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1. 左側に気をつけろ
スラップスティックとしてのスピード感と破天荒ぶりでは
『チャップリンの拳闘』に敵わないが、
その軽快で飄々とした緩いペースこそジャック・タチらしさだろう。
郵便配達の自転車の軽快な疾走に始まり、走り去る自転車に終わる、
全編通してののどかな屋外のロケが瑞々しく、
陽の降り注ぐ野外のリングで行われるボクシングや、
いたるところで登場する沢山の動物たちのランダムな動きと共演が大らかでいい。
ヌーヴェルヴァーグの先駆けともいえる。
軽いフットワークでボクサーの動きを模写をする
ジャック・タチのコミカルなパントマイム。
後に『右側に気をつけろ』を撮るゴダールが
自作中でよく取り入れるシャドーボクシングの身振りの原型がここにある。
トーキーだが台詞は相当に省略され、
手引書の図解を利用したギャグを始め、
サイレント的な身振りによる語りが冴えている。
[ビデオ(字幕)] 7点(2012-06-27 23:57:36)《改行有》
2. 光に叛く者
ウォルター・ヒューストン扮する刑務所長の着任する場面と、仲間を裏切った密告者をボリス・カーロフが処刑する間に囚人たちが看守らの気を引きつける場面で、囚人たちが示威の喚声を上げるその響きが強烈に禍々しい。トーキー初期の音声の用法としても、相当なインパクトを持っただろう。主人公の青年を苛む製麻工場の単調労働の様や、新所長へに向ける憎悪の表情、密告者を暗殺するための「2.15」の暗号を連鎖させていく囚人たちの場面で用いられるオーヴァー・ラップも非常に視覚効果が高く、音声効果と共に緊迫感を煽る。特に、新任の刑務所長が彼に恨みを持つ囚人たちの間を堂々と進む場面、および2時09分から発動する暗殺シーンの数分間が圧巻。両場面共に、囚人たちの威嚇的な叫び声のみが所内中に響く中、抜群のショット連鎖で緊張感を高めている。役者も好演。ウォルター・ヒューストンも、フィリップス・ホームスも適役で、所長の娘役コンスタンス・カミングスも非常に初々しい。[CS・衛星(字幕)] 9点(2009-12-26 21:36:59)
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