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プロフィール
コメント数 1047
性別 男性
年齢 30歳
自己紹介 とにかくアクションものが一番

感想はその時の気分で一行~何十行もダラダラと書いてしまいます

備忘録としての利用なのでどんなに嫌いな作品でも8点以下にはしません
10点…大傑作・特に好き
9点…好き・傑作
8点…あまり好きじゃないものの言いたいことがあるので書く

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61.  幌馬車(1950) 《ネタバレ》 
赤狩り(レッド・パージ)の嵐が吹き荒れた時代に反撥を示したジョン・フォードによる、自由を求めてひたすら大陸を旅する開拓劇。  初っ端から銃撃に始まり銃撃に終わる映画だが、とにかく地味で、のんびりゆったり、とにかく平和。音楽も旅人たちを称える歌が流れるくらいだ。 ジェームズ・クルーズの「幌馬車」やラオール・ウォルシュの「ビッグ・トレイル」のように吹雪を乗り越えたり、異文明との衝突もない。だが面白い。  強盗団が店に押し入っている最中からいきなり始まり、広大な河を渡っていく幌馬車…いや馬、馬、馬の群れ。馬の売買を生業にする牧童(カウボーイ)コンビとモルモン教徒たちの出会い。予告される彼等と強盗団たちの遭遇・何時出遭ってしまうのか分からない緊張。 保安官には口笛で暴走するような馬を売りつけたりする牧童たちだが、頼まれ引き受けた依頼は最後までやり遂げるプロフェッショナルだった。コラル(馬を囲う柵)の中でいななく馬たちを背にし、ナイフで木を削り話をまともに聞いていたのかも分からなかった二人がだ。  角笛のユニークな響きと共に出発し延々と連なる幌馬車隊を眺めているだけでも面白いが、ユーモア溢れるやり取りが程よく挿入され退屈しない。  芸人一座(三人)との出会い、何も言わずフラつく御婦人を支えに行くハリー・ケリーJr.の紳士振り、拾った酒瓶をはたき落しブッ倒れる気丈な女性、ほとんど喋らない赤毛の女性(是非ともカラーで見たかった)、尻を付き合い取っ組み合う喧嘩、水を勢いよくぶちまけ馬と観客をビックリさせる色っぽい場面、水場があると分かり銃声の音で猛烈に雪崩れ込む幌馬車の轟音、鞍を外して馬ごとつかる水浴び、罵声を浴びせても謝罪する馬にも何にでも優しい気遣い。  不穏な空気が流れるのは、モチロン例の強盗団が不意に現れる瞬間からだ。ライフルを構えたまま何時“しでかすか”分からない連中相手でも暖かく歓迎するワード・ボンド。彼は「作り話さ」とモルモン教…いや宗教そのものを小馬鹿にしたようなことも言うが、最後まで幌馬車隊のまとめ役を果たす男だった。  犠牲者を出さないために絶対無理をしない・出来ない、だから雪山も登らない、ナバホ族(自由を奪われた者同士の共鳴)と遭遇しても自ら武器を捨てて言葉を話せる人間を探し出して交渉。仲間たちもそれに応えるために“発見”したものを知らせるべく凄まじい速度で馬を飛ばして(しがみ付いたりして)引き返し、一緒に踊り、“しでかした”やつを車輪に縛り付け鞭を喰らわせ、隠し持った拳銃を受け渡し、インチキ役者とその嫁は勇気を振り絞り危険な岩肌を超える役を買って出たり、撃たれたら一瞬の銃撃戦ですべてを終わらせる。“蛇”がいなくなったら不要なものは投げ捨てててしまえばいい。 また同じような危険に遭遇するかも知れない。だが、男は旅をする仲間たちを信じているからこそ凶器を捨てることが出来るのだろう。
[DVD(字幕)] 9点(2016-11-07 13:42:23)(良:2票)
62.  LOGAN ローガン 《ネタバレ》 
スリラーなら「アイデンティティー」、アクションなら「ナイト&デイ」「3時10分、決断の時」と面白い映画を撮って来たジェームズ・マンゴールドだが、本作もその凄まじい戦い振りにまいっちまった。  なんせ目覚めたらいきなり車泥棒に遭うわ、ショットガンぶっ放されるわ、過剰防衛でトンズラしなきゃならんわ、ボケボケのジイさんから眼を離したらみんな死にかけるわ、刃物みたい(物理)な幼女の人生がハードモードすぎてローガンおじさんの体はボロボロ。 あの咆哮が悲鳴のようにさえ聞こえてくらあ。見てて何度「助けてスタン・リー(「X-MEN」原作者)!!!!!」と叫びそうになったことか。  強制的に出来た“繋がり”が引き起こす出会いと悲劇、託された「メッセージ」が揺り動かす戦士の魂、帰る家を奪われ「流れ者」になってしまった者たちの旅路。  マンゴールドが幼少より親しんだというジョージ・スティーヴンス「シェーン」、そして最も参考にしたと語っていたクリント・イーストウッドの傑作「許されざる者」から受け継ぐ系譜。  この映画における現実は「シェーン」のように甘ったるくなかった。かつてウィリアム・S・ハートの流れ者が殺し合いから逃げられなかったように、イースットウッドの西部劇が凄惨な殺し合いを避けられなかったように。 “普通”とは異なる者との溝・恐怖・すれ違い・修復しようのない負の連鎖。道から外れた者同士の死闘死闘死闘。  それでも少女はアメコミや映画の中の“楽園”にすがるしかなかった。殺し合いのない、自分を愛してくれる、凶器ではなく優しい言葉で語り掛けてくれる人に出会いたかったのだろう。 見たかよあのシェーンを見つめる眼差しを。恐怖を乗り越えられるかもしれないヒーローの存在。 あのオジさんもまた、少女と同じような平穏が欲しかったのかも知れない。船を買い自由を得るためだけの仕事じゃなかったはずだ。運転席から見続けた“普通”の人々の日常。誰にも命を狙われることのない、分かり合う事ができるかも知れない世界。  だが「ペイルライダー」よろしく怒涛の勢いで敵は襲い続けてくる。無敵のヒーローなんて助けに来ちゃあくれねえ。自分の力で斬り開くしかない。 怪しいオジさんには取り合えず投擲、食事の邪魔をするならブッた斬れ!ブッ刺せ!列車が来たら線路の向こうまで、とにかく全力で走り続けろ!!  ローガン「漫画は現実じゃないんだっ!!」 日本でトンデモないことやってたのは何処の誰でしたかね...(詳しくは「ウルヴァリン: SAMURAI」を御覧下さい)」)。  ハイウェイに飛び込んで来た「選択肢」、言葉が分からなくても通じた想い、欲しかった団欒、油断、すべてを奪い去る凶刃、動かないはずの肉体を突き動かした“怒り”、告白、目覚めた先で待っていた思わぬ出会い。 口元に優しく伸びる小さな“刃”、不気味に旋回し迫る黒い影、残され再び与えられる「選択肢」。 男は、再び立ち上がり、走ることを、戦うことを選んだ。人生を終わらせるか運命を切り開くか。それを左右する必殺の“一撃”。  「流れ者」になってしまった人々に終わりは何時来るのだろう。いくら叫んでも、先に行ってしまった者は戻って来ない。十字架を「X(エックス)」として手向けることしか出来ないのだから。
[映画館(字幕)] 9点(2017-06-06 04:24:57)(良:2票)
63.  雄呂血 《ネタバレ》 
脱歌舞伎の剣戟映画の開祖の一つである「雄呂血」。 「日本のグリフィス」こと牧野省三の総指揮、 監督に二川文太郎、 そして阪妻こと阪東妻三郎の驚異的な殺陣! 坂東妻三郎を始めとする俳優陣の演技と殺陣には歌舞伎には無い躍動感が溢れ「歌舞伎なんざブッ壊してやる」というエネルギーが伝わって来る。 バンツマの盟友と言われる「まぼろしの殺陣師」市川桃栗。 彼の破壊的で斬新な殺陣はいかにして生まれたのか。 その真髄に少しでも迫れるのが本作だ。 ジョセフ・フォン・スタンバーグが斬られる人数を数えるのに夢中になったと言われるぐらいとにかく斬りまくる。 オマケにサイレント特有の超早回し映像で、まるで機関銃で一人ずつ狙い打つように斬り倒していく。 坂東妻三郎が松ノ木を背に刀をかまえる場面もほんの一瞬。 その時のバンツマ(坂東妻三郎)が最高にカッコイイ。 絵になる一枚だね。  だが、本当の醍醐味は27分にも及ぶ大立ち回りではない。  一途な恋心が理解されず、誤解を重ねて追い込まれていく平三郎。 人間の本性を目の当たりにする度に、無頼漢に染まっていく平三郎の描写が良い。 奈美江に思いを寄せた後に運命に翻弄されて諸国を彷徨う平三郎。 眼がすわり、ヒゲを生やし、ボロボロになった服を着ながらも歩き続ける力強い姿が素晴らしい。  「世に無頼漢と称する者、そは天地に愧じぬ正義を理想とする若者にその汚名を着せ、明日を知れぬ流転の人生へと突き落とす、支配勢力・制度の悪ならずや」という字幕が語るように、悪党が本当に悪党なのか? 悪党と言われる者が、本当は真面目に生きる人間だったりするのだ。 そして正義と言われる者が、偽善を振舞い悪事を働くような者も世の中には溢れている。 人妻になろうと、平三郎の一途な想いは変わらない。 愛する女を守るため、己の身を犠牲にする覚悟で悪漢を叩っ斬る。 これで平三郎の覚悟は決まった。 散々に斬りまわった挙句、捕縛されて連行されていく平三郎。 民衆には平三郎は悪にしか映らず、奈美江たちには命の恩人なのだ。 その恩人を助けられない奈美江たちの悔しさと哀しみ、平三郎の無念。 解る奴は解ってくれるが、解らない奴は一生理解できない。 それがこの世の中だ。  これほどの作品を発掘し守った人々には、感謝しきれない。
[DVD(邦画)] 9点(2014-01-10 19:31:46)(良:2票)
64.  シコふんじゃった。 《ネタバレ》 
相撲を愚弄している(いいぞもっとやれ)。 常識とは破壊されるために存在する。 日本の伝統である相撲も、今の世の中気軽に楽しめる「スポーツ」に進化しなけりゃならない。 伝統は大事だ。 古から受け継がれてきた技術、思想。 ただその素晴らしい伝統も、新しい時代のパワーと結びつかなければ何も生みだせない。 それを描いていく作品がこの「シコふんじゃった。」である。 周防監督は「Shall we ダンス?」でも戦後日本の複雑さをダンスを通じて描いたが、「シコふんじゃった。」は純粋な青春映画でもあり、スポーツを通して日本文化へのアンチテーゼも描こうとしたと思う。 どっちもコメディタッチの軽さ、そして一人一人の心の成長を描いた熱いドラマがある。 土着も日本人だからこそ描ける内容だ。 主人公は相撲に興味すらなかった今時の学生。 相撲=単位として受け止めていた。 当然練習も満足にせず大会に出され、ボロ負け。 勝ち負けもどうでもいい、悔しさも無い。 そこに相撲に本気で取り組む人間からの厳しい反発。 「相撲を何だと思ってやがる!!!」 「別にどうも」 「てめえらみたいなオカマ野郎は恥さらしだ!!」 てめえ「ら」。てめえ「ら」と来たもんだ。 自分だけならいざ知らず、仲間や教師まで罵られて黙っていられる主人公では無かった。 「相撲が何だ!勝ちゃいいんだろ勝ちゃ!!見返してやるよバカヤロウ!!!」 悔しさ、憤り、勝ちたいという気持ちの芽生え・・・男たちは徐々に変わっていく。 教師もそんな彼らを見るうちに、錆び付いた魂が蘇る・・・! 心と心の本気のぶつかり合い、経験の差は技術で補え。 幾らなんでもたった数ヶ月で数年以上鍛えてきた奴らと互角に戦えるのか・・・そこは娯楽映画、ご愛嬌といこう。 何しろ主人公たちの面付きが別人だもの。 成長を「面付き」で納得させてしまうこの王道。 単純明快な王道と爽やかな青春。 汗だく筋肉燃焼の相撲をここまで爽やかに、かつ力強く描いた映画は他に無いのかも知れない。 終盤の「試合」の二段構え。 実にドラマティックだ。 シコ、ふんじゃおうかな・・・そんな映画。
[DVD(邦画)] 9点(2014-12-20 21:36:56)(良:1票)
65.  カッコーの巣の上で 《ネタバレ》 
ケン・キージーの原作を元にしたこの映画。 マザー・グースの詩とアメリカ社会の本当の自由を題材にした原作は、インディアンであるチーフが主人公だった。 しかしこの映画の場合、アメリカ社会からツマはじきにされた一人の男「マクマーフィー」が主人公として展開される。 ジャック・ニコルソンの演じるマクマーフィーは単なる「異常者」ではない。 この世の何処にでもいる、社会の常識とやらに「嫌気が差した」男だったのさ。 仕事で面倒を起こし、刑務所での労働を避けた結果、精神病棟送りとなったマクマーフィー。 とにかく彼は「我慢」を知らない。 「頭をヘコヘコさせて長生きするよりは、好き勝手やって死んだ方がマシ」という男なのだ。 ただ、我慢が足りないというだけではない。 病院の規則に縛り付けられた患者に直接話しかけ、直接触れ合う。 時にはトランプや酒を酌み交わし、バスケや釣りといったスポーツで楽しく遊んだり。 言葉で言うだけでは解らない心の交流をしていく。 「精神病」というだけで患者の人間性や自由まで否定することが「治療」なのか? それを訴えるのがこの映画だ。 一見すると社会に拘束される事を拒むマクマーフィーは、協調性の無い非常識な男に見える。 だが、今の何でもかんでも法律でがんじがらめにして枠に中に縛り付けようとするこの世の中。 肌の色が違うというだけで蔑み、同じ言語を話さないというだけでツマはじき。 自分がそうされる立場に追い込まれた時の事など考えもしない。 そんな事が本当に正しいのか? 正しくないのか? それを嘲笑うかのように、言葉と体で訴え続けたのかも知れない(酒に酔って逃げなかったり、気持ちは解るがいきなり首を絞めにかかるのは単なる馬鹿としが言い様が無いが)。 そんな彼にも「運命の時」が訪れる。 勝手に生きて勝手に殺される。 それを覚悟の上で主人公は生きてきたのかも知れない。 いくら肉体が健康でも、心が生きていなければ意味が無い。 世の中には死にたいのに生かされ、生きたいのに殺されるという事が多々ある。 衝撃的なラストだが、「チーフ」にはそれが解っていたのかも知れない・・・。
[DVD(字幕)] 8点(2014-12-11 04:20:44)(良:1票)
66.  第9地区 《ネタバレ》 
“恐怖”という意味では、作り物とハッキリ解ってしまうCGよりも生々しいアニマトロニクスの方が何百倍も怖い「エイリアン」の方が上だが、技術を抜きにしたドラマ面ではこの「第9地区」に軍配を挙げたい(そんな好きじゃないけど)。 何よりリドリー・スコットの「エイリアン」と共通する部分があるのが面白い。 スコットに出てくるエイリアンは、たった一人でリプリーたちに戦いを挑んだ。リプリーたちにとっては恐怖の対象でしかない“敵”だが、エイリアンにとっては住処を荒らしに来た侵略者(エイリアン)にしか映らない。  「第9地区」は主人公そのものがエイリアンになってしまい、人間の時は侵略者か見世物小屋でも見るように感情の移入なんて有り得なかっただろう。 そんな男が徐々に異星人に変貌していく。当然人間たちからは疎外され、その中途半端な容姿は異星人にも奇異に見られる。 スコットの「エイリアン」もまた、仲間となる存在がなく常に孤独だった。更にはその凶暴性を人間側に利用されてすらいた。  しかし、「第9地区」は奇跡的に異星人の親子と意志のコンタクトを取る事が出来た。人間だった時に失ったものを、異星人になって少し取り戻せたのは皮肉なものだ。 例え利害関係の一致で一時的な事だったとしても、異星人の子供との絆は確かなものだ。 そしてエイリアンになって初めて知った人間の凶暴さ。彼らは害虫駆除くらいにしか思わないのだろう。「何かされてからでは 遅い!!」という恐怖が人間に牙を剥かせる。  男は何者として戦ったのだろうか。人間としてか。異星人としてか。どちらにせよ、彼は“彼”でしか無い。
[DVD(字幕)] 9点(2014-03-27 16:23:04)(良:1票)
67.  許されざる者(1992) 《ネタバレ》 
再見。 イーストウッドが到達したリアリズム、反西部劇、アンチ・ウエスタンの最高峰。  個人的には「アウトロー」の方が痛快で好きだが、この作品を最初見た時の戸惑いと衝撃、そして再見すればするほどその凄味に惹かれた作品でもある。  夕暮れで土を耕す孤影、一軒家と一本の木の影。この強烈な黒のコントラストが本作の恐怖と緊張をより盛り上げる。 雷鳴と土砂降り、情事を語る影の蠢き、ベッド上のギシアンを止める怒声、身を守るために水を浴びせる者、凶刃を振り回され傷つく者、凶行を止める背後の気配と撃鉄の音。 柱に縛り付けられた罪人を解放してしまう汚職、悪徳保安官の不気味な笑み。初っ端から恐怖と暴力が支配する世界を叩きつけられる。  生々しいを傷を癒し、苦笑いし、黙って耐えるしかない者たちが託す「依頼」。ただただ引き受けてくれる者が現れるのを待つことしか出来ない無力さ。  一方、農場で泥にまみれ豚を追い回すヨレヨレの農夫、回りを無邪気に走る幼い兄妹の微笑ましさ、それを鼻で笑う馬に乗り訪れる若きカウボーイ。彼は銃を手放した者を再び殺しの世界に引き戻すために現れる。  主人公のマニーは若い頃、女子供を問わずに手をかけた極悪非道のアウトローだった“らしい”。マニー本人はそう語りますが、劇中のマニーは年老いた父親でしかありません。妻に先立たれ、残った幼い子供たちを養うために精を出し、何十年も銃の代わりに家族の手を握りながら生活してきた。そんな男が再び銃を握るという。家族のために。 昔のカンを取り戻そうと射撃訓練、それを心配そうに見守る子供たち。リボルバーからショットガンに変える一連のアクションが後の布石として生きてくる。  髭を剃り、窓の向こう、木の根元に眠る者に別れを済ませ、馬に乗るのも一苦労の男が覚悟を決めて旅立っていく。  「アウトロー」における農夫がガンマンへと変わる物語が繰り返され、より突き詰められる。 イーストウッドにとってはシーゲルとレオーネに捧げた作品だそうだが、この映画には全ての西部劇に対する望郷とアンチテーゼのメッセージが入っている。 人一人を死に追いやってしまう集団心理の恐怖は「オックス・ボウ・インシデント(牛泥棒)」の流れも感じさせる。   大自然の中を旅する平和な一時。それが人間の支配する魔窟に入れば空気は一変する。   この映画の保安官が振るう正義は法の執行ではなく独裁者の暴力でしかない。 法を取り締まる者がみずから法を乱す。法を乱した犯罪者を見せしめにするために制裁を加えるのは当然ですが、いきすぎた制裁は単なる暴力となり、やがて失望へと変わる。  復讐者からの「依頼」でもある賞金首探しは、腐りきった法との戦いでもある。それを受け取ってしまった男たちに待ち受ける死、死、死。  この映画にはカッコいいカウボーイなんざ一人も出てこない。 気取った老体、銃から何十年も遠ざかっていた中年、本当は人を殺すことをためらう猟師、近眼の若造、狂った保安官…往年の西部劇に溢れていた夢と希望、活気とヒーローがこの映画にはいないのさ。彼等を彩る風景だけがその美しさを失わずにいるだけで。  人を撃てば撃つほど虚しさや罪悪感が重くのしかかり、ガンマンに憧れていた青年でさえ初めて人を撃った後に恐怖で震えてしまう。「命を奪う」ということの重さ。  「いくら古い時代に夢を追い求めても、現実はこうだ」と言わんばかりの雨粒と泥にまみれた世界。 人を殺した者は当然「自分が殺されても文句なし」という覚悟が必要だし、事情を知らない者が殺しの現場を見れば「人殺し」と罵られても仕方がない。  ただ、ラストの決戦まで“おのれ”を取り戻していくマニー。  彼が一発一発放つ弾丸は、今は亡きフロンティア精神への鎮魂か、イーストウッドなりのケジメか。密室にショットガンを突きつけながら乗り込み、“投げる”ことによって緊張が跳ね上がる瞬間!  たった1人の男を集団で嬲り者にするような連中だ。そんな奴らに、卑怯だの何だの言う権利も資格もあるものかっ!!  イーストウッドは、いつも他人のために怒る男だ。自分は殴られても殴り返さない。ただ、仲間や知人を傷つける奴は絶対許さねえ。名誉なんてクソ喰らえ、「殺る時は殺る」漢なわけよ。ガンマンではなく、一人の人間としてカッコイイ。イーストウッド主演の西部劇群を見た後だと余計に感慨深い。
[DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:29:38)(良:1票)
68.  パリ、テキサス
ヴィム・ヴェンダースはドイツ時代に「さすらい」や「都会のアリス」といった傑作を幾つか撮っているが、アメリカでもこのような素晴らしい作品を残してくれた。 砂漠を放浪していた謎の男トラヴィス。 ファーストシーンがいきなり砂漠。そこを男がフラフラ彷徨っている。こういうオープニング大好きだ。今から何が始まるのか無性にワクワクしてしまう。 バックミラーと車道の対比も面白い。こういう一画面で二つの場面を交差させる構成、たまらない。この映画はバックミラーのシーンみたいに色んな対比が出てくる。 彼は何故砂漠を放浪していたのか?そして何者なのか?それを少しずつ紐解いていく。トラヴィスは探しものを見つけるために旅を続けているという。 彼は唯一残っていた名刺に誘われ家族の元へ戻っていく。 妻を持った弟、その“息子”とのささやかな団欒。“息子”とは最初距離があったが、トラヴィスと過ごす日々は彼を得体の知れない男から大切な家族へと変えていく。 そして“息子”とトラヴィスの空白を埋める8mmフィルム。 無粋な言葉はいらない、ただ心で触れ合った思い出さえ取り戻せれば良いのだから・。会いたいという気持ち、会うべきなのかと葛藤するトラヴィス。 だが彼も男だ。“息子”のためにもトラヴィスは探しものを見つけに行く。そんなトラヴィスも、とうとう探しものを見つけ出す。 窓越しの再会、8mmフィルムに収められた想い出、100万の言葉にも勝る包容・・・トラヴィスは、またあてのない荒野へと戻っていく。 でも、こに寂しさは感じられない。何故なら彼の心はもう“一人”ではないのだから・・・良い映画です。
[DVD(字幕)] 9点(2014-03-17 07:44:09)(良:1票)
69.  近松物語 《ネタバレ》 
太鼓の連打で始まる冒頭、店先の混沌から始まる物語。それぞれの仕事に打ち込む男女、劇中人物にとって変わらない日常の風景。それが金をめぐり周辺人物を巻き込みんで人々の運命を狂わせていく。 京都御所の絵巻を任されるほどの大経師である以春。御所との違法な取引、若妻をはべらせ女中にまで手を出す。女の胸元ではなく袖の方から手を入れるエロ親父。 その以春に半ば強引な形で妻にされた女性おさん。 以春に次ぐ発言権を持つ彼女だが好きでもない男に芽生える筈も無い愛情、自分を嫁に出した家族への複雑な気持ちで満たされぬ日々。 うら若き彼女は以春の下で働く絵師である茂兵衛の若さに惹かれる。その茂兵衛は既にお玉という女性と婚約を誓う仲。 お玉と親しい間柄でもある彼女は二人を見守ろうと思いつつもどかしさに悶える。 中盤の逃走劇、逃げ出した後を物語る扉、闇夜の水面に浮かぶ船の中で激しく抱き合う二人。一度は覚悟した“死”を引き止める“言葉”。 「愛しています」・・・普通ならどうとない言葉、だが自分を立場でなく一人の人間として尽くす心を理解した女にとって何物にも代え難い生きた言葉となる。死ぬのは嫌だ生きていたいと揺れる船の上で激しく抱き合う二人。 「今更何をおっしゃいます」っておまえが「好き」だなんて言うからだろうがまったく。二人は絆を深めるように幾度となく抱き合う。髪を乱し、愛故に逃げる男を愛故に声をあげ追いかける女。心臓の鼓動の如く轟く太鼓。 だが愛していた筈の男からその言葉を聞けなかった女はただただ辛い。残され生きながらえるよりいっそ一緒に心中しようと言われた方がどんなに気が楽だったろう。 逃げた男の父親・女の母親も相当辛い。そんな二人を怒りながらも助けてしまう親心。だが逃げる男女二人も本気だ。 「もう“奉公人”やない!あたしの“旦那”さんや」 終盤の怒涛の追い込み、愛する女のために戻ってくる男、どうせ捕まるならテメエも道連れだ以春。冒頭の栄え具合と終盤の落ちぶれ振りの対比。 ラストで手を繋ぎ、幸せそうな顔で“あの場所”に向かう二人。どんな形であれ一緒に結ばれた事に満足した顔。本当は悲しいはずなんだが、この場面からは充足感が伝わって来る。上から罪人を見るように映されるロングショットは街の人々の視点、下から哀しき恋人たちを映すロングショットは店の仲間たちの視線。
[DVD(邦画)] 10点(2015-01-16 22:06:57)(良:1票)
70.  アンタッチャブル 《ネタバレ》 
ハワード・ホークスの「暗黒街の顔役(SCAR FACE)」の復活を予感させたパルマの傑作。同時にショーン・コネリーにとっても「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」や「王になろうとした男」に並ぶ最高傑作! 豪華なキャスト、オープニングから血が騒ぐエンニオ・モリコーネの神BGM、うごめく影と「The Untouchables(触れられざる者)」の文字。 アル・カポネがふんぞり返り髭剃りをするシーンから映画は始まる。記者の質問に対して「暴力はいけない」などとほざき、裏で部下に“見せしめ”として酒場に置き土産させて吹き飛ばすような男だ。 禁酒法時代、法権力を弄び警察すらギャングに手を出さずグルになる奴まで出て腐敗しきっていた時代。 そんな時代にある男たちが立ち上がり、巨悪へと挑む。エリオット・ネスの孤独な奮闘と空回り、それに応えるジム・マローンの男気と頭脳、凄腕の新人ジョージ・ストーン、殺る時は殺る簿記係のオスカー・ウォーレスも加わり4人、いや騎兵隊さながらのレンジャーたちの協力などもあり徐々にアル・カポネに迫る。彼等を突き動かすのはカポネに殺された少女の、酒場の、人々の声なき哀しみ、そして怒り。 そんな警察とギャングの死闘の巻き添えを喰らって死ぬ市民はもっと不幸です。 「戦艦ポチョムキン」をオマージュした駅での銃撃戦は正にそんな場面。 ネスとマローンが橋の上で出会うシーンからしてカッコ良い。素早く警棒をポケットに突きつけ腕を押さえるシーン。もしマローンがギャングの仲間だったら、ネスは懐に手を入れた瞬間に殺されていた。 「新鮮なリンゴ」を収穫する仲間集め、罵り合いの面接、マローンの殴り込み、西部劇を思わせる橋の上でのガンファイトと“死体蹴り”尋問、法廷と建物内における最終闘争・・・マッチで気付く仇、ネスが文字通り“落とし前”を付けるシーンはスッとする。その直前まで指で迷い、眼が泳ぎ葛藤を表す。撃鉄を戻す瞬間に伝わる悔しさ、殺し屋がネスに殺意を戻させる“一言”。裁判長が折れ弁護士すら裏切る瞬間は何度見ても最高。 警察側に暗殺者が迫る瞬間の戦慄。カポネからマローンへの“鎮魂歌(レクイエム)”。 駅での死闘は誰も母親を助けない、助けに入ったネスが犯人に気を取られ危うく赤子を殺しかける緊張。 ネスとカポネが正面から罵りあう姿は何処か憎めない。だってデ・ニーロのブチ切れ振りが凄いんだもん。
[DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:15:37)(良:1票)
71.  悪魔のような女(1955) 《ネタバレ》 
「恐怖の報酬」「情婦マノン」と傑作が多いクルーゾーだが、中でも強烈な“どんでん返し”を味わえるのが今作「悪魔のような女」。俺はこの作品が一番好き。  澱んだ水面が拡がるプールの不気味さ。  男を男の愛人とその妻が共謀して殺してしまうのだから恐ろしい。 「恐怖の報酬」が一種ホモセクシャルな部分があるとすれば、本作はレズビアンの匂いがしてくる。どちらも願い下げだ。 しかし「恐怖の報酬」は野郎共の競争と友情という物語で、ホモの匂いなんて微塵も感じなかった。淀川長治さんに言わせれば「太陽がいっぱい」もホモ的な何かがあるらしい。 俺は願い下げだ。  一方、「悪魔のような女」は男の暴力で妻は心が離れ、皮肉にも男の愛人と心が通う。 本来憎み合う筈の女二人がだ。  さて、そんなウフフン状態の二人だが待ち受ける結末が何とも・・・ネタバレと書いたが、ネタバレするのが嫌になる、忘れてしまいたくなるような怖すぎるラスト。  ヒッチコックはクルーゾーのこの作品に嫉妬したらしく、ホラー映画「シェラ・デ・コブレの幽霊」を手掛けたジョセフ・ステファノの協力を得て「サイコ」を撮ったらしい。  ヒッチコックの一瞬背筋が寒くなる巧みさ、そしてクルーゾーのねっとりとした恐怖を徐々に肌に塗られていくような戦慄。 見比べて見るのも面白い。  シャロン・ストーンには悪いが、ジェレマイア・チェチェックの「悪魔のような女」もポール・バーホーベンの「氷の微笑」も、クルーゾー映画の怖い女性たちを知ってしまうと霞んで見えてしまう。
[DVD(字幕)] 9点(2014-05-14 17:23:27)(良:1票)
72.  女囚701号 さそり 《ネタバレ》 
園子温「愛のむきだし」でもオマージュが捧げられた刑務所ヴァイオレンスアクションの傑作。  刑務所は野郎どもだけの巣窟じゃない。野獣のように眼光ギラつかせたアマ、ビッチ、女たちが蠢めく空間でもある。 そんな汗と女の匂いムンムンの泥の中、黒髪をなびかせ鋭く美しく輝く梶芽衣子の存在!こんなにカッコイイ女には野郎だろうがアマだろうが惚れちまうぜ。どんなにボロボロになろうがけっして諦めない不屈の女心。  ひたすら耐えに耐えてチャンスを待ち続け、泥にまみれ延々と土を掘り、友をお姫様抱っこまでしちゃう漢女(おとめ)っぷり。  表彰状が踏みにじられる脱獄騒動から始まるオープニング、湿地帯を走りまくる女、群がる刑務官たちの追跡! 刑務所内をすっぽんぽんで列をなして歩かされる女囚たち、腐りきった法の番人たち、互いに鉄拳で気合を入れる飢えた野獣どもの眼光、秘部に押し当てられるドス黒い警棒。  白い布に隠される情事、赤い斑点・画面がぐるぐる回転し髪が怒髪天となり灯る復讐の炎。  女囚たちも食器をガンガン打ち鳴らし脱走と憎悪をブチまける機会を待ち続ける。美しい一重美人、修羅場潜ってそうな姉さん、博打女、潜入者、脳味噌お花畑のBBA軍団。 ドア先輩にガラスを喰らわされ血に染まる鬼BBAとの鬼ごっこ、夏候惇のような凄まじさを見せつける署長。腐っても署長である。アイパッチのように鈍く光るサングラス。  まったく興奮しないパンモロよりも、百合を誘う瞬間のパンチラの方が圧倒的に素晴らしい。丸出しになったおっぱいを揉みしだき吸いまくり、雄のように、調教するようにむしゃぶりつく梶芽衣子!俺の股間の警棒も(ry  刑務作業と地獄の穴掘り耐久レース、シャベルの斬撃と大暴動!疲れを吹き飛ばす怒り、怒り、怒り、ライフルを奪い撃ちまくる!人質には恐ろしい拷問だ(我々の業界ではご褒美です)!!  目線で交わされる女たちの複雑な関係、ダイイングメッセージ、熱した電球によるヤキ入れ、復讐の黒衣、蒼ざめる最期、野郎も女どももくたばりまくる怒涛のクライマックス!!
[DVD(邦画)] 9点(2016-08-28 02:30:41)(良:1票)
73.  マッドマックス2 《ネタバレ》 
「MAD MAX2」もとい「The Road Warrior」。 前作がまず「アレ」だったじゃんか。んでいきなり戦争でドカーンだろ? 「警戒」すんなって方が無理だろ・・・orz 荒廃した世界で?ボーガンで?モヒカンで?ヒャッハーだろ? 「気が違えたかジョージ・ミラー」と思わない方がおかしいだろ。  だのに何で普通に面白いわけ!? 普通この手の部類はありとあらゆる部分が脱線するはずなんだが・・・前作が「既にそういう状況だった」という過程なら違和感はまったくない。 戦争の結果で完全に無秩序な無法地帯になったわけだし。 これが元になった「北斗の拳」だって、ブルース・リーがいきなり核戦争後の世界に来たわけじゃない。 最初から戦争が起こり、そこからケンシロウたちがどう生き残っていくかを描くわけだ(読み切りは別ということで)。 前作の死闘の果てに心に傷を負ったマックス。 あての無い荒野、暴力の連鎖、脚となるガソリンと食料を手に入れるだけの単調な日々・・・マックスの心は渇ききっていた。 そんな中で出会う様々な人間たち。 マックス同様に生き残り、あらゆる暴力から解放されるために戦い続けている。 こんな無法な時代でも「等価交換」という定義は残っていた。 マックス自身も単調な毎日からの脱出を求めていた。 何もかもが無くなった時代、車を乗る者にとって「石油」は「水」と同等以上に貴重な物だ。 それを無駄な争いによって消費していく人間たち。 自らの命とともに投げ捨てていくわけだ。 マックス、石油を守る村人、ヒューマンガス一味・・・3つ共えの死闘。 カーチェイスは前作以上にパワーアップしているが、前作における「犯罪者への怒り」のパワーはあまり感じない。 法が無くなった事で「犯罪者」と「被害者」の境界線はあいまいになり、単純な「暴力」への抗いだけが残った。 生き残った者に残るもの・・・マックス、村人、ヒューマンガス一味・・・彼らは何を失い、何を得たのか。 善悪の線引きが消えた世界で人々は何を見出すのか。 そんなまじめな事をまだ考えられる力作。
[DVD(字幕)] 9点(2014-12-13 19:06:55)(良:1票)
74.  オーソン・ウェルズのフェイク 《ネタバレ》 
騙す事の楽しさ、騙される事の楽しさ。それが詰まった「フェイク(贋作)」。  細野不二彦の作品で「ギャラリーフェイク」という漫画があるが、90年代に描かれた漫画に先駆けて70年代にウェルズは「贋作」の醍醐味を映画で語っていたのだ。  ファーストシーンで手品を披露するウェルズ。この場面こそこの映画の全て。自ら「ペテン師」と称し、「嘘」を映像の中で「本物」にしていく作家としての、舞台俳優としての演目。  ファーストシーンが終わって1時間は、稀代の贋作家と稀代の偽作家のエピソードをインタビュー形式で淡々と語る。 やや退屈な1時間だが、ラジオ時代の「宇宙戦争」に関する面白いエピソードやピカソの情事は興味深い。 その後に訪れる17分間の「オヤ」のエピソード。今までの退屈さをなかった事にしてもいいくらい画面に吸い込まれる。どこまでが嘘でどこまでが真実か。 最後まで見ないと絶対に損をする映画です。  この映画のトリックはオープニングから既に始まっていた。 実在の美人モデル、贋作家、偽作家など様々な「フェイク」がインタビュー形式で出てくる。 そこから既に「騙し」が始まっていた。  歳を取っても若い頃の情熱は失わない。 最後まで少年の遊び心で映画を作り続けたウェルズのこだわりが感じられる。  それはラジオ時代の「宇宙戦争」の頃から変わっちゃいない。 白熱した実況で視聴者に「本当に宇宙人が攻めて来たのか!?」と騙くらかしたエピソード。後の猛抗議も、ウェルズにとっては「してやったり」。  映画デビュー作「市民ケーン」もそう。 実在の新聞王ウィリアム・ハーストの「偽物」チャールズ・フォーガスタ・ケーンを産みだした。 その偽物の新聞王を映画の中で「本物」にしていく面白さ。ケーンの壮絶な生き様が「本物」にした。確かに映画の中に生きていたのだから。  「黒い罠」はタイトル通り、観客を騙す「罠」。これも最後まで見ろないとアカン映画だね。  「オセロ」や「マクベス」は心理描写の騙し合い。自分自身すら「騙して」追い込んでいく人間の限界を魅せつける。  ともかく、この作品はウェルズのお遊び精神の結晶の一つ。
[DVD(字幕)] 8点(2014-12-07 20:25:05)(良:1票)
75.  アパートの鍵貸します 《ネタバレ》 
本作は「深夜の告白」と共にビリー・ワイルダーが苦手という人にもオススメな最高傑作の一つ。 窓の明りで始まる物語、保険会社に務めるさえない平社員のバド(バクスター)は回想形式で自己紹介を済ませると、毎晩“ラブホテル”と化した窓の明りが消えるまで会社で暇を潰したり家の外で待たなければならない様子を観客に見せる。 嫌な上司と鉢合わせするよりもレジスタとにらめっこしていた方がまだマシ、社員がバカなら他人の家で情事にふけるクソ上司。オマケに隣の医者に変な勘違いまでされる始末。残った酒で孤独な自分に乾杯。それを雨に濡れた冷たそうな舗道で孤独に耐えながら待ったり、キング・ヴィダーの「群衆」を思い出すオフィスと天井が拡がる空間で黙々と仕事をする姿が余計に寂しさを感じさせる。 ワイルダーの映画が面白いのは、こういう会話だけでなく細部まで造り込まれた空間が我々の眼を楽しませてくれるからであろう。 バドは不幸続きで何かと苦労を重ね、お人好しの面があり何時の間にかホテル代わりに自分の住むアパートの鍵を貸し放題。家に帰れば何時も「宿泊人」の後始末。友達への助け舟が何時の間にか上司(情事)の密会場だもんなあ。 そんなバドにも好意を寄せる女性。その彼女もまた秘密を隠している。 バドもまた生来のポジティブで前向きな性格で何時までもクヨクヨしない、殴られても殴り返さない、しかし汚名は全部返上する男に成長・・・いや戻ったのかもな。 紆余曲折を経て二人の男女の距離は縮まる。縮まったりまた離れたり。そして束の間のトランプ、ラケットで茹でたパスタをキョトンとしながらも美味しそうに食べる彼女の笑顔。 職は失ってもかけがえのない隣人を得たバド、成功は収めても大切な隣人を次々と失っていくシェルドレイクの対比。悲惨な奴だ。あ、トイレの鍵はゲットしたか。 どんなに良い仕事でも、惚れた女には敵わない。シェルドレイクの仕事を蹴りイキイキと去っていくバドの姿は何度見ても良い。 「彼女を待たせているんだ」の場面で終わっても良かったが、その後に素敵な“奇跡”を用意するワイルダーの二段構え、お見事。愛のないキスに表情は変わらず、愛のこもったトランプで微笑む彼女。 勘違いとはいえ、二人とも気付いた瞬間に全力疾走で相手の元に駆け寄るお似合い振り。 ラストなんかキャプラの「或る夜の出来事」を思い出した。
[DVD(字幕)] 9点(2014-03-11 21:21:37)(良:1票)
76.  ウォレスとグルミット、危機一髪! 《ネタバレ》 
羊のシルエット、バイク、チーズ、ナイフ、振動。 トラックを食い破って脱走する者、追おうとする者、それを止める者。  ウォレスたちの朝になってやっとかかるいつものBGM。 レバーひとつで落ちたりクリームまみれになったり。バイクに乗るためだけにこさえる秘密基地。 謎の切り口、かじられた跡の数々、脚の下に現れる侵入者。侵入者は“不慮の事故”で裸に剥かれてしまう。条件反射で腕をあげて服を着てしまうウォレスに爆笑。  窓拭きは女に会うための口実、下水の格子に梯子の先を引っかけ、棒高跳びの要領で高所にたどり着く。そこに現れる番犬の不気味さ。グルミットの細首に手をかける“御挨拶”。 その謎を知ってしまったグルミットの追跡、ドアにはさまれた羊の毛、屋根裏に隠された真実。  人間たちを翻弄する番犬の悪党振りが凄い。犬の看板は「ペンギンに気をつけろ」にも登場、羊の洪水、グルミットはいつも一人で奮戦、偽の写真に羊たちも号泣。何コレ可愛い。 ウォレスも独房に“メッセージ”を差し入れる。でも羊の絵は嫌がらせにしか思えないwww  クライマックスを飾る大追跡劇!羊とウォレスたちのアクロバットな曲芸、電線でもくたばらない恐怖、ネオンはSOS、サイドカーはプロペラ機にトランスフォーム、冒頭のクリームは機銃の弾丸となって撃ちまくられる、プロペラは風穴を空けるため、とどめのターザン!  “去勢”されてまで飼い殺しに遭う罰。それを下した人間として共に生き、共に去っていく悲しさ。
[DVD(字幕)] 9点(2015-06-04 21:03:12)(良:1票)
77.  迎春閣之風波 《ネタバレ》 
香港映画界の巨匠キン・フー(胡金銓)が手掛けた究極の武侠映画。 ブルース・リーの師匠みたいなもんだし、何よりサモハン・キンポーが武術指導。そこにキン・フーの静と動の演出を撮り抜く演出。 それは日本で言えば伊藤大輔や黒澤明のような重厚さがあり、尚且つマキノ雅弘や山中貞雄のような肩の力を抜いて楽しめるシャープでスピーディーな・・・まあ理屈をこねても仕方ない。とにかく面白れえ。 モチロン、アクションだけ関して言えばブルース・リーやジャッキー・チェンといった後続の方が洗練されているだろう(キン・フーの場合はブッ飛びすぎ)。 ただ、個性豊かな登場人物やドラマの面白さは今の中国映画なんぞより遥かに面白い。 冒頭15分はそんな丁寧でコミカルなドラマで楽しませてくれる。 「迎春閣之風波」は中国は明の時代が舞台。 お上の殿下率いる田豐たちと朝廷に反旗を翻す朱元璋一門の戦いを描く。 舞台は朱元璋一門の門派が密かに開設した料理屋「迎春閣」で繰り広げられる。 「迎春閣」に訪れる奇妙な客たち、それを迎える武闘派姉ちゃん・姉さんたち。 博打をやる者、飯を食う者大歓迎、ただし強盗連中は容赦なく滅多打ち。 序盤のドタバタした楽しいやり取りを見ていれば解るだろう。機密文章だとか、敵味方が誰か解らないとか、怪しげな美女とか、キン・フー映画に其の辺のスリルは皆無です(褒めてます)。 いや、いつ誰が刃を抜き放ってもおかしくないという肌を刺すような緊迫感は「龍門客棧」の方が圧倒的だ。だが楽しさは断然コッチだろう。 そこから中盤はシリアス一色になってくる。緊迫したやり取りや次々と血に染まる「迎春閣」、そしてラストのダイナミックなバトル、バトル、バトル!ラストバトルの壮絶さ、華やかより男勝り・女傑振り!愛嬌より度胸!それがキン・フーの女たちだ。 しかしコレで驚いていてはいけない。 「大酔侠」や「忠烈図」はもっとブッ飛んでるから(スタントマンじゃなくて猿が飛んでんじゃないかってくらい)。 個人的にキン・フーの最高傑作は「忠烈図」と「侠女」だが、一番好きなのはやはり「大酔侠」と本作だ。
[DVD(字幕)] 9点(2014-03-06 03:45:01)(良:1票)
78.  横道世之介 《ネタバレ》 
街、交差点、人ごみの中から現れる男。 階段を登って降りて、路上、ライブ、見守るファンの後ろ姿、看板が物語る「あの時代」。  行ったり来たり、口ずさむ歌、教室で不意に合う視線。  何も無い部屋でくつろぐ新しくやって来た住人、部屋の中から取り出し確認するもの、音の出どころ、扉に貼られた紙、またふと合う視線、御挨拶。  入学式、隣の席に話しかける馴れ馴れしいもの、目が遭う自己紹介。気になるあの娘と自分の匂い。  サークルめぐり、初対面で泣かせちゃってあーあ、はりきったメイク。  音楽、訪問、絶望、アッハイと踊り踊らされ続ける学園生活。 風呂場で談義、シャワー、叩きつけ吹き付けるもの、窓ガラスから見えるもの。  話し合い、唐突に父親としての姿に飛ぶ「現在」。 エレベーターで見つめるもの、チップ、また唐突に現れる喫茶店での待ち合わせた「過去」。  見つめるもの、名刺 お誘い、微笑み、笑って誤魔化す、小指、横移動で詰め寄る。 伝染する馴れ馴れしさ、でも世之介は気づくと仲良くなってしまう不思議な奴なのさ。  机を囲んで交わす話に巻き込まれる、紙と判子、義弟、誘い、小指、嬉しそうに自転車を漕ぐ、ベタベタ吸い付く、人ごみをかき分けてくる車、白い帽子の少女。 思い切り笑うお嬢様、壁に頭をぶつけて帽子を落とす、手を合わせる食事とでっかい野望、バンズを合わせて思い切り被り付く食事。「南極料理人」といい、沖田修一の映画は美味そうに飯を食うな~  熱い中、足を水にひたし、パンツ一丁にラーメンすすりながら箸でパージをめくる漫画読み。 半透明の窓に映る着替える姿、御訪問、誘い、水桶からプールへ、笑って腹違いとか言わないで、プールでもムシャムシャ、思わぬ再会、泳ぎ、飛び込み、安心させるための風船、パレードの記録、倒れたもの。 リズムに合わせてスイカ斬り、夜の公園で告白、膝で割るスイカ、また唐突に思い出すベランダでワインを飲み合う男たちの現代、でまた唐突に訪れる里帰りの過去。  料理作り、振り上げる瓶の暗示、家族団らん、扉の先から見るもの、旧友、バック、海水浴といえば水着と青春、沖から見つめるもの、洞窟から走り出し断たれる会話、嫌がる息子はうちわで叩く、帰り道で二人きり。 月明りが照らす海辺、砂浜、徐々に近づき、後ろから腕を肩に、向かい合い、見つめる先の岩場から現れる人の群、光、駆け込み倒れ込むもの、響く警報、流れ者。 扉を開き駆けた先で抱き着く、葬式 、死んだ人間の分までムシャムシャ食って生きる、出来ちゃった中退、また唐突にラジオ局で独り語り続け机の上で黄昏がれる姿の現代に飛ぶ。  踊って待つサークルよりも大切なもの、両親に御挨拶、娘への信頼、カーテンに隠れないと尋ねられない質問、聖夜、クラッカー、絵、食事、窓の外に降る雪。  アパートの外に積もった雪、手を繋いで刻まれる足跡、祈るように待つ抱擁、口づけを交わ黒いシルット、横で見届けたら天空に上がり見守るキャメラワーク。 撮影の近藤龍人は「桐島、部活やめるってよ」や「海炭市叙景」「ウルトラミラクルラブストーリー」「天然コケッコー」「そこのみにて光輝く」等でも活躍した名手だ。凄いことを簡単にやってのける。  呼び方を変えて縮めたい距離、黙って見届ける者、あの日の思い出、写真、パンで挟んでがっつく、車の窓から見る“あの日”。  隣人からの“返事”、写真、返事が無いなら一枚撮っちゃう、階段で再会、投げ落とすサンダル、どうしていいか分からないので声を出すしかない、新しい命、撮影、約束。 階段を駆け下りて追うもの、旅立つ者から贈る別れの挨拶、駆け登った先で残していくもの。
[DVD(邦画)] 9点(2016-12-15 04:23:33)(良:1票)
79.  情婦 《ネタバレ》 
アガサ・クリスティーよりもパトリシア・ハイスミスの方が面白いと思う俺は正直クリスティーの映画化作品はどれもハズレばかりという印象。 だが、ワイルダーのこの「検察側の証人」はクリスティーの傑作短編群にも引けを取らない、数ある映像化(ドラマは除く)の中で唯一と言っていい傑作! 俺個人はワイルダーといえば「深夜の告白」や「アパートの鍵貸します」だけど、この作品も一気に引き込まれるし何よりチャールズ・ロートンとエルザ・ランチェスターといった面々のやり取りがとにかく楽しくて面白い。 ワイルダーの映画って狙いすぎててイマイチ笑えないのだけど、この作品は冒頭から笑いっ放しだった。 裁判の幕が上がるようなオープニング、そこに向う役者を揃える様に一人ずつ登場人物が姿を現す。 老練な弁護士ウィルフリッド、それを何かと心配する看護婦のミス・プリムソル、ウィルフリッドを助けるブローガンムーア、殺人の疑いをかけられるレナード、そして謎の女であるクリスチーネ。 ウィルフリッドとプリムソルが夫婦喧嘩(チャールズ・ロートンとエルザ・ランチェスターは何度も共演するガチの夫婦)をしながら車で事務所に向う場面。二人が喋るだけで楽しくなってくる。階段のリフトを見て子供のような表情を見せるロートンが面白い。このリフトのやり取りだけでも見ていて飽きない。 ところどころ伏線としか思えないセリフばかり。 何?マッチがない?君は悪い奴だ、え?ライターはある?君は良い奴だよ・・・都合良いなあ本当。 やっと退院しかたかと思えば山ほど来る依頼に口うるさい看護婦。葉巻もロクに吸えない、杖に仕込んでまで吸おうとするヘビースモーカー。 そんな彼を動かしたのはその葉巻だった。ポケットの葉巻を見て飛びつくウィルフリッド。葉巻目当ての依頼承諾がとんでもない事件に発展していく。その葉巻を「あ、そうだった」と思い出したかのように返すウィルフリッド。嫁にバレたらマズい。 モノクルの“光”で心理分析、法廷でもウィルフリッドの薬で経過時間を表現したりと単なるセリフ劇に終わらせず一切退屈させてもらえない面白さ。 レナードとクリスチーネの過去も面白い。コ-ヒー1杯飲むためにキスを繰り返す“楽しい取引”、タバコとガム、ベッドにダイブで天井崩壊、ディートリッヒの生脚。 ダメ男を助けるための大芝居、そんな尽くす女を裏切るかのような二重三重の大どんでん返し。
[DVD(字幕)] 9点(2014-01-22 00:26:30)(良:1票)
80.  ビフォア・ミッドナイト 《ネタバレ》 
大人から親へ。  「サンセット」の続編だが前二作とはかなり違う部分が多い。海に出るように開放的だ。  前は街に既にいた、今度は旅の始まりからすべてが始まる。 歩く二人、前作と違って今度はちゃんと出て映されるものと映されないもの、、やはり喋って喋って喋りまくり、空港、抱擁、彼女に語ったことが大体合ってたことが解る。  別れ、車で待つもの、海沿いの道、後ろに乗るものが誰なのか、彼女と彼の関係はどうなったのか気になる。 動き続ける車で回り続ける舌、娘、車内でじゃれ合う、写真、食う、盗品を渡した上に黙認、やはり会話だけで過去が語られる。  くっちゃべる二人の挙動を楽しむ姿勢は貫かれる、そこに車に揺られるものの挙動が背景として加わる、喋り方の真似、やつれた男と少しふっくらした気がする女、久々に二人に話しかける存在、尻にタッチするのは将軍に「了解」の合図、店、子供たちとサッカー、海辺。  二人は別れて様々な人々とも語り合う。会話が途切れるシーンも多い。 腰かけて動きが少ないはずなのにキャメラは動きまわり、会話に参加する人も増える、水着、「波止場」の話は面白かった、時間、かじられるリンゴ、家族どうしのしゃべくり、男が食事中に下品な話をするのは若い二人を刺激するため、、悪態や三文芝居をするのも親しさから。  本作の性に対する踏み込み振りときたらどうだ。さり気なく腰に手をやり胸を揉みしだく。全二作ですら自分の脚にのっけたりくらいだったのに。 それをやっても許される仲ということか。スカート姿や胸が強調されるの母親ではなく異性としてか。  本当にヤギも登場、食卓を去った後は前作を思い出すようにまた二人だけでしゃべり続けながら歩き続ける、映画、ポンペイ、遺体、白黒、50年代、遺跡、蝋燭。 聖人一同「十字斬ったぐらいで許されると思うなよ」  指を舐める、海辺の椅子、沈む夕日は会話と運動を止める、秘密はまだ共有する仲、作家として本にサイン、宿。  前二作でけして映されることのなかった情事が映される。 意外と胸があったのか(ry どんどんとんでもないことを言い始める二人、拒んだら求め、下着、求めたら拒んだり、ズボン、それが思わぬ口喧嘩にまで発展してしまう。 “弦”、どんどん現実的に生々しく、それとも今までが御伽噺のように綺麗すぎたのか。あんなに離れたがらなかった二人が…。  ドアは終わりを告げるのではなく、休ませずに延長戦をさせるため。 それでもあの場所で待ち続け、あの場所へ行く。向かい合わせが不意に距離を詰め、言葉が途絶えた瞬間、キャメラは静かに去っていく…。
[DVD(字幕)] 9点(2016-08-26 07:22:36)(良:1票)

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