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すかあふえいすさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1047
性別 男性
年齢 30歳
自己紹介 とにかくアクションものが一番

感想はその時の気分で一行~何十行もダラダラと書いてしまいます

備忘録としての利用なのでどんなに嫌いな作品でも8点以下にはしません
10点…大傑作・特に好き
9点…好き・傑作
8点…あまり好きじゃないものの言いたいことがあるので書く

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1.  殺し屋ネルソン 《ネタバレ》 
俺が見たのは海外で販売されたVHS。画質は悪かったが、この映画の面白さを損なうものじゃなかった。  コイツは間違いなくドン・シーゲル初期の最高傑作だ。  圧倒的破壊の全力疾走で見せる見せる見せる、これぞギャング映画と言わんばかりの面白さ。   「ダーティハリー」や「ラスト・シューティスト」といった初っ端からブチかます作品群と比べると、この映画は最初ブッ放さない。  徐々に速度が加速していくタイプの撃ちまくり殺しまくり映画だ。   実在したレスター・ギリス(ベビー・フェイス・ネルソン)の伝記としては実際のネルソンとかなり違うが、アクション映画としてシーゲルのやりたい事が詰め込まれた素晴らしい出来となっている。 ミッキー・ルーニー演じるギリスの凄味!   ビルの群れ、人の群れ、刑務所、ナレーションによるギリスことネルソンの紹介。刑務所を出ていく影、その直後に「Baby Face Nelson(殺し屋ネルソン)」の題名が出る。  迎えの車に乗り、目的地に着き、アジトの階段を上っていく。二人の会話が終わってからやっと人物クレジットが出る。   葉巻の煙を払うように「もう殺しはやらん」とサイレンサー付きの拳銃を返し一度は断るが、運命はギリスを再び殺し合いの中に引きずり込む。   刑務所から解放された喜びからか、浴びるように風呂ではしゃぐ。  久しぶりにあった女と熱いキスを何度も交わす。伝記の白熱球をひねって消し、情事に入ろうとする。その後にちゃんと電球を戻す律義さ。殺し屋としての血がうずく新聞記事。 ヒロインはバーバラ・スタンウィックやクローデット・コルベールに近いタイプのキャロリン・ジョーンズ。   点滅するネオン、バスルームに押し入られ、身に覚えのない拳銃という“罠”、ツバには腹パンで返答される!   さあギリスの“ネルソン”としての復讐劇が加速するのはここからだ。  列車、女が転ぶのはかがんだ標的をネルソンがブチのめすため、銃を奪い、車で運んだ遺体を猛スピードで地面に叩き落とす!   階段に隠れ、ターゲットが上ってきた瞬間に瞬く間に3人を射殺し車で即逃げる。本も死体が音をたてて転がっていくようにバラバラ落ちる演出。   酒を取りに隙を見せ、背中を向けた男の首に銃をつきつける。ガラスを撃ち抜くが一歩遅く、彼等は夜街を駆け抜ける。   脚から胸にかけてのラインを見るエロ医者、何回女とブチュブチュやんだよギリスは(憤慨)。   大火傷を負い包帯で顔を覆った男が渡す新聞、闇夜のブランコで作戦会議。  オフィス襲撃時の緊張。  時計、アイスクリーム屋に化け、警備を潜り抜け、車内では息を潜めてトンプソンを構える。  煙、「STOP」のバーを脚でこじ開け、緊張の糸が弾けた瞬間にトンプソンは火を吹き、金を積んだ車を奪って乗り換え逃げ切る。   仕事仲間の墓穴つくりを、酒を飲みながら見るだけの医者。そりゃスコップも投げたくなりますよ。   日光浴中の彼女に布をかける不器用な愛情、脚に触るエロ医者への嫉妬、愛情の暴走も加速していく。  他の男とちょっと喋っただけでも怒鳴り散らす。防弾とはいえいきなりバカスカ撃つんだから怖い。「裏切ったらマジでブッ殺すぞ」という警告としての発砲。   酒屋の登場で油断した後に現れる“本物”、裏口からの脱出、森の中での銃撃戦、巻き込まれる一般住民。  郵便局員から銀行強盗への早変わり。銃をクリックして脅す。おっちゃん涙目。    女にうつつを抜かす者たちの破滅、新聞の写真に刻まれるマーク。  ネルソンの転落も加速していく。思わぬ情報の流出、指紋手術の失敗、触れない腕で怒りの殴殺と船でドンブラコ。  ラスト20分のフルスピード。  銀行襲撃までのシークエンス、裏をかいて仲間まで“裏切り”閉じ込め、客のいる室内に催涙弾をブチまける。  銃声に異常な反応を示すほど精神的にも追いつめられる。動物狩りを楽しむ子供たちを撃ちそうになる瞬間。  クライマックスのチェイス、警官のバリケードもブチ破り、バックミラー、“死に場所”への直行・・・近づくサイレン、もたれかかり「俺を殺してくれっ!!」の絶叫!凄いラストシーンだ。
[ビデオ(字幕)] 10点(2016-11-24 22:47:06)
2.  騎手物語 《ネタバレ》 
ジョン・フォード「香も高きケンタッキー」に匹敵する唯一の競馬…いや馬を撮った作品かも知れないボリス・バルネット「騎手物語(オールド・ジョッキー)」。とにかく愉快な映画だ。  フォード作品がジョージ・シュナイダーマンたちなら、バルネットはコンスタンチン・クズネツォフ(Константин Кузнецов)たちがあの素晴らしい撮影を手掛けたのである。 クズネツォフはレフ・クレショフ等と組んで「掟によって」や「偉大な慰め手」「ゴリゾント」「ドフンダ」「四十の心」「視力の奪取」を撮ったが、その実力はバルネットとの仕事でも存分に発揮された。   冒頭から馬、馬、馬が猛烈な速度で走って走って走る様をキャメラが喰らい付き追い続ける場面から始まる。サイレント映画のような早回しが凄まじい速度を引き出す。  古代の戦車のように巨大な車輪が付いた椅子に坐す繋駕(けいが)、それを引っ張り駆け続ける馬、吹き付ける風、なびくたてがみ、疾走を見守る競馬場の群衆。馬がゴールに近づこうというところで歓声が入り、1位の者に賞賛を、最下位には罵声を容赦なく浴びせる賭博者たち。てめえで賭けといて文句しか言えない連中に目の前で罵られるのだ。たまったもんじゃない。  回転扉は幾度も出入りする人々によって回されていく。主人公の老騎手、それのライバル的存在である黒いゴーグルをかけた老練騎手がカッコイイ。   勝負は競馬だけじゃない。腕相撲、祖父を思う孫娘がスカートのままパラシュートを付けて降下する時も群衆が取り囲んで見守る。このマリヤが元気で可愛い。   自転車乗りの少年はパンクしたタイヤの交換を手伝い(その直後に発進してまた事故るオバサンに爆笑)、床屋はバリカンで髪を刈り上げる(正面を捉えたキャメラがそのまま後退し鏡のように理髪師と客を画面に収める)。   列車に揺られて向かう街、子供だけが知っている落書きだらけの“抜け穴”、回転扉から飛び出した先で抱き留める再会、挨拶代わりに交わされる頬への口づけ、ミルク缶の一杯。  マリヤが興味あるのはお爺ちゃんのレースだけ、それまではレースにありったけのモンタージュを叩き込み素早く終わらせ、結果だけを映し賭博者たちを一喜一憂させる。  何も知らず美味しそうなスープとパンをムシャムシャ食べ、気づけば机の上は高そうな料理と酒瓶だらけ、相席になった女性に全部押し付けてトンズラする食い逃げ、注文を受けせっせと料理を運んできたウエイターはタオルを鞭のように叩き少女に迫る。それで食事代のために券を買って賭けてしまうのが面白い。  彼女の視点だからレースの始まりから終わりまでの過程をたっぷり見せつける。競走馬たちが一斉に振り返り、振り下ろされる旗とともに速度をあげてスタート。追い付き、抜かれ、また追い付きと横移動でひたすら捉え続ける手に汗握る瞬間。  思わず一緒になって拳を振り上げ、体を震わせ、ハラハラし、嬉しそうに向き合ってしまうウエイター。下げようとする酒を全部ミルク缶に入れて持って帰ろうとする彼女を手伝ってしまいサービス精神旺盛な良いオッチャンです。  ビリヤード場での休息と温度差、サングラスと手をあげて行方を教えてくれる紳士振り、哀しいパーティー、決意を覆す“出会い”。  馬が草をむしり家の中に朝日が差し込む湖水の夜明けの静けさ、起き上がり慌てて盗んだ馬車で走り出す激しさ。追う方も壁を乗り越え鶏を飼っている囲いの中に落ちながら塀を薙ぎ倒し川の中まで走って横断してしまう。   群を一斉に水辺へ走らせ、水を浴び、体を洗い、窓辺で馬を撫で、たてがみをとかし、ブラシをかける馬の世話ののどかさ。何度もやらかしたオバサンまで水をかけて餌を食べさせる世話をしてくれる微笑ましさよ。あまりにやらかすのでキャメラにすら呆れられたのか事故を映してもらえなくなる。トコトコ大きな馬の跡を付いていこうとして引き返す仔馬が可愛い。 へし折られる鞭と木の枝、乾杯。  馬車に揺られながら談笑し、馬が泥だらけのボロボロになる珍騒動、世代交代。   指を握り、蹄の音が轟き、影、暴走、卒倒、声援に応えるように猛然と追い上げるラストスパート!   花束を貰うのは勝利を祝うのではなく愛する人に捧げるため、扉が回転し続けるのは恋人たちを一緒にするため、サングラスを外すのは視線と言葉を交え握手をし健闘を称え合うために。
[映画館(字幕)] 10点(2016-11-19 01:40:17)
3.  雨に唄えば 《ネタバレ》 
ミュージカルって甘ったるいメロドラマや悠長な歌で退屈してしまう映画が多いが、この作品はとにかく踊って踊って踊る面白さ! ジーン・ケリーやドナルド・オコナーの物凄いダンス、デビー・レイノルズのパワフルな歌声。何気に暗黒街の情婦役でシド・チャリシーも出てんだね。「バンド・ワゴン」のチャリシーは凄えぜ。 ジーン・ケリーが剣戟映画のような動きをする場面は、自身も出演したジョージ・シドニーの「三銃士」へのオマージュがあるそうだ。  スケート靴で街を走り抜けるシーンが良い例だ。雨が振るなら土砂降りの中でも歌い続ける!そういう腹の底からエネルギーが沸き立つ作品だぜ。「雨に唄えば」の旋律が心地良い。  物語はサイレントからトーキーに移り変わろうとする時代。 「ジャズ・シンガー」のエピソードや、サイレント作品を無理やりトーキーにしようとする話はハワード・ヒューズの「地獄の天使」辺りのエピソードだろうか。  ジーン・ヘイゲン演じるリナは、サイレントという「温床」で悪声でも問題なかった時代の終焉を物語る。 「ハリウッド・レビュー」の“悪声オンパレード”で一体何人の俳優が地の底に堕ちていった事か。  舞台出身で声は問題なかったキートン等も、サイレント時代のイメージと合わないというだけで姿を消していってしまう。  サイレント時代の終わりは、同時に舞台でセリフやダンスを磨き上げた叩き上げのトーキー(喋る)役者たちの時代の到来。 ボードヴィル等で活躍したジェームズ・キャグニーやポール・ムニといった語りで魅せる役者たちのな。  そういうストーリーがあるが、終盤の華麗なダンスの数々はセリフが無くとも圧巻なサイレントの「魅せる」演出。それが面白い。美しい映像だ。  ジョージ・ラフトもどきが何人も出るのがまた楽しい。  キャシーが表舞台に出るラストは感動的だけど、リナはちょっと可哀想だなあ・・・なんて。  それにしても、ジーン・ヘイゲンは本当に名演。 ジーン・ヘイゲンの事を甲高いオバサンくらいに思っている人は、ジョン・ヒューストンの「アスファルト・ジャングル」を見てみると良い。低いトーンの女性らしい声なのだから。これが本来の彼女の声。 本当は上手いのに、ワザと下手なフリをするというのは簡単に出来る芸当じゃない。正しく彼女は女優です。
[DVD(字幕)] 10点(2015-01-21 19:55:39)(良:2票)
4.  風(1928) 《ネタバレ》 
この作品のリリアン・ギッシュはとにかく可愛いく、美しく、怖い。  列車からはじまるファーストシーン。外は猛烈な風が吹き荒れ、ちょっとでも窓を開けようものなら風がビュッーと砂を撒き散らして人々に襲い掛かる。  列車におけるレティとロディの出会い、 レティを迎えに来た兄のビバリーとお爺さん。奥さんが牛の解体をする傍らレティとコーラの子供たちはとても仲良く遊ぶ。あたしがこんな仕事をやっているって時にこの女は…とでも言いたげな表情。だからってそんな血まみれの手じゃ子供じゃなくたって驚くわ。  ダンスパーティー、レティを誘惑するロディの再登場、コーラの嫉妬の爆発、そこにサイクロン(竜巻)まで来る。避難所が常設されている辺り頻繁に来るのだろう。西部劇で竜巻に襲われる作品は貴重。幸いな事に竜巻で被害は出なかったが、レティが悩む度に画面に映される風は絶えない。  レティはコーラの虐めに耐えかねて家を出る。そして何を思ったか近くに住む荒くれ者のライジと婚約。ライジは喜んでレティを受け入れるが、レティはまだライジに心を許す覚悟をしていなかった。衣服を脱ごうとするレティ、ライジは既に夫になっているので遠慮はしない、レティはまだ恥ずかし気な様子。いやもうちょっと遠慮しろよライジ…抱きしめる時もちゃっかり胸に腕を回しやがって(終盤)。  ライジは不器用ながらもレティの夫になろうと努力するが、心が中々通じない事に苛立ちを募らせる。レティもまた吹き止まない砂嵐で徐々に神経をすり減らしていく。  二人の心が通じ合わず距離が開いた様子を足だけで伝える。レティは太陽が照りつける熱さ、砂嵐に怯えてどんどん神経をすり減らす。めまいがし、風で家が揺れ、窓ガラスが割れ、その衝撃でランプが倒れて火が付く!火の熱か音かレティは正気に戻って慌てて火を消す。もう彼女の精神状態は限界。そんな時に再びレティの前に姿を現す衰弱したロディ。それを運んできたのは兄のビバリーとお爺さんだった。ビバリーもお爺さんも去ってしまい、回復したロディはレティを再び誘惑する。レティは相次ぐ風、幻影、好色漢のショックで気を失ってしまう。  翌朝。嵐は去るが風は依然強いまま。レティは昨夜の出来事を思い出し、去ろうとするロディに向って…。ここからが怖い。埋めた筈の者が風によって砂の中から顔を出す瞬間…ゾッとする場面。男が扉を開け、レティに向う…!
[DVD(字幕なし「原語」)] 10点(2015-01-19 18:30:03)
5.  近松物語 《ネタバレ》 
太鼓の連打で始まる冒頭、店先の混沌から始まる物語。それぞれの仕事に打ち込む男女、劇中人物にとって変わらない日常の風景。それが金をめぐり周辺人物を巻き込みんで人々の運命を狂わせていく。 京都御所の絵巻を任されるほどの大経師である以春。御所との違法な取引、若妻をはべらせ女中にまで手を出す。女の胸元ではなく袖の方から手を入れるエロ親父。 その以春に半ば強引な形で妻にされた女性おさん。 以春に次ぐ発言権を持つ彼女だが好きでもない男に芽生える筈も無い愛情、自分を嫁に出した家族への複雑な気持ちで満たされぬ日々。 うら若き彼女は以春の下で働く絵師である茂兵衛の若さに惹かれる。その茂兵衛は既にお玉という女性と婚約を誓う仲。 お玉と親しい間柄でもある彼女は二人を見守ろうと思いつつもどかしさに悶える。 中盤の逃走劇、逃げ出した後を物語る扉、闇夜の水面に浮かぶ船の中で激しく抱き合う二人。一度は覚悟した“死”を引き止める“言葉”。 「愛しています」・・・普通ならどうとない言葉、だが自分を立場でなく一人の人間として尽くす心を理解した女にとって何物にも代え難い生きた言葉となる。死ぬのは嫌だ生きていたいと揺れる船の上で激しく抱き合う二人。 「今更何をおっしゃいます」っておまえが「好き」だなんて言うからだろうがまったく。二人は絆を深めるように幾度となく抱き合う。髪を乱し、愛故に逃げる男を愛故に声をあげ追いかける女。心臓の鼓動の如く轟く太鼓。 だが愛していた筈の男からその言葉を聞けなかった女はただただ辛い。残され生きながらえるよりいっそ一緒に心中しようと言われた方がどんなに気が楽だったろう。 逃げた男の父親・女の母親も相当辛い。そんな二人を怒りながらも助けてしまう親心。だが逃げる男女二人も本気だ。 「もう“奉公人”やない!あたしの“旦那”さんや」 終盤の怒涛の追い込み、愛する女のために戻ってくる男、どうせ捕まるならテメエも道連れだ以春。冒頭の栄え具合と終盤の落ちぶれ振りの対比。 ラストで手を繋ぎ、幸せそうな顔で“あの場所”に向かう二人。どんな形であれ一緒に結ばれた事に満足した顔。本当は悲しいはずなんだが、この場面からは充足感が伝わって来る。上から罪人を見るように映されるロングショットは街の人々の視点、下から哀しき恋人たちを映すロングショットは店の仲間たちの視線。
[DVD(邦画)] 10点(2015-01-16 22:06:57)(良:1票)
6.  結婚行進曲(1928) 《ネタバレ》 
まずは、私が投稿した要望に加筆・修正をして下さった鱗歌さんに感謝してもしきれません。誠にありがとうございます。  本作は個人的にシュトロハイムの映画の中で一番好きな作品。 「愚なる妻」のコメディタッチ版とも言えるこの作品は、自ら騎士の甲冑に身を包むシュトロハイムの姿で幕を開ける。 いつも通りシュトロハイムは好色な貴族として登場するが、今回は若く純真な様子も覗かせる。空中から映される市街と人の群れ、群れ、群れ、教会を行進する人々の群れを捉えた優美なショット。その部分だけテクニカラーのフィルムとなる。 またこの映画は“指”も象徴的に映される。 娘を物色する指、嫉妬で往復ビンタを喰らわす女の手の指、結婚が決まり期待と不安で胸を膨らます心理を表す指、指、指。 美しい平民の娘に心を奪われるシュトロハイム。零落の限りを尽くす男は何人もの女性と関係を持つ。部屋に散乱した女の服が昨夜の情事を物語る。 わざと事故を起こし娘を病院に連れ込みキッカケを作ってしまう周到振り。猛犬を餌付けで買収するなど手馴れたもの。肉屋の男と花をめぐるやり取りは爆笑。 月夜の晩に花が咲き誇る広場のなんと幻想的で美しい事。 二人の男の間で苦しむ娘は、激しく流れる川の向こうに黒い化身の幻影を目撃する。 まるで彼女たちの運命を嘲笑うかのように、甲冑に身を包み彼女そっくりな女性を腕に抱えて去っていく。その姿は彼女にしか見えない。 シュトロハイムも金目当ての政略結婚は嫌なようだ。結婚相手くらい自分で選びたい。 美しきその娘もまた、昔からの知り合いである肉屋の男が度々ちょっかいを出してくる。無理矢理キスするものならツバを吐かれる始末。ただ、次第に粗暴ながら自分の事を思う肉屋に心を動かされかける。 ラストの雨が降りしきる中での結婚式。 短いショットの連続で緊張感を高め、祝福と殺意が飛び交う会場。ピアノを弾く手が死神のような白骨に変わる。 シュトロハイムは自らの運命を受け入れ、娘もまた身を引く潔さ。 だが涙は嘘をつけない。暴力的だった肉屋の男も、ようやく優しく彼女を励まし支えていく決意を固める。 冒頭のシュトロハイム扮する騎士は、幻想に出て来た黒い化身に代わり幕を閉じる。
[DVD(字幕なし「原語」)] 10点(2015-01-02 21:36:05)
7.  フェリーニのアマルコルド 《ネタバレ》 
「アマルコルド」とは北部イタリアのリミニ地方の古い言葉で“エム・エルコルド”(私は覚えている)。 この映画は、1930年代を舞台にフェリーニが忘れられない1年を語り、春夏秋冬で彩られ2時間をあっと言う間に駆け抜けるコメディだ。 桜の花びらが舞い、春一番が吹く港町。 夜になれば、からくたの山に冬の女神の人形を掲げて火を放ち、寒い冬が明け暖かい春の訪れを祝う祭りを開く。 ブラスバンドの演奏を、拳銃や爆竹の“音色”で盛り上げる狂騒振り。劇中で幾度と無くバイクが猛スピードで路地を走りぬけ、盛大に燃やされる古い家財道具の山、盲目のオルガン弾きや狂女の、群衆が奏でるアンサンブル! 祭りは終わっても、街には人々の歓喜や悲鳴がこだまし続ける。 食卓での大喧嘩。息子がお手玉をしだせば、爺さんは屁をブッ放しオトンはキレだしテーブルクロス引きを失敗、オカンもブギレまくりの大騒動。お父さんの血管がいつ切れてブッ倒れるかと心配になる。頭にコブ?みたいな変な塊もあったし(お父さんの“マグマだまり”かな)。 それにしても、フェリーニのこの時期の映画はふくよかな女性が多いこと。あれだけふくよかな女性を下品かつ妙なエレガンスすら感じさせて撮れるのは凄い。 子供がその豊満なバストにむしゃぶり付くシーン。まったくエロくないのが凄い。それよりも、馬車の上でたたずむ赤いドレスマダムのの方がずっと色っポイとはどういうワケだ。服を一枚一枚脱ぎ、後はベットで愉しんで下さいってか。エロイッす。 ムッソリーニの出来そこない見たいな軍隊どもの行進。彼らはヴァイオリンの演奏に銃弾の雨を下から浴びせ、鐘楼を打ち落としその響きで演奏を締めくくる。 宮殿におけるアラブ風のベールに包まれた腰の締まった妖艶な美女たちのダンス。もっと長く見たかったなー。 夏には蝉の代わりに狂男が半日叫び続け、船に揺られて盛大に遭難。 霧の中でのダンスシーンは凄いぜ。霧がたち込め手探りで前へ進み、男たちは踊る女性の相手がいない寂しさを友達と手を繋いで埋めるのであった。 秋は車やバイクが猛スピードで走り去るようにあっと言う間に過ぎる。 冬は雪合戦でみんな真っ白、雪と共に広場に舞い降りる孔雀が美しい。 葬式でちょっぴりしんみり、その次は結婚式で新しい命が生まれる事を願いながら映画は幕を閉じていく。再び桜の舞い散る港を映しそれぞれの“春”を祝福するのである。
[DVD(字幕)] 10点(2014-11-30 10:44:00)(良:1票)
8.  オーソン・ウェルズのフォルスタッフ 《ネタバレ》 
オーソン・ウェルズは傑作が多いが、俺の一番好きな作品はコレだ。 大酒飲みでほら吹きな巨漢の男フォルスタッフ。大嘘つきで狡賢い存在なのだが、何処か憎めないというか、愛嬌たっぷりで可愛気さえ感じるくらい。 冬の森から小屋へと入っていく中年の男と、ずんぐりむっくりな巨漢の老人。二人が何やら怪しい算段をたてている場面から物語は始まる。 愉快な会話のやり取りの多さ、物語がサクサク進む小気味良さ。舞台劇をそのまま映画のスケールでダイナミックに演じてしまう面白さ!いや、フォルスタッフにとって人生そのものが一世一代の舞台なのだろう。 特に宿における膨大なセリフのやり取りは面白すぎる。酒蔵でのやり取りも、ウェルズに絡んでくる若い二人の男とのやり取りも、珍妙な面接風景も、ウェルズの詭弁で何処に行ってもお祭り騒ぎ。フォルスタッフに絡むジャンヌ・モローも色気ムンムンです。 秋の林の中で馬を“手に入れる”シーンのやり取りもイチイチ面白い。あれだけ大口を叩いていた男が、その巨躯を必死に動かして逃げ惑うのである。 「マクベス」で引き締まった肉体と共に勇ましく戦っていたウェルズとは大違いだ。 それは戦場に勇みよく出陣した場面でも同様だ。中盤のおよそ10分に渡る騎馬同士の壮絶なぶつかり合い!泥に、血にまみれる戦場。 それを高みの見物、漁夫の利をあげようと茂みに潜む姑息というべきか、狡猾というべき姿。 彼について行く子供の従者すら騙して。 そんな男の人生も、もう一人の主人公というべき後のヘンリー5世となる皇太子・ハルが終止符を打つ。 最初はフォルスタッフと共に放蕩生活を送っていたハルだが、戦場での戦いが彼を誇り高い戦士に、王として身も心を変えていく。 戦いの後はまだ固い絆があって別れを惜しんだ二人だが、いざ王が死に次の王になるともう“嘘つき”と友情を結ぶワケにはいかなくなったのかも知れない。 ハルは、国の、それを支える人々のためにあえて友情を捨てる事を選んだのだろう。それはフォルスタッフのためでもあったのだろうが。 だがフォルスタッフにとってこの事ほどショックを受ける事は無かった。 底抜けに明るく始まった物語は、少し寂しい締めくくりを迎えてしまう。それでも、あのあっけないくらいの最期が逆にじんわりと心に染み込む傑作。
[DVD(字幕)] 10点(2014-11-30 08:45:15)(良:1票)
9.  やぶにらみの暴君 《ネタバレ》 
城の遠望、赤い垂れ幕でシルクハットを被った鳥が挨拶をする場面から物語は始まり、赤い垂れ幕があがると、やぶにらみの暴君こと城の王が“狩猟”をする場面に切り替わる。 自動で動くイスにふてぶてしく腰掛け、横には子犬を従え、周りには彼を守る黒ずくめの衛兵が居並ぶ。 王が猟銃で撃ち殺そうとする小鳥をさっと助け出し、王を象った彫刻の上で高らかに王を罵る鳥。 王も天空を我が物顔で飛び回る鳥を忌々しく睨み付け、引き金を引く。衛兵も短筒をブッ放しまくる。 機械仕掛けのリフトで移動し、1999階もある高い城塔に君臨する王。気に喰わない事があれば手元の“お仕置き”ボタンで奈落の底へと突き落とす。 とにかくこの映画、衛兵が落ちれば王も盲目の演奏家も羊飼いも落ちて落ちて落ちまくる。 権力で何でも意のままになると思い込む王だが、流石に二次元の中に居る女の子には手を出せないようだ。その横に並ぶ少年にも、彼は睨み付けるだけで手を出さない。ところが、その絵の方から次元の壁を抜け出し、三次元の世界へと来てしまう。 経験豊富そうな馬に乗った賢者、そして王自ら描いた王の肖像画まで動き出し、書き手そっくり、創造主である本物の王から王位を“剥奪”してしまう。 特殊な飛行機から“落下傘”を開いて降りてくる衛兵たち。 その傘は、王から下される処刑を回避するためにも使われる。 王が後を去った部屋で、その罠を回避すべく高速でステップを踏む衛兵の姿がシュール。衛兵の「お慈悲を・・・」の言葉を聴いてか聴かずか、静かに後を去っていく王の姿もまた何とも。 アヒル姿の水上バイク、白い鳥が作り出す“彫刻”、突然現れ歌いだす船の船頭、ムササビだかコウモリのように飛び回る衛兵、地下都市で太陽を望む人々、鍾乳洞に眠る巨大ロボ。巨大ロボの暴れ振りが凄い。羊飼いを“脅す”シークエンスは冷やりとする。 煙突掃除がヤケクソになって王の顔に落書きをする場面は爆笑。 地下都市に眠る獅子や黒豹、虎、白クマたちは胃も心も飢えていた。 音楽に“魅せられ”、二足歩行で踊り、決起して大行進する獣たち! 獣もロボットも「悪い奴らじゃない。扱い方次第さ」のセリフがグッとくる。 良いも悪くもリモコン次第、操縦桿を奪い取り王を“吹き飛ばす”、城を守るためのロボットが城砦で暴れまくる皮肉。 物語はうなだれるロボット、首だけになった王の像、そして記念撮影で幕を閉じる。
[インターネット(字幕)] 10点(2014-11-29 21:28:15)
10.  ゴッドファーザー PART Ⅱ 《ネタバレ》 
「ゴッドファーザー」は好きなシリーズだが、特に「PARTⅡ」はもう何度見たか解らない。 人によっては「PARTⅠ」こそ最高という人もいるだろう。 だが、俺は冒頭からヴィトの悲劇で始まり、ヴィトが栄光を掴んでいく“光”とマイケルが様々なものを失っていく“闇”が交錯する「PARTⅡ」が一番好きだ。ヴィトだけでなく、マイケルの過去も映されるんだ。ヴィトの思い出と混ざりながら。 初見の者にとって、ヴィトが今後どうなるかが気になって最後まで画面に釘付けにされたのだから。 シチリア島で葬儀が行われるシーンから物語は始まる。父、兄、母親まで地元のギャングに殴りこんで失ってしまうヴィトの悲劇。この瞬間からマイケルの復讐が始まり、同時に彼を救ってくれた島の人々の優しさがヴィトに生きる力と人を助ける愛情を育む。村の名前がヴィトを守る“偽名”となって。だから彼はシチリアに戻って来たのだと思う。困っている仲間や家族を守るために覚悟を決め、彼らの代わりに引き金を引いて。 彼らが奥さんの手作りパスタを美味そうに食べるシーンは和む。どうしてこの映画はあんなにも飯を美味そうに食うのだろうか。クレメンザとソニーは若い頃(物心つく前)からつるむ仲。 前半2時間のクライマックスを飾るのは、そんなヴィト自らが暗殺に向う場面だ。 ヴィトがどん底から這い上がり仲間や家族を得る一方、現代のマイケルは後半1時間30分をかけて最盛期からまた次々に最愛の仲間や家族を失っていく。フレドとコニーの何気ない会話が、別れの挨拶になるなんてさ。 華やかなパーティーですら暗い影が差し、寝室に銃弾の雨が振り込み安心して眠る事も出来ない。 議員も机の上の大砲をマフィアのボスに向けてケンカ腰。 痩せていたアル・ネリは亡きクレメンザの代わりを果たすかのように膨れ上がる。 数多の血みどろの殺し合いの後に、以前のマイケルたちが揃って食事をする場面なんかもう何回見ても泣きそうになっちゃうよ。ソニーは元気だし、コニーにブツブツ言ったりフレドとじゃれあう姿なんて・・・それが独りで煙草を吹かし、現在のマイケルの瞳に光が失われて幕を閉じる。
[DVD(字幕)] 10点(2014-06-26 19:38:01)(良:1票)
11.  ルパン三世 カリオストロの城 《ネタバレ》 
冒頭からカジノを飛び出して全力で駆け抜ける障害物競走、重力法則を無視したカーチェイスの荒唐無稽な破壊力と面白さ、ポール・グリモーの「やぶにらみの暴君」を彷彿とさせる城砦の美しさや空間表現、マニアも唸る重火器の描写、銭形軍団の奮闘、スリリングな居城への潜入、負傷と復活、対決・・・こだわり抜いた王道ストーリーはやはり何度見ても面白い。  絶望に満ちたはずの奈落の底から「待ってろよ」と不敵で頼もしい横顔を見せるシーンのカッコ良さといったら!そこには「1st」シーズンの狙った獲物は絶対に奪う、殺る時は殺るという殺し屋の、プロフェッショナルの素晴らしき誇りと意地も感じられる。 泥だらけになろうが血まみれになろうがコイツは死なない。何度でも逃げ、何度でも飯を美味そうに頬張っては蘇ってくる!  そう、コイツはルパンじゃない。紛れも無い“ルパン”だ(どっちだよ)  奴(パヤオ)はとんでもない物を盗んでいきました。あなた(視聴者)の心です。 ルパンを本当にブッ殺した男、宮崎駿。 義賊になってしまったルパン、 出番が少なすぎる五右衛門、 風の谷出身の傭兵と化した峰不死子(誰てめ絵)、 イケメンすぎる銭形警部、 そして次元の作画の安定ぶりは異常。  その前に「アルバトロス」も「さらば愛しきルパン」もルパンじゃない(良い意味で)。 パヤオらしい子供の好奇心をくすぐるワクワクするエンターテインメントに作り変えてしまった。  この映画のルパンは、歳を取った一人の人間。 「1st」はシリーズのような悪党では無くなり、泥棒稼業からもそろそろ引退しようかな・・・そんな時のルパンだった。  カリオストロでクラリスに助けられて以来、何の因果か再び恩人の住む美しき城に戻ってきた。 恩人から大切な物は盗めない(もっと大事なものを盗んじまうけどな)。  それでも城にどう潜り込もうか怪しい算段を立てている時のルパンの活き活きとした表情!城の住人や警官隊に気づかれないための慎重さ、そして走り出したら止められない人間離れしたパワーを発揮する瞬間は「1st」の強靭な顎でワルサーP38をスライドさせた時に緊張を奔らせたあのルパン以外の何者でもない。 その常識を破壊するようなエネルギーは愛してしまった女のためにバズーカ抱えて喰らい付く「ラピュタ」や呪いに立ち向かう「もののけ姫」にも繋がっていく。   不二子も「捨てられたんじゃない。捨てたの。」 俺このセリフ大好きなんだがなー。不二子らしくて。  そしてあのセリフを銭形が・・・いや警部だからこそ言えるセリフ。
[DVD(邦画)] 10点(2014-06-18 20:40:31)(良:3票)
12.  グラン・トリノ 《ネタバレ》 
再見。やはり何度見てもこの映画は圧倒的に面白い。  死に始まり死に終わる、葬式に始まり葬式で終わる。 今までそういう傑作は幾らでも存在したが、イーストウッドのこの作品は一味も二味も違う。淡々としているようで、あちこちに火種が転がってやがる。  物語は単純明快、「グラン・トリノ」という鉄の馬をめぐりコワルスキーの家族、タオたち、タオに因縁を付ける不良たちが絡み合うスリル。 先に手を出した奴が、負ける。  今まで散々人を撃ってきたイーストウッドが、この作品では最後まで引き金を引くか引かないか悩み続ける。  拳で殴りつけるのも銃を抜くのももっぱら威嚇であり、警告であり、盾としてだ。 往年の銃が出てくる作品でもその“警告”によって駆け引きや緊張が簡単に生まれていた。それは銃じゃなくとも刀でも、とにかく殺傷能力があれば何でも良いのだ。  ハワード・ホークス「ハタリ!」ですら威嚇とはいえ2発撃っていたが、この作品はそれをさらに進化させた側面も持つ現代の“西部劇”。様々な西部劇やギャング映画の記憶がこの作品にも息づく。  亡き妻の葬式で始まる場面。 コワルスキーは失った妻に対する思い、一方で葬式に集まるコワルスキーの家族はそんな事知ったこっちゃない、コワルスキーにもさっさと死んで貰って遺産を残しなといった態度。 子供達もラフな格好で携帯までイジりだす始末。マナーもへったくれもない、ワザとやっているかでなければ常識が無さ過ぎる。その遠因がコワルスキーの頑固さにもあるのだが。この場面だけでも、コワルスキーとその息子達との冷え切った関係を物語る。  コワルスキーとその家族の関係を掘り下げるのかと思いきや、イーストウッドはそこをバッサリと切り捨てコワルスキーとタオたちの交流と別れに物語を移していく。もうこの時点でコワルスキーの家族達は見捨てられてしまうのである。  残った愛犬と共に静かに過ごす一時。大切に愛車のグラン・トリノを磨きながら、妻も失い家族関係もあんなだ。コワルスキーは己の死期を見出し始める。 のうのうと生きて死ぬか、それとも誰かのためにすっぱり死ぬか。その選択をタオたちと出会った瞬間から彼は決め始めていたのではないだろうか。  一瞬映る勲章や写真、セリフで語られるコワルスキーの過去。散々戦場で人を殺してきた罪悪が、彼の心を閉ざしてきた。  イーストウッドはかつてドン・シーゲル「ダーティハリー」で、犯人を撃ち殺さなくて良かったという“笑顔”を見せていた。それは「本当はおまえなんざ撃ち殺しても良かったが、ちょうど弾が無くてラッキーだったな」という意味もあったのかも知れないが、どちらにせよ無益な殺生を避けられて嬉しかったのは確かだと思う。 劇中のコワルスキーも、「頼むから俺に二度と人を撃たせないでくれ」と何処か祈っているようにも見える。  「許されざる者」の元ガンマンは目的のために生きて帰る事を選ぶが、「グラン・トリノ」の元軍人は目的のために死へと向う。  コワルスキーは上記の警告によってタオたちを救い、同時に不良たちへの宣戦布告。 「アウトロー」でも異文明との交流が描かれ、この作品も彼等を助けたカウボーイが歓迎されるような平和な時間。 が、同時にいつ不良たちが襲撃にくるかという緊張も続く。その緊張は銃撃された隣家にコワルスキーが愛銃を取り出し、駆け付けるシーンから始まるのである。  タオたちは彼を“ヒーロー”だと慕うが、コワルスキーは戦後50年間“修理工”として生きてきたんだとタオに話し、タオの家族から送られる花を困り顔で断る。彼は過去の人間として、未来を見つめる新しい人間であるタオたちと距離を置き、教示し、軽口を聞く中である床屋といった知り合いたちにタオを託し、彼らとアメリカの関係を“修復”して去っていく。  アメリカは、懐に手を入れるだけで殺されてしまう社会だ。「殺られてからでは、遅い」。 コワルスキーは軍人としてその事を知り尽くし、彼らはその挑発に耐え切れず敗れ去る。自分の“命”と引き換えに。 だが、彼の意思はグラン・トリノと共に新しい世代へと受け継がれていくのだろう。
[DVD(字幕)] 10点(2014-04-05 09:53:55)
13.  怪人マブゼ博士(1933) 《ネタバレ》 
続・「ドクトル・マブゼ」。 ラングがドイツ時代に撮った最後の作品で、ラングのサスペンスフルな活劇とオカルティックな演出が凝縮された傑作だ。 ラングはアメリカ時代の方が完成された監督だと思うが、やはりドイツ時代のラングも超凄えぜ!  BGMを極力使わずとも保たれる緊張、無駄なセリフを使わずとも意図が手に取るように解るサイレントの呼吸、加えてラング特有のドロドロとした恐怖演出。 残留思念、亡霊、“魂”! 2時間の長さを感じさせない映像作り。  まずは何といっても、あのファースト・シーン。 工場の轟音が響く密室、拳銃を握り締めた怪しげな男、そして部屋に入ってくる男たち。 映像によって語られるこのサスペンスと緊張。 密室、脱出、襲撃と爆発。この完璧と言っていい7分。そして次のシーンにまで繋がる10分間!  一体男に何が起こったのかを探る警察たちの捜査、その裏で交錯する様々なドラマ、そして“ドクトル・マブゼ”の不気味な存在。 これはサイレント映画の傑作「ドクトル・マブゼ」を見た方がより楽しめるだろう。  刑事のオッチャンが時計まで使って情報を掴もうとするシーンはシュールだ。ラングがたまに見せてくれるこういうユーモアが大好きです。  そしてラングの十八番、終盤の畳み掛けもまた見事な事。 アパートでの攻防、密室からの脱出と取り調べの交差、煙突が1本ずつ倒れながら大炎上する工場、クライマックスの追走劇。 派手なチェイスではなく、猛スピードで通り過ぎる木によってその迫力を語る。良いねこういうの。  マブゼの残留思念に踊らされる幾多の登場人物たち。ラストはもう少しインパクトが欲しいという人もいると思うが、俺には“悪夢”から解放された男と亡霊同然になってしまった男の強烈な対比だけで充分すぎる。 扉が閉まると同時に幕を降ろすエンディングも素晴らしい。ラングが好きで良かった。こんな凄い映画にまた出会えたのだから!
[DVD(字幕)] 10点(2014-03-27 00:59:38)
14.  周遊する蒸気船 《ネタバレ》 
再見。 蒸気船が何隻も大河を走る光景は展開の速い活劇「侠骨カービー」でも描かれていたが、本作はその蒸気船をメインにして発展させた作品。 バスター・キートン「蒸気船」と唯一張り合える蒸気船映画の傑作だ。俺が一番好きなジョン・フォードの、最高傑作の一つ。  全編テンポ良く進みユーモア満載で退屈しない。冒頭のやり取りからして楽しませてくれる。 ミシシッピー川を走る一隻の蒸気船。水車のような外輪を勢いよく回し、煙を噴き上げながらのどかな自然の中を走っていく。 甲板の上でインチキ臭い神父が黒人に看板を担がせ説教を垂れ、酔いどれからリレー形式で酒を取り上げる。その裏で商人が「健康に良いぞ」と酒を売りさばいてんだから可笑しい。 この「ポカホンタス」が本当に助けてくれるんだからまた面白い。所々西部劇からアイデアを持ってきたかのようなアクションが楽しい。  汽笛を景気よく鳴らす挨拶、神父に誓った筈の男は昔馴染みに会った途端にまた酒をグビグビ飲みだす。  辿り着いた船はボロボロで中は鶏小屋状態。それが時と共に川を突っ走る蒸気船に、老いぼれは船長に、アバズレは美しい操舵手となって“蘇る”。  立証は叔父さんに任せろ、可愛い甥と惚れちまった女のためならゴロツキどもが押し寄せて来ようが守り抜いてやる。石を窓にぶん投げて起こした保安官も、鍵を投げつけて渡すようないい加減なデブかと思いきや、慰めに蝋人形館を案内したり、罪人だろうが関係なく結婚を祝ってやり、絞首台でギリギリまで粘ってくれる仕事人だった。  テーブルクロスのスカートと着のみ着のままで連れてこられ顔の強張ったワケ有り娘、フォークを突き立てるくらい気を強く張っていた理由が突如雪崩れ込み、平手打ちを浴びせ、左手で掴んだ包丁を受け渡し、さっきまでアバズレ呼ばわりしていた男が彼女を庇うようになっていく。靴なんぞ駄賃代わりに置いてけ!ついでにケツもブッ叩いてやる!あの靴はいつあそこに置かれたのだろうか。  事情を知ったら気前よく家族の形見のドレスをプレゼントしてくれる優しさ。伯父さんの心とベーコンを焦がすような頬への口づけ。 アン・シャーリーがどんどん可愛くなっていく姿がたまらない。帽子を被り船乗りの服とドレスを合わせたような衣装をまとったり、繋ぎのような恰好をしたり可愛らしい。  甥を助けるための資金源獲得、鯨の中から助けられるバンジョー奏者との出遭い。名前を与えるのは船員として歓迎するため。 ステピン・フェチットは本作と「プリースト判事」「太陽は光り輝く(コレも蒸気船と馬が登場)」でコメディリリーフとして、「世界は進む」では兵士として登場。黒人俳優の活躍の場を拡げた名優の一人だ。 彼等の活躍が同じフォードはウディ・ストロードの存在が輝る「リバティ・バランスを射った男」「バファロー大隊」へと繋がっていく。  酔っぱらいながらペンキを塗りまくり、鉄格子を挟んだノコギリの演奏、二人だけが分かち合う口づけ、操船訓練、“挨拶”に夢中で巨大な舵が勢いよくまわり、船で店を開いたら閉店させる勢いで武装して押し寄せるお客様方、それを黙らせる“ジェシー・ジェイムズ”たちの拳銃と銃声。押し寄せた人々まで蝋人形のように固まってしまう。精気の無い白人人形と不気味な笑みを浮かべる黒人人形のあからさまな完成度の差に爆笑。  そして刑務所だろうが船内だろうが黒人も白人も何処の誰だろうが関係ない、たった一人の人間を救うため一丸となり川を突き進む裁判の証人探しと蒸気船レースへ!  半ば巻き込まれる形で参加、船と命が賭かった勝負、大砲の発射を合図に一斉に汽笛を鳴らし走り始める船、船、船!ゆったりしているようでジリジリと追い続けるチェイス、何が何でも先頭に立たなきゃならない時間との、船との追っかけこ。 船を追って馬も駆け抜け、群衆の中に証人見つけりゃ投げ縄でとっ捕まえ搔っ攫い、燃料が無えなら家具も甲板も船もブッ壊してそれをくべ、蝋人形も酒も放り込んじまえ! 船はまた作ればいい。だが命はたった一つ、死んだら何にもならねえ。卑怯者と罵られようが知ったことか、それがどうした、信じて待ち続けてくれる者のためなら手段なんぞ選んでいる暇はねえぜ。  括りつけられるロープ、蝋人形とはいえナポレオンも女王もジョージ・ワシントン大統領もみんなヒャッハー!だがやめろー俺は人形じゃねえっー! 大量の「ポカホンタス」をリレーで投げ入れまくりヴォイラーは激しく揺れて火炎を、煙突から黒い爆炎を吹き出し、でも一本くらい取っといて、トロフィーなんぞいらん裁判所まで連れて行け、扉が開いた瞬間に“騎兵隊”さながらに駆けつける馬車馬!
[DVD(字幕)] 10点(2014-03-21 14:39:51)
15.  東への道 《ネタバレ》 
再見。 グリフィスで一番好きな映画はコレだ。「スージーの真心」とともに最もリリアン・ギッシュが可憐で、儚く、美しい。  のどかな田舎町で母と二人暮らしの少女。柄を持ちうつむき、眼差しを動かし何かを想う姿。手や瓶で口元を隠す仕草からして可愛い。 マッチの火でランプを灯し、帽子を被りオシャレな服に着替え、抱擁を交わし、トコトコ付いてきてスカートにくっつく犬を抱きかかえ家に戻し、街に出掛けていく。 所々見られるコミカルな場面は、田舎の安らぎと人々の優しさが散りばめられている。  暖かい日差しが照らし風が自然を揺らす故郷の居心地の良さ、未知の世界である街と華やかに着飾った人々の中に入っていく緊張。 嫌らしい笑みを浮かべポーカーに興じる男、平気で人を騙す毒牙が待ち受けるとも知らずに荷物を抱えやって来てしまった少女。開かれる扉、扉、再会。 入り口の影で獲物を見つけた男、見つかってしまった少女。初めて座るソファで不安そうに座って待つ。鶏や牛、猫といった動物とともに暮らす優しい青年もまた、誰かにめぐり逢うのを待ち続けていたのかも知れない。  ドレスのチェック、開かれた胸元を恥ずかしそうに手で覆い、手を引かれながら降りていく新しい世界。その姿を一目見て固まり群がる紳士たちの誘惑、語り聞かせる御伽噺の中の美女。服で口元を隠すのは、自分に優しくしてくれる異性にドキドキしているから。  そんな彼女を陥れる“嘘”、映される胸元と脚が語る性、群がる女たちを選ぶ「裏切り」、踏みにじられる待ち続けた女の想い。  愛した男は腹を痛めて産んだ子供にも、それに命をかけた女にも会ってくれない。それは暗い影を落とし、同時に一人で赤ん坊を育てようとする強さも与える。一本道を歩いていくしかない後ろ姿…。  歩みを止める見つめ合いと出会い、隣に座り迎え入れようとする好意、それを拒んでしまう過去の傷。やがて暖かい自然と水辺は、彼女の心の様に雪が降り積もり凍り付く。 農村の人々は雪も溶かす勢いで歌いながらぎゅうぎゅう詰めの馬車で雪道を駆けていく。愉快なバートレット家のやり取りで溶けかかる心の壁、それを破壊するかのように再び現れた悪魔が知らせる真実。  拒まれ、のうのうと目の前に現れた悪魔に爆発させる怒り、どうしようもなくなり扉を開き嵐の中に飛び出していく哀しみ、それでも受け入れランプ片手に呼びかけ追い続ける者の愛情。  冷たい風が吹き荒ぶ極寒の中を揺らめき彷徨い、砕ける灯、馬から千切れるように落とされる乗り手、扉を開き鉢合わせ、殴り取っ組み合い、凍り付きそうな哀しき表情、殴り飛ばして続行される追跡と叫び、目の前に拡がる氷の大地。  力尽き川辺に倒れる肉体、投げ出される腕と髪、雲が覆う空で薄っすらと輝く太陽、激流が予告する“崩壊”、流れ始める氷、氷、氷上の命。 砕け、千切れ、沈み、接近し、駆け抜けようとする命を呑み込もうとするうねり、落ちていたもの、見つめる先にいた者めがけ飛びながら駆け寄り、抱きかかえ迫り来る死から遠ざけるように走り続ける“命”。 冷たくなった手を握り、そっと頬に手をあて、暖かく迎えられ、手を差し伸べられる命。顔を背ける別れ、祝福される結婚、結婚、結婚。手袋が落ち、抱擁と口づけを交わしまくる祝福。  「散り行く花」を見た後だと、より一層この幸福に満ちた映画に出会えたことに感謝したくなる。
[DVD(字幕)] 10点(2014-03-20 01:20:35)(良:2票)
16.  白熱(1949) 《ネタバレ》 
ジェームズ・キャグニー主演の凄まじいギャング映画。 サイレント期から数々のアクションやコメディを手掛けてきたラオール・ウォシュの集大成とも言える作品。   キャグニーとウォルシュが組んだ作品はコメディ「いちごブロンド」、同じくギャングものでロバート・ロッセンが脚本に参加した「彼奴は顔役だ」と傑作が多いが、この映画のキャグニーは最もぶっ飛んでて狂ってる。   ファースト・シーンの列車強盗の場面。   トンネルから出てくる列車を追うように並走する車、列車には既に仲間が潜入して事を引き起こし、橋から飛び降りて乗り込み、扉を爆弾でぶっ飛ばし、機関士も強盗も容赦なく撃たれ蒸気で大火傷を負い悲痛な叫びをあげる…あっと言う間の5分。アクション映画はこうでなくちゃ。   小柄ながらきびきびした動きで踊るように人を殺していくジェームズ・キャグニー演じるコーディ・ジャレット。 母親に “犯罪によって”教育され、冷酷、残忍、非情でオマケに超マザコンに成長してしまった男。発作のようにマザーコンプレックスの衝動に駆られて暴れまわる姿は赤ん坊のような無邪気さと凶暴性を見せつけてくれる。つうか笑顔がヤベえよコイツ…。   こんなにも狂いに狂ったマザコンはコーディ・ジャレットしかいないね。 「死の谷」で姉御肌の女性を演じたヴァージニア・メイヨは、コーディに取り巻くもその狂気で徐々に距離を置いていく情婦の妻を演じる。メイヨとキャグニーのやり取りは愛と狂気の紙一重。  彼らを追う警察との追走劇も手に汗握る。 デスマスク、靴紐、鏡と映像で見せるシーンの巧さも絶妙極まる。社内電話はまるで携帯電話の様。野外劇場の“暗示”はコーディたちの別れ道でもありました。“罪”を避けるための“アリバイ”を得る方法がえげつない。  警察の捜査を嘲笑うコーディたちだが、警察も強力な“切り札”を持ってた。スパイ映画としての側面も持っている面白さ。 刑務所でのやり取りもまたスリリング。特にコーディが“ある知らせ”を受けて発狂、泣きだして暴れ出し幼児のように警官を立て続けにブチのめす。怖すぎて笑っちまうよもう。   その後の脱獄までの流れも手馴れた見事さ。 受話器?んなもんブチ抜いちまえ!閉じ込めたまま“殺す”シーンとか本当えげつない。裏切りと報復、暴力による服従、ドア越しの銃撃。  終盤の流れもとにかく凄い。黒光りする巨大なトラックの重量がたまらない。  キャグニーにおんぶされる酔いどれメイヨが可愛いすぎる。一瞬映る太もものエロティックさ。 給油所に残す“メッセージ”、少し時代を感じる捜査方法がまた味わい深い、ショットガンの散弾描写、そしてキャグニーの絶叫!! 「やったぜママー!世界の頂点だー!」  最後の最期まで、死ぬ瞬間まで強烈な場面で締めくくられる。
[DVD(字幕)] 10点(2014-03-14 16:42:25)
17.  キートンのカメラマン 《ネタバレ》 
キートンの傑作は数多くあるが、俺が一番好きなキートンはこの「カメラマン」! 他のアクションが凄い傑作群に比べると地味な印象を受ける人もいるだろう。でも俺は群衆に始まり群衆に終わるこの映画が大好きなんだ。 まずキートンの出で立ちからして面白い。ベレー帽を被り、使い古された三脚付きカメラをまるで機銃でも抱えるように持ち運ぶ。三脚は容赦なく人に襲い掛かるし事務所のガラスも割ってしまう凶器と化す。 それを支える可愛らしい二人の“相棒”とのやり取りも楽しくてしょうがない。 一人は冒頭偶然出会ったニュース班務めの美しい女性で、情報面から彼の孤独な闘いを支える。 もう一人は街中で偶然出会ったちっこくて素早い気の利く可愛い奴だ。傍らでここぞと言うときに助けてくれる頼れる存在。 冒頭出てくる戦場で命をかけるカメラマン、だが人の住む都会でニュースを追うカメラマンたちも命懸け。 何も無い広場をあっと言う間に埋め尽くす人の群れ!津波のように押し寄せるスペクタクル、そんな場所で出会った女性を追ってキートンは街角カメラマンからニュースを追う記者へと変わっていく。 彼女もまた彼の優しさに同情して良い情報を流してくれるが、失敗が続いて中々上手くいかない。それでも諦めず次に進もうとする無邪気さ。彼女とのデートはとにかく愉快だ。 バスに乗ろうとするが押しのけられ必死でバスの外にしがみ付く、落ちても全力で追いかけ飛びつく。 プールの脱衣所でおっさんと揉みくちゃになるシーンは爆笑。 マーセリン・デイの水着姿は可愛くて色っポイ。こりゃ男どもも群れを成すわな。 終盤のマフィア同士の熾烈な抗争を掻い潜り暗黒街を駆け抜けるシーンも凄い。 心強い“相棒”と共にカメラを回し続け、落としたナイフをもう一度握らせ殺し合わせたり柱が倒れようがマフィアに機銃やナイフで狙われようがそれを全力で回避しつつ撮影を続けるカメラマン魂。 それでも報われない努力、でも報われなくたっていい、惚れた女のために暴走した船が水上を裂くように走る現場に飛び込む勇気。 「蒸気船」の時といい、何も言わずにすぐさま他人のために行動できるキートンはカッコ良い。 その真実をスクープした“相棒”の存在!キートンが他者に助けられるという人間臭い一面も見せる面白さ。総ての真実が明かされた後、まるで二人を祝福するかのように現れる人々の群れ。
[DVD(字幕)] 10点(2014-03-13 00:24:29)
18.  穴(1960) 《ネタバレ》 
ジャック・ベッケルはフレンチ・ノワールで数々の傑作を手掛けた。 元々フィルム・ノワールはドイツのフリッツ・ラング「M」やジャン・ルノワールの「十字路の夜」が原型として広く知られているが(知らない?じゃあ今すぐググレ)、アメリカの「暗黒街の顔役」や「マルタの鷹」以来すっかりノワールのお株はアメリカに奪われてしまった。 そんなフィルム・ノワールをフレンンチ・ノワールとしてフランス・・・つまりヨーロッパに復活させた監督の一人がジャック・ベッケルだ。  宇宙刑事ジャン・ギャバンが売れたのもルノワールとベッケル様々です(ギャバンの本体はタバコ)。  そんなベッケルの傑作は「アラブの盗賊」「現金に手を出すな」「モンパルナスの灯」「幸福の設計」「肉体の冠」と豊富だが、最高傑作はやはり「穴」になるだろう。 戦後実際に起きた脱獄事件をモデルに、刑務所内における一大脱獄劇をスリル万点に描いていく。 見張りの目を盗んでのやり取りは終始ドキドキの連続で、何時警備員が飛び出して来るものかと緊張の糸が絶たれない。  土まみれになりながらも穴を掘り続ける男たちの力強さ、鉄格子よりも硬い囚人たちの絆。漢の映画だぜ。 女っ気の無い作品だが、“5人”に会いに来た「あの女」は囚人たちの絆にヒビを入れるファム・ファタールだったのかも。  ラストの壮絶な展開には唖然としてしまったが、最後まで見事な作品だった。もっとベッケルの作品が見たかった。惜しまれる。
[DVD(字幕)] 10点(2014-03-11 23:57:55)(良:1票)
19.  弥次喜多道中記(1938) 《ネタバレ》 
「鴛鴦歌合戦」に並ぶ・・・いやそれを凌駕するくらい面白いオペレッタ時代劇の傑作。 オペレッタ時代劇といっても、開始20分目にしてようやく歌が始まる。最初20分はユーモアを交えた普通の時代劇なのだ。  「鼠小僧」が追われる場面から始まるファーストシーン、説明乙な剣豪とワケ有り泥棒の邂逅が面白い。 追う者と追われる者とも知らず・・・そして捕り方に潜む「裏切り者」。 片岡千恵蔵の演技が上手い。上手すぎる。杉狂児とのコンビが面白い。 志村喬を「はげちゃびん」呼ばわりできるのは千恵蔵だけです。 旅までのシリアス気味な20分、残り1時間20分の歌あり騒ぎありの旅道中。 「大福喰いのマンジュウおじさん」シーンは最高だった。 名前の笠が呼ぶ幸運と不幸。結局お銀は今何処。中盤の天狗の「大立ち回り」も踊るように爽快だった。川面のシーンは「次郎長三国志」に繋がる演出。 三条橋から日本橋、困った時にぱwぴwぷwぺwぽwwww マキノ雅弘にハズレなし。
[DVD(邦画)] 10点(2014-03-11 02:17:22)(良:1票)
20.  明日に向って撃て! 《ネタバレ》 
ファーストシーン、ガンファイト、人間ドラマ。全部揃っているのに西部劇らしくない西部劇。だが実に映画らしい映画だ。ジョージ・ロイ・ヒルは「スティング」も面白かったけど、俺はコッチの方が好きだ(女の子もこの映画の方が可愛くて魅力的だ)。   冒頭からエドウィン・S・ポーターの「大列車強盗」を彷彿とさせる列車の襲撃→駆けつけた騎馬隊から逃げ去るスタートダッシュ。 酒場でのポーカーから振り向き様のガンファイア、見ず知らずの美女を強姦するゲス野郎なのかと思いきや、実は馴染みの女性に対するちょっとした挨拶(イタズラ)だったという。「やーね脅かさないでよ」と笑って済ませてくれる仲の良さ。ちょっとした三角関係も“さわり”で終わるぐらい絆が深いともいえる。 仲良く逃避行、断崖ダイブ、強盗、銃を持った者が避けられぬ殺し合いの連鎖。  犯罪に生き急いでしまった者たちの束の間の安らぎ、叶わぬ願い、結局は元の殺し合いの世界に戻ってしまう虚しさ・・・それを独特の静寂が包み込む。その何とも言えない雰囲気を好きになってしまった。  サイレント映画の「アクション」で魅せる事にこだわった造り込みと呼吸、音のない静けさの中からいかに“音が聞こえてくる”ような映像を撮るか。  まるで古いアルバムをめくるような・・・。そういう心意気に溢れた映画だ。アメリカン・ニューシネマ特有のアクの強さは余り無いけども、抜き撃ちや幻想的とも言える映像は見応えがある。   機関砲といった武器ではなく、自転車で時代の波に追われるガンマンたちを表現するのが良い。 殺伐した世界の中で、一瞬の平和なひと時に流れる「雨にぬれても」は印象的。   サム・ペキンパーが“動”のワイルドバンチなら、この映画は“静”のワイルドバンチ。 ラストの「奴らは死んだのか生き残ったのか!?」というテンションが上がったまま終わるクライマックスも最高。
[DVD(字幕)] 10点(2014-01-30 11:00:14)(良:2票)
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