1. 時計じかけのオレンジ
《ネタバレ》 半世紀近く前にも関わらず、今もなお衝撃と鮮烈さを失わず、五感を絶えず刺激させる。 あまりに背徳的で倫理性を無視した、サイコパスの不良少年アレックスの悪行が強烈であるほど、 共犯者になったような恍惚と快感を観客に見せつけ、投獄そして釈放後のアレックスの地獄巡りを追体験する。 荒療治によって変わっても、彼は被害者のように振る舞い、何故因果応報を受けたのかという反省も心からの謝罪もない。 性と暴力を封印されただけで根っこから救いようがないからである。 では、アレックスだけが酷いかと言えばそうでもない。 実は社会も我々もアレックスのような本能が眠っているのではないか。 タイトルは機械化された人間を意味するらしいが、理性を持って生きている我々も息苦しい現代社会に嵌め込まれている。 むしろ機械化された人間にならない支配者側こそ本能的に我々を上手く利用してコントロールしている。 自分の生きたいように生きられる言動は、世渡りの上手さと狡賢さから成り立つという残酷な現実を突き付けているのだ。 キューブリックの先見性は、彼の想像を遥かに超えて、現実の"未来"は映画以上にさらに酷いものになっている。 "アレックス"と"時計じかけのオレンジ"の狭間で、観客はラストの観衆と重ね合わせ、 「ハラショー!」と喝采する未来しかないのかね… [DVD(字幕)] 10点(2018-06-01 19:54:05)(良:1票) |
2. トイ・ストーリー3
《ネタバレ》 SF要素を交えたトンデモ西部劇で始める冒頭、これどう収拾するの?と思いきや、いきなり涙腺が緩んでしまう。かつてリアルタイムで1&2を見ていた子供は、今はもう青年、社会人になっているだろう。その事実を、成長したアンディと成長しないおもちゃと対比して突き付ける。手違いから地獄のような幼稚園からの脱出を試みるウッディ達を描いた3は、その活劇の巧みさに舌を巻き、一向に飽きさせない。同時に並行しておもちゃ達の行く末を匂わせる描写も容赦なく、絶体絶命から救出されたとしてもいつかは訪れる結末。たとえそうだとしても、アンディから少女へと想いが引き継がれていくエピソードがあったからこそ、痛烈に心に響く。カーテンコールのように、一人一人を言葉を紡いで紹介していくアンディに涙があふれた。彼もまた、このシリーズの影の主役だったかもしれない。「あばよ相棒」。嬉しいことも悲しいことも一緒に共にしたおもちゃへの愛情と感謝。人を信じる眼差し。それを胸にアンディもウッディ達も新しい世界に飛び込んで生きていくのだろう。 [映画館(吹替)] 10点(2017-04-06 23:47:46) |
3. 時をかける少女(2006)
主題歌を聴いた瞬間、絶対見てみたいと思える透徹感がこの作品にあった。現代的なリアルと些細なファンタジーが違和感なく溶け込み、それに反してもう戻れないかけがえのない時間がこの世界観を際立たせていた。本当に求めていた映画に出会えたという喜びは数年に一度かもしれない。そして、それをリアルタイムで見れたこと自体、かけがえのない時間そのものだ。こんなに青い大空と雲を見たことがない。何故か涙が溢れた。 [映画館(邦画)] 10点(2015-08-08 00:50:22)(良:1票) |
4. となりのトトロ
メッセージ性はなく、大した事件が起きるわけでもない。懐かしの原風景と巨大生物との交流だけで、30年経っても色褪せない世界を創造したことに宮崎駿の凄さを再確認できる逸品。おとぎ話に振りすぎず、あるがままの自然を受け入れるようなバランス感覚が絶妙。 [地上波(邦画)] 8点(2020-08-14 21:55:10) |
5. 塔の上のラプンツェル
《ネタバレ》 久々に王道を地で行くディズニー・プリンセスものを見た気がする。それ故に目新しいものはなく、粗はなくはないが、あの長すぎる髪で如何に危機を乗り越えるのか適度なユーモアを交えつつ、ハラハラさせながらも安心して見られる。塔に軟禁状態のヒロインが城に向かうだけのスケールの小さい話でも、抑圧された当人からすれば地面に降り立った一歩には大きな世界が広がっている。永遠の美しさを保ち独占し続けようとする"毒親"からの自立。いつかは子供は大人になり、思い通りに抑圧しても親元を離れていく日がやってくる。たとえ彼女の言う通り、現実が恐ろしく辛いもので代償を支払うにしても、新しい世界に飛び込んでみる価値があると伝えているようだ。しかし、盗んだティアラがきっかけとは言え、盗賊を婿養子にしていいの? その他荒くれ者も職を得て、大団円で締めるアバウトさは流石ディズニーのお家芸と言ったところ。 [地上波(吹替)] 8点(2017-04-06 23:43:13) |
6. トイ・ストーリー2
《ネタバレ》 前作が「自分は何者なのか?」に対し、続編は「自分の存在意義」に踏み込む。おもちゃとしての幸せは人それぞれだろう。博物館に半永久的に展示され大事にされるのも良し、たとえ短い間でも主人に無償の愛情を注がれるのも良し。過去の傷を背負ったリンディは、それでも後者の愛されることを選んだ。人の幸せ=おもちゃの幸せとは限らない。ただ、誰かに必要とされていることを、自分自身を信じ、己で見つけて手に入れるしかない。おもちゃの視線でそう伝えているようだ。 [DVD(吹替)] 8点(2016-12-19 22:02:06)(良:1票) |
7. トイ・ストーリー
多くのことは語らない。世界初の長編フルCGアニメでありながら、画・脚本のクオリティの高さにより、CGアニメ全体のハードルを一気に上げてしまった罪な作品でもある。つまるところ、滅茶苦茶面白かった。 [DVD(字幕)] 8点(2016-02-23 21:09:16) |
8. ドライヴ(2011)
《ネタバレ》 一定のテクノビートを刻むミニマルミュージックから一気に引き込まれる。派手さとは無縁の、チェスの読み合いみたいなカーチェイスに新鮮味を覚える。それに続く、80年代テクノポップとピンクの筆記体クレジットで綴られる『ドライヴ』は、オーソドックスでありながら新しい風を呼び起こす。アメリカン・ハードボイルドとヨーロピアン・フィルムノワールが融合した文体は、不思議な浮遊感に満ち足り、かと思えば、静と動、ラブストーリーとバイオレンスの対比がアクセントとして効いている。過去も名前も不明なドライバーが、トラブルに巻き込まれた人妻と幼い子供のために、再び裏社会に舞い戻る、ありきたりな任侠映画のプロットでありながら、エレベーターのシーンで彼が歩んだ過去が凝縮されているように感じた。同時に彼女とは違う世界の人間であり、相容れられないことも。恩師を殺され、復讐するシーンでリズ・オルトラーニの"Oh My Love"を流すセンスが神がかっており、「映画に恋をする」というのは正にこうゆうことなのだろう。全てを終え、追われる身になったドライバーはもう戻らない。それでも人妻は彼を想い続けるだろうし、刺されたドライバーは彼女の温もりを乗せ、今頃生きているのかもしれないし死んだかもしれない。彼の人生を想像したとき、大きな余韻がふっと湧き上がる。 [映画館(字幕)] 8点(2015-06-09 19:34:30) |
9. ドリーム
アメリカの宇宙開発を影で支えた"Hidden Figures"(隠された数字/知られざる人たち)の物語。 「黒人だから」「女性だから」の二重苦に立ち向かい奮闘する様は、未知の領域に挑むNASAが目指す"夢"と重なるものがある。 差別も少なくないが、それでも社会を良くしようと変革をもたらしたアメリカの強さ。 計算士のキャサリンを他所に、同僚のドロシーとメアリーのドラマは薄く、もう少し踏み込んで欲しい。 下手したら3人より目立つケビン・コスナーは美味しい立ち位置で期待裏切らぬ好演だった。 [地上波(字幕)] 7点(2022-03-20 11:42:52) |
10. ドライブ・マイ・カー
《ネタバレ》 3時間深淵を見つめる旅。 まるで"見る小説"の如く、虚飾の皮を剥くように二元論では決めつけられない人間の正体に向き合っていく。 妻の主人公に対する愛情は本物か"スタイル"だけなのか、女性ドライバーの母親に対する愛憎も同様だろう。 内心分かっていながらもどこかで"表面だけだとしても繋ぎ止めたい"と"本心に向き合いたい"のせめぎ合い。 劇中劇の『ワーニャ叔父さん』で絶望した男がもがきながらも生を選ぶさまは、主人公の現状と大きく重なり、 複数の言語で紡がれることもあってかディスコミュニケーションによる困難をより際立たせる。 過ぎ去ってしまった機会は二度と来ない。 その後悔は死ぬまで続くかもしれない。 辛い人生がこれからも繰り返される。 それでも新たな一歩を踏み出した主人公は、亡くなった娘と重ねるように女性ドライバーに思い出の車を託す。 彼女は新天地で車を走らせる。 抑制された演出と演技によるフランス映画みたいな作品で、 現時点の評価が平均6~7点で留まるあたり、エンタメとは対極の作家性の強さを象徴している。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-02-19 00:29:22)(良:1票) |
11. トイ・ストーリー4
《ネタバレ》 まさかの4製作に不安しかなかった。完璧な3を見て、もう描き切った感があったからだ。しかし敢えて描く。3には登場しなかったボー・ピープとの別れと9年ぶりの再会、ゴミから命を与えられた自己卑下するフォーキ―の自我の目覚め、そしておもちゃたちはどう生きるのかを。1・2に回帰した構成だが、アンディのお気に入りだったウッディは、ボニ―からは相手にされず、リーダーとしての立ち位置を失い、仲間を助けることしか居場所がない。そうやって言い聞かせてきた彼の最後の選択は至極当然の流れだったかと。キャラクターが多くなった分、レギュラー陣の活躍が物足りなく、意外性も舌を巻くような活劇も4にはなかった。とは言え、主人の元に戻ることが全てではなく、それぞれの"物語"を紡いでいくおもちゃたちが感慨深い。バズたちと別れたウッディは西部劇の保安官でもなく、アンディのお気に入りでもなく、レアフィギュアでもなく、ウッディ個人として未知の世界に飛び込んでいく。それこそ『トイ・ストーリー』に相応しい所以ではないか。 [映画館(吹替)] 7点(2019-07-16 20:14:54) |
12. トゥルー・ロマンス
《ネタバレ》 今やオスカー女優のパトリシア・アークエットの代表作ということで、芯の通った強いヒロインにタランティーノ作品に通じる名残を感じさせる。トニー・スコットの演出は冴え渡っており、過激な暴力描写を一歩手前で押しとどめ、タランティーノの個性を殺さず、万人向けに見られる娯楽作に仕上げるあたりは流石。偶然手に入れた大量の麻薬を売り捌こうとしている地点でバッドエンドに転がり込んでも仕方ないけど、大集結した警察・マフィアが全滅って疫病神なカップルだな(父さん殺されたし)。その大きい代償を経て、ラストのハッピーエンドの平穏さが愛おしく堪らない。 [DVD(字幕)] 7点(2015-11-05 18:40:51) |
13. ドント・ルック・アップ
《ネタバレ》 トランプ大統領誕生から露わになった分断と、扇動するメディアを総括した2020年代の『アルマゲドン』。 彗星衝突という非現実な事態なんて周囲は信じずエンタメとして消費し、 ディカプリオを始めとする超豪華スター大集合で大真面目にバカ騒ぎを広げていく。 巨大企業との癒着を優先するという初手さえ間違えなければこのようなラストを迎えなかったものの、 自らに事態の深刻さが及ばない限り、誰もが真実を受け入れないものである。 難を上げるなら、2時間半に及ぶ内容をもっと短くできた気がする。 制約がないが故に却って引き締まらない印象を受けた。 [インターネット(字幕)] 6点(2022-01-01 15:34:54) |
14. 鳥(1963)
《ネタバレ》 何故、鳥が人を襲うのかなんてどうでもいい。理由がないから恐ろしいのであって、その純粋な恐怖をヒッチコックは引き出そうとしたのだろう。最後まで逃げ場のない終末感漂う結末にこれ以上のものは考えられない。 [地上波(字幕)] 6点(2017-07-11 19:34:17) |
15. トレーニング デイ
盛り過ぎじゃないか?と思うくらいの12時間で、ああでもしないとやっていけないくらい壊れたアロンゾと、倫理観と自分の正義を貫くかで揺れるジェイクの駆け引きと変化が見どころ。ただ、演出とストーリーは普通で、デンゼルに主演男優賞というのは気の毒では? キャリアベストの演技が過去にもあったのに、こうも悪役だと白人会員の嫌みにしか聞こえない。 [DVD(字幕)] 6点(2016-07-05 22:19:56) |
16. トラフィック(2000)
麻薬戦争の現実をただ描いたと言えばそれまで。 それは麻薬とは無縁の生活を送っている人間にとってあまりにも非日常すぎるからかもしれない。 多くの登場人物が複雑に入り乱れるが、舞台ごとに色使いを分け、 主要三人を絡ませないことで比較的分かりやすくはなった。 今日でも耳にする麻薬撲滅を掲げ惨殺された現地要人のニュースに、 永遠に終わることのない本作の泥沼の戦いを思い起こさせた。 [映画館(字幕)] 6点(2016-03-22 21:07:02) |
17. ドン・ファン(1970)
《ネタバレ》 『ドン・ジョバンニ』との違いがよく分からない(男が悪行の果てに地獄落ちするのは共通するが)。オーソドックスな人形劇だが、屋外で撮影したり、ゴアシーンがあったり、要所にコマ撮りアニメが挿入されたりと、型にハマらないシュヴァンクマイエムらしい片鱗が随所に見られる。不意に挿入される「死ね」「えーいっ」のテロップが恐い。終盤で「子供たちよ、俺のようになるな」とメタ演出が入るあたり、子供向けだろうなと思うけど、あの表現の数々を見るに冗談がきつい(笑)。もっともホラー映画なんて当時は規制なしで見られた時代なのかもしれないが、子供には良いショック療法だったに違いない。 [インターネット(字幕)] 6点(2015-07-15 21:55:43) |
18. 突入せよ!「あさま山荘」事件
可もなく不可もなくといったところ。リアルタイムで事件を体験した世代でもないため、如何にして事件を解決していったかを分かりやすく手堅くまとめていた。感動的に盛り上げるような場違いなBGMがなければ、もう1点差し上げたかったのに。 [映画館(邦画)] 6点(2015-07-09 18:48:26) |
19. トップガン マーヴェリック
前作については思い入れはなく、期待もしていなかった。 確かに本作の完成度は高く、本物志向のアクションとスケールの大きさで、 往年のハリウッド映画の王道がコロナ禍の映画館に観客を呼び戻した意味で貢献度は大きい。 最高の続編を作ろうとしたトム・クルーズをはじめとする制作チームの執念と情熱を感じた。 でも、"足りない"。 映画館の大画面や大音響で体験しなければ本作の真価が発揮されないのは分かっている。 それよりも見せ方や物語が枠に嵌りすぎて息苦しさも感じてしまうのだ。 もう少し意表を突いた演出や展開があっても良かったのではないか。 その年の最高の映画として、アカデミー作品賞に推す人が大勢いるのは分かるし、 取れなかったことに対して不満が少なくないのも分かる。 いつの時代もたとえ新鮮味がないものであっても、 誰にも分かりやすく安心して楽しめる映画を求めている観客が圧倒的に多いのだから。 私はその観客の一人にはなれなかった。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-03-24 23:37:19)(良:2票) |
20. トップガン
《ネタバレ》 30数年ぶりの続編で注目を浴びた本作に関して、ほとんど語り尽くされているので言うことはなし。 '80年代のおおらかな空気感と、破天荒な青年が親友の事故死を乗り越えて、 立派なパイロットに成長する王道青春ストーリーはMTVさながらの軽薄さだとしても見れないレベルではないし、 ドッグファイトのクオリティが水準以上なので気楽に見られる。 そう考えれば良くも悪くもこれくらいの点数。 [地上波(字幕)] 5点(2023-02-11 00:52:42) |