WAR OF THE SUN カウラ事件-太陽への脱出 の かっぱ堰 さんのクチコミ・感想

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WAR OF THE SUN カウラ事件-太陽への脱出 の かっぱ堰 さんのクチコミ・感想
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《ネタバレ》 カウラ事件とは太平洋戦争中の1944年8月に、オーストラリア国内の捕虜収容所から日本兵が大挙して脱走した事件である。この映画はその事件から始まるが、事件自体の描写というよりも、事件の場を借りた戦争と人間のドラマになっている。

映画の中心になるのは日本兵の田中マサルと、近隣に住むオーストラリア人の主人公の交流である。日本人が従軍したのは第二次世界大戦、オーストラリア人は第一次世界大戦という形でずらすことで敵味方の対立関係を弱めている。また残虐無比なはずの日本兵の田中が実は人を殺したことがなく(多分)、オーストラリア人の主人公の方がよほど人を殺してきたというのもいわば逆転の発想である。
物語は日豪の意識の違いを軸にして展開するが、まず問題になるのは“生きて捕虜になるな”という日本側の規律である。当時の人命軽視の姿勢が非難されるべきなのは間違いないが、しかしこれを“決死の覚悟で戦え”という意味に解すれば、豪側の“逃げずに最後まで戦え”とほとんど同列の戦時道徳であり、特に優劣を語るようなものではないようでもある。
また日本兵の田中が自決した者に敬意を払っていたのは、自ら死ぬことが本人にとってどれだけつらいかと思うからとのことだった。単に自分が死にたくないことの裏返しではあるが、それを他者にも敷衍することで、生命の重さをより強く感じていたとも解される。一方その田中が戦友の生命を断ったのは、本人の意向を受けて、相手の思いを自分の思いに優先させたからに違いない。あるいは単純に人を殺さない、または断固として延命させるといった普通一般の倫理規範を越えて、人としての尊厳を守ろうとしたのではなかったか。
これに対し、逃げられない主人公にとっての第一次大戦は今も終わっておらず、助けられなかった戦友や殺した敵兵の亡霊(幻影)に苦しめられ、怒りだけが生きる糧というのは戦争犠牲者の一つの姿といえる。そのほか故郷に身寄りがなかったらしい日本兵の山本は、自殺に理由を求めていただけの寂しい男ということになるかも知れないが、主人公の境遇(生き地獄)とどちらがましかは何ともいえない。

結果的にはよくわからないが、ここから何らかの確定的な結論を導くというよりも、日豪の人々がわかり合える接点を探るための映画なのかと思った。そうだとすれば、カウラの日本人墓地がその後に日豪交流の象徴的な場所になったことにふさわしい映画かも知れない。娯楽性は全くないが極めて真面目な映画のようだった。
ちなみに劇中の日本兵はオーストラリアで活動している日本人役者とのことで、日本語には全く問題がなく、逆に英語を話せるのが不自然だった。
かっぱ堰さん [DVD(字幕)] 7点(2020-12-19 08:58:16)
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