みんなのシネマレビュー |
|
【製作国 : イギリス 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
1. ダウンヒル この作品に登場する階段も、エスカレーターも、エレベーターも大半は下降の為のもの。 意識朦朧状態の主人公(アイヴァー・ノヴェロ)が、マルセイユからロンドンへと向かう 船のステップを肩を支えられながら船室へと降りていく。 階段を降りる主人公の下向き主観ショットとして撮られた、難儀な移動撮影。 その少しぎこちない揺れが、精神不安定の主人公とシンクロしあって生々しい。 レコード盤の回転運動と二重写しになりながら迫る彼の妄想。 町をほぼ無意識に彷徨う彼の主観ショットを幾重にもオーヴァーラップさせる テクニックも、街の情景の生々しさもあって決してあざとさを感じさせない。 背もたれの深い椅子によって手前と奥の人物が互いに見えないといった、 縦の構図の活用によって生まれるちょっとしたサスペンスの面白さ。 強いライトを利用した印象的な画づくりなど、他にも見所は数多い。 [DVD(字幕)] 8点(2013-03-23 04:27:00)《改行有》 2. ダンケルク(2017) 《ネタバレ》 明らかにアンリ・ヴェルヌイユ版のオープニングを踏まえたのだろう ビラの舞い落ちる街を進むトラッキングのショットから、構図は奥行きを意識し、 そこに描写されるのは誤射も飛び交う敵味方不明の銃弾、爆撃の恐怖である。 ビーチに突っ伏した主人公を手前に、画面奥から順々に着弾・爆発していくショットなどはなかなかの緊迫感だ。 が、担架を運び桟橋を渡って船に乗り込もうとするシーンなどで距離感やタイムリミットの提示に難があるのは毎度の事である。 あるいはこの距離感と計時感覚の失調こそがねらいかもしれないが。 三者それぞれの状況を音響などをブリッジさせることでクロスカットさせていくわけだが、 曇天・晴天、日の傾きまで編集で徹底出来ないなかでの時間軸の帳尻合わせは単に無謀である。 シーンの緊張を途切れさせて散漫にしている箇所も数知れない。 また評判の良いハンス・ジマーの劇伴だが、ほぼ全編というのもやり過ぎ。 サスペンスを阻害し、民間船舶集結シーンのヒロイズム煽情も過剰に思える。[映画館(字幕なし「原語」)] 5点(2017-09-09 22:10:14)《改行有》 3. 007/スカイフォール 序盤のウォーターフォールと終盤のスカイフォール。 幾度も己自身を見つめさせることになる鏡面あるいは水面と、 様々にメタ的な着想を凝らして内面描写というトレンドに倣っている。 公聴会での暗殺阻止からそのままクライマックスのアクションに なだれ込めばいくらでもテンションを上げられたところを、 内省やら回帰やらの要素を持ち込んで新味を出さねば気が済まないところが シリーズものの枷というところか。 例によって、本作の「小悪党」も卑小な内面ばかりを語りたがり、 犯罪の動機付けに汲々とする。ゆえに悪役に恐さがない。 高層階のネオンライトを背景とした シルエット同士の格闘などは実にスタイリッシュであったり、 籠城戦前の夕暮れから夜の闇へと推移する緊迫の描写も良かったり、 日本版予告編で使われたショットの数々も個々にはケレンがあって 様になっているのだが、いずれもが単発止まりである。 一連のアクションの繋がりとして見ると平板で うねりを欠いてしまうのが勿体ない。 いわゆる人間ドラマに比重が掛った結果だろう。 [映画館(字幕なし「原語」)] 5点(2012-12-25 23:50:25)《改行有》 4. ダークナイト ライジング 《ネタバレ》 寓話はあくまで架空の都市のイメージの中で語って欲しい。 ノーラン版のシリーズとして一貫してはいるが、 そのままストレートに現実を意識させるロケーションや歌唱や、 テーマ語りはやはり安易で浅はかな印象しか与えない。 主要キャラクターそれぞれに見せ場を配分するのもわかるが、 かえってその場面転換がテンポを殺しているのもいただけない。 特に肝心な後半、緊張が高まるべきカウントダウンに向かいながら 4者のパラレルアクションが映画を寸断させ、間延びさせてしまっている。 画面も深度が浅く、表情芝居に頼った人物の対話場面などは 切り返しも配置もフォーカスもことごとく単調だ。 アクションの構図もアングルも貧しく、決死のジャンプシーンにも 絶望的な高低と距離の感覚が出せているとは云えず、 物語を絵解きするのに手一杯にみえる。 巻頭の航空機墜落をはじめ、地盤の崩落、橋梁の倒壊、幽閉溝の登攀、 背骨折り、氷上での処刑とノーランが拘るのは執拗な垂直落下のイメージであり、 その中でタイトルの主題系が立ち上がって来る仕掛けではあろう。 一方で、水平の空間移動をあえて省略してみせるあたりは潔いのだが。 『ダーティ・ハリー』の投げ捨てられる警察バッヂ、『M』の人民裁判、 『機動警察パトレーバー2』の雪降る水路・橋梁爆破の空撮ショットなど、 映画の参照ぶりは相変わらず多彩だ。 [映画館(字幕)] 5点(2012-08-08 02:08:32)《改行有》 5. 007/スペクター 《ネタバレ》 例によって、愛想の無いサム・メンデス。 その深刻ぶった語り口の割には、アクションは大ざっぱで物量頼みの旧態依然。 ヒロインの生命を守る、と誓ったはずのヒーローがいきなり雪山で彼女を巻き込みかねない無謀な突撃をやらかしてはまずくはないか。 列車での格闘にしてもアジトからの脱出にしても、盛り上がるべき箇所で盛り上がらないのは彼女を庇い、守りながら闘うというエモーションがアクションに欠如しているからでもあろう。オープニングのカメラからして技巧の披瀝にすぎず、カースタントを始めとするアクションは空虚なスペクタクルの羅列に留まっている。 二人のドラマにもう少し注力すれば、ラストの橋のシーンはもっと輝いたろうに。[映画館(字幕なし「原語」)] 4点(2015-12-11 23:56:06)《改行有》 6. タイタンの戦い(2010) 序盤で、船上のペルセウスらがゼウス像を見上げ感嘆する場面がある。本来ならここに像の表情と威容を人間側からの仰角で捉えたショットが続くのが一般的だろうが、この映画は、なぜか天上から像の肩越しに船を俯瞰するショットを入れる。映画を最後まで見ていくと、どうやらこれは3Dの視覚効果だけに専心した結果の画面構成らしいことがわかる。つまり海面を背景に、画面手前にある像の頭部の立体感を強調するだけが目的の画面ということ。神々のドラマでもあるわけだから、こうしたいわゆる神の視点があっても良いわけだが、もちろんこれは視点の演出などではなくその場限りの立体感覚狙いでしかない。その立体感は、縦構図に様々に被写体を詰め込み配置することが必要なため、画面は逆に狭まり、スケール感を失っていく(一例:神々の集う広間の場面)。3Dありきの画面は縦移動を多用するが、これらは主人公の主観と一致するわけでもなく、心理の同化作用に至らない(例:硬貨の水切り、メドゥーサの落下)。『アバター』の高所感覚との大きな違いはここだろう。結果、ドラマと画面は同調せず随所で違和感すら生むこととなる。映画の低調なエモーションはこうした場当たり的3Dショット主義のみならず、もちろん作劇の怠慢にも起因する。オリジナルでは、荒れるペガサスを手懐けるまでの丁寧なストップモーションがあってこそクライマックスの疾駆と移動のシンクロが素晴らしい詩情を生むのだが、この映画はその辺りまるで理解がないらしい。猟師家族や、共闘する同志たちの人間関係描写もそうだが、これらは省略ではなく、単に欠落しているだけだ。[映画館(字幕)] 3点(2010-05-02 16:46:58)
|
Copyright(C) 1997-2024 JTNEWS