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1. ベロニカ・フォスのあこがれ
《ネタバレ》 この人の映画は、わざと通俗ぶるようなところがある。「通俗」ってのは、作る側と見る側とがある程度了解済みのことを語って互いに安心する、という仕組みだ。モルヒネに溺れる女優、医者たちの犯罪グループといった三面記事的な興味をひきそうな題材を揃えてある。自分の世界をクッキリさせるために、わざと通俗の背景を用意した、ってんでもなく、通俗なものへの素直な思い入れが感じられる。戦前の華やかな時代を懐かしみ求めつつ、現在の自分を人目から隠そうと奔走するヒロインに、ドイツ人のその時代の心情が重なっているんだろう。そして彼女から金を搾り取っていく組織の存在にもリアリティがある。全体として「了解済み」のことが語られていくのだが、この三面記事的通俗さに、なにか新鮮な「優しさ」のようなものを感じるんだな。「優しさ」って言うと爽やかすぎるかも知れないが、ちょっとズレれば「おせっかい」や「覗き見的好奇心」にも変わってしまうであろう「優しさ」なの。いまでもよくちょっとして記事に触発されて無責任で自己満足的な「優しさ」の嵐が世の中に起こることがあり、そういったものに眉をしかめるのは簡単だけど、監督はそこに現代最後のスカスカになった優しさを発見しようとしているのではないか。皮肉でなく肯定的に。この映画暗い終わり方のはずなんだけど、それほど暗澹とした気分にはならなかった。スポーツ記者が一度は閉じた自分の殻を破って「優しさ」を溢れさせたところを私たちが目撃したからではないか。[映画館(字幕)] 7点(2012-08-17 09:51:54)
2. ベンガルの夜
《ネタバレ》 この「夜」を耳にしたとき、あちらの人にとっては night と knight の二つの発音が引っ掛けられてる、なんて言葉遊びみたいなもの、あるんだろうか。と思ってたらフランス映画だった。イギリス系の俳優が出てるもんで。青年、自分は騎士のつもりでいたが、夜の闇の中に融けていってしまう話。けっきょく彼はインド人一家にとっては邪悪なほうの(カーリー女神だっけ)運命の使者になってしまってたわけで。白い人にとってのインド。明晰な西欧に対して、沼のような世界。欧米がサックスの響きなら、セン家で聞こえるのはクラリネット。気の触れた妹の存在。百年後におまえが作ったものでなにが残ってる、いうニヒリスト、上海帰りのジョン・ハート。こういうジャーナリスト浪人みたいのに時代の空気感じる。セン氏は養子にしようと思ってたのに、青年は娘と結婚するんだと思ってしまった、という誤解なんだけど、これ民族の相互不理解といった普遍性にまでは持っていけてなかったな、そういう話じゃなかったのか。[映画館(字幕)] 5点(2012-04-11 10:07:46)
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