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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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41.  アメリカン・サイコ 《ネタバレ》 
親の金で有名大学を卒業し、親の力でウォール街のエグゼクティブになった男の物語。趣味の音楽について長々と講釈を垂れるものの、彼が愛する音楽はヒューイ・ルイスにホイットニー・ヒューストン。日本で言えば、音楽通を名乗る人間がEXILEや西野カナについて真剣に語るようなものでしょうか。実際のところ、彼は音楽など好きではないのです。好きではないが、ファッションとして音楽好きであろうとしているだけ。こんな調子で趣味、仕事、友人、恋人、彼の周りにあるものはすべて上っ面のものばかりです。そんな上っ面ばかりの空虚な生活にはさすがに嫌気がさし、ここは自分がいるべき場所ではないと感じながらも、同時にこのコミュニティを離れては生きられないことも認識できている点がこの男の悲しいところ。自分には能力がないことをよくわかっているのです(ホームレスに長々と説教を垂れる場面、自分より教養のない人間の前でのみ小難しい話をしたがる点に、彼のコンプレックスがよく現れています)。顔面のお手入れや筋トレ、名刺作りに精を出したところでこの根深いコンプレックスを払拭することはできず、さらには妄想の世界にも逃げ場はなく、最終的に彼の人格は破綻してしまいます。。。 以上が本作の内容です。私は人生のある一時期、頭がよくて洗練された人々のコミュニティに間違って紛れ込んでしまって、非常に息苦しい思いをした経験があります。その時には”ホンモノの人たち”を見て完全に自信喪失するという感覚を痛いほど味わっただけに(ポール・アレンに出会った時の主人公と同じ感覚でしょうか)、本作の主人公には大変共感できました。もしあの感覚が一生続くとしたらまさに地獄。仮に貧乏であっても、ほんの些細なことで自信を持てる人生の方がきっと幸せです。。。 興味深いのは、本作が「ファイト・クラブ」や「マトリックス」と同時期に製作されたこと。ホワイトカラーが物質主義から脱却し、本当の自分を模索する物語が3本も続いたことは偶然ではないでしょう。
[DVD(吹替)] 7点(2012-05-12 02:30:07)(良:1票)
42.  スリザー 《ネタバレ》 
50年代のモンスター映画を観て育った世代が80年代にそれらの作品のリメイクを続々と発表し、そして80年代のモンスター映画を愛するジェームズ・ガンが、21世紀のテクノロジーとねじれた笑いのセンスでモンスター映画を再度蘇生させたのが本作です。この映画は「懐かしさ」や「お約束」の塊なので、過去のモンスター映画を観ていない人にとっては苦しい作品です。元ネタを知らないモノマネを見ているようなものですから。ただしその手の映画が好きだった人にとっては、本作はなかなかイケると思います。隕石に乗って地球に飛来する冒頭にはじまり、田舎町という舞台設定、「うちの夫がヘン」という導入部、ブレインスナッチに、ニュルニュルの触手に、ゾンビ状態の感染者にと、B級モンスター映画としてはほぼフルスペック状態となっています。警官達が装備を整える場面で、一瞬「プレデター」の音楽が流れた時には感動いたしました。本作には二人のヒロインがいるのですが、片や入浴中に襲われ、片や下着姿でラストバトルを迎え、おっぱいへのこだわりも十分なのです。「胸の谷間を撮りたいだけじゃん」という場面がいくつかある点など、実によくわかってらっしゃる。そんなこんなで80年代モンスター映画の総決算をやる一方で、21世紀ならではの捻りもちゃんと加わっています。笑っちゃいけないところで笑う、さすがに殺しちゃマズイ対象(子供、犬、お年寄り)を殺す、街が全滅して終わりという残酷すぎるラスト(80年代であれば、ボスを倒したことで寄生体が死滅し、意識を乗っ取られていた住民たちは正気に戻るというオチにしたはず)などです。この手の映画に免疫のない方が見ると「ちょっとやりすぎではないか」と思うかもしれませんが、このくらいネジの飛んだ映画というものも、たまには良いものです。
[DVD(吹替)] 7点(2012-02-04 14:47:32)(良:1票)
43.  PUSH 光と闇の能力者 《ネタバレ》 
理詰めのX-MENといった趣で、超能力者の設定はよく考えられています。「我々が知らないだけで、こういう能力を持った人達は実在しているのかも」と錯覚させる絶妙なレベルに能力が設定されているし、超能力者にはそれぞれに人生があり家族もいるのだという当然の描写がなされていて、本当によく練られた話だと思います。劇中には9つのタイプの超能力が登場するのですが、それぞれの能力には特有の強みがあって、チェスや将棋のコマのように複数の能力を組み合わせることで敵勢力を出し抜くというゲーム感覚の戦いが繰り広げられます。「ウルヴァリンさえいれば済むじゃないか」というX-MENとは違い、集団戦の面白さを追求した絶妙な設定になっていると思います。問題は、脚本家と監督の力不足によりこの内容を2時間弱に納めきれていないこと。物語は唐突にはじまり、各々のキャラが何を考えているのかを把握する間もないまま話が終了するという残念な仕上がりとなっています。情報整理がヘタクソなので各能力の特徴すら説明しきれておらず(よくわからない能力の人が何人かいます)、Wikipediaの解説を読んで事前に知識を整理してから鑑賞する方が無難です。ラストの作戦などは複雑すぎて頭が痛くなったし、よくよく考えてみれば、あんなにもややこしくて偶然性に頼りまくった作戦なんてうまくいくわけがありません。その上、ドンデン系の映画に必要な「引き」の演出が出来ていないので、余計に映画がつまらなく感じます。見ているこっちは、途中でどうでもよくなってしまうのです。監督のポール・マクギガンはクライムサスペンスを得意とする人で、アメコミ風の世界を舞台にした大規模なミステリーをやろうとしていたようなのですが、SFの前提で鑑賞している観客がどれだけの情報量を吸収できるのかという計算が完全に狂っていました。あまりに詰め込み過ぎなのです。前作「ラッキーナンバー7」同様、企画倒れの映画だと思います。
[DVD(吹替)] 4点(2012-01-19 01:05:46)(良:1票)
44.  パッセンジャーズ 《ネタバレ》 
映画の前半、主人公クレアが姉に対してかけた電話が通じなかった時に、「まさか例の映画のあのオチか?」と悪い予感がしました。とはいえ本作はそこそこのスターが共演し、それなりのバジェットもかかっているハリウッド映画。10年も前の大ヒット作と同じオチをかましてくることはないだろう、これはミスディレクションで、もうひと捻りしてくるに違いないと思って最後まで鑑賞したのですが、なんとそのまんまのオチでした。過去の映画のオチをまんま引用し、観客はいまだにこのオチで騙されると思っていた製作陣の手抜きぶり、厚顔無恥ぶりには驚かされました。オチに至るまでの物語にもまるで面白みがなく、たった90分の映画であるにも関わらず、観ているのが苦痛で仕方ありませんでした。。。 本人オチ映画は90年代から00年代にかけて多く製作されましたが、その中でも評価の高かった作品はオチ以外のパートも十分に面白く、オチを知った上での繰り返しの鑑賞に耐えられる完成度を誇っていました。裏を返せば、映画としてのポテンシャルが高ければこそ、オチは衝撃的であることができるのです。この点、後発である本作が、なぜ過去の秀作から学ばなかったのかと不思議でなりません。 
[DVD(吹替)] 2点(2012-01-11 23:16:49)(良:1票)
45.  キラー・インサイド・ミー 《ネタバレ》 
怖かった!アメリカでは評価されなかったようですが、これはとんでもない傑作だと思います。現実の報道等を見るに、この世界には殺人という行為を生来の欲求として楽しむ人間がある一定数存在するようです。そんな人間の心理・行動を鋭く描いた、恐らく唯一の映画が本作であると思います。それはキューブリックやスコセッシらが描いてきた狂気とは一味も二味も違ったもので、当然のこととして淡々と殺人を行う異様な空気が映画全体を席巻。婚約者を愛し、彼女と一緒にいるとこの上ない開放感が得られると語りながら、もう一方では「この女は絶対に殺さねばならない。もう笑ってしまうくらいにそう思う」とサラっと言いのけ、実際に無惨な殺し方で婚約者を惨殺する主人公ルー。自分を愛してくれた娼婦、すべてを受け入れてくれた婚約者、息子のようにかわいがってくれた上司、兄貴のように慕ってくれた街の若者、それらすべての人々を死に追いやり、その死を鼻で笑うという空前絶後の鬼畜ぶりには戦慄しました。街では好青年として振舞っているものの、明らかに周囲の人間を見下し、調子を合わせているだけという冷淡さが滲み出たキャラクターに、ケイシー・アフレックが完全にハマっています。「ジェシー・ジェームズの暗殺」でも感じたのですが、この人の腐りきった瞳は本当に素晴らしい。レクター博士やアントン・シガーに並ぶ怪演を堪能できます。ルーの中には一応、マトモな人格も存在しているのですが、殺人者としての人格との間に対立や葛藤がまったくないことが、この映画をより陰惨なものとしています。呵責も後悔もなく、平然と殺人を犯してしまうのですから。唯一の救いはラスト。ビル・プルマンが登場して以降はルーの脳内の物語なのですが(keijiさんのレビューでそれに気付きました)、「場違いな畑に生えた草は雑草なんだ」というビル・プルマンの説得によって殺人者としての人格はこの社会において不要であることを自覚し、ルーはその人格を葬り去ります。大事な人をすべて失った後では、もう遅いのですが。。。なお、ラストに流れる”Shame on you”を歌っているスペード・クーリーは、娘が見ている前で妻を殴り殺した人物のようです。まぁ何から何まで陰惨な映画ですね。
[DVD(字幕)] 8点(2011-12-30 15:27:20)(良:2票)
46.  2012(2009) 《ネタバレ》 
21世紀のジョン・ギラーミンことローランド・エメリッヒが放つ、映画史に残る大バカ超大作でした。これまでもエメさんは大風呂敷広げまくりのバカ映画を作ってきましたが、今回はバカの度合いが桁外れ。合衆国大統領が娘にまで隠している国家機密を、なぜかド田舎でDJやってるキ○ガイが事細かに知っているという不思議。超極秘とされている箱舟建造場所まで知っているのはナゼなんだ。その箱舟は全長が数キロにも及ぶ巨大船であるにも関わらず、工具がたったひとつ挟まっただけで動かなくなるというハリボテ仕様。「ドアが完全に閉じないとエンジンが動かない」って、一体どんな設計してるんだ(笑)。主人公は自分達が助かりさえすれば良いと思っている超絶ワガママ人間で、眼下で数千万の人間が死んでいても冗談を言えるタフな心を持っています。彼らが乗る巨大輸送機を使えば数百人の命を救えたにも関わらず、10人程度の身内・知り合いだけを乗せて火事場から飛び立つという倫理観の欠落ぶりには呆れました。合衆国大統領、輸送機のパイロットら、勇気を出して自己犠牲を買って出た人間は必ず死ぬという暴虐ぶりで、生き残った人間達はその自己犠牲について省みることもなく「俺が俺が」と言い続ける有様。ラストでは、家族の絆を取り戻したんで邪魔になってきた再婚相手が、実に調度良いタイミングで死んでくれるというハイパーご都合主義が炸裂します。生き残ったファミリーは、彼らの生存のためにあれこれ頑張ってくれた再婚相手のことを微塵も思い出すことなく、「俺ら生き残って良かったよねぇ」と新天地への希望を膨らませるのでした。。。なんだこの映画は(笑)。もしこれらすべてが計算のうちで、アメリカ人の貪欲さを描く壮大なブラックコメディであったとしたら、この映画は世紀の大傑作であると思います。ただし、ヘルムズリー博士がたまに英雄的な行動をとったり、家族愛で泣かせようとするくだりがいくつか挿入されている点から判断すると、エメさんはこの映画を大真面目に作ってるっぽいんですよね。その頓珍漢ぶりがなんともカックンなのですが、映画史上最大の破壊が繰り広げられる前半の素晴らしさに免じて5点とします。
[DVD(吹替)] 5点(2011-12-06 20:20:06)(笑:2票)
47.  アンノウン(2011)
リーアム・ニーソンと言えば、マイケル・コリンズやオスカー・シンドラー、ロブ・ロイといった歴史上の偉人達を演じてきた正真正銘の演技派でした。その素晴らしい存在感は多くの映画人から絶賛されており、ジョージ・ルーカスはジェダイの大師匠としてニーソンの起用を切望し、マイケル・ベイは「トランスフォーマー」におけるロボット軍団のリーダーについてニーソンをイメージしてそのキャラを作り上げたと語っています。そんなニーソン、55歳を過ぎて突如B級アクションに目覚めて迷走をはじめています。スティーブン・セガール、メル・ギブソン、ハリソン・フォード等の個性をたったひとりで表現できてしまう器用さが製作側にとっては便利なようで、ここんとこは娯楽アクションへの出演が相次いでいますが、本作についてはニーソンクラスの俳優が出るべき映画ではないと断言できます。そもそもの着想がありがちだし、ディティールもボロボロ。つっこみ出すとキリがないほどマヌケな殺し屋集団には呆れてしまいました。陰謀の核心も魅力的ではなく、爆弾解除に走り出す後半に至っても緊張感を出しきれていない演出は改善の余地ありです。「96時間」で起こった化学反応がいかに偶然の産物であったかが、本作を見ればよくわかりました。
[DVD(吹替)] 4点(2011-12-05 09:24:23)
48.  クライム&ダイヤモンド 《ネタバレ》 
残念ながら面白く感じませんでした。全体的なプロットは良いのですが、細部があまりに雑なのでアラばかりが気になります。そもそも主人公フィンチは詐欺師なのですから、彼の語る物語には真実と嘘が巧妙に混じり合っていて、その嘘を解き明かしていく過程で全体像が見えてくるというのがこの手の映画の基本でしょ。例えばダイヤモンドに係るエピソードはラスト近くにまで伏せられていて、最後の最後で主人公の目的はダイヤモンドを奪うことだったという話にすればよかったのですが、そういう捻りがこの映画にはありません。詐欺師がバカ正直に事実を話してどうすんだって感じです。また、タイトルにもなっているクレディス・タウト氏に係る謎についても同様です。刑務所を脱獄した主人公フィンチは逃亡用の新たな身分を得るためクレディス・タウトという死者の名を騙るのですが、このクレディス・タウトとはマフィアの逆鱗に触れて暗殺された人物でした。タウト氏は生前から正体不明の人物であったことが劇中で語られるため、彼の正体が映画の重要なピースのひとつになると考えるところですが、驚いたことにタウト氏に係る伏線は完全に放棄されて映画は終わってしまいます。この雑さはさすがにアウトでしょ。その他にも本作にはご都合主義が横行していて、中でもダイヤモンドを掘り起こしたい主人公が自ら刑務所に収監されるエピソードの粗さには唖然としました。主人公:俺を刑務所に収監してくれ→警察:自分を刑務所に入れろっておかしくないか?ま、いいか。主人公:俺が刑務所内の庭を掘ることを認めてくれ→警察:刑務所の庭に何か埋まってるのか?ま、いいか。結果、何の苦労もなくダイヤモンドを掘り起こしてしまう主人公。犯罪ミステリーでこんな頭の悪いやりとりをしちゃいけないでしょ。詐欺師である主人公が口八丁手八丁で警察に無理な要求を飲ませるというプロセスを入れていればストーリーの説得力が増すし、主人公のキャラクター付けにもなったはずなのですが、シナリオはそうした工夫を完全に怠っています。監督・脚本を担当したクリス・バー・ヴェルなる人物は本作以降ハリウッドから姿を消していますが、有名俳優を何人も配置したこの企画をこの程度の仕上がりに終わらせたのでは、干されたのも仕方ないと思います。
[DVD(吹替)] 3点(2011-10-28 09:51:06)(良:1票)
49.  エンゼル・ハート 《ネタバレ》 
ミッキー・ロークはめちゃくちゃにカッコいいのですが、私の中ではそれだけしか評価すべきところのない映画でした。だからといって映画の質が悪いというわけではなく、文化的・宗教的バックボーンの不足により、私にはこの映画を理解する土壌がなかったことが原因だったと思います。これは悪魔に踊らされる主人公の憐れな末路を描いた作品であり、随所にバチ当りな描写がなされるのですが、キリスト教徒ではない私にはこの映画の破天荒さがイマイチ伝わってきませんでした。。。悪魔を主題にした映画は他にもいろいろあります。特に「エクソシスト」はマリア像が派手に汚されるなど相当バチ当たりな描写を含んでいましたが、それらの映画には悪魔に対する善なる力が必ずセットで描かれ、最後には神が勝つという内容となっていました。それがキリスト教圏の観客の安堵感につながっているのでしょうが、一方本作にあるのは悪魔や異教の描写のみであり、それをやり込めるはずの神の力がまったく描かれません。これが本作の特異なところで、主人公は最初から最後まで悪魔に弄ばれ、旅の最後にはブードゥー教の巫女である実の娘との相姦により悪魔の子孫を残し、そして何の抵抗もできないまま死んでいくという救いのない物語。宗教色の強い作品でありながら神の存在がまったく描かれない不安感がキリスト教圏の人達にとってはショッキングだったのだと思います。本作の悪魔は神を恐れるどころか教会の椅子に座り、「神の前では静粛にしろ」と主人公に説教をはじめる始末。視覚的にエグい描写は少ないものの、やってることはとんでもなくバチ当たりなのです。ただ、視覚的なショックが少ないために非キリスト教徒には伝わりづらいことが本作の欠点となっています。さらに、本人オチも当時としては衝撃的だったのでしょうが、今となっては使い古されたネタであることも本作の魅力を奪ってしまっています。
[DVD(字幕)] 5点(2011-10-19 01:32:51)(良:1票)
50.  ブラインドネス
「ゾンビ」「トゥモロー・ワールド」「ザ・ロード」等と同じく、重要なのは舞台であって設定に大した意味のないSF作品なので細かい点に文句を付けることは野暮ってやつなのですが、そうは分かっていても本作はディティールがちょっと甘すぎるような気がします。みなさんご指摘の通り、隔離施設内で唯一視力を持つジュリアン・ムーアの行動があまりに不自然。あの施設内で彼女は神に等しい能力を持っているのですから、第3病棟のチンピラごときに好き放題させるなんてことはありえません。また政府による感染者の扱いもあまりに雑で、食糧だけを定期的に与えて「あとは感染者同士で好きにやりなさい」なんて管理はあまりに非現実的です。この辺りをうまく処理できなかったために観客の心は離れてしまい、全体的な仕上がりは悪くないにも関わらず支持を得られない作品に終わってしまっています。
[DVD(吹替)] 5点(2011-05-14 21:19:24)(良:1票)
51.  レポゼッション・メン
追う側だった主人公が追われる身に墜ちるというありがちなSF作品なのですが、過剰なまでのグロさや一風変わったBGM、テーマに似つかわしくないねじれた笑いなどで映画に新しさを出すことには成功していて、水準以上の作品にはなっています。派手さはないものの個々のアクションには独特の美学とキレがあり、この監督さんはなかなかスジの良い人だと思いました。配役も面白く、ブルース・ウィリスやニコラス・ケイジが主演を張りそうな本作にジュード・ロウとフォレスト・ウィテカーを持ってきたことで映画に独特の味が出ています。。。ただしテーマを煮詰めることには失敗しているため、見た目以上の作品にはなりきれていません。原作のことはよく知らないのですが、映画を見る限りではサブプライム問題におけるプレデタリーレンディング(略奪的貸付)を題材にした作品のように思います。プレデタリーレンディングとは返済能力のない低所得者にロクな説明も与えず無理なローンを組ませ、過剰な手数料や物件の差し押さえによって利益をあげるという金融業者のあくどい手口。どこの闇金がこんなあこぎな商売をやってるんだと思いきや、アメリカでは大手の金融機関がこんな商売をやっていたのです。家を奪うということは人の生活を奪うということ、アメリカでは大企業が利益をあげるために貧乏人の生活を踏みにじっていたというわけです。本作はそんな社会問題をモチーフに命の差し押さえを行う世界的大企業を描いた作品なのですが、残念ながら現実世界の写し鏡としてのSFの域には達していません。舞台となる未来社会の文化・風俗の描写が甘いのです。みなさんおっしゃっているように主人公が人工心臓を入れるに至った経緯にしても、「なんで労災が適用されないんだよ」という当然の疑問が湧いてくるし、そもそも猫も杓子も多額のローンを組んでまで人工臓器を入れている理由がよくわかりません。ローンを滞納したために命を奪われることとなった人々の悲壮感も薄く、あらゆる面でイマイチ踏み込めていないという印象です。
[DVD(吹替)] 6点(2011-05-09 19:13:17)
52.  リダクテッド 真実の価値 《ネタバレ》 
ヨーロッパの映画祭で絶賛された一方でアメリカ本国では強い反発を招いた作品ですが、映画としてはよく出来ています。とにかく素晴らしいのがデ・パルマの演出で、40年超のキャリアを誇るハリウッド屈指のベテラン監督とは思えないほどの若々しい演出を披露。最近流行りの主観的映像による疑似ドキュメンタリースタイルを積極的に採り入れ、それをいとも簡単に自分のものとして操ってしまうフットワークの軽さには驚きました。監督名を告げられずに本作を見て、これがデ・パルマ作品だと気付く人間はこの世にいないでしょう。デ・パルマについては、そのテクニックのすべてをぶち込んだ究極の犯罪ノワール「ファム・ファタール」を見た時点で「この監督は今後何も撮れなくなるだろう」と思ったのですが、まさかこのような形で戻ってくるとは思ってもみませんでした。さらに、デ・パルマ自身による脚本の出来も上々です。確かにアメリカ兵の悪い面ばかりが強調されており、アメリカ人にとっては胸糞の悪くなる内容ではあるのですが、ともかくイラク戦争というものの一側面を伝えることには成功しています。アメリカ本国であれば刑務所に入っているべき人間が従軍し、銃を持たされていること。教養がなく的確な状況判断を下せないような人間に、場合によっては一般市民を射殺することが肯定されるほどの権限が与えられていること。戦争の正当性を守るために、軍はそうした兵士たちが起こす数々のトラブルを揉み消していること。本作が公開された当初は「あまりにも誇張され過ぎている」という批判が起こりましたが、後にウィキリークスによって公開された、アメリカ兵が冗談を言いながら一般市民を射殺する映像を見るにつけ、本作の内容はイラクの実状にかなり肉薄したものだと評価できます。さらに、狭い舞台、限定された登場人物の中において、ここ10年繰り返されている報復の連鎖を伝えることにも成功しています。状況判断を誤ったアメリカ兵がイラク人の妊婦を射殺してしまう→報復テロに遭い、尊敬する上官が部下の目の前で爆殺される→兵士の中にイラク人を敵視する感情が芽生える→テロとは関係のないイラク人家庭を襲撃し、レイプの末に一家を惨殺してしまう→犠牲者の遺族がテロ組織に入り、さらに過激な報復を行う。オスカーを受賞した「ハート・ロッカー」よりも的確な作品ではないかと思います。
[DVD(吹替)] 8点(2011-04-08 21:15:57)(良:2票)
53.  白い刻印 《ネタバレ》 
精神崩壊寸前の人物を描かせると、ポール・シュレイダーは相変わらず良い仕事をします。ニック・ノルティ演じる主人公の姿がとにかく痛々しいこと。彼はみんなと、特に娘とは仲良くやりたい、尊敬される存在になりたいと願っています。しかし幼少期に父親から酷い虐待を受けたために人格が正しく形成されず、ちょっとズレた人、身近にいると面倒くさい人になってしまいました。冒頭に描かれる娘とのハロウィンでのエピソード、彼は久しぶりに会った娘を楽しませようと張り切っていたのに、無意識のうちにルーズな部分が出てしまって娘の機嫌を損ねてしまいます(「タクシードライバー」のデート場面とよく似ています)。この時の主人公は憐れなほどにいたたまれないし、一方で「変なことに付き合わされるのは迷惑」という娘の気持ちも理解できます。このふたりの間に漂う気まずい空気、これこそがポール・シュレイダーの真骨頂、他の監督ではなかなか出せない味です。そんな主人公はある事故の真相究明に乗り出すのですが、熱くなると我を忘れるという本来からの気質の上に、親権裁判、母親の死、自分を苦しめてきた父親との同居等々のストレスから正常な判断能力を失い、妄想に取り憑かれてしまいます。「みんな俺をバカだと思っているようだが、この事件さえ解決すれば俺は一躍街のヒーローとなり、すべての問題は片付く」。大統領候補暗殺にのめり込んだトラビスの如く、彼は妄想上の事件に向けて走り出してしまうのです。その出発点が「娘から尊敬されたい」という純粋な思いであり、父親からの虐待という不可抗力から人付き合いを苦手としてしまったという根本原因を踏まえると、本作の主人公が狂気に墜ちていく様はあまりに悲惨なものでした。本作は「タクシードライバー」をより普遍的にした物語であり、もっと評価されても良い作品だと思います。
[ビデオ(吹替)] 8点(2011-01-23 21:11:07)
54.  スクリーマーズ 《ネタバレ》 
フィリップ・K・ディック原作映画といえば「ブレードランナー」と「トータル・リコール」の二作しか存在しなかった時代に製作され、潤沢な予算を与えられた先輩達と比較するとあまりに地味だった為に注目すらされなかった作品ですが、意外にもよくできています。核戦争により荒廃したシリウス6Bの自然風景、破壊され無人となった都市、生き残った少数の兵士達が立て篭もっている要塞など、作品の世界観を形成する舞台はしっかりと作り込まれており、予算の少なさがハンデになっていません。また、細かいところでは軍服や銃火器等もかっこよく、SF好きが注目する部分には適切に労力を割いているようです。監督は低予算専門ながら「B級」と切って捨てられない作品を放つクリスチャン・デュゲイですが、本作では彼のビジュアルセンスや、予算のやりくりなどの技術が総動員されています。世界を支配する絶望的な空気、要塞に長く立て篭もっている兵士達の焦燥感の描写は見事だし、いまいちパッとしないピーター・ウェラーが本作ではこの上なくかっこよく映っており、俳優の魅力を引き出すことにも成功しています。さらに、ホラー映画出身だけあって恐怖演出も手慣れたもので、攻撃型スクリーマーが迫ってくる描写や、潜入型スクリーマーが突如本性を現す描写のインパクトは絶大です。スクリーマーとは言え、子供に向かって銃を乱射し、火炎放射器で子供を焼き払うという衝撃的な見せ場も臆せず作っており(この描写のせいで予算が下りなかったのでしょうか?)、やるべきことはきっちりやれる男ぶりもアピール。デュゲイなくして本作なしと言い切れるほど良い仕事をしています。ただし残念だったのがラスト10分で、最後の最後に本作は極めてディックらしい展開を迎えます。潜入型スクリーマーが進化した結果、最新型のタイプ4は人間の感情に等しい感覚を持つに至ります。そしてタイプ4は破壊のために生まれた自分自身の出自を忌み嫌い、愛する人間のために戦い始めるというロイ・バッティもかくやという展開を迎えるのですが、この部分があまりに唐突で驚いてしまいました。もう少しうまく伏線を張り、丁寧に描写をすれば感動的な展開となりえただけに、この部分のぞんざいな扱いが残念で仕方ありません。
[レーザーディスク(字幕)] 7点(2010-07-27 00:46:08)(良:1票)
55.  ヒューマン・トラフィック<TVM>(2005) 《ネタバレ》 
前後篇を2日に分けて見るつもりだったのですが、あまりの面白さに一気に見てしまいました。社会問題を分かりやすく提示することにおいても、また物語のエンターテイメント性においても極めて優れた作品です。もちろん楽しんで見る類の題材ではありませんが、それでもかなりハラハラさせられたのは事実であり、この辺りは劇場用映画で腕を磨いたクリスチャン・デュゲイならではの力技だったと思います。またテレビ映画だったため性や暴力の描写には相当な制限があったものの、こちらも監督の腕前で巧く乗り切っています。人身売買という題材を扱いながら女性の裸の映像は一切使用されていないし、警察組織と犯罪組織の戦いであっても血の量は最小限にとどめられています。それでも題材の衝撃度はきちんと伝わっているのですから、監督の腕前がいかに作品に貢献しているかがわかります。一方でこの手の題材を劇場用映画が扱うと、「現実から目を背けてはいけない」と言わんばかりに露悪的な表現が目立ってうんざりさせられることも多く、節度を保ったレベルに映像の刺激を抑えて多くの人が見やすい作品とした本作は、社会啓蒙のためにも効果的な作りになっていると思います。。。本作は現実の問題をよく研究して作られているようで、私が良心的だと感じたのは東南アジアパートでした。アメリカ人の子供が誘拐されてはじめて東南アジアにおける人身売買が注目されるという設定は、現実の醜さをうまく捉えています。途上国の子供たちが酷い目に遭っていても、私たちは「へぇ、大変なんですね」としか思わない。もしアメリカ人少女が誘拐されていなければ、サウジアラビアに売られようとしていた子供達は救われていなかったはずなのです。この辺りのシビアさ、見ている人間を安易に正義の側に立たせない作りは、社会派作品として見事なものだと思います。
[地上波(吹替)] 8点(2010-07-05 17:54:58)(良:1票)
56.  ザ・プロフェッショナル 《ネタバレ》 
ズタズタにカットされまくった地上波テレビという悪条件での観賞でしたが、それでも十分に楽しめました。と言うより、この映画はたまたまテレビで見るぐらいがちょうどいいんですかね。最後のもうひと盛り上がりがないため、まともな媒体で見ていればちょっと物足りなく感じたかもしれません。終盤の銃撃戦のグダグダ加減などはかなりのものでした。。。とはいえ、「オーシャンズ11」「スコア」「ミニミニ大作戦」と強盗映画が連続していた時期にあって、本作の脚本の出来はそれら作品の中で最高のものでした。さすがはデヴィッド・マメットだけあって構成は緻密であり、かなり大胆なドンデン返しが連続するものの論理的に破綻していません。物語の視点を終始ジーン・ハックマンに絞り、他のことを描かなかった取捨選択も的確で、かなり複雑な犯罪計画をほとんど混乱なく観客に伝えることに成功しています。シャープなセリフ回しも魅力的で、年季の入ったおじいちゃん強盗団には「修羅場を生き抜いてきたプロフェッショナル達」という凄みが溢れています。↓ウメキチさんも書かれていますが、観客に解釈を委ねたラストも面白かったです。ジーン・ハックマンは、若くて美人で自分には不釣り合いな女房が裏切るであろうことを計算に入れていたのか、それとも、女房は若いチンピラを巻くために芝居を打っていたのか、鑑賞後にもあれこれ考える楽しみがありました。こうした遊びを入れてくる辺りも、小慣れた脚本家ならではの巧さなのです。残念なのはマメット自身が監督も担当したことで、この脚本をプロの監督に任せていれば、相当な映画になったはずです。
[地上波(字幕)] 7点(2010-06-26 12:51:06)
57.  プレッジ 《ネタバレ》 
この映画をはじめて見たのは学生の時でしたが、当時は「淡々とした展開でオチも決まらない中途半端なサスペンス」という印象で、鑑賞したこともすぐに忘れてしまいました。しかし社会に出て人生経験もそれなりに積んでから再度観賞すると、人生というものを鋭く描いた生涯忘れられない作品となります。努力は美しいことである、正しい行為は正しい結末へつながっているというハリウッド的な思考回路を完全否定、いかに正しい目的のためであっても、いくら愚直に頑張っても報われないことはある、それが裏目に出ることだってあるという情け容赦のない、しかしリアリティのある物語です。 もし主人公ジェリーが浮かれ気分のままパーティーに留まりあの現場に行っていなければ、もし被害者家族に対して口先だけで対応し約束(プレッジ)などその場限りで忘れるような人物であれば、定年後の余生は順調に送れていたことでしょう。しかしジェリーはあの現場に立ち会い、被害者家族と話すという誰もが躊躇した役を引き受け、そして家族との約束を忘れない正しい警察官でした。そんな、正しくあることが最悪の結末をもたらすというこの皮肉。 また、ジェリーが個人としての幸せに身を寄せようとする時、事件の名残が彼の前に現れ、約束を思い出させます。念願だったメキシコ湾へのフィッシングへ旅立とうとする時、好みの雑貨屋を手に入れ穏やかな余生を目の前にした時、ロリ・クリーシー親子と疑似的な家族関係を築き幸福な家庭を手にしようとした時、ジェリーは事件の残像と遭遇して、幸福を掴む寸前で事件へと戻っていきます。通常の映画であればこうした残像は目的を忘れた主人公に正しい行動を取らせるための「サイン」なのですが、本作では主人公の人生を狂わせることとなります。 結末は衝撃的ですが、ただ観客にショックを与えて終わりではなく、人生の真理のようなものを突き付けているところに、他の映画にはない深さがあります。また、先述した「サイン」の扱いなど普通の映画であれば主人公が報われるような流れを示しておきながら、観客の先読みを利用してこれを裏切る脚本の巧さにも感心しました。 
[DVD(字幕)] 8点(2009-12-16 12:58:31)
58.  300 <スリーハンドレッド>
原作は未読ですが、すべてのカットに「コミックをまんま実写化してやるぜ!」という作り手の気合が満ちていて、これを見てしまえば原作を読む必要はないのではないかという勢いです。本場のスパルタ教育を見せつけられる冒頭から突っ走ってます。生まれた赤ん坊は選別され、子供の頃から暴力の世界に放り込まれる容赦のなさ。スパルタという国とこの映画の作り手はガチンコですよ、何のためらいもありませんよという心意気をここでガン!と見せつけられます。スパルタの元気な兵士達の如く、この映画はあらゆることに躊躇がありません。エロ、グロ、人種差別、障害者差別、普通のハリウッド映画なら良心的に避けるネタを恐れず扱い、血生臭く生きた古代の男たちの物語を、古代の倫理観で描いてみせます。本作のようにお金のかかった大作であっても、骨抜きにしてはならない企画にはかなり自由を許すハリウッドの柔軟さ、企画の本質を理解して適切な意思決定を下せるそのシステムには、素直に感心します。気合入れてトンチンカンなことをやってしまう我が国の映画産業とはやっぱり違うなぁと。そんな本気の原作・脚本を受け、監督の演出もやっぱりガチンコ。前作「ドーン・オブ・ザ・デッド」もビジュアルで押し切る映画でしたが、本作ではまったく違う画面作りを見せるあたりに監督の底知れぬ才能を感じます。100万人の大軍勢を相手に300人で戦うというムチャな話ながら、スパルタ兵ひとりひとりの強さ、誰かが攻めている時は誰かが守っているという合理的な戦法をわかりやすい形で画面に提示したことで、映画を成立させるだけの説得力は維持できています。多国籍軍たるペルシアが次々と繰り出すマンガチックな軍勢の実写化も見事で、こういうキャラ立ちした敵が多いと男子は燃えるのです。また、こうした敵以上にスパルタ軍の濃いこと。常に目がギラギラ、一言しゃべるにも血管が切れそうな地中海の中尾彬ことレオニダス王を筆頭に、男臭いを通り越した300人の男たち。友軍と合流した際に「たった300人かよ」とガッカリされると、友軍の兵士を指さし「お前の職業は?」「鍛冶屋です」、「お前は?」「パン屋です」…「本物の兵士の数なら俺たちのが多いぞ!うぉ~~~!」終始このテンションなのです。圧倒的なビジュアルと並んで、このまっすぐな男たちについても「珍しいものを見たなぁ」という気分にさせられます。
[映画館(字幕)] 7点(2009-09-17 22:19:34)
59.  ウォッチメン
原作既読です。コミックの枠を超え、アメリカ文学史上の傑作とすら言われる作品なのですが、これが実に338ページに及び、コマの中で一瞬うつる雑誌や貼り紙にも意味があり、さらに各章の最後には世界観を補足するためのこってりとした資料まで付属という凄まじい情報量。こんなものを2時間40分で処理できるのかと思ったのですが(原作者も、最初に映画化を試みたテリー・ギリアムも、一本の映画にまとめることは不可能と語っていた)、驚いたことに原作にあった要素はほとんど捨てておらず、かと言って駆け足感もなくて原作と同じようなテンポを再現しています(退屈だという意見もありますが、当の原作がこのテンポであり、そこまで忠実に作られているのです)。また、登場するキャラクターの印象も原作を読んだ時のまんま、ロールシャッハは相変わらずかっこよく、ナイトオウルは相変わらずのヘタレで、Dr.マンハッタンは相変わらずフルチンです。ミニッツメンとウォッチメンという新旧2つのヒーロー組織が登場し、それぞれのヒーローは本名とヒーロー名の両方で呼ばれるため非常に複雑、原作は何度も前のページに戻りながら読んだのですが、映画版はこの辺りの交通整理をうまくこなしており、はじめて見る人でも混乱しないように作られています。こうした秀逸な脚色の上に、監督のビジュアルセンスが炸裂。「ゾンビ」のリメイクでガンコな旧作ファンを返り討ちにしたツワモノだけあって、本作でも驚異的な仕事をしています。原作のカットを忠実に再現しつつ、実写ならではのアップグレードも加味。格闘時のロールシャッハの素早い身のこなしは原作を超えるかっこよさだし、火星に現れる楼閣の美しさは芸術的ですらあります。役者もよく選んできています。全員原作のイメージ通りであり、特にロールシャッハは、正義に執着することで生きている精神異常者で、背の低いブ男なのにマスクをかぶると猛烈にかっこいいという難役であったにも関わらず、これにハマる俳優を選んできているのが凄いです。以上、「ウォッチメン」の映画化としては完璧な仕上がりだと言えます。ただ、ここまで忠実だとどうしても原作ありきになってしまうので、さまざまな工夫がなされているとは言え未読の方にとっては苦しい出来なのも確か。一本の映画としてどう評価すべきかは難しいところです。とりあえず私は気に入ったので、高得点を付けておきます。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2009-09-17 19:00:41)(良:3票)
60.  イースタン・プロミス 《ネタバレ》 
バイオレンスを自称する他のすべての作品に対して「あんたら、本当の暴力をわかってないな」と言えるほどの強烈なバイオレンス作品。これに比べれば、スカーフェイスやグッドフェローズすら甘く感じられます。直接的なバイオレンスシーンはサウナでの死闘のみなのですが、暴力的でギラギラとしたオーラを作品全体が放っており、100分間すべてがバイオレンスシーンと言える状態となっています。コッポラやマイケル・マンが美学をもって描く闇の組織像もここにはなく、平然とモラルを侵し、人の不幸の上で生活する理不尽な縦社会がこれでもかと映し出されます。家族を大事にし孫をかわいがる一方で、10代の少女たちを売春宿に閉じ込めるセミヨンの憎々しさといったらありませんが、これがヨーロッパや、もしかしたら日本でも現実に起こっていることなのですから恐ろしい。監督と脚本家にはマフィアを糾弾したいという意思もあったようですが、現実社会の問題がよく物語に昇華しており、製作者たちがアンナやニコライに託した怒りに私たちも自然と共感できる形となっています。カタギからヤクザの世界を垣間見るアンナが私たちの視点となりますが、彼女の行動原理や直面する事態への反応が非常に自然なので、話に違和感がありません。口数の少ないニコライの人柄を僅かな行動や言葉からきちんと描けているのも見事。キリルから強要されたSEXのあと、情けなさと絶望感から泣くこともできない売春婦の少女に「まだ死ぬなよ」と声をかけるくだりは、作品の世界や彼の人柄を端的に示していました。また、本作の特徴である過激な暴力描写も決して露悪的ではなく、重みと必然性と作り手の責任感が伝わってきます。監督の手腕は神業の域に達していて、オリバー・ストーンあたりだと3時間以上かけそうな情報量を100分程度で無理なく片づけています。物語の進行と登場人物の感情が必ず同時に描かれ一切のムダが省かれており、駆け足も間延びもなく観客のバイオリズムにピタリと一致した構成となっています。テーマから逆算して描くべきものとそうでないものの取捨選択も的確に為されており、例えばFSB絡みの展開はいくらでも膨らませそうなものの、テーマの上では重要でない為触れる程度となっています。この監督は変な映画ばかり作ってるイメージがありましたが、いざシンプルなものを作らせても並の監督ではマネできないレベルにするのですから大したものです。
[DVD(字幕)] 9点(2008-12-19 01:11:27)(良:1票)
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