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1. 第七天国(1927)
甘美なロマンスムード一辺倒ではなく、後半では第一次世界大戦での塹壕戦の描写なども手抜きがない。中盤の出征のくだりからは街路や戦場での大掛かりなモブ(群集)シーンが俯瞰気味で捉えられ、またかなり凝った特撮も組み合わされており大作の風格すら感じさせる。厳然たる戦場(地獄)に正面から向き合ってこそ対位的に強調される「天国」。その対比に関連するなら、恋人たち二人の身長差を始め、高層アパートや階段、地下水路といった舞台設定や台詞の中など随所に高低差が意識されており、見上げる・見下ろす・昇るといったモチーフに活かされている。下降―上昇―下降―再上昇という物語構造は現代なら宮崎駿監督なども意識して用いる普遍的な作劇であり、具体としての垂直方向の身体アクションが説話と融合することで、ドラマへの強い感情移入と感覚的高揚を可能にするのではないか。観念的な意味ではない、具体的な「上を見上げる」という行為の美質に溢れた作品である。[DVD(字幕)] 9点(2007-09-22 18:34:18)
2. ダウンヒル
この作品に登場する階段も、エスカレーターも、エレベーターも大半は下降の為のもの。
意識朦朧状態の主人公(アイヴァー・ノヴェロ)が、マルセイユからロンドンへと向かう
船のステップを肩を支えられながら船室へと降りていく。
階段を降りる主人公の下向き主観ショットとして撮られた、難儀な移動撮影。
その少しぎこちない揺れが、精神不安定の主人公とシンクロしあって生々しい。
レコード盤の回転運動と二重写しになりながら迫る彼の妄想。
町をほぼ無意識に彷徨う彼の主観ショットを幾重にもオーヴァーラップさせる
テクニックも、街の情景の生々しさもあって決してあざとさを感じさせない。
背もたれの深い椅子によって手前と奥の人物が互いに見えないといった、
縦の構図の活用によって生まれるちょっとしたサスペンスの面白さ。
強いライトを利用した印象的な画づくりなど、他にも見所は数多い。
[DVD(字幕)] 8点(2013-03-23 04:27:00)《改行有》
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