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1. わたしを離さないで
《ネタバレ》 「オレンジと太陽」を暗部に持つ英国の、フィクションながら巧妙でシステマティックに構築された世界。 亜人間の発想は昔からあったが、現実感のある設定が目新しい。 字幕では意識的にある言葉を使わずにいるが、音声では聞こえるから隠しようもなく、へールシャム時代からあったある疑いが確信に変わるにすぎない。 主演はキャリー・マリガン、ルース役のキーラの「プライドと偏見」では妹の一人にすぎなかった彼女だけれども、こういうこともあるのだ。 子役も雰囲気が似ており青年期への移行も円滑。 タイトル"NEVER LET ME GO"はキャシーがカセットに入れた曲、「わたしを離さないで」というより「わたしを行(逝)かせないで」か。 意味もなく暗い映画は好みではないけれど、カズオ・イシグロらしく諦念に満ちた静謐な世界は嫌いではなく、繊細な映像も美しい。 「ぼくのエリ」よりも同情的になれるのも、彼らが奪う側ではなく奪われる側だから。 逃げようともしないのが異質でそこまで洗脳されているのが哀れであっても、「映画は希望に向かって走らなければならない」との考えもアメリカ映画に洗脳されているかもしれない。 この場合は、折角生を受けながら自分の体が自分のものでなく、自分の人生を生きることもできない人の心に入り込み、その気持ちを知ることができるだけでも十分じゃないかと思う。 嵐が目前に迫ったキャシーの投げかける疑問が、彼女にできるただ一つの抵抗なのだ。 かつてのユダヤ人差別にも思いおよび、校長シャーロット・ランプリングの冷徹な眼差しが効果的。[CS・衛星(字幕)] 8点(2012-07-08 07:00:03)(良:1票)
2. わたしの可愛い人―シェリ
「クィーン」のスティーヴン・フリアーズの贅を尽くした最新作。 彼の「危険な関係」に出演したミシェル・ファイファーはもうあの時のように若さに輝いてはいないけれど、まだお美しく優雅な元高級娼婦レラ。 開ききって花びらが散りそめる白バラが彼女をシンボライズする。 母子ほど年の離れたシェリ(愛しい人)ことフレッドには、ルパート・フレンドが黒髪にして紅をさし、美青年でも印象の薄かった以前とはガラリと変わって今までで一番のハマリ役。 その母マダム・プルーのキャシー・ベイツがなんとも奇怪なキャラクターで2人を翻弄する。 彼女やレラと同様ココットあがりの老女たちの強烈な存在感も味つけとなっており、ベル・エポックの絢爛たる世界の中でシェリの若妻も絡んでのフレンチな恋愛摸様ながら、フランス映画ほどにはルーズにならずにイギリス映画然とした硬質な感触もそなえる。 「青い麦」「ジジ」のコレット原作「シェリ」を主体とした上で、続編「シェリの最後」の世俗的な内容は省きその結尾につなげることで彼らの物語を凝縮。 フリアーズは自分の描きたい部分だけを選りすぐって、甘美で悲痛な世界を構築したかったのか。[CS・衛星(字幕)] 7点(2012-02-01 07:00:02)
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