|
1. 無言歌
《ネタバレ》 仲間が吐いたゲロを摘まんで食べるシーンで、ヤバイと思った。ドキュメンタリー出身の監督なら絶対に撮らないクソリアリズム映画なのか、と心配になった。でもそこらへんは、まだ劇映画に慣れてなくて試行錯誤していたときに撮った部分だったのかもしれない。次第に立ち直り、ドンさんの妻が来てからは、ドキュメンタリーの手法が生きた劇映画になった。いつも隙間から外光が漏れている室内(というより坑内)、そういう光は映画ではだいたい「外への希望」を象徴させるものだった。だけど、この坑内に入ってくる光はそうではない。夫の死を知らされて悩乱した妻が外の光に導かれるように出て行く。しかし外に広がっているのは風吹きすさぶ荒野なのだ。希望さえ吹き飛ばされてしまうような黄砂の世界。このだだっ広い閉塞感こそ、中国反右派闘争時代の犠牲者が味わった絶望の映像化だろう。「これからは百家争鳴だ」と言われて発言したところ反動分子と決められ、「思想改良」のために荒野に送られた人々の絶望。もうこれからは絶対喋るまいと決めた人々の、無言の歌が吹き荒れている。ここに埋められたくない、という最期の願いも無視され、柔らかい尻の肉を食われたあと荒野の塚になっている人々。圧迫してくる広さの力が圧倒的で、ドキュメンタリーでつちかわれた腕が十分に発揮されていた。王兵ワンビン監督。[DVD(字幕)] 7点(2013-05-07 09:59:02)
2. 息子のまなざし
《ネタバレ》 カメラが観察者の視線となって少年に張り付く。見てどうしようという前に、見ずにいられない力が働いている。復讐とかなんとかじゃなく、この見たい衝動。見抜きたいのは、罪の自覚があるのかないのか、ただそれだけ。その緊張がすさまじい。ふっと語る、おまえが殺したのは私の息子だ、のスリル。激しい追っかけ合いの後、でも戻ってきて立つ少年、言ってみればこの瞬間のための映画であって、ここから罪と向き合った本当の罰が始まるんだなあとか、ここに立たざるを得ないまでの彼の孤独を描いてたんだなあとか、それ以前に男を父として尊敬し始める描写の蓄積が生きてくるんだなあとか(敷石と車の距離を目測で言い当てる)、それらもろもろが、この立ち尽くす少年の一点に集中する。いい映画なんだけど、一つこの監督困るのは、手持ちのカメラを振り回すでしょ、前の『ロゼッタ』の時も軽い船酔い状態になっちゃったんだけど、本作では重い船酔い状態でウッウッとこらえながらの鑑賞となり(なにせ10分あたり150円払ってる勘定なので、あと150円ぶん、あと150円ぶんと頑張ってしまう)、終わってすぐトイレに駆け込んで昼に食べたグラタン吐いた。だから次の『ある子供』はDVD出るまで待って家で見たの。[映画館(字幕)] 7点(2008-04-29 12:20:15)
|