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すかあふえいすさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1047
性別 男性
年齢 30歳
自己紹介 とにかくアクションものが一番

感想はその時の気分で一行~何十行もダラダラと書いてしまいます

備忘録としての利用なのでどんなに嫌いな作品でも8点以下にはしません
10点…大傑作・特に好き
9点…好き・傑作
8点…あまり好きじゃないものの言いたいことがあるので書く

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41.  独立機関銃隊未だ射撃中 《ネタバレ》 
戦場を舞台にした厭戦映画の傑作の一つ。  冒頭、デカデカと映る第二次大戦下の日本、満州、ソヴィエート聯邦(ソヴィエト連邦)を中心とした地図を映し、満州とソ連の国境線、ソ連国境警備隊が守る陣地を映していく。  鉄条網の下に伸びる塹壕、風になびく花、花、花、木漏れ日に照らされる陽気な道を抜けてくる男二人。 トーチカから投げ渡される煙草、土くれにボコボコあけられ埋められる穴。ベラベラ喋り合い食い物を渡し合える平和な一時、ベテラン兵。  撮影はマキノ雅弘「次郎長三国志」シリーズに参加した名手の山田一夫。穴から差し込む光の陰影といい、素晴らしい。  外は蝶々が舞い、扉を開けた先は地面を鼠が這い、新兵を出迎える個性豊かな男たち。 お守りぶら下げ戦う隊長、家族思いの父ちゃん、女好きの髭面、丸眼鏡のインテリ、笑顔で自己紹介する新兵、出入りする顔なじみの戦友たち。  話がデカすぎて信じられないくらい遠くから響いてくる戦争の足音。みんな戦争が怖い、死ぬのが嫌だから戦うしかない。銃を抱えさせられ教えられ、銃剣を研ぎ、爪を切り遺書をしたため決めた覚悟は揺らぎ続け、人を撃った罪の意識で動揺し、吐き、泣き叫ぶ。敵ではなく同じ人間を「殺っちまったんだ」って顔がまた…。  電話通信、ヘルメットで煙草の火を付け、挨拶から機関銃の糾弾方法・撃ち方まで教え込んでいく。“音”とともに掛け声を張り上げ揃える戦闘準備、弾薬を落とし耳を塞ぐ恐怖の現れ。  男たちはトーチカ内を機銃と弾を抱え動き続け、双眼鏡越しに敵を捉え、穴という穴をハンドル回し開いて閉じて睨みつけ、平手打ちを浴びせ気合を入れ、励まし、鉄兜の緒をしめ、伏せまくり、飯と酒をかっ喰らい、血と土埃にまみれながら薬莢と弾丸を吐き出す機関銃を撃ちまくる。  出たくても出れない閉鎖空間、あらゆる“音”だけが鳴り響き見えざる敵の存在を知らせる。  穴から降り注ぐ土、砂利、扉の向こうからやってくるもの、閉められ遮られる土煙、穴という穴から浴びる爆風、銃弾、焔。 案内板も、蝶々が飛び交う原っぱも、勇ましい訓示も、塹壕も、化けの皮も何もかも吹き飛んでいく戦闘。断たれる電話線、死の恐怖が引き起こすパニック。  恐怖を跳ね返すために座り込み歌う鎮魂歌、死者に被せる手向け、雨漏りの中で告げられる「命令」。  歩兵を薙ぎ払い戦車(造りはチープでも演出の力もありかえって怖く見えてくる)にも浴びせまくる掃射、跳弾、士気が上がる援護射撃、閃光が降り注ぐロケット弾、穴から出てくる表情、ヒビが入り、瓦礫が落ちて風穴が開き、扉を薙ぎ倒されようが撃って撃って撃ちまくる。  鏡で反射させて照らす探り、扉を開け飛び出していく戦車への接近、“挨拶”。「やっぱりガキだなおめえは…」。噴き上げる黒煙、“申し開き”。  戦況も、味方も残っているのかいないのか、どうして戦うのかも分からなくなり無情に過ぎ去る時間(まあシベリア送りとかソ連の悪業三昧知ったらそりゃねえ)。  たった一つしかない武器を我が子のように庇い整備し続ける佐藤允、若者から一人の兵士に変貌していってしまう寺田誠(麦人)。  覗いた先から伸びてくる恐怖、黒く染まった大地を照らすように輝く“花”、こびりつき飛び散る命、命、命。
[DVD(邦画)] 9点(2017-01-25 23:11:13)
42.  ガールズ&パンツァー 劇場版 《ネタバレ》 
「可愛い女の子たちが戦車を乗り回す」という平和ボケも甚だしい…いや、そんな平和な時代を何十年と守って来た日本人にしか作れない映画の一系統がここにある。  というより、「大魔法峠」で原作以上に全方面に喧嘩上等(OPの燃え盛る国会議事堂とかの前でふざけくさったダンスを披露)なことをやってのけたあの水島努である。いいぞもっとやれ。  かつて戦場を蹂躙し夥しい都市と兵士たちを粉砕し血の雨を降らせたであろう戦車が、この作品では青春にすべてをかける少女たちを結びつけ、彼女たちの“戦車道”を創るため突き進み、身代わりになるように砲弾の雨から主たちを守り通す。   物語は、カップの底から茶柱が立ち上がる瞬間から始まる。  優雅に紅茶を楽しみ映るだけで面白い女たちの会話、銃口・砲身の向こうで轟音と土煙をあげながら平原を駆け抜ける戦車、戦車、戦車の群、それを天高く飛ぶ戦闘機の視線を通じスクリーンの向こうで歓声をあげながら見守る群衆。  蒼空の下、首に通信機を巻き、活き活きとした女たちの「前進!」の叫びとともに高らかに響き渡る音楽とタイトルバック、誇らしく刻まれたマークとともに突撃し、そんな状況でも紅茶と飯を喰らいながら不敵な笑みを浮かべる頼もしさは否応なしにワクワクさせてくれる。  砂地に密集して耐え続け、丘を駆け上がり騎兵隊の如く押し寄せ、ゴルフ場の森林から市街地・海岸線まで車輪跡を刻み、ドリフトし、エスカレーターや石段を降り、扉がせり上がる駐車場から現れ、海から上陸し、砲身を振り回し、ガードレールに火花を散らせ、地面をえぐり、弾痕を刻み、信号を薙ぎ倒し、砲撃で市街地を破壊し、看板ごとぶっ飛ばされ、ぶつかり取っ組み合い、横転し白旗と爆炎をあげる戦車たちの激突。 スコープ越しに確認する敵影・撃破、敬礼、突貫、玉砕、いや散ったらダメだろ、窓の外の蝶々、戦車乗りたちの視点で追い回す戦車同士によるチェイスのスピード、発砲禁止区域が物語る「ルール」のあるスポーツとしての闘争、狂喜乱舞する観客。  アニメーションという世界で荒唐無稽・やりたい放題・自由自在・縦横無尽に描くことを楽しんでいるアクションを見るがいい!「車両が頑丈」の一言じゃ済まないくらいの大爆発から生還するたくましさ、激しい風の中でも露出を防ぐ鉄壁スカート、瓦礫と化した水族館からひょこひょこ出てくるペンギンたちの雄姿!くだらないことで悩んでいるのがアホらしくなるくらい痛快だ。  25分に及ぶ戦いの後は、風呂場で汗と涙を流し健闘を称え鋭気を養う。   失われる居場所と宣告、荷造り、居並ぶ戦車と乙女たちに空から舞い降りる“助け舟”、青春を謳歌した箱舟との別れ、失われゆく士気、流れ着いた先に贈り届けられる「存在意義」。  ボッコボコでもパイプイスの山に埋もれようと何度でも立ち上がり続ける戦車魂、のどかな田園を駆け泥と愛情にまみれた想い出、復活をかけた「せいやくしょ」、居場所を取り戻すための約束。  戦車に通れない道はない、道がないなら創るまでよ! 74式戦車「作用」、昨日の敵は今日の盟友、戦いを通じて結ばれた戦車乗りたちが転校・制服まで揃え駆けつける一大決戦。これぞ正に王道って展開が大好きだ。   多勢に無勢だろうが最後の一両まで戦い抜く殲滅戦、雲の下に拡がる平原から高地、長くうねり続く道、乃木希典「203高地はイカン」、森林、丘を奔る風、飛来する轟音と黒煙に覆いつくされる恐怖、降りしきる雨と殿(しんがり)、別れを意味する“日本語”での挨拶、森の中にいた砲撃の正体、ユーリー・オーゼロフ「ヨーロッパの解放」よろしく琴の弦を弾くように戦車が空を飛び、その戦車がまたカタパルトの要領で味方を射出し、少しでも隙間があれば瓦礫の中を突っ切り、柱で翻弄し、線路の先に向って飛び込みぶちかます!   籠城によって迷路と化す遊園地、何も無い水辺が予告する奇襲、蘇るスティーヴン・スピルバーグ&ロバート・ゼメキス「1941」の観覧車先輩がブチ破る包囲網、戦車版「機関車トーマス」、偽装し、建物をぶち抜き、「荒野の七人」さながらの音楽と追撃時の平行移動(ジョン・スタージェスが炸裂させたジョン・フォードを髣髴とさせる馬のアクション)で西部の街を走破し、誘い込み、道が狭けりゃ自らを削り、橋の下からどてっぱらにぶちかまし、ジェットコースターを駆けめぐり撃って撃って撃ちまくる。  積み上げられた土嚢、砲撃を思いとどまらせるもの、無言で交わされる指示・視線、頂上からトンネルまで走って走って走り、空を揺れる船、砕け散る椅子、一撃によって爆走しぶつけられる決着!
[DVD(邦画)] 9点(2017-01-09 22:25:32)(笑:1票) (良:3票)
43.  流血の谷 《ネタバレ》 
「レッドマンの考え(インディアンの考え)」、「モヒカン族の最後(ラスト・オブ・モヒカン)」、「折れた矢」、「ミズーリ横断」、そして本作はインディアンと蔑まれ一緒くたにされたショショニ(ショショネ)、シャイアン、モヒカン、スー連合、アパッチといった諸部族…北アメリカ大陸に先に“国”を育み暮らしていた人々の側に立って撮られた傑作の一つだ。  やはりアンソニー・マンの西部劇は新しさに満ちていた。  「ダンス・ウィズ・ウルブズ」がアカデミー賞を取れるならば、アンソニー・マンや「ビッグ・トレイル」のラオール・ウォルシュ、ウィリアム・A・ウェルマンは一体何度賞を取れただろうか。   この映画は「ウィンチェスター銃'73」のように初っ端から撃ち合うような映画ではないが、代わりに人種差別という題材を体現する視線、視線、視線が重い空気を作っている。   馬に乗ってひたすら駆けていく男。彼の目的は帰ること、再会を分かち合える嬉しさに溢れていたことだろう。  肌の色に関係なく軍人となり、戦争を生き残った。もう「インディアン」呼ばわりされない、ショショニ族という自分のアイデンティティーを認めてもらえる…きっとそんな気持ちで酒場に入っていったはずだ。   戦前から知り合いだった男たちとの再会、胸の勲章を“認められた”証として見せびらかしこそしないが、誇らしく身につけている。 だが、画面の端…酒場の奥にいた男にその想いは届かなかった。彼の存在が終始この映画に暗い影を落とし、息苦しさを持続させる。   机の上に叩き出し栓を打ち上げる酒瓶、奥行きで強調される窓や壁の穴から差し込む光、巻きあがる土埃、映り込む影。   迎えに来た父親との再会、周りに集まり騒然と、白い目でそれを見つめる街の人々。犬にも警戒されているのか吠えたてられる。   元々住んでいたのどかな生まれ故郷。自然豊かな大地を牛が行き交う谷、自分の存在理由。  父が残す言葉の真意と医者の反応、黙って見送るしかないもの。   知人の変貌、貼り紙、偏見に満ちた男の銃撃、それに拳で応える殴り合い、不気味に見届ける黒い影、影、影が囲む閉鎖空間(ジョン・オルトンが撮った強烈なコントラスト)、砂と血にまみれる取っ組み合い、浴びせかける“おごり”。   悪徳弁護士、女性弁護士との邂逅、ライフルで武装する警戒・それが緩む少年を暖かく迎え入れる光景。助けないのは助けてくれる者がいなくとも自力で立ち上がる強さを与えるため、這い上がるならそれを称えるように抱きかかえ抱きしめてやればいい。それがショショニ族の強さなのかも知れない。   板挟みに遭う開拓者、ショショニ族の避けられない殺し合い、文明の衝突。故郷を奪われ居留地に押し込められ、流れ着いた人々、受け入れられるものとられないもの、自分の故郷…国を守るために武装し戦うしかない。かつて同胞として共に戦った者たちと…。   街や谷に溢れかえる牛、羊の大群、それを幌馬車ごと吹き飛ばすダイナマイトが炸裂しまくる殺し合い、撃ち合い、殴り合い、横たわる死、死、死。  椅子を逆さにし家財道具も何もかもバリケードにし土を掘り返し続ける戦闘準備、それを見守る指揮官を横移動で捉えるキャメラ、レバーを開き確認し受け渡されるライフル。   法を知る弁護士さえいくら話し合うことは出来ても戦いを止められない無力さ、騎兵隊も助けてくれない。拍車をかけるだけだ。  大人が斃れれば次は子供も“大人”にされ戦闘に駆り出されていく。   踏ん張っていたものが力尽き、斃れることを告げる敬礼!  この作品の要素は文明の衝突「ララミーから来た男」「シャロン砦(シャロンの屠殺者)」、法をめぐるやり取り「胸に輝く星」、不安定な人間関係「裸の拍車」等にも受け継がれる。
[DVD(字幕)] 9点(2016-12-16 19:31:20)
44.  横道世之介 《ネタバレ》 
街、交差点、人ごみの中から現れる男。 階段を登って降りて、路上、ライブ、見守るファンの後ろ姿、看板が物語る「あの時代」。  行ったり来たり、口ずさむ歌、教室で不意に合う視線。  何も無い部屋でくつろぐ新しくやって来た住人、部屋の中から取り出し確認するもの、音の出どころ、扉に貼られた紙、またふと合う視線、御挨拶。  入学式、隣の席に話しかける馴れ馴れしいもの、目が遭う自己紹介。気になるあの娘と自分の匂い。  サークルめぐり、初対面で泣かせちゃってあーあ、はりきったメイク。  音楽、訪問、絶望、アッハイと踊り踊らされ続ける学園生活。 風呂場で談義、シャワー、叩きつけ吹き付けるもの、窓ガラスから見えるもの。  話し合い、唐突に父親としての姿に飛ぶ「現在」。 エレベーターで見つめるもの、チップ、また唐突に現れる喫茶店での待ち合わせた「過去」。  見つめるもの、名刺 お誘い、微笑み、笑って誤魔化す、小指、横移動で詰め寄る。 伝染する馴れ馴れしさ、でも世之介は気づくと仲良くなってしまう不思議な奴なのさ。  机を囲んで交わす話に巻き込まれる、紙と判子、義弟、誘い、小指、嬉しそうに自転車を漕ぐ、ベタベタ吸い付く、人ごみをかき分けてくる車、白い帽子の少女。 思い切り笑うお嬢様、壁に頭をぶつけて帽子を落とす、手を合わせる食事とでっかい野望、バンズを合わせて思い切り被り付く食事。「南極料理人」といい、沖田修一の映画は美味そうに飯を食うな~  熱い中、足を水にひたし、パンツ一丁にラーメンすすりながら箸でパージをめくる漫画読み。 半透明の窓に映る着替える姿、御訪問、誘い、水桶からプールへ、笑って腹違いとか言わないで、プールでもムシャムシャ、思わぬ再会、泳ぎ、飛び込み、安心させるための風船、パレードの記録、倒れたもの。 リズムに合わせてスイカ斬り、夜の公園で告白、膝で割るスイカ、また唐突に思い出すベランダでワインを飲み合う男たちの現代、でまた唐突に訪れる里帰りの過去。  料理作り、振り上げる瓶の暗示、家族団らん、扉の先から見るもの、旧友、バック、海水浴といえば水着と青春、沖から見つめるもの、洞窟から走り出し断たれる会話、嫌がる息子はうちわで叩く、帰り道で二人きり。 月明りが照らす海辺、砂浜、徐々に近づき、後ろから腕を肩に、向かい合い、見つめる先の岩場から現れる人の群、光、駆け込み倒れ込むもの、響く警報、流れ者。 扉を開き駆けた先で抱き着く、葬式 、死んだ人間の分までムシャムシャ食って生きる、出来ちゃった中退、また唐突にラジオ局で独り語り続け机の上で黄昏がれる姿の現代に飛ぶ。  踊って待つサークルよりも大切なもの、両親に御挨拶、娘への信頼、カーテンに隠れないと尋ねられない質問、聖夜、クラッカー、絵、食事、窓の外に降る雪。  アパートの外に積もった雪、手を繋いで刻まれる足跡、祈るように待つ抱擁、口づけを交わ黒いシルット、横で見届けたら天空に上がり見守るキャメラワーク。 撮影の近藤龍人は「桐島、部活やめるってよ」や「海炭市叙景」「ウルトラミラクルラブストーリー」「天然コケッコー」「そこのみにて光輝く」等でも活躍した名手だ。凄いことを簡単にやってのける。  呼び方を変えて縮めたい距離、黙って見届ける者、あの日の思い出、写真、パンで挟んでがっつく、車の窓から見る“あの日”。  隣人からの“返事”、写真、返事が無いなら一枚撮っちゃう、階段で再会、投げ落とすサンダル、どうしていいか分からないので声を出すしかない、新しい命、撮影、約束。 階段を駆け下りて追うもの、旅立つ者から贈る別れの挨拶、駆け登った先で残していくもの。
[DVD(邦画)] 9点(2016-12-15 04:23:33)(良:1票)
45.  くちびるに歌を 《ネタバレ》 
川を流れる一隻の船、何かを告げる汽笛の音、デッキの上の椅子から起き上がる女性。  電話で談笑し、扉を開け自転車で坂を下っていく疾走とモノローグ、自転車に乗る少女の髪を靡かせるように吹き付ける風、青空に拡がる雲、鮮やかな夕陽と日差しの美しさ。  学校で捧げる祈り、教会のような空間で見つけ出会う女性たち。  和気あいあいで歌う合掌部は少女たちの聖域、向けられる視線を軽蔑し、男を嫌悪する“理由”、遠くから見守る視線、ボロ車でも運転し続ける意地っ張り。 逆に男たちは風でめくり上げるスカートを抑える女子たちを下から見上げ、秘密を共有することで友情を結ぶ。  そんな異性たちが共に制服から体操服に着替え走り、歌い合い無くなっていく男女の垣根・心の壁。  ネットに流れる過去、兄の送り迎え、ピアノを弾けなくなった理由、声の主が不意に現れる戸惑い。 あれだけ憎んでいた存在が縁側でスイカを食べ、過去の思い出を語り頭を撫でるなら…そんな優しさに弱く、甘えたかった。今度こそ…。 裏切られ、涙を流したくてもそれを笑顔で偽り、代わりにホースの水をぶちまける。  手紙に溢れる想い、考え、夢。  自分のため、誰かに勇気をあげるため、電話の向こうで戦っている人のために歌い、振り返り、歌うことを繰り返す。 悩み、不安になり、泣いている人に笑顔になって欲しいから弾いて、弾いて、弾いて。例え届けたい人に届かなかったとしても、何処かで聞いてくれている人のために。  行ってしまう前に、命をかけて戦っている人のためにありったけの想いを歌と共に伝えたい…良い映画だ。
[DVD(邦画)] 9点(2016-12-15 04:22:36)(良:1票)
46.  ズートピア 《ネタバレ》 
夜の森、兎、水辺で襲われる弱肉強食…を演じる子供たちの演劇。大人たちは笑うが、子供たちは子供たちなりに必死で夢を描く。 その演技も含め、さりげない場面の数々が後に伏線となって効いてくる面白さ。  ケチャップで血の海、大小様々な動物肉食・草食、あらゆる動物が跋扈する世界。  演奏、服装、宇宙服、兎の家族、コスチュームプレイ、憧れ、夢、スキップ、恐喝。 押されれば蹴りで、ひっかく、頬の傷、掴み取っていたもの、自己犠牲。他者のためなら進んで自らを捧げてしまうのだろう。  訓練所で落ちて、落ちて、落ちて、ぶっ飛ばされ、それでも諦めずに跳んで、飛んで、跳び蹴りを喰らわせ小さな体で巨大な相手を薙ぎ倒す成長。  それぞれの動物のサイズに合わせた扉、別れの抱擁、窓の外、電車、旅立ち。  自然の中に拡がるコンクリート・ジャングル、駱駝の疾走、砂漠、雪山、密林、歓迎、一人暮らし、隣人の声、壁の絵、忘れ物。  野獣野郎どもが競い合う警察、椅子によじ登る、拳を突きあう挨拶、任務、警ら、違反キップを跳ねるように貼りまくる。  鼻のアイス、拳銃の様に腰に据えるスプレー、アイスクリーム屋、掲げるアイス、胸の勲章、見せつけられる現実…商魂たくましいこと。 最高の出会いから最低な真実を目の当たりにし、それを乗り越え近づき、また離れ、再会を繰り返し深まる絆。  電話で繋がる故郷、帽子を投げ出し、水を得た魚のようにビルからビルへ跳ね、跳ね、跳ねまくる追跡! ドーナツで捕縛、受け入れる依頼、瓶で拡大、突き付けるボイスレコーダー、動物本来の姿で跋扈する環境。 主人公だって幼き日にあられのない姿を晒していた…それが最終局面のアイデアにも繋がったかも知れない。追跡の時にしても、自分よりもっと体が小さい生命が力強く生きている…それが彼女の肉体ででっかく燃え上がり光り輝く“魂”を育てたのかも知れない。  バックスバニー「自然体が一番だね」  仕事熱心なナマケモノ(マイペース)、投げた先、侵入、手掛かり、扉を開けた先、「ゴッドファーザー」ネズ公、蓋を開けた先に拡がる絶望、思わぬ再会、口づけ。  吊り橋、暴走、蔦でターザン、救援。  人を騙すようになってしまった理由と過去、口にハメられ心に刻まれた傷、監視カメラが見たもの、ジェスチャー、ハウリング、逆らえない「性」。  侵入口、レディ・ファースト、収容所、記録、電話、脱出、雑コラ、誘い、新聞とニュースが駆け巡るメディア、記者会見、口枷が蘇らせるトラウマ、絆を引き裂く群衆の壁。 “病い”によって生まれる差別意識、作られた英雄、置かれる勲章。  里帰り、花、投げ渡す鍵、持っていてくれたものが蘇らせる関係。  ドライブ、友人の協力(脅迫)、地下鉄、研究所、狙撃、扉の外に叩き出し、砕いて閉めて開けて跳んで蹴っ飛ばしてぶっ飛ばす!!  託すもの、穴、噛み砕かれるもの、壁に追い詰められても肉体ごと捧げてしまう行動、記録、“弾”、駆けつけていたもの、戻って来たもの、認められたもの、帽子を投げまくる歓迎、与えられた新車が語るもの。  歌で結ばれる動物…いやズートピアを支えるすべての生命たち。
[DVD(字幕)] 9点(2016-12-15 04:21:29)
47.  映画 ビリギャル 《ネタバレ》 
土井裕泰は「いま、会いにゆきます」も中々良い作品だったが、本作は圧倒的に面白かった。  風が吹く中で何かを見つめる少女、小高い丘から見つめる先にあるもの。  何と映画的なんだろう。 「いま、会いにゆきます」は黒沢清の傑作群を撮った柴主高秀のキャメラが輝り、本作は花村也寸志の見事な撮影が作品をさらに盛り上げる。  モノローグで語られる子供時代。 父は息子の特訓、家族でありながら男と女が完全に分かれた環境、見上げた空、飛行機、ボール、長いものに巻かれたくない、エスカレーター。  親の勝手で転校、一目惚れで受験、捕まりスカートを短くされ右に倣え。それでも彼女は楽しく遊ぶ日々に溺れ、友達も出来て良かったのかも知れない。 教師もやる気を失くし、繰り返す記念撮影、踊り、現実からの逃走。  短くなるスカートを身にまとい朝飯も食べずに駆けだす。 バック、サイフから出てきたもの。だが自分ではなく他者を庇う心は生きていた。誇りに思うなら退学は避けて、人生すら諦めようとした者を迎え入れる男の回想に繋がっていく。  塾で気持ちよく朝を迎えた者が見たものは…誰!?  挨拶、笑顔で凄まじいネタバレをするタイトルコール、0点でもへっちゃらでいられた「今まで」、空に浮かんでは消えていく英単語、漢字、褒めて伸ばすポジティブシンキング、志“願”所、基礎から叩き直す勉強、隣人に挨拶、手を叩き称え合う喜び。  ハサミを入れる“復讐”、見返すのは「見て」欲しいから、愉快な塾の人々。   スケジュール、罰ゲーム、カラオケ、本に記され、壁から階段にまで刻まれる努力の跡、自転車の疾走と夕陽、横移動。  教師は他者を理解する努力をし、子供たちも互いに抱えているものを知るからこそ笑い語り合える。誰も期待しなくても信じてくれる人がいるなら。 家族ですら祝う余裕がないくらい打ち込み、先生も生徒の頑張りに一対一で、過去を晒して応え、屑呼ばわりしていた教師も思わず約束してしまう「誓い」。  胡坐をかいて見るもの、思い出す父との思い出、親しくなったからこそ馬鹿だのキモいだのありがとうだと言い合える。すっぴんで微笑む可愛く、美しい好きなひと。  漫画で叩き込まれる先人たちのイメージ、手に渡される母親の想い、重み。  自転車を引き止める裸の付き合い、恨むどころか応援するために“離れる”ことを選ぶ、汗も涙も湯に流して。 背を向けてまで続ける努力、チャンネル変えてまでニュースに喰らい付く。  屋上で考え事、椅子に立った卵、知らないなら知ればいい、教えればいい、信じてやればいい。  髪を切り服も整える覚悟、寝る間を惜しむ限界、荷物を運び走り、呼び出される度に頭を下げて頼む、男たちも首を垂れる者に折れ、公認し、髪を染めなおし整えて応える。  模試、平手打ち、仲違い、ノートに書き込む自問自答、限界、雨の中で向かう先、詰め込まれた思い出、笑顔、隣で打ち明け、酒場で話しぶちまけ合う溜め込んだ想い。  突き飛ばすなら、いがみ合うなら振り上げぶち壊してしまいたい「隔たり」、聞く気がないなら胸倉を掴んでも叩き込んでやりたい叫び。 憧れを見に行き固める決意、成し遂げてから再会するため、夢が叶ってから撮るため、自分を変えるため、家族を変えるために。改めて交わす挨拶。  毎日自転車を漕いで向かうために、息子と自分自身を解放するための“儀式”、謝罪、家族を奮い立たせるために見せるもの。 窓の外に拡がる光景、バス、娘であれ家族であれ誰であろうと放っておけないどうしようもない親父。息子を叩いていた手で雪をかき分け、それを突きあげエールを送り、壊れたものを直し、支える。別の男も気になる娘の声が聞きたくて努力を続ける。  恩師と渡し合うもの、よれよれになった辞書に描き込まれる“お守り”、手紙、祈り。  迷いが無くなった指先、呑み込んだら襲い掛かるトラブル、駆け込み走らざる負えない痛みとの、己との戦い。逃げ続けた者が「やり遂げる」ために何度でも戻って来る姿よ! 孤独を支える電話の向こうの声援、思い出す表情と言葉。  結果よりも大切な、待ってくれていたもの、会いたかったもの。欲しかった画面と向き合う決意、抱きかかえ祝うもの、緩やかな斜面で読む手紙。  例えダメだったとしても挑み続けること、記念撮影。男たちは恥を捨ててクマのぬいぐるみ一つ抱いて立ち尽くし、駆けて飛び乗って来るものに何も言わず背中を預け「応える」。  蘇るあの日の記憶、手を振って送り出す旅立ち。  塾長が箒をギター代わりにロックに、誰かに伝えるために笑い歌いあげる締めくくり。誰かに歌を送るためならいくらでも恥をブン投げられる女たち、男たちの笑顔が眩く輝く。
[DVD(邦画)] 9点(2016-12-15 04:20:26)
48.  96時間 《ネタバレ》 
この映画は、孤独な男が娘を見守り続ける平穏から始まる。  誕生日、ビデオ、母と娘を映す誰かの視点・暗い部屋で見つめる写真。 プレゼント、パーティー、抱擁、繰り返される撮影、馬、プレゼントの差。  扉を開けたら押しかける仲間たちの慰め、護衛仲間とトランプ 電話。   激しい戦いが起こるだろうと期待を抱かせるのは、10分を過ぎた辺り。 優しき父親は危機を察知すると仕事人の顔つきになり、キャメラも微かに揺れ出し不安を煽るようになり、押し寄せるファン、影に潜む刺客を取り押さえ守り抜くボディーガードの身のこなし。  一息、カフェで家族団欒…できない渡される紙とペン。  地図、別れの撮影、「電話してね」とお父さんは心配なのです。  ナンパ、観客に予告してしまうもの、「裏窓」さながらに窓の向こうで目撃するもの、嘆きを聞いて即座に行動に移るプロフェッショナリズム、アドバイス、ベッドからの視点・叫びだけが伝えるもの。  繰り返し聞いて得ようとする手掛かり、募らせる憎悪。  手掛かりを得るためなら壁を這いガラスをブチ破る! 残されたもの、推理、想像、情報収集、“鏡”に映っていたもの。  初対面に鉄拳浴びせまくる捜索者、巻き込みまくる大迷惑、狩人は車の中でとっ捕まえて殴りながら尋問、車を盗みまくる追跡、犯人も橋から飛び降りてまで必死、空回り。  女に執拗に絡むのは獲物を吊り上げ“信号”をつけるため。  腕に刺されたもの、布に覆われたもの。巻き込まれた女、女、女たちの顔、顔、顔。  斜面を敵の車ごとブッ転がしながら駆け下りるチェイス、窓に落ちるもの、壁だろうが建物ごとブチ破る。中指を立てる報告。 配線イジッてまた盗車。  ハンガーを折り曲げて吊るす治療、電話の行方。  手に刻まれた印、取り引き、声の“一致”。  机をひっくり返し、敵の得物で大暴れっ!!容赦なく拷問、膝にブッ刺す電気椅子、唾には電流でお返事、放置プレイ。  洗面所に隠していたもの、手から顔面に浴びせるもの、容赦なく引き金を引く覚悟、平手打ち。  オークション、窓の向こうで見たもの。  買い物、お約束…あるいは娘を救いたいがために信じられないパワーを発揮したのか、蒸気。  橋の上から船に飛び乗り、武器を手に入れ、扉の窓、扉越し、閉鎖空間における一騎打ち。  敏を割りまくり、足を引きずってでも迎えに行く!  締められる扉とともに終わる物語。  制作はあのリュック・ベッソンだ。 「レオン」で「リバティ・バランスを射った男」のクイズをジャン・レノに出題させたあのベッソンである。 ベッソンと監督のピエール・モレルはジョン・フォードの傑作「捜索者」も見ているに違いない。
[DVD(字幕)] 9点(2016-12-15 04:18:44)
49.  ミッション:8ミニッツ 《ネタバレ》 
この映画は、もしも運命を変えることが出来るなら…という願いも込められた作品なのだろう。 変えようと足掻き続けた者の、それを見守り続けた人々の表情と葛藤。  海岸沿いにそびえる摩天楼、列車、窓にもたれかかり眠りから目覚める男。 相席で話しかける者、胸ポケットから取り出すもの、電車内で蠢く人々、窓に映るもの、鏡、写真、列車内を奔る“風”が無情に告げる別れ。  目覚めた先で見たもの、窓の向こうで動く人々。  繰り返される光景と“8分”、視点変え、“変える”ための行動、登った先にあるもの。 ぶん殴ってでも黙らせたかった、救いたかった。 “戻る”度に刻まれる異変。  挨拶、聞き出す名前、人間観察、荷物、口づけ、中から外への追跡、隣に座った後にぶん殴る。  “出る”…いや“繋がる”ための足掻き。移動、懐中電灯でこじ開けるもの、紙に記る“印”、電話、駆け巡る記憶、焔。  突き付けるもの、扉が閉ざされるならこじ開けるまでよっ!  ポケットの中身、車越しに倒れるもの。  選択、共謀、迫り来る時間、時が止まったように残され完全に切り取られる“一瞬”、箱の中身。
[DVD(字幕)] 9点(2016-12-15 04:16:08)(良:1票)
50.  この世界の片隅に(2016) 《ネタバレ》 
それは、川を流れる船の「片隅」から見上げた光景から始まる。 雲が流れ続け無限に拡がる青い空。果てしなく続くその姿は最初から最後まで「誰か」を刺激し、「誰か」が描く絵、絵、絵で語り続ける映画だ。  心の中で繰り返される「誰か」の感情と想いは、夥しくため込まれ爆発する時を待つ。  橋の上で放り込まれた先での出会い、夜になったらおやすみ、夢のような一時、スイカが繋ぐ出会い。  紙も板切れもノートも地面も何でもキャンバスにし、水平線を引き描いて描いて描きまくり記録されていく風景、顔、月日、年、思い出。  彼女が描く絵は生き物のように動き出し、白波が海を走れば波は兎になって海原を駆けて行く。  思わずクスクス笑ってしまう微笑ましい光景の数々、いくらドジをやっても笑ってくれた平和な日々、結婚しても後退と接近を繰り返す恋愛が少女を大人の女性に変えていく、愛のある拳骨、思わず申し訳なさそうに目をつぶり笑ってごまかす反応、絶対に笑ってはいけないクソ憲兵との“にらめっこ”戦時下の人々に光をさす闇市、幼い頃の記憶が蘇る再会、紙に溢れる甘いもの、夢や希望。  どんなに世界と人が変わろうが、女たちは“抗う”ことをやめない。 風呂に浸かり、汗を流し、飯を喰らい腹に詰め込み、服を仕立て直し、水の入ったバケツを担ぎ上げ、紙を奪われたら新しい紙を貰い続け、手を握り、引き連れ、腕を振り回し、歩いて、歩いて、歩き続ける。  着物を被り隠す黒髪、誰かに何かを打ち明けたくても言えないものを背負い込むうなじ、白く輝き日に焼けたりもする細腕、脚、口紅をさす唇、おしろいを塗りたくったり引っ張られたりする頬、顔。  料理くらい誰かに教える気分で、楽器でも弾くように楽しく作りたい、二人きりになったらキスくらいしたい。身を寄せ口づけを求めるのは、好きなのかどうか確認するため。両腕を布団にぶつけながら吐き出される複雑な想い。  やがて訪れる地面を曇らせる飛行機の影、戦争の音、警報が鳴る/鳴らないで変わってしまう警戒心。 死が迫り来る状況でも見つめ続けようとする絵描きの性(さが)。爆撃機が鳥の大群のように空を覆いつくし、炸裂する砲撃や爆弾の煙さえ、彼女にとっては格好の題材になってしまうのだろう。  男たちはそんな女たちに覆いかぶさり、抱きしめ守ろうとする。破片や機銃掃射が雨のように降り注ごうとも。頼まれなくたって生きて欲しいから。  終盤まで、空襲で焼かれた遺体といったものは徹底的に描かれない。あえて「見せない」方がかえって想像してしまい恐ろしいのだから。 波間を漂う帽子、“鬼”の石ころ、血まみれの服、ぽっかり空いた穴が誘う“死”、届かぬ声、閃光、振動、木に引っ掛かる飛んできたもの、座り込んだ「あの人」は誰だったのだろう。  暗闇で輝き散っていく白い花火、ひらひら舞っていく繋がった腕、花畑まで駆け込み微笑んで欲しかった“もしも”、もっと描きたかったもの、撫でてやりたかったもの。  布で覆い被してまで見せなかったものを「見せる」のは、戦争の悲惨さを伝えるためではない。どんなに傷つこうとも最後の最期まで抗おうとする人間の姿を「描く」ためだ。  生きる意思を放棄したはずの者が、燃え盛る焔を見た瞬間に無我夢中で叫び、逃げ続けるのを止め、何度もつぶってきた眼を見開き、布団を投げ飛ばし、体を投げ出すように火に飛び込み、倒れても這い上がり、バケツに入れぶちまけられる感情の爆発!! 心の溝を埋め距離を縮める歩みより、手助け、会話、髪を切る決意を語る瞳、「何処までも飛んでいけ」と追いかけ突っ走り、耐え続ける“理由”が無くなった途端に溢れ出る怒り、悔しさ、涙。  その姿は、幼い心にも焼き付いて離れないものとなって蘇る。 片腕が吹き飛びガラス片が幾つも突き刺さろうが手を握り、引き続け歩き続けようとした姿、座り込んでも…いや死してなおも庇うように。 子供も眠っているだけかも知れない、まだ生きているかも知れない、あるいは認めたくないからこそ必死になって群がる蠅を払い続ける。それを受け入れざる負えない流れ出る“死”。  失ったものを求めてさまよって、歩いて、歩き疲れた先でたどり着き、“見つけた”者と“探し続けた”者が地面に転がった飯の塊で結びつく。 女は黙って腕にすがりつく子供に隣を許し、暖かく迎え入れてしまう。  何も無くなったというなら、空で輝き続ける星の海を見つければいい、灯りを灯して暗闇を照らしなおせばいい。 居場所が無ければ探し、見つからないなら見つけ、作ってやればいい。 「なくなった」はずのものが釜を抑えながら飯をこさえ、「いなくなってしまった」ものを描き続ける。それは、こうの史代の想いでもあるのだろう。
[映画館(邦画)] 9点(2016-12-01 09:49:11)(良:4票)
51.  モンパルナスの灯 《ネタバレ》 
マックス・オフュルスが計画していた企画を、ベッケルが受け継いだ傑作。  人々が談笑し酒を嗜むカフェ、机の向こうを見つめ何かが終わるのをひたすら待ちわび、隣で見守り、窓の向こうで振り返り、何かを紙に書き続ける男たちの姿。 不満げな反応に酒代まで払うと言われ、それに紙を破いて返答する意地っ張り。この映画のモディリアーニは芸術家ではなく、酒と芸術に“酔った”ろくでなしとして描かれていく。  ベッケルの興味はモディ(モディリアーニ)の絵ではなく、彼そのものが破滅していく様にあるのだろう。「この物語は史実にもとづくが、事実ではない」と一応断りを入れて好きに描いてやろうという具合。  女と近づき寝るために彼女たちを描いているような気さえしてくる。熟れた御婦人も、うら若い乙女も、階段を力強く登り灯の管理も手ぬかりない大家まで心を奪われそうだ。  酒と雨を浴びるように楽しみ、貰ったばかりのマフラーもびしょ濡れにし、酒のツケはたまり放題、鍵が無いからといって体当たりでドアをこじ開け、酔った勢いで平手打ちを浴びせるなんてことも日常茶飯事らしい。  だが絵は売れなくても不思議と彼の世話をし“巨匠”と親しげにしてくれる親切な知人には恵まれる。 色男というだけじゃない。自分の好きなように絵を描き、それが曲げられるくらいなら殴り合いさえ辞さない覚悟、すべてに絶望した虚ろな眼差しを自身の絵にも描きまくり、己を貫くためなら死んでも構わないという危なげな姿をみんな放っておけず駆け寄ってしまう。だがその優しさも過ぎれば単なる甘やかし、モディを破滅に向かわせる原因の一つにもなっていく。  でも暴力を振るわれても隣に座り、甘い声で謝られてしまったら…モディに関わる女性たちは何もかも寛容に、気づけばほつれたボタンを付け、マフラーを首に巻き、一夜を過ごし肉体まで許してしまうのだ。繰り返される口づけのような抱擁。  閉ざされた扉を叩く虚しい響き、画塾に通い詰める人々のタッチとそれぞれのモデル、出遭った瞬間に惹かれ合い絵によって結びつく恋、扉を閉ざす待ち伏せ、鍵を閉める沈黙、ダンスホールで踊る人々を反射する鏡、外人部隊の国だからか黒人もアジア人も自然に溶け込む街。  葛飾北斎のように絵を広告として活用することを選んだ者も入れば、モディのように金で思うがままにされることを許せなかった画家たちもいただろう。 尊敬するゴッホを侮辱されたと思い“苦悩を忘れるためだ”と情熱を持って擁護する。表に裸婦の絵を置いて歓迎しているとは思えない態度だった者が、愛する者のために売り払い“かなぐり捨てる”ことが出来なかったくだらねえプライドが、あの瞬間だけ光り輝いて見えた。街の片隅でヴァイオリンを弾く孤高の奏者に向けたあの一瞬の輝きを。  女はそんな男を最後まで慕い続けた。札束も身も投げようと狂っていた男を正気に戻す女の眼差し。ベッドで睡眠を貪る傍らで内職までして尽くす。  その視線を誰も向けてくれなくなり、絵を突き返され金を“恵まれる”ことが繰り返された瞬間…高すぎたプライドは崩れ去り、絶望に向い歩み始めてしまうのだ。 薄れゆく中で見たもの…。    そんな彼等を嘲笑うように、黒い帽子姿で現れる死神のような画商。 くたばるのを待つように見守り続け、胸像を投げ破壊された窓ガラスの向こうでさえ挑発を続ける不敵な笑み。とぼけた表情で挨拶をし、馬車を走らせ、札束のように掲げまくる絵、絵、絵、顔、顔、顔!
[DVD(字幕)] 9点(2016-12-01 09:26:29)
52.  荒野の女たち 《ネタバレ》 
ジョン・フォードが本当に撮りたかったもの…それは女たちの生き様だったのではないか。  「我が谷は緑なりき」や「怒りの葡萄」の家族を支える女たちの、「駅馬車」で蔑まれている中だろうが赤ん坊を救うことを選んだ女の、「馬上の二人」の連れ去られ差別に苦しんだ少女の、「メアリー・オブ・スコットランド(スコットランドのメリー)」の王女になってしまった女たちの孤独。  野郎が跋扈する「三人の名付け親」や「捜索者」ですら、男は母親の様に子供を抱きかかえていた。いなくなってしまった女たちの代わりを果たしたかったかのように。  この映画は、冒頭の馬賊が駆け抜けるような映画ではない。理不尽な現実に打ちのめされ、それに抗おうとする弱者たちの静かな“怒り”が渦巻く映画だ。幼い子供たちの、彼等を守る女、女、女たちの。  馬賊たちは後の災厄を予告し、動乱の中国大陸に脚を踏み入れ取り残された人々を振り回していく。   馬に乗って僻地にやって来たカウボーイのような井出達の女医。このアン・バンクロフトのカッコ良さと言ったら。厳粛なキリスト教を笑い飛ばすように煙草をたしなみウイスキーを愉しみ、祈る暇があったら自ら行動し、家族や組織といったしがらみを拒むように孤独な様子を覗かせる。  それが運ばれてきた負傷者を見るやいなや医者として迅速に行動を起こし、病が発生すれば家中を駆けずり回り、貴重な水でも犠牲者を減らすために投げ捨て最善を尽くす。   隔離を告げる看板、ひたすら土を掘り返していた者が座り込み、布の下に眠る死者たちを想い打ちひしがれる。   一難去ってまた一難、建物の向こうで燃え盛る巨大な焔、門の前を通り過ぎる軍隊、扉を開いた瞬間に雪崩れ込む馬賊たち暴力の嵐。監禁と虐殺、けたたましい嘲りがこだまし頭がおかしくなりそうな閉鎖空間。それでも彼女は諦めず己を貫き通す。「汚い手で触んじゃねえっ」と言わんばかりに屈強な大男に平手打ちを喰らわせる気丈さよ!  女たちは老いたはずの肉体で新たな命を産み、女医はそれに応えるために壁を駆け上がり格子を握りしめ怒れるばかりに叫ぶのだ!!   馬賊たちとの取引、土埃にまみれた鏡を一目見て、ベッドに座り込み見せる弱さ、再び立ち上がり覚悟を決めた強さを見せる後ろ姿。虐殺を繰り返してきた者たちまで赤子の誕生に喜んでいるかのようにはしゃぐ奇妙な光景。   馬賊に尽くす女たちもまた犠牲者に過ぎなかった。代わりの女が来れば部屋から追い出され、用済みになればゴミ同然に投げ捨てられる。疲れ切った表情。  だが彼女は何度でも仲間の元に戻り、切り札を手に入れ、敵の懐へ飛び込んでいくことを選び続ける。椅子にふんぞりかえるのは身内同士の決闘で殺し合わせるため、服を着替えるのは寝るためでなく二人っきりの状況を作るために。  たった一人扉にもたれかかり、女たちを見送る視線。彼女が一度でも“祈る”ことがあるとするなら、それは見送ってやることしかできない仲間たちの無事くらいだろうか。   開かれた扉の先で待ち受ける野獣、杯に入れられる切り札、投げ捨てられる杯。医者の道を踏み外すようなことを選んでしまった・救ってやれなかった自分自身への怒りも込めて、彼女は投げ捨てるのだ。   最後の最期まで何かを“投げる”ことを描き続けた、フォードらしい締めくくりだった。
[DVD(字幕)] 9点(2016-11-24 22:41:14)(良:1票)
53.  ザ・ウィメン 《ネタバレ》 
ジョージ・キューカー最高傑作。  とにかくこの映画、女性しか出ません。赤ん坊から婆さんまでみーんな女、女、女。幼い子供だって立派な“女”。宝塚みたいに誰かが男性役で出るとかもしません。   脚本も女性だし監督のキューカーだって筋金入りのゲイというより魂は乙女みたいなもんです。出てくる犬も全部メスだったかオスも1ッ匹くらいいたかな。  男の声すら出ないし、存在が確認できるのは受話器の向こう側だけ。劇中フィルムすら男は出てこない。  とにかく女達の怖さ、言葉による殴り合いや女の強さをこれでもかと堪能できる素晴らしい映画。  「イヴの総て」みたいに男の存在が女達を際立たせる事もあるが、これほど見えない男達の存在が女性を引き立てる映画もない。  メンツもジョーン・クロフォードをはじめノーマ・シアラーやロザリンド・ラッセル、ポーレット・ゴダード、端役にジョーン・フォンテインなど豪華だ。  超高級エステ・パーラーのマニキュリストが流した噂が、流れに流れてやがて一大スキャンダルに発展していく狂騒。   動物に例えられる女性陣のオープニング、犬の喧嘩がやがて女性陣のバトルに発展してく。 エステに励む女性たち、乗馬といったスポーツに精を出す親娘。あの馬もメスかしらん。 エステは女性の身体をかたどったボトルキャップも売る。  例の黒人女性は「風と共に去りぬ」にも出ていた。そういえば「風と共に去りぬ」も最初はキューカーが監督していたんだっけか。   悪態つきまくっていた女性がカーゴに躓いてまっ逆さまになるシーンは爆笑。アナウンスまでシュールだころ。   中盤のファッションショーは美しいパートカラーも楽しめる。当時の流行を覗く事ができる。 もっとも、ファッションショー後に黒服を脱ぐシーンが一番ドキドキしてエロティックなのだけれど。 ドアから出たらドアごとそのまま付き返すシーンもクスッとくる。  ミニスカでやるエクササイズはエロいが、女性としてはどんな心境なのだろうか。  今の時代は短パンやスパッツが普及しているけどさ。   後半に出てくるポーレット・ゴダードとクロフォードのキャットファイトも笑いが止まらなかった。  噛み付きまで繰り出すクロフォード。 つうかポーレットが可愛すぎて辛い。ショートパンツ姿が良い。  「モダン・タイムス」のポーレットもスンゲー可愛かったよ・・・。   泡風呂におけるクロフォードと女たちのやり取りも良い。  下の透明な水槽からクロフォードの脚がチラり。  香水の音ワロス。  クライマックスまで扉の中に閉じ込められたりと散々なクロフォード。  髪が乱れた感じもまた良いっす。
[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2016-11-19 01:44:10)
54.  ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション 《ネタバレ》 
前作「ゴースト・プロトコル」も面白かったが、今作もアイデア満載で楽しませてもらった。 監督のクリストファー・マッカリーは本作を撮る際にバスター・キートン「将軍(大列車追跡)」やハロルド・ロイド「要人無用」、ヒッチコック「汚名」といったアクションの傑作を参考にしたと言う。通りでトム・クルーズが何時にもまして危険極まりないアクションに挑んでいるワケだ。 いやマッカリーだけじゃない。「ミッション:インポッシブル」を最初に監督したブライアン・デ・パルマも、シリーズを引き継いできた制作のJ・J・エイブラムスもトムもそういった古典の色褪せないアクションを見て育ってきた連中だ。それを物語るようなファースト・シーンの素晴らしさ。  いきなり「何かが起こる」ことを静かに予告する原っぱが拡がる場面から始まり、草むらから現れるもの、飛行機を捉える視線、入り口が閉まり、プロペラが回り、発進しようと動き出したところで身を乗り出し標的を見定めるもの、飛行機めがけて突っ込み屋根の上まで走りしがみ付くイーサン・ハント! 一度掴んだら飛び立とうが絶対離さない、仲間がどうにかしてくれるだろうとひたすら耐え続ける信頼、侵入と脱出。  繰り返される上からの視点・机の上での話し合い・再会と別れ、レコードに記録された情報と罠、目の前で見せつけられる殺しと無力さ(アンソニー・マン「T-メン」を思い出すような光景)、記憶に深く刻まれる標的の顔、顔、顔。 拷問一歩手前でめぐり逢う天の助け、出会ったばかりなのに恐ろしく息の合った連携と格闘、一緒に行けぬワケあり。男はそんな女のために何度でも死線を掻い潜り戻って来るのだ。  仕事先に送る招待状、駅で通りすがりに渡す“通信”と“工作”手段、殺し屋だらけのオペラ会場、仕込みライフル、舞台裏での格闘、殺すための武器で命を救う狙撃、靴の受け取り、綱による降下と落ちてくるもの、トランクの行方等々スパイたちによる騙し騙されの暗殺合戦。  プールで泳ぐのは作戦で使えるか調べるため、水着で泳ぐのは彼女の行動力を知らしめるため、口紅に残された情報、作戦会議とイメージトレーニング、パラシュートによる侵入、水の流れる穴への落下…よく落ちること。止まった流れが戻るまでのスリル、激流の中だろうが仲間の道を開くために命を賭して仕事をやり遂げ、それを抱き抱え扉をこじ開けて応える仕事人たちの生き様。  握りしめられた情報、電気ショックを与えるのは蘇生させるため・別れるため、病み上がりで車もまともに乗り越えらない体だろうが関係ねえ、命の恩人追っかけて車とバイクの群が猛然と走りまくるカーチェイスへ!エンジンスタートと同時に後輪で薙ぎ倒しまくり、市街地の階段から路地裏、ハイウェイまで追いかけ続け体当たりでぶつかりぶっ飛ばしぶっ飛ばされまくり、車がお釈迦になろうがバイク見つけりゃソイツにまたがりバイクを弾き飛ばす!!  理不尽な御役御免、ドリルが穴を開けるものの正体、空港での包囲網を崩す雑音と誘拐と消失、会場で待ち受ける銃撃と変装と情報の奪取、カフェで確認する耳、眼、男と女の懐、周囲を蠢く黒服、瞳の向こうで嘲笑うクソ野郎を脅し返す“取引”の顛末。服を抱えて男が去り、男女が隣り合わせで座れば街中を走り回る最終決戦へ!  路上から路地裏・薄暗い建物内まで駆け込み、ガラスをブチ破る取っ組み合い、ナイフを抜き放つ一騎打ち、車から降りた者を誘うための“落下”、たちこめる煙の中に消える手、別れの挨拶。
[DVD(字幕)] 9点(2016-11-15 14:09:42)
55.  ハドソン川の奇跡 《ネタバレ》 
空を飛ぶ…いや“降下”してくる旅客機。 機内で必死に機器を操作し、声を掛け合い、見つめ、コンクリートジャングルの中に飛び込み爆炎に包まれ、黒いシルエットが起き上がり、朝日が疲れ切った瞳を映し出す。 男は夢の中の「もしも」に苛まれていたが、これから現実の世界で「もしも」について悩み向き合っていくことになる。  こんな恐ろしい始まり方だ。さぞかし切なくなるような、やるせない気持ちになるような映画をまたイーストウッドが撮りやがった(褒め言葉)に違いないと思いながら見ていくと、それは俺の勘違いだったようだ。  何せ飛び交う万の言葉とともに“奇跡”を成し遂げたすべての人々の行動を映し、優しく讃えてくれるようなアクションの映画だったのだから。  短いカットを交互にバシバシ挿入し、“あの日”以前/以後の人々の動向、離陸までのシークエンスを積み重ね、突然現れつぶてのように飛来する鳥の群れ、決断を迫られるパイロットたち、指示を出す管制室、押し寄せる水流の中で血を流すような怪我を押してまで避難を促し続ける客室乗務員、パニックになり恐怖に震えながらも隣人への思いやりを忘れない搭乗客、冷たいハドソン川に駆けつけ救命胴衣を投げまくり川の中から抱きかかえ防寒着をグルグルかけ帽子までくれた救助隊や警官たち、帰りを待つ家族たち、事故直後から何回もシュミレーションを行ってくれた同業者たち…様々な視点から“あの日”の真相に迫っていく。  それは粗探しのためではなくサリーたちの努力を証明するために。酒場のマスターや飲み客たちも、タクシーの運転手も、疑問を投げかけるニュースキャスターたちも手のひら返しを喰らわせるどころかサリーに“ヒント”すら与えてくれる。  そして、サリーはそんな人々の行動に刺激を受け、一人の仕事人として、一人の人間として誇りをかけて“あの日”との決着を付けに行くのだ。 若い頃から師や仕事仲間といった“命”を乗せて様々な飛行機を操縦してきたサリー。1人だろうが155人だろうが変わらない“重さ”の命を。 機が着陸しても沈みそうなら沈む前に最後まで機内を見回り、降りてもしばらく観察を続け、仕事が終わっても制服を中々脱げないくらい打ち込み、何処かへ走り出さずにはいられない根っからの仕事人。いざ休もうとしてもマスコミが押しかけ取り囲まれ、TVを付ければどのチャンネルでも同じ話題で持ちきり、公聴会ですら録音を聞かされ“あの日”に引き戻される。そりゃあ何も聞こえない場所まで走りたくもなりますよ。 でも彼は走ることをやめニュースに耳を傾け、もう一度立ち向かうことを選ぶ。  そこには、計算に計算を重ねた機械以上に精密かつ力強く動き、限界に挑み超えていける人間の姿がある。 それは“あの日”に関わった人々へのエールだけでなく、イーストウッドが尊敬するハワード・ホークスやウィリアム・A・ウェルマンといった飛行機乗りだった映画監督たちへの思いも込められているのではないだろうか。人間の可能性を見つめ続けた先人たちへの。  エンドロールまで讃えに讃えまくって笑顔で締めくくるのだから、まったくまいっちまうよ。
[映画館(字幕)] 9点(2016-11-08 00:28:41)(良:1票)
56.  幌馬車(1950) 《ネタバレ》 
赤狩り(レッド・パージ)の嵐が吹き荒れた時代に反撥を示したジョン・フォードによる、自由を求めてひたすら大陸を旅する開拓劇。  初っ端から銃撃に始まり銃撃に終わる映画だが、とにかく地味で、のんびりゆったり、とにかく平和。音楽も旅人たちを称える歌が流れるくらいだ。 ジェームズ・クルーズの「幌馬車」やラオール・ウォルシュの「ビッグ・トレイル」のように吹雪を乗り越えたり、異文明との衝突もない。だが面白い。  強盗団が店に押し入っている最中からいきなり始まり、広大な河を渡っていく幌馬車…いや馬、馬、馬の群れ。馬の売買を生業にする牧童(カウボーイ)コンビとモルモン教徒たちの出会い。予告される彼等と強盗団たちの遭遇・何時出遭ってしまうのか分からない緊張。 保安官には口笛で暴走するような馬を売りつけたりする牧童たちだが、頼まれ引き受けた依頼は最後までやり遂げるプロフェッショナルだった。コラル(馬を囲う柵)の中でいななく馬たちを背にし、ナイフで木を削り話をまともに聞いていたのかも分からなかった二人がだ。  角笛のユニークな響きと共に出発し延々と連なる幌馬車隊を眺めているだけでも面白いが、ユーモア溢れるやり取りが程よく挿入され退屈しない。  芸人一座(三人)との出会い、何も言わずフラつく御婦人を支えに行くハリー・ケリーJr.の紳士振り、拾った酒瓶をはたき落しブッ倒れる気丈な女性、ほとんど喋らない赤毛の女性(是非ともカラーで見たかった)、尻を付き合い取っ組み合う喧嘩、水を勢いよくぶちまけ馬と観客をビックリさせる色っぽい場面、水場があると分かり銃声の音で猛烈に雪崩れ込む幌馬車の轟音、鞍を外して馬ごとつかる水浴び、罵声を浴びせても謝罪する馬にも何にでも優しい気遣い。  不穏な空気が流れるのは、モチロン例の強盗団が不意に現れる瞬間からだ。ライフルを構えたまま何時“しでかすか”分からない連中相手でも暖かく歓迎するワード・ボンド。彼は「作り話さ」とモルモン教…いや宗教そのものを小馬鹿にしたようなことも言うが、最後まで幌馬車隊のまとめ役を果たす男だった。  犠牲者を出さないために絶対無理をしない・出来ない、だから雪山も登らない、ナバホ族(自由を奪われた者同士の共鳴)と遭遇しても自ら武器を捨てて言葉を話せる人間を探し出して交渉。仲間たちもそれに応えるために“発見”したものを知らせるべく凄まじい速度で馬を飛ばして(しがみ付いたりして)引き返し、一緒に踊り、“しでかした”やつを車輪に縛り付け鞭を喰らわせ、隠し持った拳銃を受け渡し、インチキ役者とその嫁は勇気を振り絞り危険な岩肌を超える役を買って出たり、撃たれたら一瞬の銃撃戦ですべてを終わらせる。“蛇”がいなくなったら不要なものは投げ捨てててしまえばいい。 また同じような危険に遭遇するかも知れない。だが、男は旅をする仲間たちを信じているからこそ凶器を捨てることが出来るのだろう。
[DVD(字幕)] 9点(2016-11-07 13:42:23)(良:2票)
57.  サリヴァンの旅 《ネタバレ》 
メチャクチャ面白かった。フランク・キャプラ「或る夜の出来事」にも通じるロードムービー、コメディ。  本をめくるように始まる物語、いきなり煙を吹き出しながら突っ走る列車と車上での格闘、連結部分で揉み合い、拳銃を撃ちまくり、口から溢れ出る血、締められる首、橋の上から投げだされる身体…を試写室で見て文句を言う映画監督の御登場。 そうやってこの映画は始まる。  けたたましくまくし立てる口論、ドアが開かれるのは試写の終わり、主人公が出かけるまで延々とくっちゃべり続ける。ズタボロ衣装とベッドの上で電話をかける女性の豪華な衣装の対比がウケる。  旅だってもでっかいキャンピングカー?に乗り込みカメラを抱えてゆっくりじっくり追いかける魂胆の映画人たち。コックまでいるんだからタチが悪い。  そしたら救いの手といわんばかりに車が通りかかり、猛烈なスピードでぶっ飛ばしてハイウェイを駆け抜ける!バスもフルスピードで追跡開始で中はグッチャグチャのしっちゃかめっちゃか、映画人は助手席で揉みくちゃになり、女性はスカートがめくれて下着も丸見え、黒人のコックは天井を突き破り、バイク乗りの警官も泥まみれの鬼の形相で追いかけるカオスなカーチェイス、主人公が乗った車も運転手は子供だわメーターも手描きだわ藁を山ほど積んだ馬車に突っ込んでと、ありとあらゆるものが暴走していく破天荒振り。  ここまでまだ15分である。ディズニーも赤塚不二夫も顔負けのハチャメチャ。こりゃあジョン・ラセターもイーストウッドも惚れ込むワケだ。  あれだけムチャクチャな目に遭ってもこりないんだからヤレヤレ。  虫に刺されながらの薪割り、映画館で黙って見れないガキども、食いもんむさぼるオッサン、反応を気にしながら映画を見続けなきゃならない作り手も大変だ。  変なおばさんにはドアの鍵を締められ閉じ込められ、ベッドで誘うように待つBBA、ふとんのシーツをロープがわりに脱出、釘が引き裂くもの、樽の中に落下してずぶ濡れとふんだり蹴ったり。 肖像画のとぼけた顔がまたムカツク。  ヒッチハイク、カフェでの出会い、煙草のやり取り。  出会ったばかりの女性とドライブ、バックミラーに映るもの、投獄され巻き込まれる。  車内電話、豪華な家でプールに突き落とされ、説教たれるやつは引きずり込んでしまえ! ローブ姿のセクシーなヴェロニカ・レイクもいいが、豊かなブロンドを帽子にしまいこみ男装する姿も可愛い。 ブラシで髪をとかし、せっかく着替えたのに今度は執事が…w  労働者たちに交じり一斉に列車に乗り込み、先にいたホーボーたちは気を利かせてか板を掴んで隣の車両に去っていってしまう。 寒い中で身を寄せ合い、敷き藁の匂いでくしゃみを連発、彼女を抱えて降りる。  喫茶店のオッチャンの気遣い、インタビューを中断するように口に体温計を突っ込む医者。 蒸気と透明なカーテンが隠すシャワー中の裸体のエロティックさ。  その後しばらくサイレント映画のように映像だけで語り続ける。この辺から物語はがらりとシリアスになっていくが、散々喋りまくりバカ騒ぎをしてきただけにこういう場面がグッと効いてくる。 貧しい生活の中で生き抜く人々との出会い、寝ようにもノミが体中にたかり、共同シャワー、講談、食事、足の踏み場もないくらい狭い場所で眠る人々。隣の人の手足がぶつかり、気づけば脱がされる襤褸靴。 職を求めて看板を体中に括りつけ、夜の湖畔を二人で歩くロマンチックな場面も。ゴミ箱をめぐる葛藤。  贈り物、下手な施しは災いを誘発し後に続く歩みを生み、待ち伏せ、一撃、奪われるもの、線路に散らばり接近する光とともに消えるもの、血に塗れた名刺。  目覚めた先で喰らう一撃、握りしめてしまう石、視線がおぼつかない裁判、ショットガンを抱え平手打ちを浴びせる保安官、鎖に繋がれた囚人たち。  川沿いで汗と泥にまみれる労働、ポケットに詰め込まれた新聞が知らせるもの、閉じ込められるもの。  教会での上映会、黒人たちの歌声。霧のかかる教会の前を通り過ぎ中に入っていく囚人の群れ、鎖。 消される灯、ミッキーマウスの映画!?一人だけ観客の反応にビックリしていた監督も思わず笑ってしまう。嫌なことは映画を見て忘れてしまおう…今まで抑圧されていた分狂ったように笑う囚人たち。  墓参り、映画に刺激を受け、決意を固め、駆け寄り、帰還を知らせるもの、それを見た瞬間に仕事も忘れて夢中で駆け出し人をぶっ飛ばしながら爆走し、みんな大騒ぎで迎え入れる光景が笑って泣ける。  クライマックスに押し寄せる笑顔、笑顔、笑顔。あまりにの畳みかけにちょっと怖かったが、なぜ映画監督を続けていくのかという理由がこの瞬間に詰め込まれる。
[DVD(字幕)] 9点(2016-11-03 21:39:16)(良:1票)
58.  バウンド(1996) 《ネタバレ》 
「マトリックス」はあまり好きじゃないが、この映画は面白かった。  ウォシャウスキー兄弟(姉妹)がねっとり練り上げたネオ・フィルムノワール。 後の作品の様に撮影技術はそれほど盛り込んでいないが、それでも天から事の成り行きを見守るような視点が幾度も挿入され、酒瓶の栓を抜く瞬間に幾つにも増える虚像、スローモーションによって引き延ばされる死…等映像的なこだわりを覗かせる。  クローゼットの中に響く女と男の声、瞳を閉じた女の顔。そこから過去へと飛び、ことの真相を解き明かしていく。  配管工の力仕事を生業にするボーイッシュなコーキー、女として死と隣り合わせの生活を送るヴァイオレット。 コーキーは「女」であることを嫌がるようにジーンズや男ものの下着を身に着け、肉体に刺繍を刻み、工具と汚れにまみれて男らしく振る舞う。殴る時は拳を握りしめて。 ヴァイオレットはスラッと伸びた脚と胸元を強調する「女」とし生きてきた。殴る時も平手打ち。  そんな二人は理由もなく惹かれていく。エレベーターでふと視線があった瞬間から。  脚を眺めるコーキーの視線は野獣のように、ヴァイオレットの腕は誘うようにコーヒーを差し入れ、水道に何かを落とし、相手の手を握る。  二人が抱える大きな闇、壁から聞こえてくる声、声、声。 星の輝きは女を酒場から追い出し、繰り返される電話は線となって二人を結びつける。  二人の仲を邪魔する様に登場してくる野郎どもと血なまぐさい出来事。 ベッドの上と酒場で交わされる女たちの関係、手の動きと二人の愛はもう誰にも止められない。  野郎どもは壁が薄かろうが厚かろうが何だってしちまう連中ばかり。それが二人の決意を固めることになる。 何かを言いたそうな眼差し、車から摘み出されトイレに押し込められ、隣の便器と水に響き渡る暴行、ペンチが落とすもの。  裏切り、共謀、水場に詰め込まれる戦利品、ベッドの上に置かれる覚悟の証、ピアスがこじ開けるもの、カバンに詰め込まれたものが引き起こす怒りと衝動。  二人は恐怖に怯えながらも相棒を信じ続け、ひたすら見守り続け耐える。いつ暴発してもおかしくないマフィアたちを振り回して。  机の上に突き付けられるカバン、鍵、壁に刻まれる穴と死の連続。 模様替えで隠されるもの、染み出てしまうもの、垂れ落ちてしまうもの、タオルが覆うもの、ペンキの中に入れられるもの、部屋中を荒らし泣き崩れる狂気。  わけもなく飛び出し扉を開き乗り込むのは、拳銃突き付けられようが一発ぶん殴ってしまうのは相棒から寄せられた信頼に応えるために。 どんな状況でも不敵な視線を送り続ける男らしさがたまらない。相棒もそれに応えるために風呂場をかき分け、服を整え、誘い出して走り出す!  最後の最後までペンキと血にまみれる命の奪い合い、開かれる扉。
[DVD(字幕)] 9点(2016-10-02 08:07:32)
59.  鳥(1963) 《ネタバレ》 
恐怖とは不意に襲い掛かって来るからこそ面白いし、その謎が解き明かせないからこそ恐ろしいのである。 この映画は、並のホラー映画よりもおっかない作品だ。  冒頭から鳥、鳥、鳥が泣き叫び空を覆いつくすように飛び交い、部屋中に閉じ込められて人々の視線を集めるように登場する。 鳥たちは「何か」をしでかすことを予告し続ける。それがいつ来るかはわからない。その瞬間まで緊張させ、油断させ忘れた頃に“思い出させる”ために。  二人の男女が出会い「鳥」によって接点を持つ微笑ましいやり取りでさえ、籠が開かれたら鳥はいつでも飛びたつのである。  そんな鳥たちが待ち受けるとも知らずに女はわけもなく男を探す旅に出発し、男も彼女を誘うように瞬く間に実家に帰ってしまう。  退屈な方が平和だった映画と地方暮らし、美しい案内人、船に乗り込む接近。 エンジンを切るのは気づかせないため、泥棒か殺人鬼のように静かに扉を開けズカズカと家に侵入してしまう人間の恐ろしさ。ヒッチコックの他の映画ならこの時点で2,3人殺しているレベル。  船上でこっそり見守り、視線が合うのを待つように留まるのは見つけ出して欲しいから。見つけて欲しいのは彼を驚かせたいから。だが、男は別のことに驚き船に飛び乗ることになるのだ。  鳥は二人を接近させるために飛ぶのではない。人々を混乱に陥れるために縦横無尽に飛び交うのである。押しかけ美人も、好青年も、幼く可愛い妹も、美人の母親も、クールな先生も、酒場の変人たちも、町中のあらゆる人間の「今まで」を破壊し恐怖のどん底に叩き落すために!  けたたましく響き続ける音、音、音、血まみれにするために突き立てられるくちばし、嘴、嘴、部屋中に散乱する羽、羽、羽。  鳥たちは自然災害のように出現と消失を繰り返す。時として音もなく、気づいたらそこにいる。 それでも人間たちは外出をやめることは出来ない。知人に会いたい、何かを知らせるために衝動的に・どうしようもなく体が動き走り出してしまうのである。脚本の都合上(ry  外にいるなら上空から降下して襲い掛かり、風船を割り、頭を突き薙ぎ倒し、中に入ろうが煙突から侵入し、窓を閉めようが窓ガラスに体当たりしブチ破り、眼鏡を叩き落し、窓を塞ごうが弾丸のように押し寄せ壁に穴をあけまくる! 乱れた髪、割れた食器、ガラスを突き破り部屋中に散乱する亡骸。  襲われてパニックになった人々の挙動もおっかない。 うつろな眼差しで扉の外を見たり、声が出せないほど口を大きく開け駆け込んだり、眼を開いた瞬間に何も無いはずの空間で何かを払うように腕を振り回したり。瞬きが出来ないほど肉体に刻まれた恐怖。 言葉だけでは誰も信じない。この目で見るまでは情報を交換し余計に混乱させるだけで何の対策も打とうとしない。ガソリンが地面を流れようが誰も気づかない・気づいた時にはパニックで我をわすれている。人々の行方は誰も知らない。挙句には他人のせいにして八つ当たり。まったく人間て奴は恐ろしいねえ。  しかし人々は鳥を殺そうとしない。 身を守るために服で振り払い、ホースの水を浴びせる程度。それは鳥に親しみ愛する人間が多かったからというのもあるだろうが、何より恐ろしいから、災害のような相手に何をしても「無駄」だということを知っていたからなのだろう。怒りで石を投げようとする者の動きすら止めてしまうのだから。  鳥も動くことを止めようとしない。いつでもまた飛んでやるぞと群をなして待ち構えるようにすらなるのだ。地面を覆いつくし不気味に静寂しながら。
[DVD(字幕)] 9点(2016-10-02 08:06:28)
60.  ペーパー・ムーン 《ネタバレ》 
友人であったオーソン・ウェルズのアドバイスを受けた、ボグダノヴィッチの傑作。 「殺人者はライフルを持っている」や「ラスト・ショー」、後の「マイ・ファニー・レディ」でホークスやプレストン・スタージェスへのオマージュを捧げてきたボグダノヴィッチ。本作はあえて白黒で撮られ、舞台を中西部に変更したのもボグダノヴィッチの懐かしき時代へのリスペクトだろう。 同時期に「都会のアリス」を撮っていたヴィム・ヴェンダースもさぞかしたまげただろうねえ。どっちも素晴らしい映画だけに。  少女が見つめるもの、葬儀、道の向こうを奔る車、他人の墓から花束をぶん奪って参列する男、エイメン(AMEN)。 風が吹き荒ぶ原っぱ、ポンコツ車で少女を連れていく旅の始まり。  この娘が最初可愛くないんだか可愛いんだか仏頂面、おじさんもかっこ悪いんだか何だか。 そんなデコボコな二人が徐々に表情を和らげ、距離を詰めていく様子が面白い。遠くから徐々に近づくショットで話し合う人々の表情を繰り返し強調する。  ドアを閉めて子供を送り出したら詐欺師の仕事開始。慣れなれしくお尻を触って追い出すのも、まだ単なる子供扱いだから。 風を受けて回転するエンブレム、ポケットに託される資金、食事を通じて親子のような関係に近づいていく二人。少女の叫びを正面から受け止め、拳を机に叩き込む口喧嘩。  車で街をめぐる旅、「隠れろ」と言った理由、新聞に刻まれた印、後部座席に積まれていたもの、真実を知って苦い顔をせざる負えない。 帽子を脱がないのはまだ他人だから、預かった子にベッドをゆずり自分は雑魚寝、煙草を吸うのは「子供扱いしないで」というアピールと背伸び。  胸に輝く星に遭遇するピンチ、思わぬ「パパ」の声。  仏頂面にはリボンをプレゼント、帽子を脱ぐのは親しくなっていくから、子だくさんには無料サービス、訪問先に拡がる憧れ、運転中の喧嘩。  帽子を投げつけズボンだけ脱いで寝る男を他所に、箱の底から探し出すもの、鏡を見ながらアクセサリーや香水なんか付けたりしてにんまりするのが可愛い。 床屋、男の子じゃないもん(ドアを蹴り開ける)、札束とレジ打ち機の数字、必殺泣き脅し、書かれた文字、新しい“ドレス”。  遊園地、わたあめ、親子のように「パパ」にねだり、微笑む月は待ち続ける。  ハーレム、女と荷物を乗せて走る横移動、詐欺師しか注意しない喫煙(当たり前のように火を貰うなww)、席を取られ、付き合いの長い男を奪られ遠くで座り込む嫉妬、女どうしの説得。 揺れ動く腰を見つめる野郎どもに呆れ、独り寂しく煙草を吹かす。  ホテルでの一件はサスペンスフルな展開に。 暖房器具をよじ登り、窓の先から覗いたもの、朝食の間に行われる共謀、ホテルの受付から引き出す情報、原稿を作る練習、階段を登ったり降りたりを繰り返し、ドアの前に置かれる贈り物、交わされる視線、ドアの間から覗く視線、手を振り合う別れ。  煙草をやめるのは男を「パパ」のように慕い親子のような関係になっていったから。開かれたドアから出る者、窓から見つめるもの、追跡、茂みから覗くもの、開けられるもの、渡されるもの。  侵入、接近と交渉、運び出されるもの、近づくもの。闇夜で不気味に光る煙草の火。  保安官たちとの遭遇からホークス映画さながらのスリリングなアクションも展開される。 後ろからジリジリ近づく音、ライトが光り音が鳴り響くのは存在を知らせるため。箱、運ばれてくるもの、差し出す両手、弾を確認し構えられるショットガン。 帽子に隠される“顔”、容赦なくひっくり返され砕かれ放り投げられるもの、帽子が掴むもの。  廊下のコーナーで一瞬見せるジョン・フォード「駅馬車」のジョン・ウェインを思い出すようなショット、コーナーを曲がったら駆け出し階段から落とされるもの、車に乗り込んだら猛スピードでぶっ飛ばして走り出せ!河の前で急カーブ、警察とのカーチェイス、障害物がありゃ斜面を登り追い越す。  追手を撒くための車探し、挑発的な交渉と決闘、一撃。  受け継がれるエンブレム、ドアが外れるようなオンボロ、運転を任せ後押しするようになった信頼関係。  扉を開けた瞬間に待つもの、先回り、鬼ごっこ、路上から飛び降りる追跡の行方。  ボロボロになっても送り届けられるもの、座席に残された贈りもの。  サイドミラーに映るもの、投げ捨ててもまた拾い上げればいい、抱え込んで乗せてやればいい。車は旅人たちを誘うように坂を走り出し、道の彼方へと消えていく。
[DVD(字幕)] 9点(2016-09-28 16:15:12)(良:1票)
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