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no oneさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 487
性別 男性
ブログのURL https://www.jtnews.jp/blog/23806/
年齢 41歳
自己紹介 多少の恥は承知の上で素直に書きます。

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201.  都会のアリス
すごくドラマチックな出来事が起きるわけではないんだけど、このほんの数日間が二人の人生にとって特別な時間になることがわかる。無気力で弱い中年男と、身勝手な母親にふりまわされる少女の間に、不思議なくらいに深い共感が絆をつなぐ。アリスが連続写真を眺める場面はいい。似たようなエピソードは他の映画でもあるけど、この映画が一番無垢で、嘘がなかった。冒頭は色彩に欠ける寒々としたモノクロだと思ったが、後半になると白い日差しが中心になった温かいモノクロになる。心にしみわたるような、やわらかくて淡い光がある。   また、アリス役のイエラ・ロットレンダーがすごく魅力的な空気を持っていた。気が強くてわがままで、でも寂しがりやで健気。無邪気で可愛らしく、だけど微かに女性を感じさせる微妙な年頃でもある。とても美しい子だと思った。フィルが守ってあげたくなるのもわかる。   優しく、素敵な作品だ。この映画には川原で拾ったきれいな石のような、素朴で手のひらに馴染む柔らかな美しさがある。
[ビデオ(字幕)] 9点(2006-03-17 15:34:49)(良:1票)
202.  プレッジ 《ネタバレ》 
観終えてから観客に考えさせるのが狙いだとしたら、その意味では成功しているのだろう(ショーン・ペンが『ミスティック・リバー』に入れ込んだ理由がわかった)。しかし、あざとさを感じなかったといえば嘘になる。   結末はなんとなく予想がついていたのでたいして衝撃はなかった。提示された謎に対する答えとはまた違ったベクトルのオチがついたので、驚く以前に拍子抜け。変にミステリーの要素を組み込まず、一人の男の妄執に焦点を当てた人間ドラマにしてくれた方がよかったと思う。どうにも中途半端な感が拭えなかった。
[CS・衛星(吹替)] 6点(2006-03-17 15:22:28)
203.  ハンナとその姉妹
ずいぶんとモノローグが多い脚本で、普通は映像で物語を展開させるであろうところをモノローグで語ってしまうのが面白い。台詞に独特のユーモアがあるのはもちろん、やたらと噛んだり被ったりが多く、かなり癖のある脚本であることが伺われた。残念なのは字幕では英語のウィットに富んだ台詞を表現し切れていないことで、その落差は全然英語が不得意な自分ですらはっきりとわかるくらいだった。これほど台詞が重要な作品もないのだから、翻訳家にはもっと気合を入れて仕事をして欲しかった。たぶん英語力があれば断然面白さが違うんじゃないだろうか。しかしなんといっても印象に残ったのは、ちょい役のロックスターが着ていた「女」Tシャツ。どうでもいいことなのにものすごいインパクト。しっかりと記憶に焼きついてしまった。
[ビデオ(字幕)] 6点(2006-03-09 02:42:52)
204.  悪魔のいけにえ
怖くはなかったが、面白かった。   これほど幼児的・動物的で理解し難い殺人者も珍しい。実話を基にしているというものの、モデルになった事件とはかなりかけ離れている。このようなパーソナリティの殺人者など実在しないはずだ。それでもリアリティが失われていないのは、この殺人者が属する家族の関係性に妙な説得力があるからだろう。   一番凶暴で強靭だが知性がなく、父親と弟のいうことは大人しく聞く長男(レザーフェイス)、弱々しいが父親に反抗できる弟、いちばんまともだが家族の長である父親、ほとんど死にかけている(認知症?)のに家族には慕われている祖父。一般的な家族愛とは違うが、不思議と強い絆に結ばれているように見える。   レザーフェイスは確かに恐ろしいが、おそらくこの家族のフォローがなければまともに生きていけず、一生を精神病院で送るのが関の山だろうと思われる。つまりレザーフェイスは家族全体が揃って初めて本当に恐ろしい怪物になりえるのだ。この奇怪な一家の存在感は半端ではなく、たぶん(犯罪を犯しているかどうかは別として)モデルとなった家族は実在するのではないだろうか。弱々しい老人に無理やりハンマーを持たせてヒロインを屠らせようとする"家族団欒"の場面が強烈な印象を残す。   いたずらに派手ではない殺し方といい、夕陽の中での奇妙なダンスといい、並みの映画とは狂気の迫真性が違う。監督自身が内側に狂気を秘めた人でなければ、これは創れないと思う。   ちなみに主演女優の方、初見時はただただうるさいと思っていたが、よく観ると恐慌状態にもきちんと段階をつけて演技している。ラストの逃げ切った後のヒステリックな笑いの演技なんかはとくに感心した。
[ビデオ(字幕)] 7点(2006-03-08 13:34:12)
205.  グレムリン
こういうちっこくて怖いんだか可愛いんだかよくわからないモンスター、最近は見ませんね。強力なモンスターや不死身の殺人鬼も怖いけど、一匹一匹はたいしたことないやつらが集団で襲ってくるとそれはそれでやばい。下手に恐ろしげな怪物を作るくらいなら、グレムリンみたいな個性的で愛嬌のあるキャラクターを創造すべきでしょう。アイディア賞ということで+1点おまけ
[ビデオ(吹替)] 8点(2006-03-07 17:12:26)
206.  マグノリア 《ネタバレ》 
あのカエルが降ってきた瞬間に、たぶんみんな気が抜けたんだと思う。なんというか、煮詰まって煮詰まって、破裂寸前まで膨らんだ風船のような緊張状態になっていたところで、急に空気がぷしゅうっと抜けてしまう感じ。それまで深刻に悩んでいたのが、なんだかバカバカしくなってくる。自殺しようと思って銃をこめかみに当てた瞬間にカエルが手を打って死に損ねるなんていう経験をしたら、きっともう一度自殺しようとしたときに思い出し笑いが出て、死に向かって盛り上がっていた気持ちが萎んでしまうだろう。   人生がお先真っ暗に思えるとき、実は現実が悪いことばかりというわけではなく、自らの手で目を塞いでいる場合がある。人生の暗い部分ばかり見つめていると視界が狭まって、確かに存在するはずのポジティヴなものも見えなくなってしまう。しかしそんな呪縛はふとした拍子で解けてしまうもので、いったん解けてしまえば前よりもっと大らかな気持ちで物事を見つめられるようになっている。自分の悩み事を突き放して見られるようになれば、なんとかやっていけそうな気がするものだ。   あのカエルの群れが大勢の人たちにとってそういうきっかけになったとすれば、この映画はやっぱりある種の「奇跡」の物語なのだと思う。  (ただ、ラストのような現象についてなんの知識もないような人が「は?」で終わってしまうのはわかる。自分は竜巻で巻き上げられた魚やカエルが降ってくることがあるという話をたまたま知っていたので、比較的抵抗は薄かった。欧米ではけっこう知られている現象なのだろうか?)
[ビデオ(字幕)] 8点(2006-03-04 12:02:06)
207.  ブラック・サンデー 《ネタバレ》 
殺人という任務に疲れきったイスラエル諜報部の主人公と、彼らの国による暴虐のために生まれた美しい女テロリスト、そしてベトナムで精神を病んで母国に裏切られたかつての英雄。この影のある正義の味方と人間味のある悪役たちの造形が、わかりやすい娯楽作と一線を画す深みを与えている。犯罪者側に肩入れしてしまうという点では『ジャッカルの日』以上で、作戦に失敗の兆しが見えると思わず歯噛みをしてしまったくらいだ。   トマス・ハリスは荒唐無稽にならないぎりぎりのリアルに踏みとどまるのが上手な作家だが、その長所は本作でも最大限に発揮されている。とくにあのダーツを利用した究極兵器は奇妙だが、なさそうでありそうな不思議な現実味を持って観るものの記憶に刻みつけられる。   ベキム・フェーミュ演じるテロリストたちのボスとの銃撃戦は本筋とは直接関係していないのだが、この場面が本作を傑作たらしめているのだと思う。カットしても本筋には影響のないエピソードが入ることで世界観に奥行きが出ているし、圧倒的に不利な状況に置かれても不屈の意志と天才的な技術で捜査側に壊滅的なダメージを与えるテロリストの存在感は強烈だ。捜査側の不手際と敵側の有能さが対照的に描かれ、ここでもまた単純なヒーロー対テロリストの図式を微妙に崩している。この点、現在のハリウッド映画の幼稚なアメリカンヒーローとは別物だ。   唯一惜しいのはクライマックスで、急激に動的になる映像に興奮できればよかったのだが、現在ではありがちなアクションに感じてしまった(たぶん公開当時であれば楽しめただろう)。おまけに爽快なラストシーンがそれまでの展開とはちょっと不釣合いで、なぜこんなふうに料理したのかと疑問が残った。結末にもう少し苦味があれば(たとえばテロリストたちの生き様を偲ばせる場面を入れるとか…)『ジャッカルの日』にも負けない大傑作になっていたと思う。
[ビデオ(字幕)] 8点(2006-03-03 13:28:18)(良:1票)
208.  アトミック・カフェ
怒りを通り越して、あきれた。あきれるのを通り越して、軽い絶望感すら覚えた。もはや、言葉もない。
[DVD(字幕)] 6点(2006-03-02 14:10:54)
209.  死刑執行人もまた死す
多少古びた感はあるにしても、やはり非常に見ごたえがある作品だった。暗殺者をあぶりだすために数百人の人質が取られ、もくろみが失敗すれば関係者全員が銃殺されることを前提に物語が進む。政治がらみとはいえ、ここまで酷薄で重厚な雰囲気のサスペンス映画も珍しい。   味方であるはずのチェコ人たちには、敵役のナチスほどではないにせよ空恐ろしさを感じた。密告屋らしい人物がいるとわかるとたちまち集まってきて、しまいにはリンチに発展しそうになる場面は生々しい。一人の暗殺者を守るために四百人の人質を死なせるという決断にほぼ全員がためらわずに賛成するのにも驚いた。   誇りを失うくらいなら命をも捨てる彼らに、戦時中に一億総玉砕を叫んだ日本人の姿が重なって見える。このような価値観を一概に否定すべきではないのかもしれないが、もし自分が暗殺者だったら自首したであろうことは確かだ。彼らの不屈の意志をテーマにした歌には完全に引いてしまった。   大戦直後のドイツを舞台とした小説で、ユダヤ人の子供たちが徒党を組んでドイツ人の子供を蛆虫と歌う場面があったのを思い出した。感情的になった集団はどんな行為をも正当化する。フリッツ・ラング監督がドイツ人であることを差し引いても、彼の群集心理に対する洞察力は否定できないと思う。   そして何より、小難しいことを言わなくても、単純に娯楽作として優れているというのが素晴らしい。もっとも、クライマックスもまた形を変えたリンチなのだが……
[ビデオ(字幕)] 7点(2006-02-28 09:50:22)(良:1票)
210.  ポゼッション(1981)
これはすごい。ガラスを金属で擦るときの嫌な音を聴かされているような、背筋がざわざわする不快感がほぼ全編に渡って持続する。おぞましい狂気をそのまま具現化したような映画だ。   主要登場人物はことごとく狂っているし、何気ない映像も陰鬱でどこか不穏な空気を孕んでいる。湿った空を思わせる青白い映像は、とくに奇をてらっているわけではないのに肝心なところでどこかずれていたり、意味もなく揺れたりする。かと思うといきなりぐるぐる回りだしたりで、かなーり気持ち悪い。作った人は本当に頭がおかしいんじゃないかと疑ってしまった。   真っ黒な精神世界をグロテスクな映像に置き換えるという点では、クローネンバーグやデヴィッド・リンチに引けを取っていない。とくにクローネンバーグの『ザ・ブルード』や『戦慄の絆』に非常に近いものを感じたので、そういうのが好きな人にはお奨めしたい(つまり、一般受けはない)。   イザベル・アジャーニという女優魂のある人を迎えたことも作品としてとても幸運なことだったと思う。ものすごいわ、この人。すごすぎて途中ちょっと笑っちゃったもん。しかも一人二役を演じていることに途中まで全然気がつかなかった(なぜか裸を見て気づいた。そこら辺の観察力には自信がある)。今まで全然注目していなかったけど、超がつくほどの実力派だったんですね。脱帽。
[ビデオ(字幕)] 7点(2006-02-27 08:54:15)(笑:2票)
211.  アイ,ロボット
致命的な欠点はないけど、あまりにもあっさりしすぎていて食い足りない感が残った。もう少し主人公に厚みがあればよかったかな。ウィル・スミスよりサニーの方が存在感があって、むしろ彼のほうが影の主役だったと思う。一番感動したのは、無機質なようで生物的なフォルムのロボットたちのデザインの秀逸さ。淡い緑色の光は蛍のようで、不思議と機械的な印象はない。強そうでもないし、変にかっこつけたデザインでもないんだけど、シャープで美しく、独創的だ。あれが集団で昆虫みたいにぴょんぴょん飛んだり跳ねたり、わさわさビルの壁面を這い上がってくるとなんとも恐ろしい。グンタイアリとか異常発生したイナゴを思い出してしまった。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2006-02-27 08:49:08)
212.  タンゴ(1993) 《ネタバレ》 
爽やかな映像に『紅の豚』でも始まったかと思いきや、その後のブラック過ぎる展開に口があんぐり。それ以降は笑いっぱなしだった。ただし、途中までは文句なく面白かったのが、最後で少々拍子抜けする。終盤は気の利いたギャグがなく、ついつい悪乗りを期待していた自分には物足りなかった。ブラックコメディとして中途半端な終わり方なので、殺人犯と殺人未遂犯たちが仲良くハッピーエンドという流れには抵抗を覚えた。よくできた脚本だが、個人的には最後までテンションを下げない方が好きかもしれない。   ところで、ルコント監督作品では他に『仕立て屋の恋』を観たが、やっぱりこの人の恋愛ものって変態なんだなと思う。女性に対する憧れと崇敬と恐怖の念が強くて、同じ人間というよりは一種の女神様みたいに見做している。偏執的な愛は、一歩間違えばストーカーを扱ったサイコホラーになりかねない。しかしホラーというのはさらに一歩間違えばコメディになるわけで、本作はその絶妙な路線を狙って成功している。   ルコントの精神の中核に偏執的なものがあるのは間違いないが、こうしてコメディにまで活かせるところを見ると、恐ろしいほど客観性の強い人なんだろう。変態には違いないが、変態である自分をはっきりと自覚しているのでまともな人間でいられる。本当に危険な人間は自分を冗談にして笑い飛ばしたりできない。『仕立て屋の恋』が嫌悪感ではなく憐れみと共感を持って迎えられたのは、この優れた現実感覚のおかげなのだろう。
[ビデオ(字幕)] 6点(2006-02-24 14:52:52)
213.  突撃(1957)
塹壕や処刑場の場面はさすがキューブリックという感じだったが、全体の構成に関してはやや中途半端な印象を受けた。   たとえば軍法会議にかけられる三人のうち、ラルフ・ミーカー演じる伍長についてのみ挿話があるのだが、他の二人については放置されたままだし、この挿話自体あまり活かされていない(わざと突き放して描いているからだろうか?)。   また三人それぞれが容疑をかけられる理由がユニークで面白いのだが、言葉で説明されるだけでさらっと流され、なんとももったいない。とくに容疑者をくじ引きで決める場面なんかは映像で観たかったなあ。   一番冷めたのはラストのドイツ娘のエピソードで、前振りがまったくなかったのでとってつけたように感じられた。過酷でリアルな物語の後にいきなり人間に対する希望を謳われても、無理矢理過ぎて説得力が薄れる(いや、確かにいくらか感動してしまったけど)。キューブリックにしては甘ったるいヒューマニズムを感じた。   全体的に、物語を構成するのに必要な場面がいくつか欠けているのではないだろうか。あるいは逆に削ってさらにコンパクトにしても良かったと思う。面白いが、多少バランスを欠く印象を受けた。
[ビデオ(字幕)] 6点(2006-02-23 12:18:19)
214.  嘆きの天使(1930) 《ネタバレ》 
ローラ・ローラ、別に悪女じゃありませんよね? 少なくとも自覚のある悪女ではない。むしろこの教授があほというか、真面目すぎて勝手に自滅した感じ。「美しいって罪よね」という言い回しがあるけど、この人に罪があるとしたら魅力的過ぎることぐらいだ。マレーネ・ディートリヒは不思議なオーラを持った人で、脚線美なんかは今見ても目がちかちかするぐらい眩い。真面目一辺倒に生きてきた人が虜になってしまうのも無理はないと思わせる。   教授がプライドを捨てて笑いものにされる場面はあまりの痛切さに胸が詰まる。だけど教授を玩具にした座長も根っからの悪人というわけでもなくて、後から教授に謝罪する。教授をあんな状況に追い込んだのは、他でもない教授自身なんだよね。   誰が悪いというわけじゃなく、自らの純粋さゆえに破滅する。この巨漢のおっさんを「天使」と形容するのは抵抗があるけど(そういえば生徒たちの落書きに天使のように翼を生やした教授のイラストがあったなあ)、彼の行動は美しい光に飛び込んで羽根を焼かれてしまう天使のような、純粋な愚かさに端を発するものだ。だから彼の行動を笑いものにすることができないのだろう。ただただ切なく、やるせなかった。
[DVD(字幕)] 8点(2006-02-21 10:24:56)(良:2票)
215.  裏窓(1954)
ジェームズ・スチュアートがギプスで曲げられない足の先を必死に掻こうとする場面を観て、昔骨折して満足に身体を動かせなかったときのもどかしさを思い出した。この届きそうで届かない"もどかしい感覚"というのを上手に使っていると思う。   肝心なものは見えそうで見えない、証拠はないのにどう考えてもあやしい、調べたくても人に頼むしかない……とくにグレイス・ケリーの行動を遠くから見ていることしかできない場面はものすごく恐ろしかった。こういう悪夢をときどき見る。ある人に危険が迫っていることがわかっていても報せることができず、殺人者はどんどん近づいてくるのだ。肌がざわざわと粟立つようなスリルを味わう作品であって、どんでん返しを期待するのは筋違いではないかと思う。    BGMもなく必要以上に派手な演出をせずに淡々とみせるのは、サスペンスを日常生活に組み込もうとする試みだろう。地味すぎて現代では通じないという意見もあるが、たとえば『サイコ』だって音楽やどんでん返しが重要な仕掛けとなっているわけで、この作品の異常なまでの抑制の仕方は当時としても異色だったに違いない。   休暇中に部屋からぼんやりと窓の外を眺めていて、ふと目に留まったささやかな光景から始まる恐怖の物語。悪夢は非日常の世界にあるのではなく、あくまでも日常生活の裏側に潜んでいる。一見平和な生活も、裏窓から覗いてみればどんなグロテスクな様相を示すかわからないのである。この着眼点が秀逸な作品だと思う。
[DVD(字幕)] 7点(2006-02-19 12:13:01)
216.  リアリズムの宿
山下監督の画に対するこだわりはすごい。とくに海の映像は本当に美しくて、思わず見惚れてしまうほどだ。この鮮烈な映像とくだらない内容のギャップがまた面白い。  出演者インタビューによると主人公らはいちおう成長しているらしいのだが、男二人がちょっと仲良くなっただけにしか見えない。たぶん、普通の青春ものの主人公たちの五十分の一くらいしか成長していないのだろう。  誰もが共感できるのに誰もが忘れてしまうような些細なできごとを記憶しておいて、決してドラマチックではない日常からドラマを紡ぎだす。日常から物語を紡ぐのは小説の世界でいえば女流作家の領域。野暮ったい男の映画ではあるが、その実よっぽど鋭敏な感性を備えていなければできない芸当ではないだろうか。  ひたすらかっこ悪くて汚くて現実的、それなのにときどきはっとするほど美しい光景が広がる。不思議な味わいの作品。
[DVD(字幕)] 8点(2006-02-18 22:40:30)
217.  アイズ ワイド シャット 《ネタバレ》 
人間の動物的な本能と社会的規範の対立といったテーマについては『時計仕掛け…』と通じるものがあって面白いけど、こちらについてはちょっと内容が薄すぎやしないかと思う。159分て……時間をかける必要性が感じられない部分が多く、せめて二時間以内に抑えてくれれば高得点をつけていたかもしれない。いつもに比べると映像美も劣るので退屈さが抑えきれなかったし、肝心の謎の儀式の場面はどちらかというと滑稽に感じられた。最後のニコール・キッドマンの一言がなければ完全に切り捨てていたと思う。あの一言で作品全体が引き締まった。
[DVD(字幕)] 6点(2006-02-14 20:54:25)
218.  暗殺の森 《ネタバレ》 
映像はともかく、脚本に不満が残る。   後になって全体のあらすじを思い描いてみるとそれなりに面白い気がするのだが、なぜかいまいちだった。この笑わない主人公との距離を縮めることができなかったのと、台詞が味気ないのが要因だろうか? どうも表層的で実感の伴わない台詞が多かったような気がする。   しかし終盤での主人公の精神的な崩落の過程についてはすごく面白かった。とくに題名にもなっているあの容赦のない暗殺の場面は、恐慌状態の夫妻とはコントラストをなすファシストたちの冷静さが恐ろしい。不自然なほど垂直に伸びた木々が並ぶ騙し絵のような森の風景は独特の美しさで、そこで進行している行為の残虐さを浮き上がらせていた。   ラストのどんでん返しも秀逸。後半の筋書きがよかっただけに、それ以前の脚本をもう少し煮詰めてほしかった。
[ビデオ(字幕)] 6点(2006-02-13 22:18:01)
219.  羊たちの沈黙 《ネタバレ》 
究極の悪ハンニバル・レクターという題材を手に入れ、さらにアンソニー・ホプキンスという素晴らしい役者を迎え入れた時点でこの作品は勝利していたのだろう。   並外れた知性を持ち、あらゆる倫理規範を軽々と飛び越えてしまう怪物。クラリスはバッファロー・ビルから「羊」を救出するが、レクター博士という獣の前には無力だった。恐怖を感じつつも、その超人的な能力に不思議と惹かれてしまう人も少なくないはずだ。   実際のFBI捜査官は、レクター博士を連続殺人者としてはリアリティがなくむしろカルト宗教の幹部にふさわしいと評していて、それを聞いたときはなるほどと思った(そういえば犯行も儀式的で、被害者の死体が殉教者に見立てられている)。これほど強烈なカリスマ性を獲得した犯罪者は他になく、悪役としては史上もっとも秀逸な人物造型だと思う。   ――と褒めつつも微妙な点数なのは、なぜか個人的にはあまりはまれないから。本作と不幸な出会い方をしたのもあるし、久しぶりに再見してレクター博士も脱走方法も「ありえないなー」と冷静に見てしまった。終盤があまり盛り上がらないというのもストーリー展開としてきれいじゃない。自分はむしろあまりの高評価に違和感を覚えてしまう側の人。素直に楽しめなくて非常に残念に思う。
[ビデオ(字幕)] 7点(2006-02-12 21:42:51)
220.  何がジェーンに起ったか? 《ネタバレ》 
『ミザリー』の原型とおぼしきストーリーは、似たような例をいくつか知っているため新鮮味はない(もっともこちらの方が先だけど)にもかかわらず、ベティ・デイビスの圧倒的な演技力にぐいぐいと引っ張られた。あの魚の腹のようにぎとぎとした光を放つ三白眼。   しかも途中まではありがちに思えた物語は、終盤の逃避行に至って予想外の着地をみせる。あんなにおぞましかったジェーンが、信じられないことにいじらしく、可愛らしくさえ見えてきて、それまでの恐怖と嫌悪が憐れみと哀しみに反転する。   ラストで明かされる意外な真実。ブランチの無防備すぎる行動にも、姉をいたぶりながらも肝心なところで姉にすがりつくジェーンの行動にも、合理的な説明がついたのには感心した。   ジェーンは二つのストロベリーアイスを手にして言う「だめよ、これはブランチのなんだから」。この台詞で、彼女が姉を愛していたことがわかる。姉を妬み、憎み、その一方で罪悪感に苦しみつつ、間違いなく姉として愛していた。単純に憎むことも愛することもできない、同じ女優ゆえ、姉妹ゆえの複雑な感情。   何がジェーンに起ったのか。それを知っていたのは姉のブランチだけだった。いや、本当は、誰も知らなかったのだろう。彼女が人知れないところでどんな苦悩を抱えていたのか、彼女がどんな風に心を病み、狂気の渦に飲み込まれていったのか。ラスト、ジェーンは海岸でみんなに囲まれて楽しげに踊る。彼女を遠巻きに眺める人々の顔には恐怖と嫌悪、嘲笑と好奇だけしかない。何がジェーンに起ったのかは、誰も知らない。その壮絶な孤独に、胸が苦しかった。
[DVD(字幕)] 9点(2006-02-10 20:38:30)(良:4票)
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