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1. エレニの帰郷
『カサブランカ』や『嘆きの天使』などは少々サービス過剰かとも思う。
米国マーケット他をかなり意識したのか、どうか。
濃霧の中、抱き合うイレーヌ・ジャコブとウィレム・デフォーの周囲を
旋回しかけるデ・パルマまがいのカメラなどには冷や冷やしてしまいそうになる。
被写体サイズの大きさも有名俳優起用によるものだろうが、
そうした大御所俳優らを配しながらも曇天への妥協の無さは一貫している。
ブルーノ・ガンツの乗った船が橋梁をくぐると、彼に影が落ちスッとシルエット可する
ショット。その黒と彼を包む曇天の鈍い白が異様な迫力で迫ってくる。
夜の国境検問所、暗闇とそこに浮かびあがる人物に当たる照明の加減も素晴らしい。
シベリヤの工場群の吐きだす白煙、ジグザグ階段の造形などもアンゲロプロス
ならではの壮観であり、ロングテイク内での転調(パイプオルガンの演奏、
警官隊の突入など)も驚きこそないが、楽しめる。
[DVD(字幕)] 7点(2014-09-12 16:11:30)《改行有》
2. エスター
ピーター・サースガードの役柄が建築デザイナーであることを活かしたツリーハウスや
ガーデンルーム、中央に階段を配した印象的な居間、あるいは凶器となる工具
(バール、万力)など、セットの高低と小道具を巧みにアクションに結び付けている。
その死角を強調した居住空間は秀逸なカメラワークと共に、
窃視の視線と盗み聞きのドラマにも効果を発揮する。
併せて、「話せない」こともまた視線の強度とサスペンスを生んでもいるだろう。
それだけに、インターネットはともかく携帯電話の安易な利用はドラマ的に少し勿体ない。
しかし、短いながらも強烈なインパクトのあるショットの数々が要所要所で利いている。
冒頭の逆光シーンの夢幻感。
ヴェラ・ファーミガがベッドで童話を語って聞かせる、その手話の身振り。
バックで暴走する車を内側から捉えたショットの恐怖感。
割れた鏡に映るイザベル・ファーマンの分裂した姿。
その顔に残るアイシャドウの黒。
公開バージョンのラストは、企業のシステムによって選択されたのだろうが、
監督が本来使いたかったのは、「割れた鏡」へのこだわりからしても
恐らく別バージョンの方ではないかと思う。
[DVD(字幕)] 8点(2012-06-09 22:04:37)《改行有》
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