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【製作国 : アメリカ 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
321. 3人のエンジェル 《ネタバレ》 「男が遊びで女装するのは女装趣味」 「女性への変身願望が高じてチン切り手術をするのが性転換者」 「ファッションにこだわってハデに着飾るゲイがドラッグ・クイーン」 「人生を楽しめない女装坊やは、ドレスを着ただけのガキよ」 という作中の台詞が、とても興味深い。 第三者からすると、ついつい「ゲイ」と一括りにしてしまいそうな中にも、様々なタイプがいて、それぞれ拘りを持って生きている事が窺えましたね。 本作はキャスティングだけでも「この人達が女装するなんて、それだけで面白いに決まってるじゃん!」と予見させるものがあり、この辺りは元ネタであろう「プリシラ」よりも上手かったように思えます。 作中にて、ウェズリー・スナイプス演じるノグジーマを、か弱い女性と思って絡んでくる男共には(なんて命知らずなんだ……)と逆に心配になってしまうし、案の定あっさり撃退されちゃう姿には(当たり前だろ!)とツッコミつつも、笑いを抑え切れなかったです。 パトリック・スウェイジ演じるヴィーダが勢い良くドアを蹴り開けて、夫婦喧嘩に乱入し、妻を殴る暴力夫を殴り飛ばして家から追い出す展開なんかも、実に痛快。 この辺りは、彼らがアクション映画で活躍する姿を知っているからこその面白さなのでしょうけど、初見の人でも「えっ、こんなに強かったんだ!」という衝撃を味わえて、楽しめるのではないかなと思えます。 ちょっと気になったのが「メル・ギブソンのお尻はキュートだわ」という台詞。 「ハート・オブ・ウーマン」(2000年)でも彼は「可愛いお尻ちゃん」と評されていたのですが、あれはこの作品を踏まえてのネタだったのか、それとも米国ではメル・ギブソンのお尻がキュートというのは共通認識なのか? と、そんな疑問が浮かんできて、若干集中が乱れてしまいましたね。 また、作中のドラッグ・クィーンが三人とも「喉ボトケ」が無ければ女性と見紛うような美貌という扱いなのも、戸惑うものがありました。 女装コンテストで地区優勝しているのだから、作中世界の認識では美女と分かっていても(どう見ても男じゃん……)とノリ切れない感じ。 今となっては(それも一種のギャグなんだ)と納得出来ますが、初見では違和感の方が大きかったです。 キャットウーマンやワンダーウーマンといった、有名なアメコミヒロインの名前が出てくるのはテンションが上がりましたし、終盤にて描かれるボビー・レイとボビー・リーの恋模様なんかも、実に微笑ましくて良かったですね。 心を通わせ合った女性と別れる事になったヴィーダが「愛してるわ」と言われて「私もよ」と返すのではなく「あなたに愛されて、本当に幸せだわ」と応えるのも、何だか凄く切ない。 もしも、ヴィーダが同性愛者ではなく異性愛者に生まれていたら、二人は「親友」ではなく「恋人」という関係になれたのではないかなと、ついつい考えてしまいました。 仲間から「自分の性を隠すために女装してる」と指摘され、ショックを受けていたヴィーダ。 そんな彼女が、男でも女でもない「天使」だと言われ、嬉しそうな笑顔になる姿には、本当に爽やかな気分を味わえましたね。 ラストにて、ハリウッドの女装コンテストに優勝してジュリー・ニューマーに祝福されるのも、ヴィーダの方が良かったんじゃないかと思えたのですが、この辺りは「第三の天使」とも言うべきチチの成長を示す為、仕方ないところなのでしょうか。 涙を流すような感動とも一味違う、笑顔になれるタイプの感動を味わえる。 そんな、魅惑的な映画でありました。[DVD(字幕)] 7点(2016-10-04 05:43:42)(良:1票) 《改行有》 322. トレジャー・プラネット 《ネタバレ》 基本的な設定を拝借しただけの別物かと思いきや、予想以上に「宝島」のストーリーを忠実になぞっていた事に驚かされました。 主人公のジムが青年に近い外見となっており、感情移入しやすくなっている事。 そしてシルバーがサイボーグという設定の為、武器をアタッチメントする描写が楽しかったり「目に油を差し過ぎたようだ」という台詞にホロリとさせられたりした辺りは、良かったですね。 その一方で、船長を女性に変えた事に関しては「女っ気の無さを改善する」という以上の意義は窺えず、最後に天文学者と結ばれる顛末に関しても予定調和で驚きも無かった為、ちょっぴり残念。 原作小説を既読の為、仕方無い事ではあるのですが、ストーリーとしては王道そのもの、全て決められたレールの上を走っているかのような印象を受けてしまい、少々退屈さを覚えたりもしましたね。 失望したり、落胆したりする事は無い代わりに、大きな興奮も味わえない感じ。 そんな中でも、欲深なシルバーが宝物を諦めて、息子のように可愛がっていたジムを助ける事を選ぶ場面に関しては、とても良かったと思います。 両者が絆を育む描写が丁寧であっただけに「そう来なくっちゃ!」と、声を出して歓迎したくなるような展開。 別れのシーンにて、ジムとシルバーが抱擁を交わす姿にも、涙腺を刺激されるものがありました。 「宝島」最大の魅力といえば、やはりシルバーの存在に尽きると思っているので、本作の扱いに関しては、大いに満足。 ジムとの交流を経て、段々と父性が芽生えていき、悪党から足を洗いそうになるも、最後の最後で善人にはなりきれないまま退場するという、その独特のキャラクター性が、しっかりと表現されていたと思います。 そういった具合に、原作と同じような魅力を秘めているからこそ (もし「宝島」のストーリーを全く知らない状態で、この作品を観ていたら、もっと感動出来ていたかも知れないな……) と思うと、何とも勿体無い気持ちになる。 そんな一品でありました。[DVD(吹替)] 6点(2016-09-29 23:15:43)《改行有》 323. ハッピー・フライト(2003) 《ネタバレ》 答案の摩り替えが「ハートマーク」によって判明するシーンに吃驚。 (いやいや、そんな訳ない。これは彼女に濡れ衣を着せる為に第三者が行った事だろう? だって、摩り替えた答案にわざわざ特徴的なハートマークなんて書いてある訳ないじゃん!) と思っていたら、本当に彼女が犯人というオチだったのだから恐れ入ります。 突発的な思い付きによる犯行だったとしても、これだけ両者の筆跡に明確な違いがあるならば、普通は「摩り替えよう」なんて思わないだろうと、盛大にツッコんでしまいましたね。 一応は主人公の親友という立場であったのだし、別れのシーンでは謝罪と反省の言葉を述べさせて、それなりに綺麗にまとめてみせるか……という予想も裏切られ、互いに口汚く罵りながらのキャットファイトに発展した時には、もう唯々呆然。 ここのシーンって、作中では善玉として扱われている主人公も、親友の窃盗癖を黙認していた時点で同罪じゃないかという気がするし、何だか喧嘩している二人とも「嫌な女」に思えてしまって、観ているのが辛かったです。 主演のグウィネス・パルトロウは好きな女優さんだし、映画全体としては演出のテンポも良く、音楽の使い方も的確で、退屈する事無く観賞出来ただけに、脚本が肌に合わなかった事が、残念で仕方ない。 それでも、最後はハッピーエンドで〆てくれましたし、スタッフロールと共に流れるNG集では、上述の女優さん二人が仲良く喧嘩の演技をしている姿にホッとさせられたしで、不思議と後味は爽やか。 大きな欠点があるかも知れないけれど、小さな愛嬌を幾つも感じられて、どうにも憎めない映画でありました。[DVD(吹替)] 5点(2016-09-08 15:13:02)《改行有》 324. 2番目のキス 《ネタバレ》 これは久々に大当たりの一本。 明るく楽しいラブコメとして、観賞中は常に笑顔のまま、夢見るような時間を過ごせました。 冒頭、レッドソックスのファンを「神の作った、最も哀れな生き物」なんて評してしまう時点で、もう面白い。 チケットのドラフト会議にて、男友達連中がダンスを踊るシーンも、非常に馬鹿々々しくて良かったですし 「俺の女房とチケットを交換しない?」 と言われて、一度はジョークと思って笑ってみせるも、相手が本気と気付いて真顔になる主人公の反応なんかも絶妙な「間」で、センスの良さを感じますね。 少年野球チームの教え子に対し、恋人の愚痴を零していたら、幼い教え子から的確なアドバイスを貰ってしまうシーンも、凄く好み。 あえて気になった箇所を挙げるなら、女性陣が「どんなに好人物であっても、自分が切った爪や髪を捨てられず取っておくような男は、気持ち悪くて無理」という反応を示す場面。 そして「ヒロインにファールボールが命中して気絶しているのに、それに気付かず仲間と盛り上がってる主人公」という場面が該当しそうですが、明らかにギャグとして描かれているので、笑って受け流せる範疇でしたね。 作品全体に明るい愛嬌が漂っているので、よくよく考えるとブラックなネタなんかも、あまり気にならないというか、スムーズに受け入れられる感じです。 姉妹編である「ぼくのプレミアライフ」(1997年)に比べると、ヒロインが「相手の趣味を知らないままで好きになった」という違いがあり、これには「上手いバランスだな」と感心。 承知の上で付き合った訳ではなく、恋人同士になってから、後出しで本性を知らされた訳だから、ヒロインが彼に「野球観戦を止めて欲しい」と訴えるようになっても、身勝手な印象を受けず、自然と感情移入出来るのですよね。 また、仕事一筋なキャリアウーマンという設定でもある為「趣味に生きる男」「仕事に生きる女」という対照的なカップルになっている辺りも面白かったです。 映画の中盤「夫婦って、お互いに歩み寄るものじゃない?」と言っていたヒロインが、クライマックスにて 「私は彼の為に仕事を犠牲にしなかったのに、彼は私の為に大切なチケットを売ろうとしてる」 と気が付き、その愛の深さを知る流れなんかも、非常に丁寧で分かり易く、ありがたい。 こういった心理の流れを、あえてボカしてみせる演出も御洒落で良いとは思うのですが、やはり万人に伝わりやすい演出の方が、自分は好きみたいですね。 二人が球場でキスを交わした瞬間には、観客の皆が拍手喝采で祝福してくれたのと同じように、心から(あぁ、結ばれて良かったなぁ……)と思えました。 レッドソックス優勝の感動を、そのまま映画のクライマックスに据えて、フィクションよりも劇的な「シリングの血染めのソックス」を、さらっと紹介してみせる辺りも心憎い。 間違いなく球史に残るような大きな奇跡の中では、一組の男女が結ばれた事なんて、とてもちっぽけな事かも知れません。 けれど、主人公達にとっては「愛する人が傍にいてくれる事」が何よりも大切なのであり、優勝の喜びの方は「二番目に素敵な事」になったのだと、最後のキスから伝わってきました。 エンドロール後の、家族ぐるみでレッドソックスのファンになった姿なんかも、実に微笑ましくて良かったですね。 大きな感動と、小さな幸福を感じられる、素敵な映画でありました。[DVD(吹替)] 9点(2016-09-05 12:33:31)(良:2票) 《改行有》 325. 赤毛のアン/アンの青春 完全版〈TVM〉 《ネタバレ》 内容としては「教師モノ」に分類されそうな本作。 舞台も田舎から都会へと移り変わり(これは前作とは異なる面白さを与えてくれそうだ……)と期待が膨らんだのですが、終わってみれば、良くも悪くも前作と殆ど変らない品という印象を受けましたね。 主人公のアンが、気難しい老婦人の心を解きほぐして仲良くなる件なんて、特に既視感を覚えます。 新しい要素としては、生徒達との心の触れ合い。 生真面目なオールド・ミスであるブルック先生との友情。 そして「地元の幼馴染」と「都会で出会った紳士」に挟まれたアンの三角関係が挙げられるのですが、こちらは前作で自分が苦手としていた「女性向けの恋愛ドラマ」成分が、より濃くなったように感じられて、少し残念でしたね。 ちょっと意地悪な見方かも知れませんが、作風やら何やらを考えればアンが後者と結ばれる事など有り得ない訳で「どうせ幼馴染のギルバートと結ばれるんでしょう?」と、達観した気持ちになってしまいました。 前作に比べれば出番は短いけれど、マリラおばさんが相変わらず素敵なキャラクターであった事は、嬉しい限り。 終盤、地元に戻ってきたアンを出迎えて、嬉しそうに抱き締める姿を目にすると、何やらこちらの心まで温かになってくるのだから、不思議なものです。 紆余曲折はあったけれど、やっぱり最後にはアンとギルバートが結ばれて、二人が幸せになるという、予定調和な結末。 でも、この作品に関しては「それで良い」「それが良いんだ」と思えましたね。 全編に亘って落ち着いた空気が漂っており、安心して観賞しているこちらの期待を裏切らない、平和な映画でありました。[DVD(吹替)] 6点(2016-09-02 10:29:26)(良:1票) 《改行有》 326. 赤毛のアン/完全版〈TVM〉 《ネタバレ》 こういった映画を鑑賞する際には、主人公の子供側ではなく、保護者である大人側に感情移入する事が多くなったなぁ……などと、しみじみ実感。 とにかくもう、マシューとマリラの老兄妹が素晴らしかったですね。 主人公のアンが、子守の仕事をサボって読書に熱中したり、自分をやたらと「悲劇のヒロイン」アピールしたりする姿に、少々ゲンナリしていたところで、この二人が登場し、大いに和ませてもらったという形。 作中の大人達が、次々にアンを叱ったり、厳しく接したりする中で、マシューおじさんだけが彼女を気に入り、優しく接してくれるのだから、アンだけでなく観客の自分にとっても、彼は本当に癒しの存在という感じなのです。 妹のマリラおばさんのキャラクター性も抜群で「なるほど。ツンデレとは、こういう女性を指すのか」と、思わず感心してしまったくらい。 当初はアンを嫌っていたはずの彼女が、段々と愛情を抱くようになっていく姿が、本当に丁寧に描かれているのですよね。 それだけに、駅でアンの旅立ちを見送る二人の姿と 「あの時(孤児院には男の子を頼んだのに)女の子に間違えてくれて良かったな」 「あれは神の思し召しですよ。ウチには、あの子が必要だった」 という台詞のやり取りには、じんわりと感動。 気が付けば、マシュー以上にマリラの方がアンを可愛がっていて、そんな妹にマシューが少し呆れているような様子も、実にチャーミグでした。 終盤、アンが帰郷した際に、農作業中のマシューが心臓の発作で倒れてしまうのですが、その時の会話も、素晴らしいの一言。 「私が男の子だったら、畑の仕事を手伝えたのに」 「そう思った事は無いよ」「女の子で良かった」「自慢の娘だ」 と、幸せそうに語りながら息を引き取る姿には、思わず落涙。 父娘の絆に、大いに心を揺さ振られました。 そんな具合に、自分としてはマシュー視点の映画として、娘を見守るような気持ちで観賞した本作。 でも、全体の主人公としては、間違いなくアンである訳で、その少女漫画的なストーリー展開には、多少の違和感を覚えたりもしましたね。 ギルバートとの恋愛模様に関しては、特にそれが顕著であり、彼がやたらと都合良くアンの前に現れる事なんて、もしかしてギャグでやっているのだろうかと疑ってしまったくらいです。 ボートが壊れて溺れそうになったアンを助ける姿や、ラストシーンで馬に乗って現れる姿なんて、典型的な「王子様」キャラといった感じ。 この辺りは、やはり女性向けの作品なのかな、と思わされました。 とはいえ、そんな具合に「女性向け」の内容が苦手であるはずの自分さえ、これだけ感動させられたのだから、凄い映画である事は、疑う余地が無いかと。 また何年か経った後に、今度は懐かしさと共に観賞して、穏やかな世界に再び浸ってみたくなる…… そんな一品でありました。[DVD(吹替)] 7点(2016-09-01 10:37:00)(良:2票) 《改行有》 327. ドラフト・デイ 《ネタバレ》 アメフトには詳しくない自分ですが、それでもジョー・モンタナやジョン・エルウェイの名前が出てきたり「ザ・ドライブ」の映像が流れたりすると、興奮するものがありましたね。 本作は、そんなスター選手の再来になれそうなくらいに将来有望なクォーターバックの指名権を獲得する為、GMである主人公が悪戦苦闘するというストーリー。 ドラフト全体の一位指名権を手に入れる為「三年分のドラフト一巡指名権」を手放してみせる冒頭の決断にも驚かされましたが、終盤にはそれを凌駕する程の「魔法の如き交渉術」を見せてもらう形となり、気持ちの良いドンデン返しを味わえました。 基本的に劇中では情報収集と交渉を重ねるだけで、派手なアクションは殆ど出て来ないのですが、それでも飽きずに最後まで観られるのだから、これは凄い事です。 恋愛模様やら、家族との感動エピソードやらも絡めている点に関しては、個人的には然程楽しめず (ドラフトの駆け引きオンリーに絞って欲しかったなぁ……) と思わされたりもしたのですが、それらに長尺を割いている訳でもない為、何とか許容出来る範囲内。 今になって振り返れば、そういった諸々の要素も、ハッピーエンド色を強める効果があって、良かったんじゃないかと思えてきます。 上述の一位指名候補に対し、疑問符を抱く最大のキッカケが「誕生日会にチームメイトが誰も来ていない事」だった辺りも面白い。 こういった些細な情報から「こいつはプロで通用するか否か」を見極めていく流れが、良質なミステリーのように知的昂奮を誘う形となっているのですよね。 最終的に、主人公は元々自チームに所属しているクォーターバックの能力、人格を再評価して、ドラフト指名は他のポジションに移す事となる訳ですが、そうなるに至るまでの描写も、実に丁寧。 「作戦書の最終ページに張り付けておいた百ドル札」のエピソードなんかは、特に良かったですね。 それまでの積み重ねも併せ (未知の新人よりも、このクォーターバックに投げさせて欲しい!) と思わされるからこそ、ドラフト指名の瞬間に痛快さがある訳で、本当に上手いなぁ……と感心させられます。 不満点というか、ちょっと気になった点としては、作中における主人公のドラフト戦略が「いくらなんでも絶賛され過ぎな事」が挙げられるでしょうか。 全体の流れを把握している観客ならともかく、断片的な情報しか知らないはずの地元のファンまで完全に掌を返して騒いでいるのは、少しやり過ぎな気がしましたね。 特に、成功の代償として「三年間の二巡目指名権」を失っている事が、終盤では意図的に無視されているような辺りが、どうも引っ掛かります。 また、上述の一位指名候補は、人格に問題ありとして指名を回避したはずなのに、暴行事件を起こした過去があるランニングバックを指名する辺りも、ちょっと一貫性を感じられなくて、残念。 クォーターバックの対比において「真に優れたプレイヤーは、人格的にも優れている」というメッセージ性があり、一位指名したラインバッカーも家族想いの良い奴だという描写があったのだから、暴行事件に関しても「あの時はイカれてた」で済まさず「実は冤罪だった」とか、もっと明確なフォローが欲しかったところ。 そして何といっても物足りないのは、このドラフトの結果が成功だったのか失敗だったのか、答え合わせが行われるシーズン開幕と同時に、映画が終わってしまう点ですね。 これはもう、実に残酷。 あそこで終わるからこそ「ドラフト」の映画として完成されるのだという事は分かりますが、だからといって納得出来るものでもありません。 無粋かも知れませんが、エンドロールにて「それぞれの選手達が、どんな活躍を果たしたのか」を、テロップで表示して欲しかったなぁ……と思わされました。 そして願わくば、チームがスーパーボウルを制し、勝利の喜びに包まれる瞬間まで、是非ともお付き合いさせてもらいたかったところです。[DVD(字幕)] 7点(2016-08-31 15:04:11)《改行有》 328. パーマネント・レコード 《ネタバレ》 主人公かと思われた登場人物が、映画が始まって三十分程で、自ら命を絶ってしまう。 それでも、そこに驚きは無く(あぁ、やっぱり……)という思いに繋がるのだから、如何に丁寧に「死に至る心境」を描いていたのかが分かりますね。 学園の優等生で、人気者であり、恋人も、親友もいるはずなのに、何故か孤独を漂わせているデビット。 幼い弟に対し、自分と入れ替わらないかと提案するシーンなんて、特に印象深い。 「楽しいぜ、みんなのアイドルさ」「僕の方は一日中、眠れる」 という台詞からは、彼が感じている重圧と、そこから解放される事を願う気持ちが、痛い程に伝わってきました。 そんな彼の親友であり、映画後半の主人公となるのは、若き日のキアヌ・リーヴス演じるクリス。 親友のデビットが残した遺書代わりの手紙を目にし、衝撃を受ける姿が、何とも痛ましい。 「すべてを完璧にしたかった」「だめだった」 という短い文面を読み上げ、その深い絶望を感じ取って、思わず嘔吐する。 そんな場面を目にすると、映画前半での「デビットに同情する気持ち」も、瞬く間に吹き飛んでしまいますね。 自殺という行いが、如何に残された者達を傷付けるかについて、改めて考えさせられました。 そんな具合に、色々と心に響いてくる内容だったのですが、映画としては、クライマックスの演奏シーンで盛り上がれず、淡々とした流れで終わってしまったように思えて、少々残念。 デビットの遺作である曲を、クリス達がバンド演奏する事を期待していたのに、ヒロインの独唱という形になったのが、どうにも肩透かしだったのですよね。 そこはやっぱり、手紙と楽譜を受け取ったクリス自身に演奏して欲しかったなぁ……と思ってしまいました。 一夜明けての、ラストシーン。 デビットの転落死を経て、崖に設置された金網は、さながら彼の墓標のようでしたね。 そんな金網に手を添えて、寂し気な姿を見せていたクリスが、呼び掛ける声に振り向き、名残惜し気に金網を見つめながらも、仲間の許へ歩いていくエンディングは、とても好み。 悲しみを抱えながらも、それに囚われる事は良しとせず、生きる事を選んでみせるという、前向きなメッセージが伝わってきました。 自殺というデリケートな問題を扱いながらも、決してそれを肯定せず、勇気を持って否定してみせた一作だと思います。[ビデオ(字幕)] 6点(2016-08-24 09:26:05)(良:1票) 《改行有》 329. トッツィー 《ネタバレ》 久々に再見してみたのですが、主人公が初めて女装するシーンまでに、二十分も掛かる事に驚かされました。 もっと早い段階というか、全編に亘って女装していたような印象があったのは、それだけ「ドロシー・マイケルズ」の印象が強かったという事なのでしょうね。 映画そのものに関しては、現代の目線からすると正直ノンビリし過ぎているというか、若干退屈。 これに関しては「主人公が女装する映画」というだけでも十分ショッキングだった当時と、それくらいの事では驚いたりしない現代の違いも影響しているのかも知れません。 一番引っ掛かったのが、ドロシーの正体が男性であると見破った人物が一人もおらず、周りが完璧に騙されているという点。 そりゃあ女装としては声や仕草まで洗練されていて見事ではありますが、だからといって「どこからどう見ても女」というレベルではなく「ん? よく見たら男?」と気付くのが自然な容貌に思えるのですよね。 だから「何時、周りに男とバレるんだろう?」と思っていたのに、結局最後まで騙し切って、自分から正体を明かしたという流れには、どうしても「そんな馬鹿な……」と感じてしまい、今一つカタルシスを得られず仕舞い。 作り手側が本気で「この女装ならば決してバレない」という自信を持って、堂々とストーリーを展開させているのか、それとも「バレるはずなのにバレない」というシュールな可笑しみを狙っていたのか、どちらなのか伝わって来なくて、中途半端な印象となってしまいました。 そんな具合に、物語の大筋には不満も残ってしまったのですが、作中のあちこちに散りばめられたユーモラスな場面だけでも、充分に楽しむ事が出来ましたね。 主人公がドンドン女装にのめり込み「ドロシーは僕より頭がいい」「髪をソフトにするかな、ドロシーには似合う」などといった具合に、自分の理想の女性像をドロシーに重ね合わせているような件も、非常に興味深い。 最も愉快だったのが、片想いの女性にキスしようとして、レズビアンだと誤解されてしまう場面。 自分は正常だと主張し、その証拠に「服を脱げば分かるわ」と口走ってしまい、ますます警戒されてしまう流れなんて、とっても面白かったです。 無事に「男女」が結ばれて、ハッピーエンドで終わってくれる点も含め、安心して観賞出来る一品でした。[DVD(字幕)] 6点(2016-08-22 22:07:14)《改行有》 330. ディープ・カバー 《ネタバレ》 潜入捜査を題材とした映画は好みなので、充分に楽しむ事が出来ました。 何といっても、主演を務めたローレンス・フィッシュバーン(ラリー・フィッシュバーン)の目力が素晴らしい。 冒頭、潜入捜査官を選抜する為、黒人警官達に面接を行うシーンがあるのですが、何の予備知識も無いと、ここで「んっ? こいつが主人公?」と思わせるような潜入捜査官候補が、次々に登場する形になっているんですよね。 でも、幾つかの面接が不首尾に終わり、フィッシュバーンが画面に現れた途端に「間違いなく、この男が主人公だ!」と納得させられてしまう。 それほどまでに、その精悍な顔付きと、鋭い眼差しには、独特の存在感が漂っていました。 父親が麻薬中毒であった為に、厳しく自己節制し、酒も飲まずにいる主人公。 そんな彼が、潜入捜査で麻薬の売人として振る舞い「悪」になりきろうとする内に、段々と自らの内面に眠っていた「悪の素養」とも言うべき一面と向き合う事になる脚本が、実に秀逸。 終盤、彼が酒を飲み干し、麻薬にも手を出してしまう場面では「とうとうやってしまったか……」という、人が堕落する瞬間の、後ろ向きなカタルシスさえ感じられましたね。 仮初めの生活を行う裏町のアパートにて、近所の少年を可愛がる主人公に対し、その子の母親から「あの子が好きみたいね。二千ドルで売ってあげる」と提案されるシーンなんかも、潜入した先の闇の深さが窺えて、印象深い。 また、売人としてコンビを組む事になった、ジェフ・ゴールドブラム演じるデビットとの、奇妙な友情も良いんですよね。 主人公に正体を告げられた後も「デカでもいい」と答え、一緒に悪党としてのし上がっていこうと誘い掛ける姿なんかも、忘れ難い魅力がありました。 あえて不満点を挙げるとすれば、主人公が最後の最後で「正義」を選ぶキッカケとなる「牧師さん」の出番が少なめである為、その決断に今一つ重みを感じられなかった事。 そしてラストシーンにて、上述の少年の母親の墓に、手向けの花と現金を添える行為によって、主人公が少年を引き取った事を示す演出が、ちょっと即物的に思えてしまったくらいでしょうか。 隠れた傑作と呼ぶに相応しい、もっと多くの人に観賞してもらいたくなるような、そんな一品でありました。[ビデオ(字幕)] 7点(2016-08-21 19:55:16)《改行有》 331. クライムチアーズ 《ネタバレ》 どうやら自分は「チアリーダー」という存在が好きみたいだなと、遅まきながら自覚させてくれた一品。 何せ、劇中の四分の一くらいはチアリーダー衣装の女の子達が登場し、その魅力を振りまいてくれる内容なのだから、もう参ってしまいます。 と言っても、実際にチアリーディングのダンスを披露しているシーンは、極僅か。 その分、お金を盗む時もチア姿、留置場の檻の中でもチア姿と「そこまでやるか……」と思えるくらいに衣装に拘っており、殆どコスプレ映画といった趣がありましたね。 そんな品であるのだから、真面目にツッコミを入れる方が野暮かも知れませんが、一応は不満点なども。 同情出来る動機があると言えども、主人公達は犯罪行為を行っているのに、それに対して一切罰を受けない結末であった事には、驚かされました。 てっきり「無罪にはなるけど、証拠品のお金は燃やす破目になる」とか、そんなオチだろうなと予測していただけに、この完全無欠なハッピーエンド(?)っぷりには、唯々吃驚。 一応、無罪放免の代償としてチアリーダーのキャプテンの座を差し出した形にはなっているのですが、妊娠した以上は遠からず引退する事になっていたでしょうし、自己犠牲的な要素は希薄。 その能天気っぷりが意外性もあって良い……と言いたいところなのですが、正直、この「完全犯罪が成立しての大儲けエンド」には、後味の悪さ、若干の後ろめたさも感じてしまいました。 けれど、総じて考えると長所の方が多かった映画だと思いますね。 まず、キャスティングが良い。 「アメリカン・ビューティー」のミーナ・スヴァーリが、本作でもチアリーダー姿を披露しているだけで嬉しくなってしまうし、それよりも何よりも、ジェームズ・マースデン! 実写版サイクロップスなど、とかく不幸な役柄の印象が強い彼が、本作においては文句無しで幸せな結末を迎えているのだから、もうそれだけでも満足。 頭は軽いけど、底抜けに良い奴という旦那役を好演しており、その明るい魅力を見せ付けてくれていましたね。 「賢者の贈り物」めいたクリスマスのプレゼント交換の場面なんて、特にお気に入り。 結局、主人公のダイアンは罪を認めないままだし、強盗で得た金という秘密を抱えたまま生きていく事になる訳だけど、こんな旦那さんが一緒であれば、罪悪感に苛まれる事も無く、幸せな一生を送る事が出来そうです。 全編のあちこちに「銀行強盗映画」へのオマージュが散りばめられており、そのチョイスが「ハートブルー」「レザボア・ドックス」「ヒート」「狼たちの午後」と、自分好みなラインナップであったのも、嬉しかったですね。 映画を参考にして強盗を行うという、ちょっぴり際どいストーリーになるのかと思いきや、中盤にて 「映画は教材にはならない」 「映画から学べるのはセックスだけ」 と結論を出してしまう辺りも、皮肉なユーモアがあって素敵。 やはりコメディを楽しむ際には、道徳や倫理観に縛られていては駄目だなと再確認させてくれる。 良質な娯楽映画でありました。[DVD(字幕)] 6点(2016-08-17 00:16:37)《改行有》 332. コンゴ 《ネタバレ》 こういった冒険物は好きなジャンルなので、楽しく観賞する事が出来ました。 なんといってもマスコット……いやさヒロインとさえ呼べそうなエイミーの存在が魅力的でしたね。 手話をするゴリラというだけでなく、特殊な機械の音声によって、人間の言葉を話せるようになっているという設定が、可愛さに拍車を掛けています。 飼い主の男性に甘えて、抱っこされたり、くすぐったりされるのが好きな性格。 そして、彼に人間の女性が近付いたら、すぐにヤキモチを妬いちゃうような辺りも、何とも愛らしい。 人間の言葉を憶えてしまったがゆえに、同じゴリラからは忌避されてしまった際に浮かべる表情なども、切なさを感じられて良かったです。 欠点としては、そんなエイミーとの別れのシーンが、やや唐突に思えてしまった事。 そして、敵となる「番人」達が小柄なゆえか、恐怖感や緊迫感が伝わってこなかった事が挙げられそう。 また、本作は「エイミーを故郷のコンゴに帰してあげる」のを目的とした男性の他にも「現地で遭難した元恋人の男性を救出する事」を目的とした女性主人公も存在しているのですが、そちらには感情移入出来なかった点も残念。 何せ彼女の上司が、絵に描いたように嫌な奴であり、実の息子の安否よりも「レーザー兵器の材料となる特殊なダイヤモンド」の入手を優先する性格だったりするもんだから、作中で彼女のモチベーションが上がらないのと同じように、観ているこちらとしても、応援する気持ちが薄れちゃうんですよね。 本来の目的である「元恋人の救出」に関しても、冒頭の映像で死んだ事が示唆されており、案の定、終盤にて死体を発見する展開なので「あぁ、やっぱり……」としか思えない。 それらの要素は「最後の最後で、上司の命令を無視する爽快感を与える為」「実は死んでいたという落胆を与えない為」なのでしょうけど、やはりスッキリしないものが残りました。 飛行機からパラシュートを付けてダイブしたり、急流の河をボートで下ったり、キャンプしてテントで眠ったり、登山したりと「冒険旅行」のツボを押さえた作りであった事は、素直に嬉しかったですね。 月夜にボートを漕ぐシーンなんかも、幻想的な美しさを味わえて、お気に入り。 命の危機が感じられない作りである事に関しても、裏を返せば「安心して、驚いたり緊張したりせずに楽しめる」という長所に成り得るんじゃないか、とも思えてくる。 そんな憎めない一品でありました。[DVD(吹替)] 6点(2016-07-31 07:57:44)(良:1票) 《改行有》 333. 地上最大の脱出作戦 《ネタバレ》 「平和な戦争映画」という、何ともユーモラスな一品。 冒頭のシーンでは生真面目に殺し合いしている姿が描かれているだけに、どんどん「普通の戦争」から離れていってしまう姿が、愉快痛快。 「お祭りの方が戦争なんかよりも大事」という主張が窺えて、それを不真面目だと怒る人もいるかも知れませんが、自分としては大いに賛成したいところです。 上層部の目を誤魔化す為に、互いに死傷者ゼロの「戦争ごっこ」を演じてみせる馬鹿々々しさも、実に滑稽で面白い。 戦争というテーマを扱う事により、作中でどんなに不謹慎な行いがあったとしても「実際に殺し合いするよりはマシじゃないか」という痛烈な皮肉に繋げてみせる辺りが上手かったですね。 純粋にコメディ映画として観た場合、現代の目線からは演出が冗長に感じられたりもするのですが「戦時に若く、美人で、色っぽいとは何事だ」などの台詞回しのセンスは、充分に面白い。 軍人達が懸命に「殺し合いの振り」をする横で、洗濯物を干してみせるオバちゃんの姿なんかも、思わず頬が緩むものがありました。 最後には、生真面目であったキャッシュ大尉までもが「お祭り」を戦争行為よりも優先してみせるようになったというオチも、予定調和な安心感があって、実に良かったです。 物語としての主人公は、ジェームズ・コバーン演じるクリスチャン少尉よりも、むしろ彼の方であったように思えました。[DVD(字幕)] 6点(2016-07-22 17:57:53)(良:1票) 《改行有》 334. お!バカんす家族 《ネタバレ》 「ホリデーロード4000キロ」から続く、Vacationシリーズの五作目である本作品。 (二作目は「ヨーロピアン・バケーション」 三作目は「クリスマス・バケーション」 四作目が「ベガス・バケーション」) けれど、自分のように上記作品群を未見の人間であっても、充分に楽しめる内容となっています。 何せ作中にて「前回の旅っていうのを知らないけど……」「構わないさ。今回は、別の良い旅になる」という会話が挟まれているくらいですからね。 作り手としても、意図的に「シリーズ未見の人でも大丈夫」というメッセージを送っているものかと思われます。 豪華な出演陣に、シニカルな笑い。 グランドキャニオンをはじめとする道中の景色など、様々な魅力に溢れた映画なのですが、やはり主人公であるオズワルド一家の存在感が大きかったですね。 ラスティは、一見すると頼りなくてドジなダメ親父。 けれど、父譲りの「絶対に諦めない」という長所と、何よりも家族を想う優しさを備えた人物なのだから、自然と応援したい気持ちになってきます。 そして、少々生活に疲れ気味ながらも、充分に美人で魅力的な奥さん。 ナイーブな性格の兄と、やんちゃな弟である息子二人も可愛らしくて、観賞後には、この家族が大好きになっていました。 中には少々下品なギャグもあったりするのですが 「不快な映像は、極力見せない」 というバランス感覚が巧みであり、作品全体に何処となく御洒落なセンスすら漂っているのだから、本当に嬉しい限り。 個人的に好きなのは、幼い息子から 「小児性愛者って何?」 「トイレの壁に穴が開いていたけど、あれ何?」 などと質問された際に、ラスティが丁寧に教えてあげようとして、妻に止められるという一連のやり取りですね。 劇中で死亡したかと思われたリバーガイドさんが、実は生きている事がエンドロールで判明する流れなども「観客に後味の悪さを与えない」という配慮が窺えて、とても良かったです。 自分一人の時なら列に横入りされても我慢してみせたラスティが、家族と一緒の時に横入りされたら本気で怒ってみせるという脚本なんかも、実に好み。 この手の映画ではお約束とも言える「最初はバラバラだった家族が、見事に一致団結した」事を示すシーンにて、挿入曲を効果的に用いている辺りも上手かったですね。 その他、シリーズ前作まで主役を務めていたクラーク・グリズワルドが登場するファンサービスに、妻の大学時代の知られざる過去なんかも、映画に深みと彩を与えてくれています。 「愛する妻に、新婚当初の笑顔を取り戻してもらう事」 「喧嘩の絶えない息子達に、仲良くなってもらう事」 という旅行の目的が、ラストにて完璧に近い形で果たされた辺りも、観ていて気持ち良い。 肝心の遊園地では、乗り物の故障に見舞われたりもしたけれど、そんなトラブルなんて些細な笑い話。 旅行に出かける前よりも、ずっと強い絆で結ばれた一家の姿を見ているだけで、何やらこちらまで「大切な旅行の思い出」を共有出来たような、素敵な気分に浸らせてくれる。 素晴らしい映画でありました。[DVD(吹替)] 9点(2016-07-18 22:23:32)(良:3票) 《改行有》 335. 白鯨との闘い 《ネタバレ》 白鯨の襲撃を受けて、船が瞬く間に破壊されるシーンは、迫力満点。 想像していた以上に「漂流」のパートが長く (あんまり白鯨とは闘わないんだなぁ……) と下がり気味だったテンションを、一気に高めてくれるだけの衝撃がありました。 序盤は「分かり易い悪役」であったポラード船長が、徐々に成長した姿を見せてくれる展開なんかも好み。 当初は対立していたオーウェン航海士と、少しずつ認め合い、再会時には喜びを見せる辺りも良かったですね。 鯨油を採る為に命懸けで船旅をしていたトーマスの口から「地面を掘ったら油が出てきた話」が語られる際の、何とも言えない笑みなんかも、非常に味わい深い。 もう危険な航海で油を集める必要もない、石油の時代への移り変わりを象徴する台詞。 とても雄大な気分に浸らせてくれると同時に、一抹の切なさも感じられました。 作中で最大の禁忌として扱われているカニバリズムに関しては、それを扱った品を既に何作も観賞済みなせいか、あまり大事には思えなかったりして、残念。 如何にも勿体ぶって描かれていた分だけ、こちらとしては少々白ける気持ちを抱いたりもしましたね。 結末では「全部を書く必要は無い」と、その禁忌をあえて秘した上で小説「白鯨」が書かれたという形になっており、作者であるハーマン・メルヴィルの優しさが示されています。 その一方で、本作品は「せっかくメルヴィルが気遣って隠しておいた秘密を暴く」ストーリーとなっている訳であり、そのチグハグさも気になるところ。 良い話として纏めているけれど、この映画の存在自体が「あえて全てを書かなかった」配慮と真っ向から反しているのではないかと、最後の最後で疑問符が残りました。 告白者であるトーマスの妻が、毅然として言い放った 「初めて会った時に、その話を聞いたとしても、私はずっと貴方の妻でいたでしょう」 という台詞が印象深いだけに、真実の秘匿を肯定的に描く形にはして欲しくなかったなぁ……というのが、正直な気持ちです。 そんな本作のクライマックス。 白鯨と目が合ってしまい、銛を突く手を止めてしまうシーンは、実に素晴らしかったですね。 とにかくもう「視覚的なメッセージ」の力が圧倒的で「何故、殺さなかった?」という作中の台詞に対しても、こんなに美しいものを殺せる訳が無いじゃないか……という気持ちにさせられます。 傷口を映し出す演出、そして白鯨が攻撃を加えずに去っていった事からするに 「白鯨と航海士との間には、闘いを通じて奇妙な友情が芽生えていたのだ」 と解釈する事も出来そうな感じ。 でも自分としては、白鯨があまりにも美しかったから見惚れてしまい、それを壊す事など出来なかったのだと思いたいところです。[DVD(吹替)] 7点(2016-07-13 21:32:00)《改行有》 336. ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金 《ネタバレ》 「これでもまだ実話」のテロップには参りました。 笑ったら不謹慎なのでしょうが、ついつい頬が緩んでしまいましたね。 マイケル・ベイ監督作としては、非常に異質な内容である本作。 豪華な出演陣と、シニカルなストーリーのギャップにも、ちょっと戸惑うものがありましたが、何処か作り手が楽しんでいるというか 「こんな馬鹿げた事件があったんだよ。どう? 笑えない?」 と問い掛けているような雰囲気が漂っており、あまり深刻にならず、リラックスした状態で観賞する事が出来ました。 「悪人だけど、どこか憎めない」というタイプの主人公達だったのですが、やっている事は凶悪極まりない為、最後まで感情移入は出来ず。 書類にサインさせる為に、被害者を拷問している場面もキツかったのですが、個人的に一番落胆させられたのは、終盤の貸金庫の件。 その中身が、思い出の写真、そして子供時代の靴の型である事に怒って「金は無いのか」と怒り出す主人公の姿は、本当に見苦しいの一言でしたね。 ここで決定的に愛想が尽きたところで、映画が終局を迎える構成となっているのは上手かったです。 また、被害者の豊胸パックを取り出さなかったばかりに、それが決定的な証拠となってしまう辺りにも「そこかよ!」と思わずツッコミ。 指紋については気を遣っていただけに、その間抜けな見落としには、乾いた笑いを感じられましたね。 主人公達が筋トレに病的に固執している点や、理想的なボディと現実の経済事情とのギャップに耐え切れず犯行に至ったと思しき点など、色々と分析してみるのも楽しそう。 けれど、それよりは、もっと肩の力を抜いて、実話である事も意図的に忘れてみせて、のんびりと観賞するのが最適な映画であるように思えました。[DVD(吹替)] 6点(2016-07-11 18:05:00)《改行有》 337. ワイルド・ワイルド・ウエスト 《ネタバレ》 スチームパンクな世界観は好みだし、真面目に作った馬鹿映画という雰囲気も決して嫌いではないのですが、今一つノリ切れず。 背景の書き割りが物凄くわざとらしい辺りなんかは、恐らく意図的な演出なのでしょうけど(普通に撮って欲しかったなぁ……)と、つい思ってしまいましたね。 女装ネタが二回続くのも食傷気味でしたし、黒人差別問題やら虐殺やらの陰鬱なネタと陽気な作風とのギャップも気になります。 何よりの問題は、折角ケネス・ブラナーが印象的なラスボスを演じてくれていたのに、彼を倒すシーンが呆気無さ過ぎた点でしょうか。 そういった基礎的な部分をキチッと仕上げてこそ、ふざけた部分の魅力も引き立つと思っているので、クライマックスの消化不良感は、実に残念。 けれど、本作独自の魅力も幾つかあって、どうにも憎めない映画でもあるのですよね。 特に巨大な蜘蛛型ロボットのインパクトは凄まじく、西部劇風の荒野を雄大な機械が闊歩していく様は、実に素晴らしい。 自動追跡首切りマシーンの原理が「磁石」という馬鹿々々しさも良かったし、それらを倒す方法が「二つを衝突させて自爆させる事」という辺りにも、王道な面白さを感じられます。 主人公コンビが二人揃ってヒロインに振られてしまい、憮然とした表情のまま、シンクロした動作で帽子を被ってみせる場面なんかも良かったですね。 紆余曲折はあったけれど、最後の最後で二人は息の合ったパートナー同士になれたのだな、という事が伝わって来て、ほのぼのとさせられました。[DVD(吹替)] 5点(2016-06-24 22:29:46)《改行有》 338. バレット(2012) 《ネタバレ》 「女子供は殺さない」「義理人情に篤い殺し屋」というキャラクターを主人公に据える前時代的な潔さが、もう天晴。 とにかく勧善懲悪が徹底していて、敵を次々に殺しまくり「死んでも誰も悲しまない悪党が死んだだけ」と堂々と語ってみせるのだから、これは凄い事です。 上記の台詞に関しては、正直ちょっと引いてしまったりもしたのですが(きっと、この映画の世界では本当にそうなんだろうな……)と、納得させられる力強さがありましたね。 往年の名匠ウォルター・ヒルだからこそ、出来た事なのかも知れません。 そして、とっくに承知の上なはずだったのですが、それでもシルヴェスター・スタローンの風格と肉体美には、改めて惚れ惚れ。 主演俳優を格好良く撮るという意味合いにおいては、文句無しで合格だったかと思う次第です。 その一方で残念なのは、スタローンにばかり比重が偏り過ぎて、相棒となる刑事の影が薄く、バディムービーとしての魅力には欠けるように思えてしまった点でしょうか。 何せ一番印象に残る活躍が、携帯電話で警察のデータベースから情報収集するという、刑事なら誰でも出来そうな事だったりするのだから、何とも寂しい限り。 ラスボスとなる殺し屋を撃ってスタローンを救ってみせる場面も、あるにはあるのですが、正直そこに関しては「元相棒の形見であるナイフを首に突き刺す」という形で、復讐のカタルシスと共に終わらせておいた方が良かったんじゃないか、と思えてしまいました。 途中、クリスチャン・スレーターがアッサリ殺される展開に関しても(まぁ、スレーターだしなぁ……)と、彼を好きなはずの自分ですら納得してしまうような予定調和の中にあるのに、相棒の刑事は心底から吃驚して「何故殺した?」と動揺していたりするものだから、ちょっと感情移入出来なかったです。 そんな本作の価値を大いに高めているのは、斧を武器とした武骨なラストバトルでしょうね。 相手役となるジェイソン・モモアも雰囲気たっぷりで、非常に重量感のあるアクションとなっています。 ぶつかり合う斧の刃先からではなく、互いの筋肉から火花が飛び散っているかのような迫力には、大いに興奮させられました。 スタローンが相棒の肩を撃って、彼の無実を証明してみせた後に、悠然と立ち去っていく後姿なんかも、これまた素敵。 色々細かな不満はあったりしても、その格好良過ぎる背中を見つめるだけで、もう満足させられちゃうのですよね。 何とも罪作りな背中でありました。[DVD(吹替)] 6点(2016-06-24 07:31:06)《改行有》 339. ヤング≒アダルト 《ネタバレ》 序盤にて(うわぁ、嫌な女だなぁ……)とゲンナリ。 中盤辺りで(あぁ、でも結構可哀想だな。彼女なりに幸せになろうと頑張っているんだな)と同情。 そして終盤にて頭を抱え込まされるという、良くも悪くも、観賞中ずっと主人公に釘付けになってしまった映画ですね。 基本的には暗い作風なのですが、何処か軽快でオシャレな匂いも感じさせる辺りは、この監督さんの持ち味なのだと思います。 過去作の「JUNO/ジュノ」に比べると、どうにも主人公の成長を感じられない内容だったりするので、それが意図的なのかどうかも気になるところ。 印象的な場面は幾つもあるのですが、特に「離婚した旦那との写真が、実家に今でも飾られている」件なんかは、本当に上手いなと感心させられましたね。 その一事だけでも、主人公が実家に帰るのを忌避する理由が把握出来たし「失敗した結婚なんだから、何時までも飾っておくのは止めて」と訴える気持ちも分かります。 帰省する車内にて、楽しそうに聴いていた「元カレとの思い出の曲」を、彼の奥さんが歌ってみせるのを目の当たりにして、呆然とするシーンなんかも良い。 それらの積み重ねがあるからこそ、主人公が単なる「嫌な女」で終わらずに、感情移入出来る存在となっているし、無茶苦茶な行動を取っても、何処か納得させられる説得力があるのですよね。 主人公が元カレの家に乗り込んで、二人で駆け落ちしようと迫るも、当然のように断られてしまう件なんかは、本当に痛々しくて目を背けたくなりましたが、彼女が何故そんな行動を取るのか理解出来ないという事は無く、混乱せずに見守る事が出来るのだから、凄い脚本なのだと思います。 ただ、彼女の最大のトラウマが「流産した事」というのは、少々安易に思えてしまって残念。 それほど独創的なネタでもないでしょうし、それなら終盤にて、さも驚きの真実のように告白させる形ではなく、もっと前の段階で分からせていても良かったんじゃないかな、と感じられました。 元カレに固執する理由が「一番良い時の私を知っているから」というのは、過去に囚われた彼女を表す台詞として、非常に良かったと思いますね。 その後、友人の妹から「この町は最低。都会で暮らす貴方が羨ましい」と言われて元気を取り戻す事になるのですが、正直そこに関しては、どうしても賛同する気持ちになれず、カタルシスを得られませんでした。 「相手の男を放ったらかしにして、一人だけベッドから抜け出す彼女」というシーンを、序盤と終盤とに挟む事によって、彼女が成長していない事を描いてみせる表現技法などには感心させられるのですが、それが感動にまでは結び付かない。 事故で傷ついた車のまま走り出すラストシーンなんかも「傷付きながらも生きていく女性の力強さ」を象徴しているようで、爽快ではあるのですが(結局、彼女って他人を思いやる優しさを持たないまま終わっているよなぁ……)と、ついつい考えてしまいます。 最後の最後で主人公を救う解決法が「他者を否定する事によって自己を肯定する」という形であった以上、どうしても後味が悪かったですね。 丁寧に作られた、クオリティの高い品である事は、疑う余地が無いと思います。 だからこそ、ラストシーンの主人公に共感出来ない事が、勿体無く感じられる映画でした。[DVD(吹替)] 4点(2016-06-23 15:45:08)(良:1票) 《改行有》 340. ものすごくうるさくて、ありえないほど近い 《ネタバレ》 愛する肉親の死と向き合って、それを乗り越えていくまでを描いた成長譚。 主人公の少年にアスペルガー症候群の兆候があると判明した瞬間、それまでの彼の言動に納得させられた一方で(じゃあ母親が放任主義を取っているのは不自然じゃないか?)との疑念が湧いていたのですが、それを終盤にて吹き飛ばしてくれる脚本が見事でしたね。 「あのビルにいたのが、ママなら良かった」などの痛烈な台詞が盛り込まれていただけに、最後は母子が和解出来た事に、心底から安堵させられました。 ナイーブな少年を主役とした映画という事で、何処か既視感のある作風だなと思っていたのですが「リトル・ダンサー」と同じ監督さんだと知って納得。 エキセントリックな表現が散見される中、作品全体に不思議な上品さが漂っている辺りなんかも共通していましたね。 上述のように「本当は息子を見放していた訳ではなく、ずっと見守っていたのだ」と分かる母親の件は、凄く良かったのですが、その分、途中で離脱する形となった祖父の扱いには不満も残ります。 また、ラストシーンに関しても、主人公がブランコから飛ぶ姿で終わるのかと思いきや、父親に言われた通りに「ジャンプはしない」形で終わった点に関しても、どこか興醒めするものがありましたね。 (子役に実際に飛ばせたりしたら危ないので、作中で父親に「飛ぶ必要は無い」と言わせたのではないか?) なんていう疑念が頭に浮かんで来てしまい、最後の最後で現実に引き戻されてしまった形。 勿論、観客である自分の疑い深さが悪いだけなのですが「飛ばなくていい理由」が「危険だから」というのは、如何にも寂しいのですよね。 それならば父親が飛んでみせる必要は無かったと思うし「飛んだ瞬間、鳥になった気がした」という台詞も不要。 飛ばずにブランコを漕ぐだけで父親と同じ気分を味わうというエンディングは、中途半端に思えてしまいます。 主人公がブランコに乗った時点で終わらせるなり、揺れるブランコの音と着地の音だけで飛んでみせた事を表現するなりしてもらった方が、好みだったかも。 作中で嘘をつく度に回数を数えてみせたり、父親の死を太陽の消失に喩えてみせたりする主人公の姿は、とても良かったですね。 純真で、それゆえに何処か大袈裟で、他者に理解される事を無意識に拒んでみせているかのような、少年らしい魅力が感じられました。 世の中には、主演の少女を観賞して愛でる為の映画も存在しますが、それと同じような楽しみ方も出来る映画かと思う次第です。[DVD(吹替)] 6点(2016-06-23 12:10:41)(良:1票) 《改行有》
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