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1. マヅルカ
《ネタバレ》 色男・女たらしを描くと、この時代のドイツの右に出るものはないか(フランスよりも濃い気がする)。1935年のウィーン。真のヒロインが登場する酒場のシーンの頽廃感。バックに孔雀の羽根のようなデザインで姿を現わし、左手を腰に当てて、垂れたテープをかき分けながら歌って歩いてくる感じ。絶対に何か起こらねばならない、というワクワク感が満ちる。何しろ時代が下ってからこさえた時代色ではなく、まさに当時の空気なんだろうから。そして「何か」が起こって、映画は前半と後半にきれいに分かれる。それがどう重なっていくのか、っていうところが本作の推理小説的楽しさ。前半での女性の訪問が、後半で歌手の側から繰り返されたりする謎解き的楽しみね。物語の芯は、この時代に汎世界的にあった型で、何の作品がルーツかなんて確かめようもない人情話の世界なんだけど、やっぱりホロッとさせられる。警吏が、前に禁じたスカーフをそっと掛けてやったり。それと知らぬ実の子が礼を言って、空想の抱擁があって、歩いているうちにバックが輝きだして、となるの。前半で、女たらしと娘が踊るとこで、カメラと一緒にぐるぐる回ったりしてたなあ。[映画館(字幕)] 8点(2011-01-18 11:02:57)
2. マイ・ネーム・イズ・ジョー
《ネタバレ》 前半、若くもない男女が次第に親密になっていくあたりの丁寧な進行。壁紙、70年代ポップスの歌手あてゲーム、セーラの仕事場に行ったとき「ああ、ジョー?」と受付の女性にももう知られていることが分かる、なんて。で、ボーリングを経て、恋人を殴った過去を告白するまでに。いっぽう甥リアム周辺に不吉の影が立ち込め出し、ここらへんからドラマが動き出す。運び屋の仕事を引き受けてしまい、それがばれたときのセーラのせりふ「あたしを殴るの」がむごい。どこかエモーションは、仁侠映画に近いのではないか。主人公の回りをうろちょろするリアムみたいのって仁侠映画にもいるでしょ、殺され役。そして主人公の情感の爆発。ジョーがボスを殴るのは、健さんがドスを抜いたようなもんだ。リアムはジョーの分身でもあり、家庭を持てたジョーでもある。だからリアムが死んでジョーが再生し、ジョーの家庭がおそらく生まれるであろうラストになるわけ。主人公が殺されたり牢屋に入ったりしてこの社会から降りるという安易なラストにならない。地獄でも極楽でもないこの世界に踏みとどまる。いや、極楽ではないが地獄でもない、という順番かな。[映画館(字幕)] 8点(2008-11-09 12:15:30)
3. 街のあかり
《ネタバレ》 コンスタントに新作出されるとあんまり有り難みが薄くなってしまうけど、でもやっぱいいなこの人。いつも“ちょっといい話”なんだよね。どん底できざす希望の光。ブアイソな壁に囲まれた場面の間に、夢のように美しいヘルシンキの夕景や夜景が入るその光のよう。もうスタイルについては言うことがない、完全にこなしきった一つの話芸になっている。今回ホントにうまいなと思ったとこは、男がずっと口を鎖ざして女を守りとおし有罪の判決が下った後、そのかばわれ続けた悪漢の情婦はどうしてるか、というと、悪漢どもがトランプに興じている後ろでつまらなそうに掃除機をかけてる、ってとこ。この苦いユーモアがカウリスマキの真骨頂。[DVD(字幕)] 7点(2008-04-20 12:12:32)
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