21. 神曲
《ネタバレ》 『神曲』におけるビッグな「意味」のキッチュなまでの露出(それはそれで印象的)で勝負、を見れば、『家路』があって本当によかったと思う。後者は、突如身辺の巨大な不幸により空虚の中に放擲されその空虚の必然として、新たにかろうじて生の「意味」(さりげない「意味」)を探ることになる。 [DVD(字幕)] 6点(2016-02-24 10:13:45) |
22. 大鹿村騒動記
《ネタバレ》 阪本順治のよさで、なんとなくいい感じの出来に仕上がっている、ただただなんだかいい感じの映画、そんな映画があってもいいではないか。メリハリの利いたおもしろいストーリーの展開とかなんとかそんなものこの場合必要ない。手法的に印象的なのは、突如逆サイドからのショットが効果的に入ることがしばしばであることで、それは映画である以上当たり前のことであるかのようだが、舞台ものである分、おのずとそれとの差異化をはかっているとも思える。 [DVD(邦画)] 7点(2016-02-21 19:17:32) |
23. 非情の罠
《ネタバレ》 鏡に映る隣室の彼女、この鏡が特によい(この鏡だけがよい)が、キューブリックにしては平板。彼女自称のフラッシュバックの真偽がもっと不透明であるべき(おそらくそういう案で出発したのだろうが)で、こういう処理ではフィルム・ノワールの女ではないことになり興醒め。ちょっと笑えるのは、ラスト近くの一騎打ちで、斧がでてくること、のちの『シャイニング』の伏線のように。 [ビデオ(字幕)] 6点(2016-02-21 15:42:25) |
24. 田園に死す
《ネタバレ》 売りに行く柱時計がふいに鳴る横抱きにして枯れ野行くとき。家の換喩である柱時計にも実は未練がある(家出をすすめる寺山は家らしい生活をしたことがないという哀しい逆説である)。中年の「私」が少年時代の(母を乗り越えた)「私」を待ち受けるが、来ない。これはいいシーンだ。結局、幼年期というものを卒業できない人間のモンダイなのである。いい映画だと思う。 [映画館(邦画)] 8点(2016-02-02 23:08:39) |
25. 小さいおうち
《ネタバレ》 松たか子がいい!ところで、人物たちを泣かせるのが多いのだが泣くのをこらえさせる演出をしたほうがたぶん効果があると思う。泣くのは、観客の仕事なのだ、笑いと同様に。 山田監督作品は「寅さん」シリーズと『たそがれ清兵衛』だけが良い例外。 [映画館(邦画)] 6点(2016-01-31 13:49:44) |
26. 隣の女
《ネタバレ》 トリュフォーってやはり凄い、と見直してしまう。長回しのパンで隣接を撮る、が、まったく無駄は無く、恋愛という単独性の中へ中へと観客を引き入れる。興味深いのは、長回しの偏在カメラからすれば男の側から偏重でもいいところだが、女の側からもほぼ平等の配分の語りであることで、そもそもナレーターとしての傍系人物を設ける語りなのである。だから、客観的な語りのなかに、抑えようもなく噴出する情炎の魅力。 [ビデオ(字幕)] 8点(2016-01-18 18:40:54) |
27. ラスト・プレゼント
《ネタバレ》 鶴八鶴次郎なわけで、逆説的な愛情の深さ。おもしろうてやがて泣けるタイプは好きではないので、すれすれだ。おもしろさをきちんと打ち出してもいるイ・ジョンジェがいい! [ビデオ(字幕)] 8点(2016-01-18 17:33:38) |
28. 映画は映画だ
《ネタバレ》 かつてのハリウッドの「ヘイズコード」に対する最も明快な返答である。暴力表現は「映画という枠組み」で提出されているにすぎないと絶えずことわればアリなのだ。ラストで「本物の」暴力として示されるものでさえ映画なのだ。すばらしい。ブレヒトの『都会のジャングル』という初期の名作も併せて想起した。つまり、ここでの暴力表現は「直接の」関係への欲求というせつないもの、なのである。 [DVD(字幕)] 8点(2015-11-18 22:50:50) |
29. ロスト・ハイウェイ
《ネタバレ》 無い話はいらんなぁ。出先でメフィストみたいな怪しい人物が目前でささやく、「俺今おまえの家に忍び込んでいる、嘘だと思うなら電話しろ・・・な、ほんとだろ」、これには倒れ込むほどの恐怖がある。この辺で十分で、あとはいらんなぁ。 [ビデオ(字幕)] 5点(2015-11-18 22:33:52) |
30. 偉大なるアンバーソン家の人々
《ネタバレ》 『市民ケーン』が閉じ籠もった名作だとすれば、これは身近に感じられる名作だ。甘やかされて育った高慢な男(とうぜんながら母の貞操の番をきわめて子供っぽく行う)の転落を待ちうける筋、の筈なのである、作中幾度かそうほのめかされる、が、このダメ男が分不相応な大人の対応をしてもらえるエンディング、それが最大のアイロニー。ジョセフ・コットン、おいしい役! [ビデオ(字幕)] 8点(2015-11-15 11:19:42) |
31. さらば愛しき女よ
《ネタバレ》 フィルム・ノワールでカラーであること、に皆さん触れておられないのだが、この映画のノワールなカラーはなんとも素晴らしい。モノクロで撮るべきかという選択肢もきっとあったに違いない(ヴェンダースの『ハメット』のように)が、カラーならモノクロ寄りのものにしよう(これもヴェンダースの『ハメット』のように)となったのではないだろうか。「ヴェルマ」のところに依頼者と同行するもののそれが罠であり銃撃戦となるシーンは取り分け鮮烈だ。探偵以外は全部死ぬラストには、なんだか急にアメリカを感じてしまう、なぜだろう。 [ビデオ(字幕)] 8点(2015-11-09 11:06:39) |
32. 女
《ネタバレ》 ダメ男からついには「必死に」逃げる女だが、逃げても逃げても捕まるように逃げている、のが腐れ縁における内的葛藤というところだが、正直、いいかげんにしろである。この永遠の不徹底な逃げだけで映画を作るのは大胆すぎる(観客のほうが逃げる)。その代わりといおうか、大エキストラ起用の火事のシーンがものすごく気合いが入っている。要するにこういうことだ、徹底的に寄りの(世界喪失的な)撮影のきわめて個人的な別れ話に、それとはまったく無関係な社会的騒動を目覚まし的に衝突させてみせるという面白さ。 [ビデオ(邦画)] 5点(2015-11-02 11:06:18) |
33. 犯罪河岸
《ネタバレ》 「フランス版フィルム・ノワール」なる呼称自体が奇妙ということになるが、モノクロの美しさ、殺人理由のリアルな偶発的些末さ、遊び心のある重厚さ、つまり立派な「フィルム・ノワール」作品である。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-11-02 10:32:13) |
34. 召使
《ネタバレ》 主と奴。奴であった者にカメラが貼り付いていたのに、主と奴の逆転とともにカメラの同情も逆転して、主であった者に向かったりする。英国階級社会を諷刺したとかもあるのだろうが、揺れる観客の視点こそが映画的モンダイ。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-10-26 20:12:02) |
35. 落第はしたけれど
《ネタバレ》 斎藤達雄の長い手足のコミカルな身振りが印象的である!小道具の数々がきわめて豊かな表情をみせる、いちいち挙げる必要もない、もうなにもいうまい、最高傑作だ。 [映画館(邦画)] 10点(2015-09-15 10:21:41) |
36. 千羽鶴(1969)
《ネタバレ》 増村が川端とは!?と、まずは驚きなのだが、強弱ではなしに、やはり強強強の増村調である。増村は観客にひたすら襲いかかる。 [ビデオ(邦画)] 6点(2015-09-15 10:05:56) |
37. 最高殊勲夫人
《ネタバレ》 増村って、強弱がなくて、強強強の連続である。疲れる、が、一生懸命の細部演出の積み上げは感取できるし、ゴージャスな映画である。 [ビデオ(邦画)] 7点(2015-09-12 23:28:06) |
38. パニック・ルーム
《ネタバレ》 立場が逆転して、監視システムの画像を今度は犯人側が見るというのが最大のアイロニーで、これは、フーコーのパノプティコンを連想させる、監視の二役である。つまり誰もが監視の二役を演じる近代以降の社会というもの。 [ビデオ(字幕)] 6点(2015-08-30 00:27:20) |
39. アルファヴィル
《ネタバレ》 いまとなってはゴダールにしては甘口である。が、我が国の国立大学を「役に立つ」学部のみにしていこうという例の「改革案」とかは、まさにアルファヴィル的だと思わせる作品。とりわけ、アルファヴィルでは深く問う概念というものがどんどん変更・抹消されていく、という設定に、ゴダールの真面目な主張が見える。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-08-28 23:55:21) |
40. ローラ殺人事件
《ネタバレ》 美しきローラの肖像画をバックに眠りに落ちた警部の前に、死んだ筈のローラが現れる、となると以下はユメかウツツかという曖昧さで引っ張りたいが、あっさりウツツで、これでは恐怖のダメ出し監督プレミンジャーにこそダメ出ししたいではないか。名高いほどでは残念ながら、ない。 [ビデオ(字幕)] 5点(2015-07-01 17:35:27) |