な映画であるように思えますが、実際はといえば、軽快なBGMに乗せてスピーディーに、しかも様々な小道具を用いて楽しそうにサンタが殺していくものだから、どう見てもギャグにしかなっていないというバランスでしたね。 サンタクロースの恰好をスタイリッシュにアレンジして、さながらダークヒーローめいた趣きさえ漂わせている辺りも、実に効果的だったと思います。 ただ、それだけに終盤では上着を脱ぎ捨てて「サンタクロースの恰好」から外れてしまっているのが残念。 結末も「主人公達はサンタを倒す事が出来ず、北極に追い払うのが精一杯だった」という形であり、ちょっとスッキリしないものがあります。 まだまだ精神的に未熟な若者である主人公が、可愛らしいヒロインと共に「また現れるだろうけど、次も追い払ってみせる」と決意してみせた空気だったのは、成長を感じさせてくれるけれど、一応サンタを倒して決着をつけて「もし甦ってきたとしても、再び倒してみせる」という形にしても良かったじゃないか、と思えましたね。 続編を意識したのか、あるいはラストの空港でのやり取りを描きたかったのか、作り手の真意は不明ですが、もっと綺麗に完結させて欲しかったところです。 空飛ぶトナカイからプレゼント爆弾を投下するサンタの姿は、それだけでも「観て良かった」と思えるものがあるし「図書館では静かに」などのギャグも面白い。 ミニオーブン、胡桃割り人形などのアイテムの使い方も上手かったですね。 主人公とヒロインのコンビも「良い奴ら」であり、ともすればサンタ側に感情移入しそうになるのを引き止めて、素直に彼らを応援させてくれるのに成功していたかと思います。 ラストにて二人が結ばれる事も併せ、デートムービーとしての魅力を備えている辺りも素敵。 何もかも理想通りとはいかないけれど、全体的には楽しめた時間の方が、ずっと長かったという、それこそ現実のクリスマスのような映画でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-12-13 20:00:18)(良:1票) |
376. ロボコップ(2014)
《ネタバレ》 黒いロボコップが恰好良いという、それだけで満足してしまいそうになる一品。 フェイスオープンの状態から、バイザーが下りると同時に赤い目が光り、戦闘開始となるシーンなんてもう、痺れちゃいましたね。 正面玄関からバイクでビルの中に突っ込み、着地するより先に飛び降りて、その勢いのまま膝蹴りを敵のED209に見舞うアクションなんかも、これまた最高! その後、左腕がED209の亡骸に挟まって身動き取れなくなったら、自ら左腕を切断して窮地を脱する展開なんかも、実に良かったです。 ここは、痛みを感じない「ロボコップ」だからこそ成立するシーンであり、キャラクター性を活かしたアクション演出として、大いに評価したいところ。 黒人の相棒警官が、黒いスーツを纏った主人公に対し「これで色も相棒だ」と笑顔で軽口を叩いてみせるも、別れた後に、その「黒い背中」を悲しげに見つめる表情なんかも、味わい深いものがありました。 「最高のヒーローは?」「死んだヒーロー」という会話も、独特の皮肉が利いていましたし、ゲイリー・オールドマン演じる博士が、一旦は敵に買収された振りをして、その後にロボコップを助けようと奔走する姿も良かったですね。 特に後者に関しては、中盤にて「命令には逆らえない小心者」だと示すシークエンスがあっただけに、越えてはならぬ一線だけは越えずに踏み止まってくれた事が、本当に嬉しい。 主人公がロボコップとなった後、機械ではない「生身」の部分が、どれだけ残っているのかを見せ付けられるシーンも、非常に衝撃的。 もう決して元の「人間」には戻れない。 「ロボコップ」として生きるしかない……と思い知らせる効果があり、そういった布石があるからこそ、ラストの「機械ではなく人間である事を証明する」シーンの感動が、一際大きくなっているのだと思います。 勿論、過去作における銀色のボディもレトロで、メカメカしくて味があったのですが、自分としては如何にも「戦闘用」という趣きがある今作の黒ボディの方が好み。 それだけに、黒ボディが破損した後のエンディングでは、銀色のボディに変わってしまっているのが、実に残念。 「人間としての感情を取り戻した明るい笑顔」には銀色の方が相応しいし、元々「没デザインとなった銀色ボディも存在する」という伏線が張られていた以上、壊れたボディの代理として使われるのは自然な事なのでしょうが、出来るなら最後まで黒で通して欲しかったところです。 また、ニュース番組にて激昂するサミュエル・L・ジャクソンを映し出し、ブラックユーモアを叩き付けるように終わる手法も、決して嫌いではなかったのですが……どちらかといえば、家族の再会で綺麗に終わらせてくれた方が、より好みだったかも知れません。 いずれにせよ、旧三部作においても2の妻との対面シーンが一番好きだったりした自分としては、家族愛を中心に据えて作られている事が、非常に嬉しかったですね。 結局は命令に逆らえず機械のまま生き続ける1987年版とは全く違った、人間としての自分を取り戻し、家族とも再び一緒になるという、掛け値なしのハッピーエンド。 こういう「ロボコップ」が観たかったんだと、胸を張って言える作品でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2016-12-02 18:56:46) |
377. ハウス・オブ・ザ・デッド2<TVM>
《ネタバレ》 前作からは一転、かなり真面目に作られているゾンビ映画。 こういった形で作風が分かれた以上「1の方が好き」あるいは「2の方が好き」という論調で語りたかったところなのですが、正直に感想を述べると「どっちも同じくらい……」という結論に達する為、困ってしまいますね。 分かりやすいところで比較すると、主人公に関しては、本作の方が圧倒的に好感が持てます。 如何にも有能そうなルックスに反し、作中の行動はドジが多くて頼りないのは玉に瑕ですが、観客としては応援したくなるタイプの人物でした。 キーアイテムとなる血液サンプルの価値を「売却によって齎される金額」でしか考えられない悪役に対し「それによって救える命の数」を語ってみせる辺りも、良い奴っぷりが伝わってきましたね。 作中にて、ユーモア部分も適度に取り入れつつ、それらは大体ゾンビ達に担当させて、主人公側の人間達は出来るだけシリアスな雰囲気を保てるよう配慮しているのも、良いバランスだったのではないでしょうか。 特に、図書館では静かにするよう「シーッ」と言い出すゾンビなんかは、自分もお気に入りです。 では、難点はというと……何だか根本的な話になってしまうのですが、緊張感が無いのですよね。 蚊に刺されただけでも感染してしまうという設定は非常に驚異的なのに、何故か主人公達は返り血ばんばん浴びまくって、口にも血が入っているはずなのに、全然平気で人間のままなのです。 (えっ? 感染しないの?)という混乱が先立ってしまい、折角真面目にゾンビ映画をやってくれていても、その世界の中に没頭出来ない形。 その他、暗闇の中の人影を「人間か」と思って近付いたら「実はゾンビだった」ってパターンが連続して発生するので(またかよ)とゲンナリしてしまったのも大きいですね。 序盤の段階で、こういう演出への不信感みたいなのが芽生えてしまうと、中々払拭するのは難しいみたいです。 極め付けは「大切な血液サンプルを失ってしまった」という展開を、終盤の短時間の内に二度も見せられた事で、これはもう、正直ガッカリ。 これまでの事は全部無駄骨だったなんて、観ているこちらまで落ち込んじゃいます。 主人公とヒロインの二人は生き延びる為、後味が最悪という事はなく、その点に関しては安心。 作り手は色々と頑張ったのは伝わってくるだけに、もう少し達成感というか、カタルシスを与えて欲しかったなぁ……と思わされた一品でした。 [DVD(吹替)] 4点(2016-11-21 10:07:37) |
378. 夢(1990)
《ネタバレ》 夢だから仕方ないのかも知れませんが、何とも抽象的な内容。 冒頭の「狐の嫁入りを目撃してしまった少年」の話からして、尻切れ蜻蛉に終わってしまうものだから、観ているこちらとしては落胆し、観賞意欲を削がれてしまったのですよね。 「結局、狐には許してもらえたの?」「無事に家に帰れたの?」 という疑問が頭で渦巻いている内に、もう画面では次の話が始まっていたという形。 この先、どんなに面白い話が始まったとしても、また唐突に終わるんじゃないかという懸念が尾を引いてしまい、最後まで映画の世界に入り込めなかった気がします。 そんなオムニバス八編の中で、特に印象深かったものを挙げるなら、トンネルの話と、ゴッホの話になるでしょうか。 前者に関しては「足音」の怖さを感じる一方で、青白いメイクをした部下の亡霊が姿を見せた途端「いや、これ監督も笑わせようとしてやっているよね?」と思えてしまい、そのチグハグな空気がシュールで、奇妙に面白かったです。 後者に関しては、絵の世界に入り込む演出が視覚的にも楽しいし、画面作りに拘る黒澤監督が、ゴッホの口を通して「講義」を聞かせてくれているようでもあり、興味深いものがありました。 全体の構成について考えてみると、当初は童話のような雰囲気で「本当に、こんな夢を見たのかも知れないな」と思わせるものがあったのに、後半から妙に説教臭いというか、観客に対するメッセージ性が強まった内容となっていたのが、ちょっと残念でしたね。 「本当に、こんな夢を見たの?」と懐疑的になってしまい、それこそ映画という「夢」から「現実」に引き戻されたような感覚がありました。 所々ハッとさせられる場面もあったのですが、総じて退屈に感じてしまった時間の方が長く「こんな夢なら、早く醒めて欲しいな……」と思ってしまった以上、どうやら自分の肌には合わない夢であったようです。 [DVD(邦画)] 3点(2016-10-24 20:34:44) |
379. 3人のエンジェル
《ネタバレ》 「男が遊びで女装するのは女装趣味」 「女性への変身願望が高じてチン切り手術をするのが性転換者」 「ファッションにこだわってハデに着飾るゲイがドラッグ・クイーン」 「人生を楽しめない女装坊やは、ドレスを着ただけのガキよ」 という作中の台詞が、とても興味深い。 第三者からすると、ついつい「ゲイ」と一括りにしてしまいそうな中にも、様々なタイプがいて、それぞれ拘りを持って生きている事が窺えましたね。 本作はキャスティングだけでも「この人達が女装するなんて、それだけで面白いに決まってるじゃん!」と予見させるものがあり、この辺りは元ネタであろう「プリシラ」よりも上手かったように思えます。 作中にて、ウェズリー・スナイプス演じるノグジーマを、か弱い女性と思って絡んでくる男共には(なんて命知らずなんだ……)と逆に心配になってしまうし、案の定あっさり撃退されちゃう姿には(当たり前だろ!)とツッコミつつも、笑いを抑え切れなかったです。 パトリック・スウェイジ演じるヴィーダが勢い良くドアを蹴り開けて、夫婦喧嘩に乱入し、妻を殴る暴力夫を殴り飛ばして家から追い出す展開なんかも、実に痛快。 この辺りは、彼らがアクション映画で活躍する姿を知っているからこその面白さなのでしょうけど、初見の人でも「えっ、こんなに強かったんだ!」という衝撃を味わえて、楽しめるのではないかなと思えます。 ちょっと気になったのが「メル・ギブソンのお尻はキュートだわ」という台詞。 「ハート・オブ・ウーマン」(2000年)でも彼は「可愛いお尻ちゃん」と評されていたのですが、あれはこの作品を踏まえてのネタだったのか、それとも米国ではメル・ギブソンのお尻がキュートというのは共通認識なのか? と、そんな疑問が浮かんできて、若干集中が乱れてしまいましたね。 また、作中のドラッグ・クィーンが三人とも「喉ボトケ」が無ければ女性と見紛うような美貌という扱いなのも、戸惑うものがありました。 女装コンテストで地区優勝しているのだから、作中世界の認識では美女と分かっていても(どう見ても男じゃん……)とノリ切れない感じ。 今となっては(それも一種のギャグなんだ)と納得出来ますが、初見では違和感の方が大きかったです。 キャットウーマンやワンダーウーマンといった、有名なアメコミヒロインの名前が出てくるのはテンションが上がりましたし、終盤にて描かれるボビー・レイとボビー・リーの恋模様なんかも、実に微笑ましくて良かったですね。 心を通わせ合った女性と別れる事になったヴィーダが「愛してるわ」と言われて「私もよ」と返すのではなく「あなたに愛されて、本当に幸せだわ」と応えるのも、何だか凄く切ない。 もしも、ヴィーダが同性愛者ではなく異性愛者に生まれていたら、二人は「親友」ではなく「恋人」という関係になれたのではないかなと、ついつい考えてしまいました。 仲間から「自分の性を隠すために女装してる」と指摘され、ショックを受けていたヴィーダ。 そんな彼女が、男でも女でもない「天使」だと言われ、嬉しそうな笑顔になる姿には、本当に爽やかな気分を味わえましたね。 ラストにて、ハリウッドの女装コンテストに優勝してジュリー・ニューマーに祝福されるのも、ヴィーダの方が良かったんじゃないかと思えたのですが、この辺りは「第三の天使」とも言うべきチチの成長を示す為、仕方ないところなのでしょうか。 涙を流すような感動とも一味違う、笑顔になれるタイプの感動を味わえる。 そんな、魅惑的な映画でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2016-10-05 08:55:48)(良:1票) |
380. 赤毛のアン/完全版〈TVM〉
《ネタバレ》 こういった映画を鑑賞する際には、主人公の子供側ではなく、保護者である大人側に感情移入する事が多くなったなぁ……などと、しみじみ実感。 とにかくもう、マシューとマリラの老兄妹が素晴らしかったですね。 主人公のアンが、子守の仕事をサボって読書に熱中したり、自分をやたらと「悲劇のヒロイン」アピールしたりする姿に、少々ゲンナリしていたところで、この二人が登場し、大いに和ませてもらったという形。 作中の大人達が、次々にアンを叱ったり、厳しく接したりする中で、マシューおじさんだけが彼女を気に入り、優しく接してくれるのだから、アンだけでなく観客の自分にとっても、彼は本当に癒しの存在という感じなのです。 妹のマリラおばさんのキャラクター性も抜群で「なるほど。ツンデレとは、こういう女性を指すのか」と、思わず感心してしまったくらい。 当初はアンを嫌っていたはずの彼女が、段々と愛情を抱くようになっていく姿が、本当に丁寧に描かれているのですよね。 それだけに、駅でアンの旅立ちを見送る二人の姿と 「あの時(孤児院には男の子を頼んだのに)女の子に間違えてくれて良かったな」 「あれは神の思し召しですよ。ウチには、あの子が必要だった」 という台詞のやり取りには、じんわりと感動。 気が付けば、マシュー以上にマリラの方がアンを可愛がっていて、そんな妹にマシューが少し呆れているような様子も、実にチャーミグでした。 終盤、アンが帰郷した際に、農作業中のマシューが心臓の発作で倒れてしまうのですが、その時の会話も、素晴らしいの一言。 「私が男の子だったら、畑の仕事を手伝えたのに」 「そう思った事は無いよ」「女の子で良かった」「自慢の娘だ」 と、幸せそうに語りながら息を引き取る姿には、思わず落涙。 父娘の絆に、大いに心を揺さ振られました。 そんな具合に、自分としてはマシュー視点の映画として、娘を見守るような気持ちで観賞した本作。 でも、全体の主人公としては、間違いなくアンである訳で、その少女漫画的なストーリー展開には、多少の違和感を覚えたりもしましたね。 ギルバートとの恋愛模様に関しては、特にそれが顕著であり、彼がやたらと都合良くアンの前に現れる事なんて、もしかしてギャグでやっているのだろうかと疑ってしまったくらいです。 ボートが壊れて溺れそうになったアンを助ける姿や、ラストシーンで馬に乗って現れる姿なんて、典型的な「王子様」キャラといった感じ。 この辺りは、やはり女性向けの作品なのかな、と思わされました。 とはいえ、そんな具合に「女性向け」の内容が苦手であるはずの自分さえ、これだけ感動させられたのだから、凄い映画である事は、疑う余地が無いかと。 また何年か経った後に、今度は懐かしさと共に観賞して、穏やかな世界に再び浸ってみたくなる…… そんな一品でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2016-10-01 21:21:54)(良:2票) |