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【製作国 : フランス 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
1. 麦の穂をゆらす風 《ネタバレ》 最初のうちは、明確な敵に対決していく何の迷いもない義勇軍の時代。訓練もどこか戦争ごっこのようなのどかさを伴う。しかしそのかつて訓練をしていた緑の野で仲間を処刑してから、ドラマは陰惨さを帯びてくる。ああローチの世界に入っていくな、と思う。敵の輪郭が崩れ、仲間の輪郭と溶け合い出す。やがて協定への妥協派と否定派への分裂、義勇軍は正規軍と反乱軍として対決する。これはアイルランドの特殊な物語ではなく、歴史上どこにでも見られた悲劇。ローチ監督自身すでに「大地と自由」でスペイン内戦を舞台に描いたテーマだ。何度描いても色あせぬテーマであることが哀しい。国家の哀しみ、民族の哀しみ、名前を知っているもの同士が殺し合う哀しみ、抵抗のための組織が組織のために弾圧を始めてしまう哀しみ。この映画では反復が効果を挙げている。冒頭のイギリス軍に銃で脅される場面が、終盤ではアイルランド正規軍によって反復される。密告を勧める場面も反復される。立場を変えて反復されることのやりきれなさが、この映画を底で支えている怒りだ。でもいったい何に対して怒ればいいんだろう。[DVD(字幕)] 8点(2007-09-09 12:46:43)(良:3票) 2. 無言歌 《ネタバレ》 仲間が吐いたゲロを摘まんで食べるシーンで、ヤバイと思った。ドキュメンタリー出身の監督なら絶対に撮らないクソリアリズム映画なのか、と心配になった。でもそこらへんは、まだ劇映画に慣れてなくて試行錯誤していたときに撮った部分だったのかもしれない。次第に立ち直り、ドンさんの妻が来てからは、ドキュメンタリーの手法が生きた劇映画になった。いつも隙間から外光が漏れている室内(というより坑内)、そういう光は映画ではだいたい「外への希望」を象徴させるものだった。だけど、この坑内に入ってくる光はそうではない。夫の死を知らされて悩乱した妻が外の光に導かれるように出て行く。しかし外に広がっているのは風吹きすさぶ荒野なのだ。希望さえ吹き飛ばされてしまうような黄砂の世界。このだだっ広い閉塞感こそ、中国反右派闘争時代の犠牲者が味わった絶望の映像化だろう。「これからは百家争鳴だ」と言われて発言したところ反動分子と決められ、「思想改良」のために荒野に送られた人々の絶望。もうこれからは絶対喋るまいと決めた人々の、無言の歌が吹き荒れている。ここに埋められたくない、という最期の願いも無視され、柔らかい尻の肉を食われたあと荒野の塚になっている人々。圧迫してくる広さの力が圧倒的で、ドキュメンタリーでつちかわれた腕が十分に発揮されていた。王兵ワンビン監督。[DVD(字幕)] 7点(2013-05-07 09:59:02) 3. 息子のまなざし 《ネタバレ》 カメラが観察者の視線となって少年に張り付く。見てどうしようという前に、見ずにいられない力が働いている。復讐とかなんとかじゃなく、この見たい衝動。見抜きたいのは、罪の自覚があるのかないのか、ただそれだけ。その緊張がすさまじい。ふっと語る、おまえが殺したのは私の息子だ、のスリル。激しい追っかけ合いの後、でも戻ってきて立つ少年、言ってみればこの瞬間のための映画であって、ここから罪と向き合った本当の罰が始まるんだなあとか、ここに立たざるを得ないまでの彼の孤独を描いてたんだなあとか、それ以前に男を父として尊敬し始める描写の蓄積が生きてくるんだなあとか(敷石と車の距離を目測で言い当てる)、それらもろもろが、この立ち尽くす少年の一点に集中する。いい映画なんだけど、一つこの監督困るのは、手持ちのカメラを振り回すでしょ、前の『ロゼッタ』の時も軽い船酔い状態になっちゃったんだけど、本作では重い船酔い状態でウッウッとこらえながらの鑑賞となり(なにせ10分あたり150円払ってる勘定なので、あと150円ぶん、あと150円ぶんと頑張ってしまう)、終わってすぐトイレに駆け込んで昼に食べたグラタン吐いた。だから次の『ある子供』はDVD出るまで待って家で見たの。[映画館(字幕)] 7点(2008-04-29 12:20:15) 4. ムッシュ・カステラの恋 ヤボは勝つという話。日本の洒落本の世界でも、最初は通人がヤボを馬鹿にするものだったのが、時代が下るとまじめなヤボのほうがモテるという逆転が起こる。ここでも、中小企業の社長と芸術家集団とで、ヤボな前者が輝やき、後者の俗物ぶりが浮き彫りにされる。この話全体が実にイキである。たぶんフランスでは英会話学校に通うなんてのはヤボの骨頂なのだろうな。でもその言葉を限られた状況が、ウブな恋をする中年男の状況とうまく重なっている。フルートの実につまらないメロディのパートも、ラストでアンサンブルになると、それはそれで楽しい。人生ってこれだなあと思う。[映画館(字幕)] 6点(2008-07-07 12:10:17)(良:2票) 5. 無秩序な少女 すさんでいた少女が表現すること(劇団に入る)によって解放されていく話。障害者と一緒にするのはまずいかもしれないけど、宮城まり子の一連の『ねむの木』ものの映画をちょっと思い出した。市民社会から排除された者が「表現すること」で元気をつけていくという点では似た力学。ドキュメンタリーの強みもあって、あっちは優れた映画になったが、こっちは劇団仲間に魅力がなく、ストーリーがヒロイン一本だけで細く、話が拡がらなかった。ヒロインは自分から劇団に来たのに(ま、行くところがほかになかったし、ここも半分そういう更正施設を兼ねてるらしいけど)それにしちゃ、愛想がなさすぎる。秘書の応募に来たところを演じよと命ぜられ「私は働いたことがない」と爆発するが、あれは「市民社会ってのがどんなもんだか、まったくわからないので不安なんです」って裏打ちのある叫びに聞こえなくちゃいけないとこだろう。ただの「困った少女」でしかなかった。原案・脚本・監督ヤニック・ベロンって女性。[映画館(字幕)] 5点(2013-02-15 09:46:06)
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