481. 幽霊と未亡人
《ネタバレ》 美しきマーサ(天国は待ってくれる)のジーン・ティアニーがここでも健在、8歳の娘を持つ美しき未亡人ルーシーを演じる。対するグレッグ船長はレックス・ハリソン、頑固で怖い幽霊かと思いきや、ルーシーのひるまぬ態度に彼女に尽くす幽霊となる。 前半のややコミカルな展開から、フェアリーが登場し別方向に進み出す。ところが相変わらずジョージ・サンダースの役柄はうわべだけの男、船長の幽霊が出てこなくなったあたりが映画も中だるみ。 幽霊との恋ではどうにもならないと思っていたところ、見事な結末。天国は待ってくれるならぬ、幽霊は待っていた。このラストシーンには思わず涙。終わりよければ全て良し。 ところで、娘アンナの子ども時代は、ナタリー・ウッドだったんですね。三十四丁目の奇蹟とどちらが先だったんだろう。 [DVD(字幕)] 8点(2011-09-11 09:57:41) |
482. 学校
定時制高校についてはよく知られているが、「夜間中学」の存在を知る人は少ない。教育に籍を置いた私ですら、恥ずかしながら知らなかった。この映画はその「夜間中学」の物語である。 戦後の混乱期、生活のために働かなくてはならず、学校に行けない子どもたちや、不遇な環境で小学校しか行けなかった者、あるいはそれすら満足でなく、大人になって漢字も読めず計算もできない者など様々な人たちがいた。そういった人たちへの教育の場として1947年に大阪から始まったのが夜間中学だった。 その夜間中学は一時期のピークをすぎ、今では数少なくなったがそれでも今もなお存在するという。 この映画でわかるように夜間中学に通う生徒は、年齢も環境も大きく異なり、それぞれの人生がある。この映画の内容は作られたものだが、実際の夜間中学のドキュメンタリーもあるそうな。しかしこれはこれで良い映画であり、山田監督らしい人情味が光る。 [映画館(邦画)] 8点(2011-08-22 07:22:38) |
483. この子を残して
《ネタバレ》 長崎の被爆2世の私にとっては大変貴重な映画であり、命をかけて放射線研究と治療にあたられた永井博士の生き様を描いたものである。 長年にわたり放射線を浴びたことから、脾臓と肝臓は腫れ上がり、余命幾ばくもない病床の傍ら、有名な「長崎の鐘」ほか「ロザリオの鎖」「この子を残して」など多くの書物(随筆)を書かれた。それらは妻の緑さんを原爆でなくし残された二人の子どもへの遺言ともいうべきものであった。 医師であり熱心なクリスチャンであった永井博士の平和への思いは、映画の中でも随所に見られる。そして映画の圧巻はラスト、原爆の炎に焼かれる人々の壮絶なシーンに、峠三吉の「人間を返せ」と原民喜の「水ヲ下サイ」の合唱が鳴り響く。 なお瓦礫の中を彷徨うシーンは、今年東日本を襲った大震災と重なって痛々しい。 [映画館(邦画)] 8点(2011-08-09 17:48:42)(良:1票) |
484. 都会のアリス
《ネタバレ》 自然を相手にやたら写真を撮りまくり、訳のわからぬ独りごとを言うフィリップ。別れた女に会いに行っても、彼の話は一方的で相手には通じない。 そういう彼がふとしたことから9歳の女の子アリスと旅するようになった。大人になりきれていないフィリップに対して、この少女はしっかりした面を持っていて好き嫌いもはっきりと言う。母親と離ればなれになってもなかなか弱音を見せないし、アムステルダムでは、オランダ語がわからない彼を逆にリードする。しかし気丈に見えてもやはり少女、唯一トイレに隠れて泣くシーンが印象的だ。 祖母の家を探す旅で二人は少しずつ心が通じ合うようになる。写真を撮ったり、泳いだり、へんてこな体操をしたり・・・。実に心が癒されるシーンの連続だ。 結局は警察に任せておけばあっさりとなのだが、回り道をしたことによって、フィリップも成長したということだろう。 ペーパームーンと比較される映画だが、悪いことはやっていないし、情感漂うこっちの映画が私は好みだ。 [DVD(字幕)] 8点(2011-08-06 13:06:53)(良:1票) |
485. めし
何とも思い切った題名だ。「めし」つまりは日常生活そのものを意味するのだろうか。名女優原節子も、ここでは炊事洗濯に明け暮れる普通の女性、今まで見たどの原節子よりも所帯じみている。 私の子どもの頃はお米はスーパーで売っているものではなく、お米やさんからの「配給米」であった。だから1人でも家族が急に増えれば、「お米たりるかしら」と心配をしなければならなかった。(小学校の修学旅行は米持参だった) この炊事洗濯に子育てが加わり、日常生活は女は家事に男は仕事にと忙殺される。(この映画の主人公夫婦にはまだないが、それ故に危険度大) そしていつしか平凡な生活の中にある幸せが見えなくなってしまうのだ。 この映画は成瀬監督の映画だけあって、大上段に振りかぶってはいないが、倦怠期を乗り切る夫婦の姿がある。 [DVD(邦画)] 8点(2011-08-05 15:32:29)(良:1票) |
486. 稲妻(1952)
ある人が成瀬監督の映画を、どこから始まってもどこで終わってもおかしくない映画と言っていたのを思い出す。この映画にしてもしかり、父親が違う姉妹と兄という環境に至った経緯にさほど深入りすることもなく始まり、この映画の中で起こったいろいろなことの結末が描かれないうちに終わる。淡々としていて平凡ではなく、一見どろどろとしているようであっさり描かれる。それが魅力の成瀬映画、大変好きだ。 中北千枝子演じる愛人が出るところに出てと言っていたが、どうなったのだろう。清子さんの引っ越し先の隣人香川京子の兄を演じる根上淳とどうなっていくのだろう。などの余韻を残しながら終わるのが実に良い。 ところで2階に住んでいた娘さんが聴いていたレコードの曲と隣人の兄妹が弾いていたピアノの曲は同じに聞こえるが何という曲だろう。映画のBGMとしても流れてロマンティックな雰囲気を醸し出している。実に印象的。 [DVD(字幕)] 8点(2011-08-05 11:15:45) |
487. ああ結婚
《ネタバレ》 若い頃見て今でもよく覚えている映画。ソフィア・ローレンの演技が大変素晴らしく、忘れることができない。 結婚に縛られたくない浮気男マストロヤンニ、彼を一途に愛するけなげさには心打たれる。彼女が娘くらいの若い女性と結婚しようとした時、必死の行動を起こす。それは仮病だったかもしれないが、周囲の者達は皆協力したし、私だって応援しただろう。 映画のラストで彼女が幸せの涙を流すのが大変いじらしかった。 [映画館(字幕)] 8点(2011-07-31 22:49:34)(良:1票) |
488. 男と女(1966)
シンプルながら実に良い映画だ。男と女の感情の違いをまざまざと見せてくれる。 夫を事故でなくした女と妻を自殺でなくした男、男には息子がいて、女には娘がいる。しかも同じ寄宿学校に預けていて仲良しであれば、美男と美女の二人の運命は最初から決まったようなもの。それが確実にその方向に進みながらも一直線といかないところが良い。 ところでこの映画、DVD特典やHPなどを見てみると低予算で作られ、ハンドカメラを使ったり、撮影にも監督自身が携わっている。脚本もよくできているが、細かいところは演技者任せだったりしている。つまり演技が自然なのだ。 だから最初映画館で見た時に気になったA・エーメがしきりに手を髪にやる動作も、おそらく彼女自身の癖なのだろう、それが逆に自然の動作に思えるようになった。 ひとつだけ驚くのは、24時間レースをやった後にさらにモンテカルロからパリそしてドービルと立て続けに運転できるタフさ、さすがレーサー。 [映画館(字幕)] 8点(2011-07-31 07:27:41) |
489. 個人教授
《ネタバレ》 ナタリーがたまらなく美しく、魅力的だった。ルノー・ヴェルレーとほぼ同じ歳の私は、彼と同じようにナタリーを好きになり夢中になった。 彼がナタリーと幸せなときを過ごせば私もたまらなく幸せになり、ナタリーとうまくいかなると私の心も痛んだ。 ラストが何と言ってもすばらしい。フォンタナの心を知ると電話番号を教え去っていく。私は泣けて泣けて仕方なかった。見終わった後フランシス・レイのサントラを探し求めレコードを聴き、感傷にふけった。 40年ぶりにDVDを購入し、改めて鑑賞、青春の想い出が痛く蘇る。 [映画館(字幕)] 8点(2011-07-29 22:32:27) |
490. 秀子の車掌さん
何という社長だ。運転手と車掌が会社を何とかして発展させようと懸命に頑張っているというのに。あのラストには腹が立ってしまった。プンプン! 若い高峰さんを、ほんとにほんとに偶然に見てしまった。こういった映画は、貴重だと思う。他にもこういう昔の隠れた名画があれば、どんどんDVDにしてほしい。 もう一言、この映画の1941年は太平洋戦争突入の年、それをまったく感じさせないこののどかさは何なのだ。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-07-26 13:22:49)(良:1票) |
491. 北北西に進路を取れ
ちょっぴり「シャレード」に似ていて(似ているのはケーリー・グラントだけか)、それよりも断然おもしろい。ヒッチコック映画の最高峰と言ってもよいだろう。 実は最初見た時は、ロジャー・ソーンヒルがなぜ間違えられたのか見落としていた。だから何か訳がわからないうちに話が進んでいったのだが、それでもおもしろかった。 DVDで改めて見てみると、間違えられた訳だけでなく、ほかの部分でも見落としや感違いがあったことに気づき、改めてこの映画が良くできていることに感心した。 随所にユーモアが見られ、サスペンスの緊張感とバランスが取れていると思う。一番笑ったのは、競売シーン、おおまじめなとこらが何とも言えない。 [映画館(字幕)] 8点(2011-07-25 14:16:10) |
492. 清作の妻(1965)
若尾文子主演増村映画の「妻は告白する」と並ぶ名作。女性の愛する男への想いは、こちらの方が更に強烈、強烈であるが為に思わぬ行動を取ってしまう。 そして、目を潰されて初めて今まで見えてなかったものが見えてくる。忠臣愛国の模範軍人よりも、もっと大切なものが・・・。 [DVD(邦画)] 8点(2011-07-24 20:41:43) |
493. マイ・フェア・レディ
《ネタバレ》 映画「マイ・フェア・レディ」の誕生までには、少しばかりの歴史がある。元々はギリシャ神話の「ピグマリオン」それを劇作家バーナード・ショーが舞台劇にし、映画化も行った。バーナード・ショーの死後、ミュージカル「マイフェア・レディ」が誕生し、映画化されたのがこの映画である。 私は、ミュージカルも見て、原作の「ピグマリオン」も見たが、筋書きはどれもほぼ同じである。戯曲「ピグマリオン」がどれほどのものだったか知るよしもないが、映画「ピグマリオン」はアカデミー賞の候補にもなった。しかし、モノクロだからかもしれないが大変地味である。 それに比べるとミュージカルは当時のロングラン記録を作るほどの好評であったし、映画「マイ・フェア・レディ」は満を持して登場しただけに、歴史に残る名作となった。 何と言ってもエキストラの数が多く、1シーンしか出ない登場人物まで豪華な衣装である。華やかさこの上ない。主役のヘプバーンに至っては目が覚めるほどの美しさである。このヘプバーンの出で立ちだけでも、絵になる。 音楽や歌もミュージカルも映画も全く同じで、大変なじみ深い。「踊り明かそう」「スペインの雨」を初め、口ずさみたくなるほどである。 DVD特典の中にあるヘプバーン自身の歌も聴いたが、なかなか味があってすばらしい。おそらく全曲吹き替えなしでも可能だったと思われるが、この頃のミュージカルは「王様と私」も「ウェストサイド・ストーリー」もすべて吹き替え本職のマニー・ニクソンが歌っている。吹き替えなしで歌ったのは、この「マイ・フェア・レディ」のミュージカルで歌っていたジュリー・アンドリュースくらいなもの。「サウンド・オブ・ミュージック」「メリー・ポピンス」など。 なおヒギンズ教授のレックス・ハリソンやイライザの父親のスタンリー・ホロウェイはミュージカルで同じ役をやっていただけに、表情豊かでさすがに上手い。上手すぎる。 [映画館(字幕)] 8点(2011-07-20 18:48:51) |
494. ヒトラー 最期の12日間
ヒトラーを総統と一個人の両方の面から赤裸々に描いているのは凄いし、演じているブルーノ・ガンツが本当のヒトラーと思ってしまうほど見事なできばえだと思う。 あの突然怒り狂ったように発せられる命令は、誰も逆らえないほどのすさまじさを持っている。またヒトラーを心底崇拝し運命をともにする忠誠心は何だろうかとも思う。 また戦争末期にベルリンを包囲したソ連軍は、映画以上に残忍だったらしい。ナチスだけが悪いように思われがちだが、最も悪いのは戦争そのものだろう。 映画の最後にトラウドゥル・ユンゲ自身が登場し、自分と同じ年の女性ゾフィー・ショルについて語っている。もちろん、この映画の後に見たのは「白バラの祈り」だった。 [DVD(字幕)] 8点(2011-07-16 22:58:39) |
495. チャップリンの黄金狂時代
《ネタバレ》 アラスカの雪深い山に入り金鉱を探し求める男達、蟻の行列のように連なる姿は一攫千金を夢見る者を皮肉っているようにさえ見える。その行列とは別に、一人普段とさほど変わらぬ格好で臨むチャップリンの危なっかしい姿はまったく対照的だ。 もちろん金鉱は簡単に見つかるはずもなく、チャップリンと偶然であった同業者の二人は寒さと悪天候で食うものにも困る苦境に陥る。幻想で鶏になるなど皮肉が込められた笑いの中にあって、靴を料理して食べるシーンは非常に痛烈である。 それこそ大変な苦労の末ハッピーエンドとなるが、ようやく報われたという想いがある。 [映画館(字幕)] 8点(2011-07-14 07:14:02) |
496. 永遠の片想い
《ネタバレ》 最初に見たのはチャ・テヒョンの「猟奇的な彼女」を見て韓国映画に見はまった頃、その次がイ・ウンジュさんの訃報を知った時、そして今度このレビューを書こうと思って昨日と今日、繰り返し見る度にこの映画への想いがますます強くなってくる。良い映画、すばらしい映画というのはこういうものかもしれない。 彼女ら二人が高校卒業後大学も行かず定職につかないでいたのか、なぜ3人の良い関係が壊れたのかなどなど、今思えば最初見た時はあまり理解できていなかった。時間の軸が行ったり来たりで揺れ動いているからかもしれない。 ところで1997年ワールドカップアジア最終予選、ホームでの韓国戦は山口のループシュートで先制したが、試合終了間際の2失点で逆転負けした因縁の試合、私もテレビで見ていた。 書くのを忘れていた。ソン・イェジンが歌うときの膝を曲げる動作がとてもキュート、歌のメロディとともに忘れられない。 [DVD(字幕)] 8点(2011-07-06 14:34:52) |
497. 瀬戸内少年野球団
戦争直後の日本がよく表されている。墨で塗りつぶされた教科書、チョコやガムをばらまく米国進駐軍兵士、傷を負った復員兵、混乱の中に復興を願ってた時代・・・。 右から左に書いていた横書きの文字が左から右へ、男女別々だったクラスが男女一緒のクラスに変わっていった。 この映画は夏目雅子さんの最後の映画になってしまった。それだけに想いで深く、また女教師役を上手く演じている。野球はまったくといって似合わないと思うのだが・・・。一方渡辺謙さんはこれが初めての映画だというのも驚き。 それと何と言ってもこどもたちがすばらしい。こういう明るくさわやかでちょっとだけほろ苦い青春映画は好きでたまらない。初めと最後に流れるイン・ザ・ムードも。 [ビデオ(邦画)] 8点(2011-07-05 17:42:13) |
498. 雁の寺
《ネタバレ》 水上勉の原作を読んだわけではないが、映画を見るだけでもそのすばらしさを感じる。 捨て子として育ち寺にあずられた慈念、母を慕う気持ちはいくら修行を積もうとも消えることはなかった。彼の目の前で繰り広げられる和尚と里子の痴態の数々、それが人を殺めるという犯行を引き起こしたのだろうか。それでも気持ちは救われず木村功の竺道に問いつめる。その結果が寺を去る決心になったのだろうが・・・。 映画は三島雅夫の和尚がすばらしく、若尾文子も美しく悩ましい。しかし何と言っても南嶽が描いた雁の絵、最初に出てきて最後に全容を現す。慈念によって破られた親子の雁、それだけが新しく張り替えられている。物語の主題を現すかのように・・・。 [DVD(邦画)] 8点(2011-07-04 20:06:26) |
499. 男はつらいよ 奮闘篇
《ネタバレ》 寅さんも第3作以降渡世人ぽくっていまいちと思っていたが、ここで久しぶりのヒット(だと思う。)いつもの馬鹿さ加減もほどよくセーブされ、世話好きで人情味のある寅さんになっている。 映画2作目の出演となる榊原るみが、津軽から出てきた少女(一番若いマドンナ)を好演している。寅さんも女性の方から結婚を持ち出されたのは初めてであり、訳ありとは言えいじらしかった。 その他久々登場の実母お菊さんや妹さくらさんの、寅さんを心配する心もひとしお、この映画には心打たれてしまった。 「緑は異なるもの、味なるものよ」は私もさくらさん同様わからなかったが、博さんはさすがだった。 [DVD(邦画)] 8点(2011-06-30 21:28:09)(良:1票) |
500. ビッグ・フィッシュ
《ネタバレ》 おおぼら吹きのエドワードの話には着いてはいけないけど、だからといって嫌いではない。むしろ夢があって楽しいし、良いと思う。 父の本当の姿を追い求めたウィル、結婚式以来の長い確執が父親の死の直前になって解消できたのが何よりうれしい。おおぼら吹きだった父親に、父の死んでいく物語を息子が逆に作り上げるなんて、最高だと思います。思わず涙、涙・・・。 [DVD(字幕)] 8点(2011-06-30 15:09:12) |