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1. オデッセイ(2015)
《ネタバレ》 この類の作品ならば普通なら主人公の追悼セレモニーのシーンなどで悲嘆にくれる家族の姿が登場するものなのだが、それが一切無いので、おや?と思う。
これはラストまで徹底していて、マット・デイモンの家族は台詞の中では語られても、それとわかる形では登場しない。
この省略は英断だろう。彼はあくまで一個のプロフェッショナルとして存在している。
火星への転進を決定した宇宙船のクルーが、家族と交信する中で帰還の延期を伝えると、彼の妻は画面の向こうで即座に理解を示し、
スクリーン上で互いに手を合わせる。
往年のトニー・スコットを思わせる、スクリーンを通してのさりげなくもエモーショナルな交感シーンに打たれる。
陽性の挿入曲に彩られながら、録画画面の中のマット・デイモンは軽妙に語り、
その一方で、終盤に控えめに登場する彼の痣だらけで痩せた裸身の後ろ姿のビジュアルは彼の艱難辛苦を雄弁に語る。
「危機感がない」からの冗談や軽口なのではない。絶望的状況だからこその精一杯のジョークなのだ。
こういった語りのバランスに唸る。[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2016-02-12 21:46:57)《改行有》
2. 黄金のアデーレ 名画の帰還
《ネタバレ》 現代パートでの資金難とか家庭不和といった障害はある程度台詞での処理に頼らざるを得ないだろう。
その辺りの淡白さを補うかのように、過去パートの脱出劇がサスペンスと緊張に溢れている。
裏路地で逃亡を通報する者。咄嗟に逃げ道を指示し、手助けする女性。通りの群衆の中で、追う者・追われる者・味方する者・妨害する者、
それぞれの視線が交錯し、スリリングなアクションを形作っている。
出国手続きの受け答えの中で、声を上ずらせながら懸命に機転を利かす若きヒロイン(タチアナ・マズラニー)の気丈さが心を打つ。
弁護士の弁論から大団円まで、クライマックスの調停シーンは裁判映画の型通りの流れだが、それで万々歳とはならない。
その次の場面に訪れる、過去と現在ふたりのヒロインの涙とそれぞれの抱擁が美しい。
その繋がり合いはヘレン・ミレンのチャームあってのもの。メリル・ストリープではこうはいかない。[映画館(字幕)] 7点(2015-12-04 20:20:53)《改行有》
3. オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ
アナログレコードの音楽に合わせて踊る、トム・ヒドルストンとティルダ・スウィントンの俯瞰ショット。
ソファの上で弾むように脚を組み替えるミア・ワシコウスカの仕草。
静かな映画の中で、それらの滑らかな運動感がアクセント的に心地よい。
途中、そのミア・ワシコウスカの闖入によって館が三人所帯となることで
ジャームッシュ流の移動の映画=ロードムービーとなる。
彼女の登場は、移動を促す契機としてあると云っても良い。
遠くに街の灯が散らばるデトロイトの寂れた夜道。
まばらな明かりの中に浮かび上がる廃墟の群れが、街の盛衰を偲ばせる。
勾配が特徴的なタンジールの石畳の路地。
黄昏のような、艶を帯びた妖しげな光の加減がエキゾチックで素晴らしい。
ランプを光源とした屋内シーンの見事さも見逃せない。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2013-12-23 23:24:51)《改行有》
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