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自己紹介 |
映画を観る楽しみ方の一つとして、主演のスター俳優・演技派俳優、渋い脇役俳優などに注目して、胸をワクワクさせながら観るという事があります。このレビューでは、極力、その出演俳優に着目して、映画への限りなき愛も含めてコメントしていきたいと思っています。 |
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1. 依頼人(1994)
《ネタバレ》 この映画「依頼人」は、私が何度も観直している映画の1本で、大好きな宝物のような映画です。
「依頼人」は、法廷物を得意とする推理作家、ジョン・グリシャム原作の映画化作品で、同じく彼の原作の映画化作品の「ザ・ファーム/法律事務所」「ペリカン文書」と違って、この映画はサスペンスよりも"人間関係の確執"に、より重点を絞った内容の"人間ドラマ"になっていると思います。
11歳の少年マーク(ブランド・レンフロ)は、8歳の弟リッキーと一緒に近くの森に隠れて煙草を吸いに行き、そこで二人は偶然、見知らぬ男が、ピストル自殺する現場を目撃してしまいます。
リッキーは、その精神的なショックから植物状態になり、入院する事になります。
一方、マークは秘密を知ったため、マフィアに脅され、追われるはめになり、警察の事情聴取にも頑なに口を閉ざしてしまうのです。
知事を目指す野心家の連邦検察官ロイ・フォルトリッグ(トミー・リー・ジョーンズ)も、FBIと共にマークを追求していきます。
そして、マークは、自分と家族を守るために、わずか1ドルの所持金で、女性弁護士レジー(スーザン・サランドン)を雇い、弁護を依頼。
この二人の"心の絆"を軸に、マークに法廷で証言させようとする検察側の思惑を絡めて、スリリングな物語が展開していく事になるのです------。
事件の中心的存在であるマフィアは、物語の流れの中では、単なる脇役に過ぎず、主人公のマークと女性弁護士のレジーに対立する敵は、実はマフィア逮捕のためには手段を選ばない"検事"だという作劇の巧みさ。
それが、善悪を単純に二分化できない現代を象徴していて、実に面白いのです。
我々、庶民の象徴のような弁護士が、果敢な信念を持った態度と豊富な法律の知識で、辣腕検事をやり込める場面が特に素晴らしく、胸のすくような思いがしますが、この国民の権利を守るはずの法律が、逆に国民を縛る存在になっている現状を鋭く突いているなと思います。
そして、法律をもう一度、自分たちの手に取り戻す過程が、"民主主義の原点"を見つめ直す作業として描かれ、それが女性弁護士レジーの"自分の人生を見つめ直そう"という作業として、重層的に描かれているのです。
それがまた、少年マークのレジーを見つめる、彼の成長とも繋がっていくという、実に心憎い内容になっているなと唸ってしまいます。
レジーを演じたスーザン・サランドンの哀しい過去を引きずりながらも、弁護士としての矜持を持ち、世の中の理不尽な出来事に立ち向かおうとする弁護士像。
そして、自分だけを頼るしかない健気な少年マークに対する、優しい母性を感じさせる愛情の表現には、鳥肌の立つほどの思いで、彼女の演技力の確かさ、深さを改めて知る思いで、彼女の演技としては、彼女がアカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞した「デッドマン・ウォーキング」と変わらないほどの素晴らしさだったと思います。[DVD(字幕)] 9点(2021-05-31 11:51:15)《改行有》
2. 偉大な生涯の物語
《ネタバレ》 「偉大な生涯の物語」は、3時間47分。キリストの生涯を描く時間としては、長いのか短いのかなどと考え始めたら、きりがありません。
映画というものは、いったん引き込まれてしまったら、時間の経つのなんて、すっかり忘れてしまうものです。
退屈な映画は、長く感じ、面白い映画は、短く感じるということですね。とにかく、素晴らしい3時間47分でした。
これだから、映画を観るのはやめられません。
キリストを演じているのは、スウェーデン出身のマックス・フォン・シドーで、ベルイマンの映画でお馴染みの名優ですね。
最初に登場した時に、髪の毛が短いので、だんだん伸びて肩に付くくらいになるのかなと期待していたら、十字架上で息絶えるまで、ずっと同じ髪形のままでした。こういう、すっきりしたキリストもいたんだなと、妙に感心しましたね。
この映画の土台となっているのは、聖書です。むろん、他のキリスト映画も、土台は聖書に決まっているのですが、この映画の場合、聖書へのこだわりを強く感じました。
聖書に出てくる使徒や、キリストの言葉が多くセリフになっており、説明的な台詞はあまりありません。
聖書に登場しないシーンもほとんどありません。
そして、それぞれのシークエンスは、まるで絵画を見ているように美しく、抒情的で詩的です。
映画を観ているというよりは、詩のナレーションの付いた、動く絵を見ているような感じがしました。実に美しい映画です。
それと、この映画で目を引いたのは、意外な俳優が出演していることです。なんと、西部劇の大スターのジョン・ウェイン。
ジョン・ウェインのコスプレ姿を観られるのかと、目を皿のようにして出番を待っていました。
ジョン・ウェインの声は、一度聞いたら忘れられないくらい独特ですから、声ですぐに彼だとわかったのですが、画面に登場したのは、ほんの数秒間で、顔のアップすらありません。
これには驚くやら、悲しいやら。きっと、無理やり出演を依頼されて、付き合いで出演したのかもしれません。
シドニー・ポワチエも少しだけ出演しています。こちらは、ジョン・ウェインより、出演場面は長いし、おいしい役です。
キリストを助けて、一緒に十字架を担ぐシモンです。
チャールトン・ヘストンは、予言者ヨハネの役で、この時期、コスプレ物の歴史映画に出まくっていた彼の貫禄を感じましたね。
あと、人気TVドラマ「ナポレオン・ソロ」のイリヤ・クリヤキン役で日本でも人気の高かったデヴィッド・マッカラムが、裏切り者のユダの役を演じていました。
冷たい感じの表情が、ユダに合っているように思えました。
何度も映画化されているストーリーの映画を見比べるのは、本当に興味深いです。まだまだキリスト映画は、他にもあるので、今後とも見比べていきたいと思っています。[DVD(字幕)] 7点(2019-05-27 10:15:51)(良:1票) 《改行有》
3. 異邦人
《ネタバレ》 主人公のムルソー(マルチェロ・マストロヤンニ)は、平凡な男だ。
それなのに、彼はいつの間にか、彼をめぐる社会からはみ出した"異邦人"になってしまっていることに気づく。
平凡な男が、いつの間にか平凡でない存在になってしまうのはなぜだろうか?
養老院で母が死んだので、彼は町から60キロほど離れた田舎の養老院へ行く。
汚いバスの中で、彼は暑さにぐったりしている。
暑い時に暑いと感じるのは当たり前だ。
そんな風に、彼の気持ちは、常に当たり前に動いて行く。
母の遺骸の傍らで通夜をしながら、彼は煙草を吸う。そして、コーヒーを飲んだ。
そのことが、後で彼が裁判にかけられた時、不利な状況証拠となってしまう。
母の遺骸に涙も流さず、不謹慎にも煙草を吸い、コーヒーを飲んだと受け取られるのだ。
それでは、ムルソーにとって、母の遺骸の前で泣き、煙草もコーヒーも断つことが、彼の本当の気持ちに忠実だったのかといえば、それはもちろん違う。
そんなことは、悲しみのまやかし的表現であり、嘘である。
ムルソーは、自分の気持ちを偽ることができなかったのだ。
暑い葬式の後で、泳ぎに行き、女友達のマリー(アンナ・カリーナ)に会い、フェルナンデルの喜劇映画を観に行った。
それは、果たして、法廷で非難されたように不謹慎な行為なのだろうか?
ムルソーは、ごく当たり前に生活する。
それが、世の中を支配しているまやかしの道徳にそぐわなかったのだ。
ムルソーは、"異邦人"のごとく見られ、断罪される。
だが、真に断罪されなければならないのは、彼を有罪とした社会なのだ。
"太陽のせいで"アラブ人を射殺する有名な事件は、原作者アルベール・カミュの"不条理"の哲学を直截に、しかも余すところなく具現化したものと言えるだろう。
ムルソーの人生は、不条理だ。だが、それでは条理とはなにか?
ムルソーの生き方を見ていると、不条理に生きる人生こそが、最も平凡な、というよりは人間として当然の人生ではないかとさえ思われる。
それに比べて、条理の側に立ってムルソーを断罪する人たちの道徳や倫理観の、なんと非人間的なことか。
ムルソーの不条理とは、最も人間的に生きることなのであった。
かくて、最も人間的に生きた人間が断罪される不条理こそが問われなければならなくなってくるのだ。[インターネット(字幕)] 9点(2019-03-13 16:03:35)《改行有》
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