Menu
 > レビュワー
 > よしのぶ さんの口コミ一覧。15ページ目
よしのぶさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 823
性別

表示切替メニュー
レビュー関連 レビュー表示
レビュー表示(投票数)
その他レビュー表示
その他投稿関連 名セリフ・名シーン・小ネタ表示
キャスト・スタッフ名言表示
あらすじ・プロフィール表示
統計関連 製作国別レビュー統計
年代別レビュー統計
好みチェック 好みが近いレビュワー一覧
好みが近いレビュワーより抜粋したお勧め作品一覧
要望関連 作品新規登録 / 変更 要望表示
人物新規登録 / 変更 要望表示
(登録済)作品新規登録表示
(登録済)人物新規登録表示
予約データ 表示
評価順1234567891011121314151617181920
2122232425262728293031323334353637383940
4142
投稿日付順1234567891011121314151617181920
2122232425262728293031323334353637383940
4142
変更日付順1234567891011121314151617181920
2122232425262728293031323334353637383940
4142
>> カレンダー表示
>> 通常表示
281.  銀河鉄道の夜(1985) 《ネタバレ》 
ジョバンニの心は押しつぶされそうだ。父親は漁に出かけたまま何か月も連絡がなく、友達からはそのことで、ラッコの密漁で刑務所に入っているなどとからかわれる。母親は寝たきりで、画面に姿を現さないほど影が薄い。それで朝は新聞配達、学校がひけるは活版所で働いて日銭を稼がなければならず、授業中は眠くて仕方がない。優しいのは親友カンパネルラだけ。牛乳は希望や生命力の象徴で、衰弱しているジョバンニには、母親にそれを届けることが出来ない。◆銀河鉄道は地上と天上を結ぶ仮想四次元汽車で、死者の魂や異次元の存在を乗せて銀河をめぐる。鳥がよく出てくるのは、古来日本では鳥は死者の魂を運ぶものとされてきたからだろう。古い地層を発掘するのは、過去や想い出は消失するのではなく、いつまでもそこに存在するという作者の信念の証明。沈没船で犠牲となった人達が乗り込んできて、銀河鉄道の正体が判明する。ジョバンニが銀河鉄道に乗れたのは、疲れた彼の心が死に近づいていたのと、親友の死を動因に、お互いを思う気持ちがスパークした結果だろう。カンパネルラは川に落ちた友人を助けるために犠牲となった。母が許してくれるだろうかと苦悩する。「誰だって本当にいいことをしたら幸せなんだね だからお母さんは許してくださるとおもう」◆旅でジョバンニは成長した。石炭袋という空の穴を見て言う。「もうあんな闇の中だってこわくない。ぼくたち一緒にいこうね」けれど親友は下車する。そこが本当の天上の入り口だから。空の穴は死の恐怖の象徴で、それを越えなければ本当の天国へはいけないことを彼は知っている。突如旅は終了する。現実に戻ったジョバンニは親友の死を知る。加えて父が無事で、間もなく戻ってくることも聞かされる。その果報を母へ早く届けたい、牛乳も飲ませたい、突然の親友の死、彼ははち切れんばかりの思いを胸に牛乳を抱え、ひたすら家に向かって走る。◆感動的なラストだ。全体的に間の取り方がうまい。前半、子供ならではの不安の演出が巧み。鳴りっぱなしの電話、終業ベルに驚いて活字を落とす、切符を落とす人、レジスターの音に振り向く、よぎる鴉の巨大な影、不気味に点滅する外灯など。映像美術、音楽はがんばっている方。◆不審なのは父親の態度。何か月も家族に便りもお金も寄越さないのに、友人(カンパネルラの父)には寄越す。原作の「みんなの幸いのために」という思想は省略されている。
[地上波(邦画)] 7点(2012-09-03 15:52:01)
282.  古都(1980) 《ネタバレ》 
戦後一貫して日本の美を追い求めた川端康成が、京都を描くために京都に住みついて原作を執筆した。違う環境で育ち、偶然出会った双子美人姉妹の物語。姉の千重子は捨て子にされたが、育て親に恵まれ、呉服問屋の令嬢として乳母日傘で育てられた。捨てられた理由は、貧困と「双子は育ちにくい」という迷信のため。苗子は実の両親の元で育ったが、幼い頃に二親とも逝去。苦労して育ち、今は北山杉の土地持ちの住み込み奉公と山仕事を兼業して暮らす。特筆すべきは苗子の驚嘆するほどの奥ゆかしさ、慎み深さだろう。自我を前に出さず、相手を思いやる心、謙遜の情にすぐれている。原作者の説く日本の美の体現者だ。両親が亡くなったのは、姉を捨てた神罰と信じ、両親が亡くなった後は、その罪はいつか自分に降りかかるものと覚悟している。姉に対して何も望まない。北山杉で会う場合も、村人の目を憚って山中で会うという気の使いよう。姉の家も訪ねる折も、わざわざ夜にする遠慮深さ。それを迎える姉の両親の気配りも良かった。呉服問屋で一緒に暮らさないかという申し出は断わる。贈られた帯も付けない。姉と同泊したのを今生最上の喜びと表現。優しさも兼ね備える。山で雨に降られた時は姉にかぶさり、寝る前には姉の布団を温めたる。別れるとき、姉の差し出した傘を受け取ったのは、形見替わりとしてだろう。姉を慮ってもう積極的に会う気はないのだ。典型的な相手に尽くす型の女だが、自分の生き方を貫く強い女でもある。一方千重子は素直に育ち、良妻賢母型で、両親のいう事に逆らわない生き方で満足している。両親の持ってきた結婚話も受諾する。運命を受け入れているだけのように見えるが、実は運命を切り拓いている。未来の夫の忠告に従って、家の商売の勉強を始めるのもその証左。捨子ながら幸福な家庭環境の下で育ったのも偶然ではないだろう。”紅殻格子の前に捨てられる”という運命を引き当てたのだ。巫女的な力を宿しているように思う。これは双子を演じた山口百恵が、恵まれない家庭環境に育ちながらも国民的スターになれたことと重なる。苗子は、彼女が「赤いシリーズ」で演じた”薄幸ながら力強く生きる少女”の分身だ。彼女の二面性を合わせ鏡のように見せてくれる映画のように思える。偶然の産物だろうが、彼女の引退作品としてはこの上ないものだったと思う。アイドルを越えた女神、山口百恵が”日本の美”として記録された。
[DVD(邦画)] 7点(2012-08-16 23:52:54)
283.  君の名は(1953) 《ネタバレ》 
大空襲の最中、偶然出会った男女(春樹と真知子)とが降る爆弾や燃え盛る炎の中を逃げ惑う。死の恐怖におののきながら、爆撃の合間に恥じらいながらも、ふと顔を見合わす二人。若い二人にとって命の炎は恋の炎だった。「生きていることがまるで夢のようだ 夕べの内に何万人という人が死んだかもしれないのに」春樹の感慨には実感が籠る。だから「今日の想い出に、もし生きていたら半年後に、名も知れぬままにこの場所で会おう」という仮構めいた約束にも現実味がある。これが恋の始まり。紆余曲折を経て、一年後に二人は再会を果たす。が、女はそのとき婚約していた。待望の再会の時が恋の終りという意外な展開。二人はお互いを忘れようとする。「忘却とは忘れ去ることなり 忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ」だが運命は二人を再び結びつける。真知子の夫が春樹の職場の上司となり、二人は再会。妻の愛情を疑った夫が妻に辛く当り、春樹を辞職させる。家を飛び出て春樹の元に走る真知子だが二人はすれ違い、彼女は故郷の佐渡に帰る。真知子の友人綾にけしかけられ佐渡に渡る春樹。橋の上で自殺しようとする真知子を助けて愛を告げる春樹だったが、真知子から妊娠の事実を告げられる。生まれ来る子供の為に再度別れを決意する二人。 ◆空襲の悲惨さに加え、売春婦、混血児、闇商売、密輸等、戦後の混乱期の世相を色濃く反映した内容で、単なるメロドラマで終わっていない。ここには不幸な女性が沢山でてくる。売春婦に身を落とす女、外人の子供を宿して自殺未遂する女、頑迷な夫に仕える妻、戦争未亡人。食べていくのがやっとの時代 誰もが生活第一で、純愛を貫くなどは夢物語。だから劇中、春樹の姉の悠起枝は真知子に夢を追うよりも眼前の結婚を選べと諭し、真知子も首肯した。 それでも人々は純愛を求めた。夢がない時代だからこそ、夢のある物語が待望された。おとぎ話のような純愛や夢ではなく、不幸な結婚生活や望まない妊娠等、実生活の生々しいものを乗り越えた末にたどり着く”真の幸福”、泥の中から蓮が芽を伸ばして、やがて花が咲くような”永くて淡い恋”が、当時の人の実感としてぴったり合っていたと推察する。形式上は不倫物語だが、そこには愛の再生、人間性の回復、ひいては日本の再生への思いが込められていただろう。これが大ヒットした理由と思う。時代を内包した映画といえる。見所は冒頭の美男美女の演じる”語らぬ愛”。
[DVD(字幕)] 7点(2012-08-15 17:11:01)
284.  ティンカー・ベル 《ネタバレ》 
今まで秘密のベールに隠されてきた妖精たちの誕生の様子や仕事ぶりが堪能できる。夢のある話で、家族向けのそつのない仕上がりという印象だが、大人目線で見るとアラも目につく。鑑賞後わが意を得たと気はしない妖精と風景のデザインは、かろうじて合格ライン。それなりに可愛いし、それなりに精緻で美しいレベル。残念なのは妖精たちの動きがぎくしゃくしているところ。顔の表情も「豊か」とはいえなず、手抜き感がある。 内容面で、不満という程ではないが、いくつかの疑問がある。 まず「走りアザミ」の正体がわからないこと。植物なのか、妖精の類なのか、妖精がいたずらしているのか。まあ、これは大した問題ではない。妖精の国の話だから。この「走りアザミ」の暴走で被害がでて、メインランドに春を届けるには数ヶ月も遅れるということだが、さほど被害が甚大とは見えなかった。 それから他の妖精は”妖精らしく”魔法を駆使しているのに、もの作り妖精達だけは手作業中心なのも気になった。tinkerは「鋳掛屋」なのでそうしたのだろうけど。人間の国から流れてきた忘れ物を改造して妖精の道具を作るのだが、出来たものは人間の使う道具に似すぎている。もっと妖精にふさわしい、夢のあるものにしてほしかった。道具作りが進化すると、妖精の谷「ピクシー・ホロウ」でも「モダン・タイムズ」のような事態になりはしないか心配になった。そもそも妖精は自らの喜びのために自然や人間のためにいろんなことをするのであって、労働やノルマとは無縁と思われる。「赤ん坊が初めて笑ったときに妖精が生まれる」ということなので、子供達に奉仕するのが喜びなのだろうか。妖精社会が遊びと自由の楽園ではなく、緩やかとはいえ労働社会・管理社会であっては子供達の夢もしぼみがちではなかろうか。子供たちが観たい妖精の姿は、自由気ままに飛び回り、遊び、いたずらする姿と思う。自分達のあこがれの投影として、妖精を観る。子供達が自由で気ままなのだから、妖精はそれ以上のものであってほしい。考えてみれば生まれてすぐ労働というのも過酷ではないか。 才能を決める儀式でせっかく得た石斧を使わないのは惜しい気がした。キーアイテムにできたのに。 妖精が鷹に追われことに対して疑念がわく。雛のときに飛ぶ手伝いをしてあげなかったの?それとも天敵?まさか。実際の天敵は上記のような理屈をごたごたこねる大人でしょうけどね。
[DVD(字幕)] 7点(2012-08-13 11:42:18)(笑:1票)
285.  タイタンの戦い(2010) 《ネタバレ》 
見所は兵士達と大暴れする怪物達との戦闘シーンであり、十分堪能できる。ただ動きが早すぎて目がついていけない場面が多いのは残念。緩急をつけるのがこつ。クリーチャーをじっくり観察できる静の部分は必要。メドゥーサとの戦いは合格点。蝙蝠怪物は飛び回りすぎ。◆ギリシア神話のペルセウス英雄譚が下敷き。神話にはないキャラが登場するが魅力に欠ける。怪物狩人の兄弟には期待したが、さほど活躍せず、途中リタイアして、最後で少し顔出し。もったいない。カリボスは説明不足。ペルセウスとその母を入れた棺桶を海に投げ入れたアクリシス王の落魄した成れの果で、ハデスにより力を得て復活するが、敵として弱すぎた。精霊ジンは、木炭の身体を持つ砂漠の魔術師らしいが、メドゥーサとの戦いで自爆して死ぬ?最終怪物クローケーンは中世の海の怪物。タコの形で描かれる。さほど大暴れしなかった。◆鑑賞後さほど痛快さが残らない原因。まず役者が役に合っていない。ペルセウスは半人半神で17歳くらいなのに、ごつい顔の五分狩り中年男が演じる違和感。半神としての品格がなく、兵士達と区別できないほど没個性。アンドロメダは絶世の美少女が演じるべき。神話では、母により神に勝る美貌と讃えられたのが奇禍の原因となるのだから。ペルセウスとの恋愛もないのは期待外れ。守護者イオも容姿凡庸で品格不足。◆次に兵士達の仲が良くないのが難点。儀仗兵と老兵ばかりとなじり、イオは邪魔者扱い、ペルセウスをも冷笑する。ペルセウスも独りよがりな行動が多い。「人間として戦うのが信念」と主張し、神の力を否定。観客は彼の人間性よりも英雄としての神性を期待しているのに。最終的には神の力を借りるので、信念が問われそうだ。異種混合、一致団結して神との闘いに向かう姿勢がないと、観客はついてこない。神相手なのに緊張感が足りない。三つ目にゼウスの優柔不断と自家撞着ぶり。人間への最後通牒の使者としてハデスを派遣し、最終怪物クローケーンを放ったのに、陰でペルセウスの味方をしている。そもそも人間の愛と尊敬が天上の神々の糧となり、人間の恐怖と苦痛がハデスの糧となる。つまり利害が一致しないのだから意見が一致するわけがない。それに人間の怒りを買ったのはゼウスの無慈悲さによるもの。煮え切らない神々に観客も混迷。あとペガサスは神話どおり、メドゥーサの首が飛んだときの血から生まれる白馬でよかったのでは?
[DVD(字幕)] 7点(2012-08-13 03:05:23)
286.  上海から来た女 《ネタバレ》 
この映画にはロマンスが必要。純朴な青年が美貌の婦人エルザと恋に陥り、知らぬ間に犯罪に巻き込まれるのだが、恋の行方が進行の核となる。が、青年の容貌はロマンス向きではなく、過去に殺人の経験がある設定では、ロマンスパートは台無し。前半はこのせいで退屈。青年が婦人の夫バクスターの友人グリスビーから偽装殺人を持ちかけられてから、俄然面白みを増す。グリスビーは取得した保険金で別人になって暮らすという。婦人との逃避行の費用を必要としてした青年は受諾。そこへブルームが介入。この人は名目は執事だが、実はエルザの監視役。ブルームはグリスビーの姦計を見抜いていた。グリスビーはエルザに横恋慕しており、偽装殺人の目的はバクスター殺しの為のアリバイ作りだと喝破、口止め料を要求。グリズビーは後先考えず発砲。グリズビーはこのことを青年には内緒にし、偽装殺人を決行。その後バクスター殺しに出かけたと思われるが、死体で見つかる。青年はブルームとグリズリ―殺しの容疑で逮捕される。ここで疑問。青年はグリスビー死亡直後にも拘らず殺人告白書を持っている。これは偽装殺人計画があった証拠。ビーチで目撃されてから移動しているので、アリバイもある。ブルームは即死ではなく、自ら緊急通報している事から、このときに犯人の事も話した筈。拳銃も二つの殺人では別で、犯人は別人。このあたりから脚本が怪しくなる。法廷シーンではユーモア、笑いを誘う演出で、緊迫場面に水を差す。有罪を覚悟した青年は睡眠薬を飲んで騒ぎを起し、かろうじて脱出。逃げ込んだ先は何故かチャイナタウンの劇場。追ってきたエルザが隣に座ると、青年はハンドバックから銃を取出し、「動くと撃つ。これがグリズビー殺しの銃だ」と唐突に凄む。が、その根拠は不明。青年は意識を失い、エルザの手下が拘引。気がつくと遊園地のクレージハウスの中で自由な状態で寝ていた。出口を探すうちにエルザと遭遇、エルザは「ブルームを殺したグリズリーが信用できないので殺した」と告白。また疑問。予定通りグリズリ―にバクスターを殺させた方が都合が良いのでは?そこへ不思議にバクスター登場。「保険のため、真相を書いた手紙を判事に預けてある」と諭すにも拘らず、エルザは発砲。バクスターも応戦し、結果両者相撃ち。俯瞰・仰瞰ショット、影や背景で語らせる演出、有名な水族館、鏡の間等の場面は一流。でも脚本が悪いとそれらが活きない。
[DVD(字幕)] 7点(2012-08-11 18:26:55)
287.  パンズ・ラビリンス 《ネタバレ》 
いきなり流血する少女のアップで始まり、テープが逆回転。全編、観客にショックを与えようという意図に満ちる。”意欲的”な作品で好感は持てるが、グロ・痛いシーンが多いのには辟易。大尉の父は将軍で、亡くなるとき懐中時計を壊して息子に”死の時刻”を遺す。大尉は父に憧れて軍人になった。懐中時計の逸話を無い事にするのは他人に弱い部分を見せたくないから。息子に対する執着は異様。臨月の妻に長旅させて自分の元で産ます、出産前から男の子と決めてかかる、医者には万が一の時には赤ん坊の命を優先せよと厳命。軍人の血統を継承させたい宿願があり、死期が近いのを本能で察している。洞察力に優れ、敵に対して情け容赦無い。完璧な軍人になりきろうとするあまり、彼にとって現実はファンタジーでしかない。大尉には現実がファンタジー、少女にはファンタジーが現実。両者は全く違うように見えるが、合わせ鏡のような関係。不幸の国にあるという摘んだ人に永遠の命を授ける奇跡の薔薇は、毒棘があるせいで誰にも摘まれない。少女が胎内の弟に語り聞かせる寓話だが、これには弟に摘み取ってもらいたいという願いが込められている。少女も自分の死を察している。ラストで、現実主義の大尉は閉じた迷宮の扉を難なく突破できたが、その先には死が待っていた。少女は死んで無垢の血を流すことで、魂が魔法の国に帰還できた。両者は常に対比して描かれる。全てを少女の幻想と決めつける事はできない。父を亡くし、継父とはそりが合わないが、母には愛され、経済的に恵まれ、戦争の悲惨さは知らない。彼女の幻想は戦闘の前から始まっている。現実逃避するほどのトラウマがない。泥で汚れた服、魔法の根っこ、チョークは実在するし、病気の母親は医者が首を傾げる程回復したし、チョークドア無しでどうやって壁を破り赤ん坊を横奪できたのか。それに現実逃避の幻想なら甘美で自分に都合のよいものと決まっている。魂の開放のためには死のイニシエーション=継父の銃弾が必要だったとの解釈も可能だろう。この場合継父はユダで、キリストの復活には不可欠の存在。どこまで現実か、ファンタジーか。作り手のそのあたりの匙加減、曖昧さ加減は絶妙。彼女がこの世に残したという”印し”を見つけたいものです。葡萄を食べたのは、まだこの世に残りたいという未練があったから。母が死んで未練は消えた。「手目坊主」そっくりお化けが出てきてびっくり。
[DVD(字幕)] 7点(2012-08-10 12:35:23)
288.  八つ墓村(1977) 《ネタバレ》 
なかなかの力作で観る価値はある。 事件の因縁の発端となる戦国時代の落武者謀殺の陰惨な場面、32人殺しの狂気の殺戮場面、犯人が洞窟で辰弥を追いかける心胆を寒からしめる場面等、映像的に凝った場面が累加され、感動的な音楽と相まって大作感さえ醸し出す。400年前の落武者伝説と28年前の大量殺人事件と現代の連続殺人事件を巧みに融合させて提示する手法は敬服に値する。しかし脚本の方向性に瑕瑾がある。名探偵もののミステリー範疇の筈なのにホラーに転化してしまっている。結局、犯人は洞窟内で土砂崩れによる圧死、空いた穴から蝙蝠の群が飛び出て旧家を襲い、蠟燭の火による出火で最後まで生き残った老婆が焼死、こうして落武者の復讐が完結、犯人は落武者の子孫だったというオチ。これでは推理の入る余地が無い。謎解きが終わってもすっきりしない。いくつかの疑問が残るのだ。 ①洞窟で犯人に遭遇した二人の老婆のうち一人は絞殺されたが、どうして一人は無事に帰って来れたのか。老婆の死体はどうして遠くにあったのか。死体は鎧武者の近くにある筈。 ②金田一は洞窟内で辰弥と遇い、二つの殺害死体を発見し、自分だけ戻った。その後どうして警察と一緒に引き返して遺体を回収、辰弥を保護しなかったのか。この時点で金田一は犯人が誰かを知っていた。なのに犯人を確保しないのみならず、犯人に辰弥の世話まで依頼する。どうして? ③洞窟の「龍のあぎと」で辰弥と犯人は結ばれる。真の闇の中、しかも辰弥は村人に命を狙われているという緊急時にそれはあり得ないと思う。そこは自分の出生の場所、母とのつながりのある場所である。 ④辰弥の義姉春代は洞窟内で殺される。虫の息で「村人に追われて夢中で洞窟に入り」と説明するが、春代が村人に追われる理由はないし、そのような場面もない。 ⑤久野医師はどうして洞窟内で殺されたのか説明されない。そもそも久野医師が犯人というミスリードが不十分。 ⑥金田一は辰弥に実父の事を偽って報告した。実父は成功した実業者で東京に健在。偽る理由が無い。 ⑦犯行動機は単純な財産横領。そのためには本家一家5人殺害、次に財産を得る久野家殺害の必要がある。犯人に本家を憎む基因が無い限り動機として不十分。それが落武者の怨念と言いたいのだろうが、納得はしかねる。
[地上波(邦画)] 7点(2012-08-07 01:39:23)
289.  穴(1960) 《ネタバレ》 
物語は単純。5人の囚人が脱獄の穴を掘り続けるというもの。メインの脱獄方法こそ鉄棒でコンクリートを穿つという力技だが、棒の先に鏡をつけた覗き鏡、薬瓶を合わせた砂時計、組立て作業の箱の残りを使った人形、肩車で狭い柱の陰に隠れて監視の目を逃れる、マッチ棒を挟んで切断した鉄棒を元に戻しておく等、リアリティのあるアイデアに引き込まれる。差し入れ品を細かく検査する場面を見せることで厳しく監視された監獄であることを示すなど演出の妙がある。脱獄を”魅せる”という点では申し分のない出来。心理劇としてはどうか。古参の4人は一枚岩。そこへ未決囚の新人が入ってくる。信じて打ち明けるか、延期するか。信用できると踏んで打ち明けるが、疑心暗鬼の状態は続く。このあたりの描写はあっさり。4人の過去が語られず、緊急切実した事情があるわけでもないので、心理劇としては薄味。ただ4人の個性はきちんと描かれる。後半になると変化が現れる。古参の一人が脱獄しないと言い出す。理由は重篤の母親がおり、自分が脱獄すると警察に事情聴取され、動揺して鬼籍に入るかもしれないから。以前には思い至らなかった事が、脱獄がいよいよ現実味を帯びた時点で思い至り、よくよく考えた末の結論。リアリズムがある。男は落盤に遭いながらも自分の担当分の仕事はきちんと果たす。脱獄幇助罪で罰を受けるのも覚悟の上だ。最も男気を見せる人物だが、男は普段エロいことばかり話題にする人物として描かれ、感情移入しにくいきらいがある。新人の立場はどうか。普通、未決囚は脱獄はしない。容疑も妻への予謀殺人未遂罪で、殺人ではない。それでも重罰が下ると予見して脱獄参加を決意するが、そこへ妻が告訴を取り下げるという意外な展開。あとは釈放に判事の署名を待つだけだが、同房の連中が脱獄してしまうと、脱獄幇助の罪がかかる。仲間を売るか、自由を不意にするかのジレンマに陥る。新人はかつて脱獄を「実に胸のすく思いだよ」と洩らしていた。だから観客は新人が裏切るとは思っていない。そこへ意表をつく結末。そこで「穴」というタイトルには二重の意味があったことが分る。「脱獄の穴」と「落とし穴」。また所長が妙に優しくする場面がいくつか出てきた理由も氷解する。物語としては巧みだが、人間劇として物足りなさが残る。新人や4人の苦悩がさほど伝わらないからだ。余談だが、あんな音を立てれば隣が絶対気づくと思う。
[DVD(字幕)] 7点(2012-07-18 06:46:34)(良:1票)
290.  望郷(1937) 《ネタバレ》 
ペペはギャングの親玉。銀行強盗稼業で荒稼ぎ、殺した刑事は五人。フランス警察の手を逃れ、仏領アルジェリアのカスバに逃げこんでいる。カスバは建物が迷宮のように複雑に入り組み、各家のテラスがつながっていて、どこからでも逃げれる。男気があり、人情に厚いペペは手下からは崇拝され、住民にも人気がある。カスバはペペを守ってくれる一方で、暑くて、汚くて、混雑して、無秩序で、熱病のように人の心を蝕む。牢獄のような場所から逃れる事の出来ないペペの心は病んでおり、望郷の念に堪えきれなくなっている。そこへ現れたのが金持ちの愛人ギャビー。巴里流行の服をまとい、宝石をきらめかせ、色香ふんぷんで、聞けばペペと同郷、ペペの恋焦がれる総てがあった。彼は恋に落ち、ギャビーも彼にぞっこん。だが運命は二人に辛く当る。刑事の策略、部下の裏切り、情婦のタレこみ云々で、ギャビーを追って乗り込んだ船で、ペペは待ち構えていた刑事達に逮捕される。温情で見送りを許されるが、「ギャビー」と叫ぶ声を汽笛が消す。心憎い演出です。自由、恋、故郷、総てを失ったペペは自死する。「望郷」という和題が卓越。彼は望郷という病に憑りつかれていた。いつ来るかもしれぬ刑事のガサ入れ、警察との撃ち合い、仲間の裏切り、手下の死、包囲網下でカスバを出れない不自由さ、酷い暑さ、嫉妬する情婦など、心が休まるときが無い。これらが寄せては返す波となり、彼を望郷の念に駆りたてる。「若いころの自分を、古い写真を鏡と思って見つめるの」と言って古いレコードをかける元歌手の年増。ペペがカスバを降りる時のりゅうと着こなした服装と靴、背景の心象風景に映る故郷へ続く海など、実に抒情的だ。ペペの心とカスバの町(迷宮の象徴)が常にオーバーラップする。ペペは情婦イネスに飽きて、彼女をないがしろに扱っていた。イネスはペペを愛していたが、結果的に彼女の嫉妬心がペペの命を奪うことになる。ペペにとってのファムファタールはギャビーではなく、イネスだったのかもしれない。運命の女神は気まぐれだ。ペペが故郷に恋焦がれていたのは良い想い出があったからだろう。ペペの過去、がどうして悪の道に足を踏み入れるようになったのかが描かれていれば、より感情移入できただろう。現代の価値観でいえば、ペペは社会の屑にすぎない。それにしても、スリマン刑事はペペに毎日会っているのに逮捕しないのはよくわからないですね。
[DVD(字幕)] 7点(2012-07-10 18:08:19)
291.  テルマ&ルイーズ 《ネタバレ》 
日頃抑圧されている二人が気分転換の旅に出るが、予期せぬ展開で犯罪に巻き込まれ、逃亡犯となり、とまどいつつも、ふっきれて自由さを感じ、自分らしさを取り戻してゆく。意外な展開と衝撃のラストが見どころ。狙いは明快だが、脚本の甘さが目に立つ。①あんな明るい駐車場でレイプするか?女も声を出して人を呼べばよい。②銃は撃ったことがない二人なのに、あんなにうまい。テレビで覚えた?意味不明。③ルイーズ(L)は過去に強姦されたトラウマを持つ。これが衝動射殺の遠因だが、強姦を思い出したくない為にテキサスを通りたくないは理解しがたい。緊急時なのだから。④(L)の恋人は、(L)に金を送ってくれと頼まれると、強い不審を覚えながらも、金を持参して現地に飛び、直接お金を渡し、さらにプロポーズの指輪も渡す。この行動が奇異。長年付き合っている恋人を旅行中に押し掛けてプロポーズするか?相手の様子がおかしいときに。しかも男はこれ以降出番がない。⑤(L)の強姦のトラウマが直接描かれない。(L)は物事をきっちりすませる性質の独立した働く女。恋人もいるが、結婚に踏み切れないのはトラウマのせいだろう。男性に対する不信感が強い。そこを正面きって描いていないので、彼女が男性を支配したときの開放感が薄い。⑥テルマ(T)はヒッチハイカーと懇ろになり一晩過ごすが、そこに至るまでがまどろっこしい。中ダルミでだ。男が金を盗み、それが(T)の拳銃強盗の契機となるので、男の役割は大きい。だが男はすぐに捕まり、刑事が二人の関係をいとも簡単に見抜く。このあたりは安直。⑦(T)の夫のまぬけっぷりが目立ちすぎる。(T)がこの男に抑圧されているから物語が成立するのである。もっと自己中心的で女を自分の支配下に置くようなキャラであるべき。⑧最後に刑事は叫ぶ。「よく考えてやれ!痛みつけられっぱなしの女なんだぞ」これは神(観客)目線に立った発言である。だが、刑事に二人の女の何が分るというのか?通り一遍の調査しかしてないではないか。◆二人の犯罪行動の動機の背景には男性に対する復讐がある。男性社会の鳥籠の中で暮らしてきたので、それは理解できる。だがその方法は全て銃に頼ったもの。銃一つで男女の力の差が逆転するだけ。犯罪にせよ、逃亡にせよ、女性らしい知恵や勇気、優しさで行動してほしかった。飛び降りは論外。笑いのツボは黒人がトランクの警察官に煙草の煙を吐くところ。
[DVD(字幕)] 7点(2012-07-09 21:11:56)
292.  2010年 《ネタバレ》 
冒頭フロイド博士とソ連関係者が、大型レーダーの並ぶ場所で内談するのが心象に残る。ここで米ソ冷戦を暗示し、伏線となり、最後の紛争和解場面につながる。うまい手法と思うが、原作に無い冷戦紛争を持ってきて成功しているか疑問。主題はあくまで、人知を超えた”何者か”による新生命の誕生と操作の筈。冷戦が終わって、めでたしという結末はいささか筋違い。実際の歴史で冷戦が終結し、SFとしての風化が早まる結果となった。◆女性飛行士がフロイド博士にしがみついたり、一人が過呼吸に陥ったり、あるいは腐った匂いでパニックになったりと、実に写実的だが、この映画には不要と思う。壮大な主題にふさわしい神秘的演出が望ましい。ひたすら理知的、科学的に葉緑素の発見やモノリスという謎に迫るハードSFがベター。知的好奇心こそが人類の進歩の源なのだから。◆モノリス探査船が放電現象で吹き飛ばされ遭難するのは原作には無い。モノリスが拒絶したか、モノリスと一体化したボーマンのエネルギー体が地球に向かったのに遭遇したという解釈が可能だ。いずれにせよ、ボーマンがこの事故について釈明しないのはおかしい。彼はクルーの命を尊重し、土星から離れろと何度も警告しているのだから。◆最大の緊迫場面は、チャンドラー博士のHAL9への説得。前作を観た人なら、はらはらすること請け合いだ。説得にぎりぎりまで時間を要し、辛くも脱出に成功するが、博士がHALを一人の人格として扱い、真実を語った結果だ。コンピュータと人間間の友情であり、HALの犠牲的精神ともとれる。「コンピュータの反乱」という副主題に対する答えだ。博士は、SAL9000に「私は夢を見るか」と尋ねられ「見るとも、知的生物はみな見る」と答えている。しかし同じ質問をHALに問われ「わからない」と答える。実はこれが最大の謎だった。夢を見るに決まっているではないか。推察するにHALの質問は死を意識したもの。だから博士はとまどってしまったのだろう。死に行く人に安易な言葉はかけられない。◆未来のエウロパ。植物が生い茂り、生物が繁栄する。聳え立つモノリスが映る。知的生命としての進化を待つ。やがてここから新たな宇宙の旅が始まるだろう。宇宙の旅は、生命を継ぐ旅だ。◆蛇足だが、新太陽出現の熱量で地球温暖化が進まないか心配。そのあたりはきちんと調整してくれているんですよね、ミスター、モノリス。ところで、モノリスの見る夢ってどんな夢?
[DVD(字幕)] 7点(2012-07-09 03:37:20)
293.  深く静かに潜航せよ 《ネタバレ》 
潜水艦の復讐もの。リチャードソン中佐は駆逐艦「秋風」に沈められた経験があり、復讐に情熱を燃やす。そして豊後水道に近づくなという命令を無視して「秋風」との対決をめざす。彼の戦術はこうだ。先ず駆逐艦の前を行く船団を魚雷攻撃し、駆逐艦がこちらへ向かってくるのを待つ。そこへ正面から直進し、距離が1500になったところで潜航、即座に船首を狙って魚雷発進するというもの。魚雷が当らなければ餌食となる、いわば捨て身の作戦。一度目の対決では魚雷が出ずに失敗。撃沈偽装工作でなんとか難を逃れた。二度目の対決では勝利するが、すぐに敵潜水艦に攻撃される。「秋風」と敵潜水艦はコンビで行動していたのだ。平底船の陰に隠れようとする敵潜水艦を狙って魚雷発進、平底船をスルーして見事に撃沈。巧みな戦術を駆使したバトルは見る者を飽きさせない。 ◆艦長と副艦長の相克も注目。つねに反目しあっていた二人だったが、最後に副艦長は状況を把握、艦長と同じ目的に達する。このあたりの人間ドラマが秀逸だ。傷ついたリチャードソン中佐は死亡。勝利はしたものの戦争の悲惨さを描くのを忘れてはいない。 ◆忘れているのは日本に対するリスペクトだろう。日本人の描写はわずかなもので、演技や日本語もお粗末そのもの。敵をリスペクトすることで、一層味方に感情移入して盛り上がるのを知らないのだろうか。 ◆リチャードソン中佐はスマートすぎて海の男に見えないきらいがある。をもっと常識をはずれた人物、例えば「白鯨」の船長とか、ジョーズの船長のような荒くれ者に描けばもっと良くなっただろう。そうすれば副艦長との対決も高揚するし、死の場面でも余韻を残すことになったと思う。 
[DVD(字幕)] 7点(2012-03-03 21:02:59)
294.  不毛地帯 《ネタバレ》 
・元陸軍参謀の壱岐が主人公。終戦時の満州、負傷した川又を自分の代わりに飛行機に乗せて救ったが、その代償として11年間もシベリアに抑留。川又はその間壱岐の家族の面倒を見た。壱岐は軍に係りを持たないという条件で商社に入社するが、自衛隊に川又がいて、次期戦闘機決定に関わっていること、また機種選定が政治家の利権のみで決定されている事に義憤を感じ、自ら権謀術数の世界に飛び込んでいく。 ・陸軍時代の人脈と賄賂を駆使した政治家の取り込み、ライバル商社の賄賂を外為法違反の疑いで大蔵省に検査させる、賄賂で防衛庁からライバル商社の見積りを入手、戦闘機墜落事故の記事を新聞社に餌(土地)をチラつかせ封じる、大統領極秘親書をもった飛行機会社社長の総理大臣訪問等、汚いことのオンパレード。この辺りの終始緊張感のある応酬が、最大の見せどころ。 ・結局希望通りに機種は選定されるが、防衛庁への工作がバレ、関係者が逮捕される。警察の取調に対して壱岐は白を切るが、会社は政治家と密約して証拠を提出、逮捕社員と川又を切り捨てる。シロだが責任を押しつけられた形の川又は諸事情を考慮し、鉄道自殺。壱岐には虚しさだけが残った。 ・戦争責任者としての天皇をかばう場面と会社をかばう場面とがオーバーラップ。前半の冗長とも思える回想場面が活きて、構成としてうまいと思った。 ・壱岐の娘に、「戦争なんていや。戦闘機なんて誰も欲しがっていない。新安保条約反対運動に対して行った政府の弾圧は許せない。お父さんは軍に関係することはしないと言っていたのに、もっと汚いことをしている」といわせ、壱岐の良心をゆさぶる。壱岐には義憤と友情から出た行動であっても、娘には理解できない。 ・疑問がある。川又が自殺(表向きは事故死)したことで、警察の追及が防衛庁に及ばず済んだという設定だが、そう簡単にはいかないだろう。まず自宅と反対方向の轢死で、自殺と推量される可能性が高い。秘密漏えいがあったことは事実で、本人も自白、証拠書類も挙がっている。マスコミや国民が黙っている筈がない。誰もが納得できない中途半端な終り方だ。壱岐も商社も落ちるところまで落ちなければカタルシスは得られない。もっともこれは原作の途中までの作品なので仕方がないという事情は承知しているが。作品としては弱い。 
[DVD(邦画)] 7点(2012-03-02 16:15:55)
295.  メトロポリス(1926) 《ネタバレ》 
短縮版なので不明な点が多い。天才博士は実験の失敗が原因か、片腕が義手。人間のような姿で、人間のように働くロボットの制作をめざしているようだ。自らの保守のためには殺人も厭わない性格。一種のマッド・サイエンティストだ。資金は支配者から出ているのだろうか。支配者が博士に労働者弾圧の口実をつくるためマリアに似せたアンドロイドを使って労働者を扇動するように依頼する。資料によれば支配者と博士は元恋敵だそうだ。博士は依頼を受けながら、支配者への恋の恨みからか、アンドロイドに労働者を扇動して機械を破壊するように命じる。単純な労働者達は機械を壊し、自らの地下都市を水没させる。子供達が死んだことを知って怒りに駆り立てられた労働者達はマリアを火刑にする。火刑に処せられたマリアはその正体を現す。死んだと思った子供達は支配者の息子とマリアに助けられていた。息子を仲介として支配者と労働者代表が握手をする。◆脚本は単純で見るべきところはない。冷静に考えてみれば、支配者は労働者達に危険思想を吹き込むマリアを拘束すればよかっただけの話。それなのに解決を博士に委ね、博士が暴走した結果、雨降って地固まるという帰結に至った次第。もしこの映画に斬新なデザインのアンドロイドが登場しなければ、忘れられた存在になっていた可能性がある。あの美しいアンドロイドの造詣があればこそ、都市デザインや機械デザインも生きてくるというもの。ところで労働者達の仕事内容がよくわからないですね。ランプの灯ったところに大きな針を動かすことに何の意味があるのか?他の人も機械の前に立ってうろうろしているだけの軽作業。自動管理、自動運転という観念がなかったのでしょう。アンドロイド以外は先見の明が無く、SFとしては失格です。ともかくも労働者達は疲れ切っている。共産主義的考えでいえば、支配者に搾取されているわけです。マリアは預言者。仲介者は息子。ところで息子の仲介の動機は、労働者達に同情したというより、マリアに恋したことが大きかったように見受けられます。階級闘争も恋の力で解決というマルクスもびっくりのオチ。白眉のアンドロイドが数分しか登場しないのが惜しい。大衆から逃げ回り捕まる姿は惨め。◆あと見所はアンドロイドが踊って人間達を魅了する場面、大勢のエクストラを用いた場面でしょうか。洪水の場面は迫力がなく、不出来です。
[地上波(字幕)] 7点(2011-10-28 12:18:11)
296.  御用金 《ネタバレ》 
武士の世界の不条理を描いた作品。藩の財政難を救うために、佐渡の金を運ぶ幕府の船を沈め、その金を横領するという策謀。そのために目撃者である集落の漁民を全員抹殺し、「神隠し」と呼ばれる。孫兵衛はそんな侍暮らしに嫌気がさして脱藩したが、三年後江戸で藩の刺客に狙われる。問いただせば再び「神隠し」を行うという。孫兵衛はこれを阻止するために帰郷する。途上で神隠しに遭った漁民の娘おりはに遇う。きな臭さを嗅ぎつけた隠密もついてくる。奇縁で結ばれた孫兵衛、おりは、隠密の三人で船の遭難を回避。巨悪の根源である老中も倒す。◆随所で監督の映像美が堪能できる。構図、背景、殺陣が美しい上に、俳優陣に個性があり、重厚感ある時代劇に仕上がっている。また人間が能く描けている。特に村娘から転落して、鉄火肌の賭博師となり、孫兵衛を助け、助けられ、密かに孫兵衛を慕うおりはという役どころは秀逸。特に神隠しに遭った漁村に帰って、それを発見して絶望する場面は実に丁寧で好感が持てる。孫兵衛にしても決して正義感が強く無垢な男ではなく、意図しなかったとはいえ、自分に立ち向かってきた漁民を殺している。この挿話により彼の人間としての苦悩が描けている。そしていつまでも自分を慕ってくれている愛妻との再会。これならクールな彼にも感情移入できようというものだ。◆一方で脚本構成は荒っぽい。財政難を救うためというが、その実態が描けていない。どれほど困っているのか不明なので、「神隠し」は短絡的な強奪・殺戮にしか思えない。又船を遭難させる方策だが、そう簡単にいかないと思う。そもそも都合よく夜に岬を通過するとは限らない。満月だったらどうする?沖で沈没したら金の回収はどうするのか?などと疑問点が湧く。老中の手下に囲まれた孫兵衛をおりはが救う場面もしかり。町のやくざを敵対するやくざがそこにいるとけしかけて、侍とヤクザを闘争させるが、やくざと侍の区別は容易につく筈だ。そして隠密の扱い。最後にあっさり、もう隠密はやめるというオチはしっくりこない。この人の苦悩が伝わってこない。もうひと波乱あってしかるべだ。この人物だけ妙に明るくて、浮いている。。三船敏郎と仲代達也がケンカして三船が降板、急きょ代役として三日間だけ出演という背景がそうさせたのだろう。残念である。ちなみに御用金は出雲崎で荷揚げされ、北国街道で江戸に運ばれた。
[インターネット(字幕)] 7点(2011-10-25 15:19:58)(良:1票)
297.  陽炎座 《ネタバレ》 
男に弄ばれた女の魂の怨念をこの世とあの世、現実と幻想、生と死が表裏一体、万華鏡のように入り混じる世界として描く。◆品子は老婆から死女の魂入りの鬼灯を買う。山崎は縁あってそれを引取る。二人は死者が見えるようになり、二人に絆が生じる。品子の亭主玉脇は遊びの限りを尽し、生きる興味を半ば失い、いつ魂を抜かれても不思議でない状態。妻に飽きた玉脇は妻と山崎に心中させようと企む。二人は、男女の契りを結ぶ。◆松崎は品子そっくりの女イネに会う。玉脇の前妻でドイツ人。髪と眼の色を変え、和装して夫の好みに合わせる。玉脇にとってイネは月光で変化する姿を愛でる人形でしかなかった。松崎が会ったとき、イネは既に死んでいた。◆品子から恋文を貰った松崎は金沢へ向かう。舟に乗る品子とイネを目撃。玉脇は二人を心中させようとするが山崎の拒否に会い失敗。山崎は和田という男に不思議な人形を見せられ、人形の裏に死後の世界があることを知る。◆品子とイネは不思議な友情で結ばれ、表裏一体の関係。品子の恋にイネは嫉妬し、山崎に迫る。恋文を送ったのはイネ。玉脇から幻扱いしかされず、山崎と情交し、もう一度生きてみたいと願う。死者と交わった山崎はあの世へ近づく。◆山崎は陽炎座という芝居小屋に入る。玉脇も品子もいる。そこの狂言方(脚本家)は魂入りの鬼灯で、魂の半生を役者に演じさせていた。イネの魂が現れ、苦悩と怨念の半生を演じる。玉脇は堪らず鉄砲を撃って退席するが、その鉄砲にはイネの灯籠が付いていた。芝居は続き、イネは生き返った。品子は芝居の先が知りたくなったが、今度は品子が演ずる番だという。品子は夫への復讐心から不義をしたと告白。死んで決着つけると言う。愛憎の一念が小屋を崩壊させ、品子は棺桶で怨念の鬼灯を吐き出す。その頃現実の世界で玉脇と品子は心中した。夢の世界が現世を変えた。「うたたねに恋しき人を見てしより夢てふものは頼みそめてき」は復讐の和歌だった。精神崩壊した山崎は万華鏡の先に死後の世界の自分と品子の姿を見る。ドッペルゲンガーを見た山崎は死期が近いことを悟る。◆鬼灯を売る老婆、品子の髪を掴む老婆、芝居小屋の老婆が脚本家であり、現実世界での脚本家でもあった。○△□は現世で表現不能なあの世文字。品子が帳面に書き、人形の中の女が男の背中に描き、万華鏡の中の品子が山崎の背に描き、山崎の最後の言葉。美しいが残虐絵が不快だった。
[ビデオ(邦画)] 7点(2011-09-28 17:24:01)
298.  宇宙戦争(2005) 《ネタバレ》 
違和感が強い。人類と宇宙人との戦争を描いたSF娯楽大作の筈が、離婚別居中の父子が破綻しかけた親子愛を取り戻すシリアスドラマになっていて取り合わせが悪い。路線は斬新だが娯楽性は薄れる。肝心の人間ドラマが薄っぺら。父は子供たちに関心がなく高圧的だが、彼なりに愛情はある。泊りに来る子供達に食料も用意していないが、仕事は断った。息子は反抗期で、娘とは心が通じない。そこへ宇宙人襲来。父が命がけで自分達を守る姿を見て、子供達が心を開く。その企図は分るが、息子は心を開きかけたが、勝手に戦場へ行ってしまう。娘は恐怖に震えるのみ。ラストでも娘は母と抱き合う。息子と再会しても、彼がどう過ごしたか不明なので感動に至らない。父子関係に大きな変化がなく、感情移入ができず、何とか助かって欲しいとは思えない。宇宙人が劇的に倒れたのと同様に人間ドラマも劇的な変化が欲しい。父が娘のために人殺しするのは本末転倒。◆トライポットの攻撃シーンは迫力あり。地割れや火だるま電車シーンは秀逸。軍との戦闘場面がほとんどないのは残念。空を飛んだり、宇宙船がいないのも不本意。空襲による圧倒的な軍事力を見せれば、人類の絶望感が表現できたのに。1家族の視点で描く弊害だ。大統領も軍司令部も学者も登場せず、群像劇もない。地球規模の戦闘が局地に留まっている。その象徴が、家族が潜む地下室に宇宙人が侵入するシーン。田舎の廃屋に侵入して何の情報を得ようとするのか。宇宙服もなし、武器も持たずに。◆遥か昔からテトラポットで地球を観察していたという設定は不用。何のために何万年も待つのかという解けない疑問を抱かせるだけ。最初は光線で人を蒸発させていたが、後半では人を捕捉、集血。一貫性がない。赤い植物は宇宙人の繁栄に必要なもの(テラフォーミング?)なのだろうが、地球環境で生息できるかの実験を怠っていた。◆有名なオチは変更のしようがない。だから視点を変えて家族愛を描いた。だがもっと説明のしようがあるだろう。宇宙人をおばかさんにしたのでは台無しである。映画を否定するようなもの。宇宙人なりに高度な対策を練ってきたが、地球の細菌やウイルスには彼らの科学を越えた神秘の性質があり、それに破れたという風な後づけが欲しい。あっけないのが悪いのではなく、説明がないのが悪い。ちなみに父がクレーンを操縦する姿はトライポットを操縦する宇宙人に擬していて興味深い。
[DVD(吹替)] 7点(2011-09-25 20:19:08)(良:1票)
299.  戦争と平和(1956) 《ネタバレ》 
「貴族の恋愛」と「戦争」を描く長編。貴族の生活はパーティ、乱痴気騒ぎ、遊びの恋、オペラ、舞踏会、田舎の別荘、狩などで光陰が過ぎる。そこへ戦争勃発、国家存亡の危機である。ピエール(P)伯爵は非摘出子という出生の影響か、気真面目な一方で、虚無的な一面がある。正しいことをしようと思っても、放蕩をしてしまう。戦争や暴力を憎んでいたが、決闘する。矛盾だらけだ。Pは愛されていないと思っていた父と臨終に和解。家を継ぎ、美女エレン(E)と結婚。性格が合わず、別居となり、Eは浮名を流す。PはEを愛していると思っていたが、そうではなかった。彼の信念はぐらつく。Pは戦争の実際を知りたいと思い戦場へ赴く。目の前で繰り広げられる殺戮。負傷兵を救護所に運ぶも既に息絶えていた。戦場の悲惨さを実感して侵略者ナポレオンを憎悪。仏軍はモスクワに進行、露軍と民衆は撤退、放火により首都は燃え上る。Pは首都に留まり、ナポレオン暗殺の機会を待つ。その機会が訪れたが、ナポレオンが火事鎮火を命じる声を聞いて留まる。殺したいほど憎む人間に思えなくなったのだ。彼は捕虜となる。十代の若者が処刑されるのを見る。冬が訪れ仏軍は撤退、捕虜も連行される。歩けなくなれば射殺される雪中行軍。仲良くなった楽天家の農民は途中で落伍。露軍の攻撃で開放されるが、戦闘で親戚のペーチャは死ぬ。まだ戦争が遊びに見える年頃だった。隊長は奇しくもかつて決闘し重傷を負わせた相手で、Eの死を知らせてくれた。隊長の怒りで、仏軍捕虜は全員射殺。◆ペーチャの姉ナーシャ(N)は無邪気で魅力的。かつてPに恋をしたが失恋。その後Pの友人で軍人のアンドレイ(A)と恋に落ち婚約するが、Aの父が難色を示し、結婚は一年延期される。婚約中Eの弟アナトーリと情熱的な恋に落ち駆け落ちを決意。アナトーリには妻がいると知ったPは二人を別れさせる。NはAに謝罪の手紙を送るがAの怒りは消えない。やがてAが重傷を負って帰還。親身に看病するN。Aは心からNを愛していたと知るが逝去する。◆戦争が終り、N一家は家に戻る。家は半壊状態。帰還したPが立ち寄る。抱き合う二人。Nが言う「あなたはこの家のように苦しみ傷つきながらも立っている」。戦争を経験した者にとって平和のもつ意味はとてつもなく大きい。「成し難いが大切なのは命を愛し、苦難の時も愛し続けること。何故なら命が全てだからである」
[DVD(字幕)] 7点(2011-09-23 03:04:17)
300.  ベオウルフ/呪われし勇者 《ネタバレ》 
原作の英雄叙事詩「ベオウルフ(B)」は、若きBが怪物グレンデルを倒す話と老いてからドラゴンを倒す話の二部構成。これを新解釈で補完し、整合をもたせた脚本は新鮮味がある。Bは怪物の右腕を引きちぎって倒すが、その母である魔女の逆襲に遭い部下を殺される。魔女を倒しに1人で向かったBは、魔女の誘惑に負け取引をしてしまう。魔女を殺したと嘘をつき、交わって魔女に息子を授け、「竜の杯」を魔女の元に置くのを条件に、財宝と永遠の強さをもらい、歴史に名を残す偉大なる王にしてもらう。魔女の言葉に嘘は無く、予言通りにBは王となり、富と名声を得、どんな侵略者も彼の王国を侵略することはできなかった。しかしこれは呪いだった。魔女の息子は成長するとドラゴンとなり、父に復讐しにやってきたのだ。「竜の杯」も戻された。Bはこのとき前王も魔女と取引をし、王の地位を得ていた事を悟った。死闘の結果Bは右腕を失う代わりにドラゴンの心臓をつぶし、相討ちとなる。Bの遺言で王の地位は親友に引き継がれたが、またしても魔女が姿を現す。 ◆どんな勇者でも悪魔の誘惑には勝てない心の弱さがある、というのがテーマ。Bも倒した海の怪物の数を水増しするなどの虚栄心を持っていました。美女や王の地位や富や名声は魅力的です、それが一度に手に入るとなると大概の人間は誘惑に負けるでしょう。魔女の呪いは隠されているのですから、誰でも良い取引と思います。怪物の右腕を奪い、自らの右腕を失う、これは呪われた運命の輪の象徴でしょう。自らの蒔いた種を刈らねばならなりません。キリスト教が魔女を否定するまで呪いの輪が続く事が示唆されます。前王は何故自殺したのでしょうか?息子を殺したことへの償い説、老いる前に英雄のままで死にたかった説、魔女の呪い説等が考えられます。2組の親子が同日に死んでいるので、息子が死んだら親も死ぬという呪いかもしれません。親子で殺し合いをし、勝っても負けても死ぬという怖ろしい呪いです。 ◆怪物の姿がゾンビで萎えました。ドラゴンと魔女の造形は合格点。Bが裸になるのは勇気を示す意味があるのでしょう。冒頭梁にネズミが走り回り、それを梟が捕まえ、夜空に飛翔して、王国を俯瞰で見せるというシーケンスに美的センスを感じました。やれば出来る監督ですから、エログロに走らないで、美を追求してもらいたいものです。王妃がいつまでも若いのは謎。
[DVD(吹替)] 7点(2011-09-21 23:04:30)
020.24%
1101.22%
2131.58%
3334.01%
4556.68%
510512.76%
619023.09%
721225.76%
811714.22%
9698.38%
10172.07%

全部

■ ヘルプ
© 1997 JTNEWS