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プロフィール |
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86 |
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自己紹介 |
特になし |
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1. アラビアのロレンス 完全版
とにかく、ロング・ショットで映される砂漠の景観の雄大さ。やっぱりこれは映画館の大スクリーンで観なくっちゃダメでしょ、という感じになる。デヴィッド・リーンとしては、ジョン・フォードのお得意のモニュメント・ヴァレーなんか、この砂漠の雄景に比べたら箱庭みたいなもんだぜえといわれるようにしてやるという対抗意識もあったかもしれない。ベドウィン族はどうみても西部劇のインディアンだし。これ以後の映画でいえば「スターウォーズ」の砂漠、「風の谷のナウシカ」の腐海とかに受け継がれる光景ではないだろうか。こんかい観て、「風の谷のナウシカ」なんかぜったいにこの「アラビアのロレンス」の変奏曲ではないかと思ってしまう。
しかし、そんな映像の雄大さにくらべ、このドラマの屈折ぶりは半端ではないということになる。基本的には砂漠を舞台として、「砂漠を愛してしまった男」の一大叙事詩を描くという演出なのだけれども、どう観てもこの作品のドラマ展開にはホモセクシュアルな香りがプンプンと匂い立つ(とにかく、女性というものがまったく、これっぽっちも登場してこない映画というのも珍しい限りなのだけれども)。そこに、あまりに象徴的に「銃」という小道具(これはもちろんいうまでもなくペニスの象徴である)が何度も登場するわけである。あきらかにホモセクシャルな傾向をもつ主人公のロレンス(ピーター・オトゥールがはまりすぎ!)に対して、ナヨナヨフニャフニャしたファイサル王子(アレック・ギネス)という存在と、あまりにマッチョなベドウィン族のアウダ(アンソニー・クイン)とが彼を両サイドからはさみ、ノンケな顔をしていながらロレンスに異常な愛憎感情を持つアリ(オマー・シャリフ)がいつもロレンスのわきにいる。これにさらに、ホセ・ファーラーみたいなトルコ軍のサディストじみた将校も登場して、SM趣味まで加わってくる。こんなイヤらしい映画に誰がした!という感じであるけれども、まあわたしのなかではヴィスコンティの「ベニスに死す」にも拮抗する、偉大なるホモセクシャル映画、ということになる。そうそう、モーリス・ジャールのスコアが、素晴らしいのである!
[CS・衛星(字幕)] 8点(2011-02-15 13:02:35)(笑:1票) 《改行有》
2. 悪霊島
なんと、脚本は清水邦夫、撮影は宮川一夫である。しかし、「心中天網島」からあとの篠田正浩はもうどこまでいっても篠田正浩で、「仏作って魂を入れず」の見本みたいな作品、という印象。映像的にはひじょうにカッコイイわけだし(さすが宮川一夫!)、たいまいはたいてBeatles の楽曲の使用権を買ったのもまあいいと。しかし、これは清水邦夫の脚本に根本的に欠けるものがあるのか、それとも篠田正浩の演出が悪いのか(まあ勝手に書けば後者が原因だと思うのだが)、きわめてそしゃくが悪い。篠田正浩という監督がこまるのは、映像のクオリティに拮抗するような一貫性のある「情動」を通して描くことができないということではないのか、と思ったりするわけで、これはまだ「乾いた花」や「心中天網島」などでは、うまくヴィジュアル面と情念とのスクリーン上での拮抗がうまく行っていた印象はあるのだけれども、天保六花撰を主題にして寺山修司が脚本を担当した「無頼漢」の惨々たる出来のレベルを、以降ずっと引きずることになる。う〜ん、篠田正浩監督にとって、「心中天網島」での、美術の粟津潔との奇跡的な共同作業の成果が、それ以降すべてマイナスにはたらいてしまうようになってしまったのではないだろうか。それはつまり、ヴィジュアルにさえ力をそそげば、それ以外の問題はおのずからヴィジュアルに附随してどこまでも付いてくるであろうという「信仰」なのではないだろうか。[CS・衛星(邦画)] 3点(2010-12-25 14:49:44)
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