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1. 倫敦から来た男
ワンカットの中で、しばしば「近いアップ映像」と「遠いロング映像」が入れ替わる。とりわけ浮き輪を投げて始まる、刑事が来たときのカットが面白かった。その舞台の広さが実感として伝わる。そういう何事かが展開している長回しもあるんだけど、ただカット尻を引き伸ばしただけのようなのもあって(娘の食事とか、妻の嘆きとか)、映画全体のリズムとして、ラルゴの曲の調べを聴いているような味わいの統一は出るものの、よくわかんない(『ヴェルクマイスター・ハーモニー』でも、延々と暴徒の行進を何分間かただ映してたとこがあったけど、それはちゃんと圧迫感として迫ってきてた)。それを補うためか、ときに音楽が鳴り続け、これはちょっとうるさい。同じ曲想を延々と繰り返してるんだから、まあ時間の停滞感は画面とフィットしてるんだけど。(たぶん)そういう音楽のように時間を味わう映画なのであって、物語を理解させるのには不向きな手法。はっきり言って、理屈で展開すべき推理系ドラマとしては無理がある。こちらは漠然と、そういう話なんだろうと、理解したつもりになっただけ。いかにもシムノン的なすがれた感じは満ちているし、白黒の画面は美しい。ラストのブラウンの妻は、監督の指示か本人の体質か知らないけど、長いアップで一度もまたたきしなかったんじゃないか。『サイコ』のジャネット・リーより大変そう。[DVD(字幕)] 6点(2011-02-06 09:45:05)
2. ロルナの祈り
《ネタバレ》 2度驚かされる。「ああ、そういう話か」と映画の輪郭が大体つかめた気になった中盤でうっちゃられ、一回り大きな話になり、それで安心しているともう一度うっちゃられ、さらに話が深まる。見事。まずヤク中の男、部屋に閉じ込めてくれと自分で哀願する痛ましさ、しかし痛ましさと同時に、何の価値もない男だな、という冷たい目で我々も見てしまう。「人間やめますか」というコピーがかつてあったが、もうホントそういう感じ。しかしだんだん、そのどうしようもない男の、「やがてヤクで死んでいくだろう」というところに価値を見ている組織があらわになってくる。究極の貧困ビジネスというか、すさまじい。すると彼のどうしても女を殴れない気の弱さや、必要なお金しか取らない律儀さがしみてくる。いい奴じゃないか。対するヒロインの心の変化も、仏頂面を変えないところがいい。そこで予想されたロマンチックな展開を唐突にくつがえして、後半。ヒロインにも、組織にとっては男と同じ「道具としての価値」以上のものはなく、苛酷な展開になっていく。そこで彼女は「母という価値」にすがるわけだ。それも一ひねりされていて、彼女のすがる切なさがよりしみてくる。狭いほうへ狭いほうへと逃げていく彼女、解放と呼ぶにはあまりに痛ましい解放。暗い結末ではあるが、彼女の行動自体がかすかな希望となっていた。いつもと違い、あまりカメラを振り回さないでくれたのが何より嬉しい。[DVD(字幕)] 8点(2010-03-05 12:08:14)(良:1票)
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