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プロフィール
コメント数 2395
性別 男性
自己紹介 〈死ぬまでに観ておきたいカルト・ムービーたち〉

『What's Up, Tiger Lily?』(1966)
誰にも触れて欲しくない恥ずかしい過去があるものですが、ウディ・アレンにとっては記念すべき初監督作がどうもそうみたいです。実はこの映画、60年代に東宝で撮られた『国際秘密警察』シリーズの『火薬の樽』と『鍵の鍵』2作をつなぎ合わせて勝手に英語で吹き替えたという珍作中の珍作だそうです。予告編だけ観ると実にシュールで面白そうですが、どうも東宝には無断でいじったみたいで、おそらく日本でソフト化されるのは絶対ムリでまさにカルト中のカルトです。アレンの自伝でも、本作については無視はされてないけど人ごとみたいな書き方でほんの1・2行しか触れてないところは意味深です。

『華麗なる悪』(1969)
ジョン・ヒューストン監督作でも駄作のひとつなのですがパメラ・フランクリンに萌えていた中学生のときにTVで観てハマりました。ああ、もう一度観たいなあ・・・。スコットランド民謡調のテーマ・ソングは私のエバー・グリーンです。


   
 

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661.  マウス・オブ・マッドネス 《ネタバレ》 途中でプロットがずれてきて迷走しがちなカーペンター映画の中では、安定している部類に入るんじゃないかな。まあ脚本は彼が書いたわけではないし、お話し自体がラヴクラフト風のグチャグチャでメタフィクショナルな展開なので、カーペンター親父のツボに上手く嵌った感はあります。 私はラヴクラフトを読んだことはないですけど、『マジソン郡の橋』みたいな屋根が付いたトンネルみたいな橋を渡るとそこは異世界だった、といういかにもな雰囲気は大好物です。そこは小説の中の町で主人公も実は小説に描かれた登場キャラ、そしてラストでその小説の映画化作品を観ることになるが、それはこの『マウス・オブ・マッドネス』の冒頭シーンだったというメタなストーリーテリング。主人公を演じるのがサム・ニールだけに、超合理主義者の男が狂ってゆく演技はもう彼の十八番です。登場するクリーチャーもチラ見させるだけで詳しい説明描写もないのが、かえって怖さが増してきますね。正体不明の作家がユルゲン・プロホノフというのも、ツボに嵌ったキャスティングだったと思います。でも正直言ってこの映画でいちばん背筋がゾワッとしたのが、真っ暗闇の中で走っている金髪の老人がこぐ自転車で、これは同感な人もいるんじゃないかな。 この映画で唯一笑わせて頂いたシーン:サム・ニールが精神病院にぶち込まれる冒頭のシークエンス、院内放送で流れる『愛のプレリュード』に合わせて患者たちが合唱し始めてサム・ニールが絶叫「よせよカーペンターズなんて!」、なかなかの楽屋オチでした(笑)。[ビデオ(字幕)] 7点(2022-04-14 22:08:31)

662.  アフリカの女王 《ネタバレ》 今観ても、アフリカ・ロケの映像は一見の価値ありです。何度も急流に翻弄されるアフリカの女王号はホントに船を流してなかなかの迫力ある映像ですが、もちろんボギーやヘプバーンはもちろんスタントも乗っていない無人船なのはミエミエです。これらは名カメラマンであるジャック・サーティースの匠の技なんですが、肝心のジョン・ヒューストンは現場をほったらかしてハンティング三昧のご乱交、つまりこれがイーストウッドの『ホワイトハンター ブラックハート』の元ネタというわけです。 序盤は割とシリアスに始まるけど、ボギーとヘプバーンの女王号での河下りが始まるとたちまち大人のラブコメになっちゃうのが面白い。ボギーは本作でオスカー受賞したわけですが、やはり彼は『カサブランカ』みたいな気障なキャラより粗野で豪快だけど気の良い漢を演じた方が合っています。でも彼のフィルモグラフィには、このパターンの役を演じた例は意外と少ないんです、まさに本作でのアフリカの女王号船長こそが彼のベスト・アクトだったのかもしれません。ヘプバーンも宣教師の器量の悪い妹というのは、彼女にはうってつけだったんじゃないでしょうか。でも気位の高い英国女がボギーのような酒浸りの男に惚れちゃうのはまあイイとしても、ほとんど揉めることもなくまるでJKのラブコメみたいにラストまでイチャイチャするというのは、なんか甘い脚本のような気もします。まあ原作が、ホーンブロワー・シリーズで有名なセシル・スコット・フォレスターの小説だというところも驚きですがね。[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-04-11 20:46:31)

663.  ザ・バニシング-消失- 《ネタバレ》 なるほど、サイコパス気質のキューブリックが怖がるぐらいですから、やはりこの映画の禍々しさはタダもんじゃないという証左になるでしょう。しかしこの真綿で首を絞めてくるような恐怖の盛り上げ方は、たしかにトラウマ級です。オランダの映画にはこういったヤバさや不快感といった嫌な後味が残る作品が見受けられますが、ヴァーホーベンなんて可愛く感じてしまうレベルでした。 反社会性サイコパスの犯人像がリアル過ぎて恐ろしい。二人の娘を持つ理科教師、夫婦仲はごく普通で性格は几帳面で高血圧を気にする一見平凡な中年男。この男の恐ろしいところは、何度も失敗しながらもなんで女性を狙うのかが理解不能なこと。ナンパが目的なら判るけど、失敗から教訓を得てひたすら犯行手口を改善させてゆく執念には、淡々と見せられるだけにゾッとするしかないです。“キーホルダー”や“閉所恐怖症”といった伏線が戦慄のラストで回収されるところも見事です。また失踪したサスキアを探し回るレックスを執拗に狙う心理も、常人には理解しがたい。でも彼なりのレックスを追い詰める作戦は理にかなっており、5回も匿名手紙の呼び出しに応じるレックスから彼の心理を深く理解するまでに至る知性は驚異的ですらあります。レックスはこうなると蛇に睨まれたカエルも同然、理性は激しく警告しているのに催眠術にかけられたように睡眠薬入りコーヒーを飲んでしまうのは人間心理の闇を見せられたような気分です。これはオーウェルの『1984』的な現在の権威主義国家が、民衆を操る手法に通じるものがあるかと思います。 やはりあの絶望のラストは、『キル・ビルvol.2』のユマ・サーマンに影響を与えたんでしょうか、タランティーノなら本作を観ている可能性は十分ありますね。[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-04-05 22:56:22)

664.  デジャヴ(2006) 《ネタバレ》 職人監督トニー・スコットが撮った唯一のSFもの、原点がSFといえる兄貴のリドリーとは対照的。「ほんとはこの映画はSFにしたくなかったんだ」とコメンタリーで語っているそうなので、ある意味でSF嫌いだったんじゃないかな。でもジェリー・ブラッカイマーが関わっているにしてはしっかりと観れる佳作に仕上がっている、これはやはりトニー・スコットの力量の成せる業でしょう。そして“トニー・スコットとデンゼル・ワシントンのコンビに外れなし”という定理を実証してくれている一編でもあります。 冒頭から暫くはテロが絡むポリス・アクションかというストーリーテリングなんですが、FBIが運営する秘密の監視システムが登場してからは俄然SF風味が濃厚になってきます。あの“4日前の過去から監視できるシステム”、まるでグーグルアースのストリートビューを観ているみたいで、製作時期を考えると斬新な映像かなと思います。しかし壁は透視できるしアングルやアップも自由自在で音声まで聞けるって都合よすぎ、まあSFだからいいか。「なんで4日前?」という疑問もとうぜんありますが、現在人類が観測している一億光年離れた星の光は一億光年前に発せられたものであるように、量子力学的には過去を見るだけならタイムマシンを造るより実現性があるそうです。 この映画のタイムトラベルでユニークなところは、送られる先で人間が心肺停止状態で出現することで、なんかあり得そうな感じがします。問題はタイムスリップした先で同一人物が同時間に存在してしまうということで、“一つの原子内で二個以上の電子が同じ状態で存在できない”といういわゆるパウリの排他律に反するというパラドックスをいかにクリアするかというのがタイムトラベル映画脚本の腕の見せどころとなるわけです。本作は『12モンキーズ』ほど巧みではないですが、なんかフワッとすり抜けた感はありますね。死体置き場で携帯が鳴る場面、鳴っているのは死体袋に入っているダグの携帯ではないかと思わせるシーンがあります。でもタイムスリップのときには下着だけ何も持っていかなかったはずで、思わせぶりな演出ですがダグの携帯ではないということに理論的にはなるでしょう。気になるのはダグがクレアの部屋で見る「君は彼女を救う」というメッセージで、テロが失敗した時空でダグがこのメッセージを作成しているので、テロが起こる世界でダグが見るはずはありません。やはりこれは、映画では描かれていないけどタイムスリップは一回ではなく二回以上行われたという解釈が正しいのでは。それはタイムスリップをするときにダグが発する、「これが二度目だとしたら?」というセリフの謎を解くカギになるのではないでしょうか。 ということで『TENET テネット』ほどではないにしろ回収されない伏線もあるけっこう複雑なお話しで、時間をおいてもう一回観てみたいと思っています。しかし本作の15年後にデンゼルの息子ジョン・デヴィッド・ワシントンが『TENET テネット』でより難解なタイムトラベルもので主演するとは、この親子のタイムスリップ映画との不思議な縁を感じてしまいます。[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-03-31 23:20:10)

665.  妖婆・死棺の呪い 《ネタバレ》 ゴーゴリの中編小説『ヴィー』の映像化。社会主義リアリズム・唯物史観のソ連で製作された珍しいホラー映画、まあ文豪ゴーゴリの作品の映画化だからお目こぼしをいただいたって感じなんでしょう。ゴーゴリにはこういうフォークロア的な怪奇譚を題材にした作品が散見され、言ってみれば小泉八雲の『怪談』の一エピソードを映像化したようなもんです。当初若手の監督が映像化を手掛けたが上手くいかず、ソ連発のカラー映画『石の花』を撮った大御所アレクサンドル・プトゥシェンコが引き継いで完成させました。 神学生が夏休みの帰郷途上で道に迷って気持ち悪い老婆の家に泊めてもらいます。老婆は夜中に神学生に迫ってきてあわや貞操の危機かと思いきや、実は彼女は魔女で神学生に馬乗りして空中浮遊を愉しみます。ここは原始的な合成特撮ですが、幻想的な雰囲気は良く出ていました。またここまでのストーリーテリングはコメディ調で、民話的な軽快さがあります。地上に降り立った魔女に神学生は反撃しこん棒で滅多打ち、瀕死になった魔女は若い美女に変身、彼はビビって逃げます。この魔女転じての美少女が確かに目を瞠るような美形で、これは眼福です。学校に逃げ帰った神学生は、校長から死にかけている地主の娘が彼を指名しているので、最期の祈祷をして来いと命令されます。行ってみると娘はすでに死んでおり、そして彼がボコボコにしたあの美少女でした。そして父親から三晩連続の祈祷を依頼されますが、それは恐怖に満ちた三晩になるのでした…ここからは死棺から夜な夜な蘇る娘と学生の対決になりますが、結界を造って籠ったので娘には中に入り込むことはもちろん彼を視認することすらできません。しかし三晩目には彼女は霊界から悪鬼と妖怪ヴィーを呼び込んで攻めまくってきます。やはりこの映画がカルトとして映画史に残ったのは、この悪鬼とヴィーのビジュアルのおどろしさでしょう。短いシークエンスでしたが子供が観たら悪夢に悩まされるのは必定でしたが、ヴィーの造形が水木しげるの描く妖怪みたいだったのには苦笑でした。  ランタイムも70分余りと中編でしたが、フォークロア調の語り口が印象的な秀作です。原作の舞台もロケ地もウクライナで、登場人物たちもウクライナ・コサックです。現在この地がとでもないことになっていると思うと、心が痛みます。[DVD(字幕)] 7点(2022-03-13 23:32:40)

666.  太平洋奇跡の作戦 キスカ 《ネタバレ》 日露戦争の『日本海大海戦』やWW1の『青島要塞爆撃命令』なんかは確かにあるけど、戦後の太平洋戦争をテーマにした東宝特撮戦記映画で“勝ち戦(?)”を描いた唯一の作品です。真珠湾攻撃が含まれる『太平洋の鷲』や『太平洋の嵐』もありますが、どっちもボロ負けするまで描いていますからねえ。 有名なキスカ島撤退作戦の実話映像化ですけど、登場人物は全員仮名で生存している関係者がまだ多かった時期ですから、致し方ない面もあるでしょう。三船敏郎が演じる大村少将は“ヒゲのショーフクさん”で知られた木村昌福提督のわけで、容貌は似ても似つかないんですがその物に動じない豪傑ぶりは三船にはぴったりのキャラでした。前半で一水戦の長官として阿武隈に着任するシーンで、捧げ銃をして迎える水兵長のカイゼルひげこそが木村昌福が生やしていた髭で、三船と水兵長のやり取りを含めていわば楽屋落ちみたいになっています。その阿武隈や一水戦の駆逐艦群は東宝特撮で使われた艦船プロップでは最大縮尺で作られており(五十分の一ぐらいか)、モノクロ撮影も相まって迫力満点でした。だいたいは史実に沿ったストーリー展開ですが、けっこうフィクションも織り込まれておりそれが映画的にはスリルを盛り上げる効果を上げています。たとえば濃霧の中で補給船と阿武隈が衝突しますが、実際には衝突したのは駆逐艦でした。でも阿武隈が応急修理に一時間かかって「果たしてキスカ島突入に間に合うか?」というサスペンスを生むわけで、史実を上手く改変した脚本だと思います。エキストラを含めて女性がまったく登場しない、漢くさいお話しでもあります。 チャーチル曰く「撤退戦だけじゃ戦争に勝てない」のも真理ですけど、もぬけの殻になったキスカ島に上陸した米軍が同士討ちで三百人余りの死者・行方不明を出して、「史上最大の最も実戦的な上陸演習」と公式戦記にまで皮肉られているの知るとやはり痛快でしょう。しかしですね、アッツ島では全員玉砕、キスカ島では全員撤退、この差はなんなんでしょうかね。それは、アッツには海軍兵がほとんどいなかったけどキスカの守備隊のうち半分は海軍だった(この映画では全員海軍みたいな描き方ですけど)、という事情を言っちゃうと身も蓋もなくなっちゃうんですけどね。[CS・衛星(邦画)] 7点(2022-03-07 21:38:37)

667.  マシニスト 《ネタバレ》 暗~いこの独特な雰囲気、やはりというか地味なハリウッドの俳優と監督を起用しているがプロデューサー以下の製作陣とロケ地はスペインで、どうりでスパニッシュ・ホラーのような雰囲気が漂っていたわけですね。良心の痛みがドッペルゲンガーを通して具現化されちゃうというのは、古くは20年代の『プラーグの大学生』を筆頭に良く使われてきたプロットですが、そこに不眠症を絡ませてきたのが新しいところですかな。一年間も眠れないというのは現実にはあり得ないし(速攻で死んじゃうでしょう)、実際の不眠症状だって多少なりともレム睡眠的な状態になって人体を維持しているものです。なので『地獄の黙示録』のカーツ大佐みたいなアイヴァンが妄想的な存在であることは、観てればすぐ判る。でもオチを知って感心させられるのは現実と妄想のシームレスな見せ方で、このストーリーテリングは素直に上手いなと感心しました。 そして何と言っても壮絶なのは、まるでアウシュビッツの囚人みたいなクリスチャン・ベールの激やせっぷりです。ストーリー上でも不眠症になる前のベール=トレヴァーの姿をちょっと見せますから、この対比は凄いの一言です。きっとこのシーンは、ベールが役作りに入る前にいの一番に撮ったんじゃないかな。思えばこれがいまやクリスチャン・ベールの代名詞ともなった肉体改造の始まりなんですが、劇中で肉体改造のビフォーアフターを見せたのは本作だけだったんじゃないでしょうか。でもあれだけ骨川筋衛門になっても体重が55キロっていうのも、ある意味凄い。やっぱこの人は骨が太いんでしょうね(笑)。[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-02-10 23:08:30)

668.  どん底作家の人生に幸あれ! 《ネタバレ》 文豪チャールズ・ディケンズの自伝的小説『デイヴィッド・コパーフィールド』の五十年ぶりの劇場映画化です。それにしても『どん底作家の人生に幸あれ!』とはずいぶん大胆な邦題ですね、でも意外と内容を上手く要約した良いセンスだと思います。 原作はサマセット・モームが選んだ“世界十大小説”にランクインするほどの名作、英文学をかじった人なら知らない者がいないほどの有名小説です。文庫本にしても4分冊にもなる長編ですが、それを二時間にまとめるというのはなかなか骨の折れる仕事だったと思います。この映画化でユニークなところは、主役のコパーフィールドをインド系のデヴ・パテルが演じており、また一部の主要登場人物がインド系・黒人・東洋系の俳優が起用されているところです。なので、コパーフィールドの白人の親友スティアーフォースの母親が黒人女優、なんて不思議な映像を見せられます。このキャスティングの意図は私には?ですが、推測するにデヴ・パテルを主演に使いたいというアイデアから始まった企画なのかもしれません。でも観ているうちにどんどん違和感がなくなるのが不思議、それだけパテルの演技が素晴らしかったということでしょう。この人の映画は初めてでしたが、彼は近い将来オスカー男優賞をゲットするような大物俳優になることは間違いなしです。コパーフィールドの伯母役はティルダ・スウィントンですが、珍妙なキャラを飄々と演じています。『デッド・ドント・ダイ』もありますが、彼女って最近はヘンなキャラで怪演を見せてくれることが多いんじゃないかな(笑)。 メタ・フィクション的なストーリーテリングは現代的な印象を与えますが、実はこれは原作の語り口の再現でもあります。開始から約三分の二までは原作に忠実な展開ですけど、ラストにかけてはかなり監督の独自解釈になっています。世間知らずの妻ドーラやウィックフィールド弁護士の死はなかったことにして、作家として成功したコパーフィールドのもとにほとんどの登場キャラが楽しそうに集まる大ハッピーエンドで幕が下りるのです。ディケンズ自身もこの自伝的小説で失恋や失敗だった結婚生活などを幸福な体験に作り替えており、尺の都合で端折らなくてはいけない事情を逆手にとって、ディケンズの夢想した幸福を見せようとしたんじゃないかな。波乱万丈なストーリーだけど、多幸感に満ち溢れたラストはこれで良かったんじゃないかと思います。[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-02-04 22:37:08)(良:1票)

669.  インドへの道 《ネタバレ》 ああ、これがデヴィッド・リーンの遺作なんですね。実はリーンの妻はインド人で、インドにはいろいろな思いがあったんじゃないかと思います。結果的に最後の作品でインドをテーマにしたわけですが、本当は『ガンジー』みたいな映画を撮りたかったんじゃないかな。 鑑賞してつくづく感じたのは、このインド統治こそが英国人および大英帝国の本性を理解させてくれるものだということでした。前半で散々見せられるアジズ医師を始めとするインド人たちの卑屈さよ、逆に言うと彼らをここまで飼いならす英国人の植民地支配の手腕こそが凄いんでしょうね。朝鮮・台湾が植民地統治だったのかは疑問のあるところですが、大日本帝国なんて帝国主義の世界ではアマチュアだったんじゃないでしょうか。そんな坩堝のような地に旅してくるいわば意識の高い系の二人の女性が、インドの持つ魔力に運命を狂わされる物語でもあります。ジュディ・デイビスは美形なんだけどその眼力というか眼つきの悪さは他の追随を許さないものがあります。この後はウディ・アレンの映画によく出ていましたね。彼女は洞窟に入ったところでそれまでインドの風物からの影響で燻っていた官能に火がついてどうしようもなくなったという感じなんでしょうね。音楽はモーリス・ジャールですけど、アデラが官能的な気分になると流れるメロディーは、どう聞いても『ライアンの娘』のメインテーマの変奏としか思えない。ジャールは本作でオスカー受賞しましたが、どうせなら『ライアンの娘』で評価してオスカーを与えて欲しかったな。同じく洞穴に入ってこだまに恐れおののいて結局死期を早めることになったペギー・アシュクロフト、この人のことは良く知らなかったけどキャリアを感じさせる手練れの演技を見せてくれてオスカー助演女優賞ゲットは納得です。やはり面白いのは、ちょっとKYなんじゃないかと思わせる浮世離れした哲学教授を演じたアレック・ギネスです。狂言回し的なキャラでしたが見事にインド人に化けていました、さすが百面相俳優の異名を持つだけのことはあります。一緒に狂言回しキャラを演じていたのがジェームズ・フォックス、最後に美味しいところを持って行った感はありました。それにしても、『ジャッカルの日』のエドワード・フォックスは弟ですけど、この当時になるとこの二人は見分けがつかないほどそっくりさんになってます。 14年も映画を撮らなかった(撮れなかった?)とは思えないほど、お得意の自然描写やストーリーテリングはしっかりしていたと思います。高齢の大監督の晩年作はメロメロになってしまうことが良くありますが、そんなところは微塵も感じさせられませんでした。[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-01-31 23:10:38)

670.  アレキサンダー 《ネタバレ》 人類史上で最大の偉業を成し遂げたアレキサンダー大王、子どもの頃にこの話を知った時にはあまりに凄くて神話のお話しかと思ったぐらいです。実は他の歴史上の英雄たちと違って、本作の前に彼の生涯が映画化されたのは、リチャード・バートンがアレキサンダーを演じた56年製作の『アレキサンダー大王』しかないんですね。そんな難易度の高い題材にチャレンジしたのが、21世紀に入って誇大妄想気味になってきたオリヴァー・ストーンです。 物語はアレキサンダーの死から40年後、プトレマイオス朝のファラオに収まっているかつての部下プトレマイオスの回想という形式で進行します。家庭教師アリストテレスとのエピソードなど順当なストーリーテリングで始まったと思いきや、プトレマイオス=アンソニー・ホプキンスのいわゆる“ナレ死”だけで父王フィリッポスからアレキサンダーに代替わり、アジア遠征に乗り出しエジプトを征服しペルシャに攻め入りガウガメラの決戦までナレーションだけで進行するので、これは総集編かよ、ってツッコんでしまいました。でも中盤以降になってフラッシュ・バックしてフィリッポス暗殺とアレキサンダー即位をシークエンスとしてきっちり見せてくれ、けっこう巧みな脚本なのかなと感じます。ガウガメラの決戦・バビロン入城・インド侵入と象軍団との死闘、というところが大きな見せ場・スペクタクルとなりますが、やはりガウガメラは力の入った入魂のシークエンスで凄いスペクタクルです。個人的にはインドでの戦象との闘いには強烈な印象を受け、象がこんなに恐ろしい兵器になるとは驚きしかありません。初めて英軍のタンクに攻め込まれたWW1のドイツ兵もこんな感じだったんでしょうね。あとアレキサンダーたちが初めて猿と遭遇して(ギリシャには猿はいなかったみたいですね)、人間の言葉を喋らない小人の軍団だと驚くところが面白かったです。書物を読んだだけでは到底実感できないアレキサンダーの偉業も、こうやって映像で見せられるとイメージし易くなるもんですね。 ストーリー展開の背景では、妖しい母親アンジェリーナ・ジョリーの野望が隠し味となっています。まるでフランス革命の理想を語っているようなアレキサンダー=コリン・ファレルはいかにも現代的なのキャラクターですけど、マザコン的・BL的なキャラとしては最適な彼が大王らしいかというと首を捻るところです。あと驚かされたのは、アレキサンダーの死が側近将軍たちの毒殺という解釈が採られているところで、さすが『JFK』でケネディ大統領暗殺陰謀説の教祖となったオリヴァー・ストーンらしいですね。ということは、彼が主張したかったのはアレキサンダーが古代のJFKだったということか?[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-01-25 22:54:00)

671.  第9地区 《ネタバレ》 まさに“アイデア一発勝負”で製作された映画、エイリアンを難民と捉えて大量に増えたエイリアンがスラム化した難民キャンプに押し込められるという設定は斬新でしょう。でもよく考えると、地球に来たエイリアンと人類の共存というテーマは、過去にも『エイリアン・ネイション』なんかで使われているしそう独創的でもない。このストーリーを思いついた監督が南アフリカ共和国人なんで、南アフリカ共和国や周辺アフリカ諸国の現状を織り込んだ脚本はSFながらも普遍的な社会性を持つことに成功しています。だいいち、『第9地区』というタイトルは南アフリカ共和国にかつて存在した黒人隔離施設“第6地区”のもじりなんですから。しかしながら長編映画を初めて監督したというニール・プロムカンプの力量はまだまだの水準で、オスカー作品賞にノミネートされたけど監督賞にはノミネートなしというのは止むを得ないでしょう。 プロットの秀逸さは誰しも認めるところでしょうが、私には映像やアイテムは過去のSF映画の寄せ集め的な印象が拭えないんですけどね。ヨハネスブルク上空で静止する円盤は『インデペンデンス・デイ』、ヴィカスがエイリアン化してゆく描写は『ザ・フライ』、後半に大暴れするモビルスーツは『ロボコップ2』という風に既視感が強いんですよ。まず、本来宇宙船を稼働させるための燃料を身に浴びることでヴィカスがエイリアン化するのが理屈というか説得力がまるで感じられない。エイリアンの姿形や習性のグロさは観ていて拒否反応を起こす人が多そうなレベルですけど、スラム内で活動するギャング団のナイジェリア人の描かれ方も相当なもんです。まあそれを言ったら主人公ヴィカスも感情移入できない奴で、エイリアンの卵を焼き払って「中絶だ」とはしゃぐところなんか、ほんとサイテーです。こういったポリティカル・コレクトに引っかかりそうな描写は、欧米の映画では見られないものですね。面白いのはエイリアンと人類ではお互いの言語を聞き取って理解することができるのに、決して相手の言葉を喋らない(喋れない?)ところです。この変則的なコミュニケーションは、人種や宗教の違いで起こる国際社会での摩擦の一つのメタファーなのかもしれません。[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-01-22 22:12:57)

672.  ウエスト・サイド物語(1961) 《ネタバレ》 ビリー・ワイルダーとならんで幅広いジャンルの映画を撮ってきたロバート・ワイズ、彼に二度のオスカーをもたらしたのが本作と『サウンド・オブ・ミュージック』というどっちもミュージカルだったというのは、ちょっと不思議。だって彼が本当にこだわっていたのはSFだったのにね。それまで音楽映画にすら縁がなかった彼がチョイスしたのがブロードウェイでヒットした『ウェスト・サイド・ストーリー』、オリジナルの演出家のジェローム・ロビンスを引っ張ってきて共同監督したけど、ロビンスは途中で解雇という後味悪い結末。この二人、言ってみれば東宝特撮における本多猪四郎と円谷英二みたいな位置づけなんでしょうね。 本作と『サウンド・オブ・ミュージック』および『マイ・フェア・レディ』が60年代三大ミュージカル映画という評価には誰も異存がないでしょうが、個人的には昔から本作がいちばん苦手なんですね。シェークスピアの悲劇を現代NYのチンピラ・チームの抗争に置き換えるという発想はたしかに斬新だったんでしょうけど、古いのかもしれないけど“明るく楽しい”という要素がないのは生理的に合わないんですよ。60年代に入ってMGMミュージカルのような作風が死滅してゆくのを象徴するような作品でもあるわけです、まあこれが行き着いた先が『ダンサー・イン・ザ・ダーク』なんでしょうね。また当時はまだ世間に知られていなかったけど、主要キャストの歌唱がほとんど吹き替えだというところも引っかかるんですよ。ナタリー・ウッドなんて自分の歌がマーニ・ニクソンに吹き替えられていたのを完成するまで知らなくて激怒したってのは有名な話ですが、こりゃあ日本の口パクアイドル・グループよりひどいですよね、だっていちおう本人たちの歌唱が流されるんですから。たしかに『トゥナイト』や『アメリカ』は歴史に残る名曲ですけど、この映画の見どころはダイナミックなダンス・シークエンスの数々じゃないかと思います。ボブ・フォッシーやはたまたマイケル・ジャクソンまでその影響を受けたアーティストは数知れず、本作の最大の功績なんだと思います。 スピルバーグが本作をリメイクしたそうですが、彼がミュージカルを撮るなんて想像すらしなかったですよ。彼もSFがホーム・グラウンドのような人ですから、手掛けてきたジャンルを考えるとある意味で21世紀のロバート・ワイズなのかもしれません。でもなんか観るのが怖い様な(笑)。[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-01-19 22:31:51)(良:1票)

673.  セックスと嘘とビデオテープ 《ネタバレ》 これを撮ったときソダーバーグ26歳ですか、26歳の若造が撮る映画じゃないですね、いろんな意味でね。このまま舞台劇にできそうな登場人物ほぼ四人だけの濃密な演技合戦。“セックス”“嘘”“ビデオテープ”とはこの映画の主旋律を構成する三要素だけど、ひとつ大事なモチーフが抜けていますね。それを加えればこの映画は『セックスと嘘とビデオテープと精神分析』というのが題名としては相応しいんじゃないかな、ちょっと字余り的な心地悪さは否めませんけどね(笑)。ファーストシーンからしてセラピーを受けるアンディ・マクダウェルだし、まるでキンゼイ博士みたいに女性が性について語るビデオ映像を集めるのが趣味のジェームズ・スペイダーだって、そのインタビュー自体がセラピーみたいなもんでしょ。ラストで攻守逆転、マクダウェルがセラピスト・インタビュアーみたいになってスペイダーに挑んでくると、それまで超越的でクールだったスペイダーも悪戯がばれたガキみたいにしどろもどろになるところが面白い。考えてみると、おカネを払ってまで他人に自分のことをペラペラ喋ってすっきりするって、アメリカ人ってほんと変わってます。登場人物四人にはしょうじき誰にも感情移入できませんけど、こういういかにもカンヌ映画祭が好きそうな前衛的なテーマを、ギリギリな線でエンタティメントに仕立て上げたソダーバーグの力量は大したものです。一言いえば、本作で絶賛されたジェームズ・スペイダーのキャリアが伸び悩んでしまったことは残念です。イイ役者なんだけどなあ。[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-01-07 22:33:16)

674.  アップグレード 《ネタバレ》 よく考えたらツッコミどころに事欠きませんが、才人リー・ワネル手にかかるとそんなことは気にならず観る者をグイグイ引き込むお話しになっちゃうんだからさすがです。言ってみれば人間とAIのバディムービーみたいな要素が濃厚なんですね、その主人公がジェラルド・バトラーみたいな髭面の一見マッチョ・キャラですが、意外と真面目な常識人で敵を殺すと激しく動揺するのは捻った設定です。妻を殺されたことに対する割と単純な復讐劇思いきや、ラストは予想を超えるダークな展開、イイ脚本じゃないですか。あの一瞬夢オチかと思わせるバッド・エンドは、『エンジェル・ウォーズ』を思い出してしまいました。そしてまるで『オーメン』を彷彿させるようなラストでもあり、これからは悪魔に代わってAIがオカルト・ホラーの悪役になってくるような予感がします。 考えると、ここ10年は豪州出身の映画人が絡むSFやホラーの秀作が目立ちますね。これからは韓流じゃなくてオージー流なのかもしれません。[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-01-04 22:35:31)(良:1票)

675.  1917 命をかけた伝令 《ネタバレ》 第一次世界大戦中、アドルフ・ヒトラーは西部戦線で四年間伝令兵として従軍して最終階級は伍長でした。戦闘能力や指揮能力が認められれば一兵卒でも将校以上に昇進することが珍しくなかった当時、ずっと伝令兵で伍長どまりだったというのはヒトラーの生涯の謎の一つとして歴史研究者を悩ませています。大戦最終年の西部戦線ではドイツ軍は攻勢につぐ攻勢で、歴戦の古兵は攻撃の要として重宝されたはず、まあヒトラーは自分が語るほど有能な兵士じゃなかったってことでしょう。でも本作を観る限り、最前線で突撃するわけじゃないけど伝令はかなり危険な任務だったことは理解できます。ヒトラーの伝令兵仲間も、ほとんどが戦死したそうです。 “全編ワンカット撮影!”というのがウリの映画ですが、十数キロ離れた地点まで伝令が行くというお話しが二時間程度のワンカットで撮れるはずがない、と訝しんで観始めました。やはりちゃんとトリックというか編集点がありまして、スコフィールドが橋を渡って建物内で独狙撃兵と相撃ちになるシークエンス、それは白昼の出来事でしたが夜明けの一時間前までその後ほぼ半日も失神しているんですね。他の映像も複数の長回し映像を巧みに繋げたいわばワンカット風映画なわけですが(でもその撮影技術は驚異としか言いようがない)、この場面では完全にネタばらししたようなもんでしょう。今まで撮られたワンカット(風)映画は室内劇や限られた空間でのロケ撮影で製作されていますが、これほど大規模な戦場風景がまるで個人の観ているような視点で見せられると、まさに「コール・オブ・デューティー」のようなRPGゲームの映画版という感じです。考証は行き届いていて、とくに英軍に比べて異様に豪華で立派な造りの独軍塹壕などは良く調べているなと感心しました。コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ、マーク・ストロングといった大物俳優をそれぞれワン・シーンだけ登場させるというのも贅沢過ぎです。強いて難をつけるとすれば、大量消耗戦に麻痺してしまっていた西部戦線の実情から、将軍や大佐などの幹部の対応がかけ離れているところです。史実を観ると当時の将軍たちの自軍の人的損害に対する無神経さは驚愕レベルで、実際のところ1,600人の戦死者なんて彼らにとってはかすり傷みたいなもの、まさに“西部戦線異状なし”って感じでしょう。[CS・衛星(字幕)] 7点(2021-12-27 21:49:59)(良:1票)

676.  パラサイト・バイティング 食人草 《ネタバレ》 典型的な低予算B級ホラーと舐めてかかってはいけません。製作はドリーム・ワークスでエグゼクティブプロデューサーはベン・スティラー、音楽グレーム・レヴェル・撮影監督ダリウス・コンジとスタッフも一流です。『シンプル・プラン』のスコット・スミス書いた小説が原作ですけど、ピラミッドの頂上というほぼ限定された空間は、独創的な映像アイデアだと思います、予算も節約できますしね。この映画の上手いところは、必要最小限の情報しか観客に与えないことでしょうね。ピラミッド自体はマヤ文明の遺跡らしいけどなぜその周囲にだけ食人草が生えているのか、原住民たちは若者たちをすぐに殺さずにピラミッドの頂上に追い詰めたのか、そもそも連中は何者なのか?こういう不条理とも言うべきストーリーテリングは自分の好物です。モンスター・ホラーと言っても食人草自体は積極的に攻撃してくるわけでもないのですが、着信音を音声模写(?)して獲物をおびき寄せるところなんか、はっきり言って荒唐無稽ですけど昆虫が使う擬態が連想されてゾッとします。けっきょく本作で怖いところは食人草よりもドツボにはまって自滅してゆく五人の運命で、これはほんと文字通り痛々しい。“石で骨を粉砕してナイフを使って両脚を切断”なんて、良くこんなこと考えつくなと感心してしまいます。この映画は、食人草よりも極限に追い詰められた人間がとる痛々しい行動に恐怖する種類のホラーなんです。B級ではありますが、掘り出し物と言えるホラーなんじゃないでしょうか。[CS・衛星(字幕)] 7点(2021-12-21 19:41:10)

677.  マクマレン兄弟 《ネタバレ》 才人エドワード・バーンズがサンダンス映画祭で作品賞を獲得した監督デビュー作。物語は33歳の長兄と20代の弟二人のアイリッシュ系三兄弟が軸となります。アイルランド系といえば切り離せないのがカトリック信仰ですが、三兄弟の真ん中のエドワード・バーンズ以外はしっかりした信仰を持つ人物像となっています。三人はそれぞれ教師・脚本家・大学生として社会生活を送っているのですが、みな恋愛問題や女性トラブルが進行中で、いくら十戒で戒められていようとも性本能だけは信仰ではコントロールできないってのがミソ。長兄は不倫、末弟は彼女の妊娠と大事になりそうなトラブルが起こりますけど、なんかふんわりと事が進んで単なるエピソードとして語られるのがこの映画の特徴です。ストーリーラインが弱いと言っちゃえばそれまでですが、それを補って余りあるのがバーンズの俳優たちの自然な演技を引き出す巧みな演出です。アイルランド系アメリカ人というとすぐ頭に血が昇るようなイメージがあるんですけど、そういう場面は一切なくてほんわかした心地よい兄弟関係でした。この三兄弟は個性はバラバラですけど、三人のうち誰かに感情移入したくなる魅力的なキャラです。 本作はロバート・レッドフォードに気に入られてサンダンス映画祭にエントリー、そしていまや良作をリリースすることで定評あるFOXサーチライトが設立第一弾配給作に選んだ隠れたインデペンデント映画の名作です。[ビデオ(字幕)] 7点(2021-12-09 22:39:00)

678.  GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 先にハリウッド実写版を観ていたので、背景とか展開は理解し易かったかと思います。この韜晦な世界観が、ハリウッドにかかるといかに通俗的なストーリーになってしまうことにも、気付かされてしまいました。押井守特有の決して難しい言葉遣いではないけど、難解な理論を登場人物たちがさりげなく語るストーリーテリングには好き嫌いが分かれるところでしょう。でもその造りこまれた世界は圧倒的な画力で、東京と香港とヴェニスを混ぜ合わせたような都市の細部には圧倒されます。26年前、まだWindows95が最新だった時代にここまでサイバー・ワールドを創造できたのは、まさに押井守おそるべしです。原作を読んでいない身としては「えっ、これで終わり?」という感は否めなかったですけど、続きというか続編はぜひ観たいという気にはなりました。[CS・衛星(邦画)] 7点(2021-11-30 22:38:29)

679.  ブリキの太鼓 《ネタバレ》 この映画は、ダンツィヒ(現在はポーランド領グダニスク)という都市と20世紀初頭からのドイツとポーランドの関係について多少なりとも知識がないと見通すのが大変かもしれません。そしてブリキの太鼓・スカートの中・オスカルの超能力・小さい人々、など様々な何かを暗喩しているアイテムが散りばめられており、予備知識があればそれらの意味を推測する手がかりとなるのかもしれません。 思うにオスカルの母親アグネスこそが、ドイツ人のアルフレート、ポーランド人のヤン、ユダヤ人のマルクスに愛され、彼女こそがダンツィヒという都市を体現しているんじゃないかと思います。そのアグネスが産んだオスカルが実はヤンの子だということは、ドイツとポーランドの間で帰属が揺れ動いたダンツィヒの歴史の擬人化なんだと思います。今の眼で見ればさほど刺激は感じませんけど、なんか癖の強いエロティシズムが当時は衝撃的だったのは理解できます。オスカル役のダーヴィッド・ベネントがまた映画史に残る怪演子役で、とくにアンナとの絡みは北米で児童ポルノ認定されたってのも判らなくもないです。オスカルがサーカス団に加わって戦場慰問でフランスへ行くシークエンスには独特の味があり、そこで出会う団長べブラが私にとってはこの映画でもっとも印象深いキャラでした。彼こそが肉体的成長を止めたオスカルの完成形なのかもしれません。 二時間四十分のDC版での鑑賞でしたが、観終わってみて私の大好きなエミール・クストリッツァの『アンダーグラウンド』に似ている感じがしてなりませんでした。ユーゴスラヴィアという国家とダンツィヒという都市の違いはもちろんですけど、一つの共同体の崩壊というのは共通のテーマです。でもこの映画には『アンダーグラウンド』でクストリッツァが訴えた哀愁とノスタルジーは微塵もなく、時代に流されて消えてゆく人間像が前面に出ていたように感じます。これは監督シュレンドルフというか原作者ギュンター・グラスの個性なんでしょうね。[CS・衛星(字幕)] 7点(2021-11-22 23:07:12)

680.  昨日・今日・明日 《ネタバレ》 ヴィットリオ・デ・シーカ、ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストヤンニ、この60年代イタリア映画を代表する黄金トリオ、その中でも自分はこれがいちばん好きかも。 ナポリ・ミラノ・ローマをそれぞれ舞台とする三話オムニバス、役柄は違えどもローレンとマストロヤンニがカップルで主演というところが共通点。なんと言っても第一話『ナポリのアデリーナ』が、その“刑務所に収監されないために妊娠・出産を繰り返す女”という突拍子もないプロットであまりに有名。ふつう考えたら出産は女体に負担が大きいものですけど、逆に亭主マストロヤンニの方がどんどんやつれてゆき女房ローレンが産むたびに若々しくなってゆくのが可笑しい。これは当時子宝に恵まれなくて悩んでいたローレンを、なんか励ましているような意図が脚本にあった様な感じがします。けっきょくマストロヤンニは力尽きローレンは収監、でもここからの展開はいかにもイタリア人情喜劇という感じで、出所してパレードのような歓迎を受けて下町に凱旋するオチは、なんかほっこりさせられますねえ。『ミラノのアンナ』はちょっとフェリーニ味を感じさせる上流階級の女。でも停車するたびに前車にゴツンするところはなんかヘンな女です。マストロヤンニに運転させたら愛車が自損事故で大破、途端にそれまでのクールなブルジョワ風味から豹変して下町女みたいに喚き散らすところは傑作。さすがのマストロヤンニも愛想が尽きますよね(笑)。『ローマのマーラ』で演じるのは、いよいよ満を持して高級娼婦、そのメガトン級のナイスバディを堪能させてくれます。でもこのエピソードでもっと愉しませてくれるのは、ボローニャのボンボン息子・マストロヤンニの捧腹絶倒なコメディ演技です。彼は70年代以降の渋い二枚目ぶりがパブリック・イメージですけど、実は若い頃の軽妙なコメディ演技がこれまた絶妙なんです。ほんとにこの人は素晴らしい役者です。 まさにイタリア映画界お家芸の艶笑小話集なんですが、デ・シーカが手掛けるとこんなにシャレた作品に仕上がるわけです。これフェリーニが監督だったら、まただいぶ違った風味の映画になったんだろうな、何となく想像つくけど。[CS・衛星(字幕)] 7点(2021-11-19 22:17:45)(良:1票)

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