みんなのシネマレビュー |
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821. 修羅雪姫(1973) 『キル・ビル』に代表される昨今流行の血飛沫どっぱー系ソードアクションの先駆け的作品でしょうか。復讐劇の筋立て自体はかなり濃厚で、とてもじゃないけど娯楽作品に適さないと思われますが、これがなかなか良い塩梅に漫画チックに味付けされていると感じました。多すぎる血糊。荒唐無稽な特訓。妙にヌルイ歌謡曲主題歌。リアリティを削ぐ要素が豊富なのです。さらに梶芽衣子の演技!大きく眼を見開き眼力全開。大味過ぎて上手いとは思えませんが、その大雑把な演技プランが、本作からシリアスさを奪っていて逆に好都合。結果的に娯楽色豊かな復讐チャンバラ映画が出来上がったというわけ。面白いです。21世紀の今こそ、この感性を楽しみたい映画。[DVD(邦画)] 7点(2010-04-28 22:51:18)(良:1票) 822. フレフレ少女 《ネタバレ》 公開当時、新垣のプロモーションの様子をワイドショーで観たのですが、彼女の応援はグダグダでした。全く声が出ておらず、会場も失笑ムード。そのため全く期待せず鑑賞に至ったのですが、意外や意外悪くなかったです。いや、正確に言うならダメだけど愛せるんですね。主人公が応援団に本気になる過程の動機付けは弱いですし、野球部との関係性にも深みがありません。卓球部やら将棋部を応援して勝たせる件はおふざけが過ぎます。設定および脚本で改善を望む点は多々ありました。でもそれを補うのが応援シーンの素晴らしさ。見応えがありました。そして胸を打ちました。「祈りだけでは、人は何も答えてはくれない。その想いを言葉と体で伝えて欲しい」素敵な言葉です。応援に限らず対人関係の基本だと思います。ちょっと都合良過ぎる結末だという気がしないでもないですが、2009年夏の甲子園決勝(中京大中京VS日本文理)のように何が起こるか判らないのが高校野球。この奇跡は許容範囲と考えます。人の想いは力を持っていると信じたいです。爽やかな青春映画でした。あとエンドロールが何気にいいです。応援団OBに竹中直人ではなく内藤剛志を持ってきた良識に+1点。元臨時応援団員だった自分の思い入れ補正で+1点を加算させてください。[DVD(邦画)] 7点(2010-04-22 20:05:04) 823. ブタがいた教室 《ネタバレ》 新任教師の理念とヤル気、そして行動力は素晴らしいと思います。でも教育者としての技量は不足していました。彼が目指したのは、ブタの飼育を通じて命の大切さを知る“生きた”教育。最初の躓きは、子供たちに仔ブタの名づけを許したことだったと思います。愛玩動物としてペットを飼育することと、食用の家畜を飼育することは違います。まず押さえておくべき前提の確認を怠ったのは先生のミスでした。心の防波堤を知らない子供たちは、ピーちゃんに強く感情移入してしまいました。二つ目のミスはピーちゃんの行く末を子供たちの自主的判断に任せたこと。結果、“下級生に引き継ぐ”という無責任な選択肢が出てきてしまいました。もし多数決で引き継ぐことに決まったら、先生はそれを許したのでしょうか。おそらく、彼は「子供たちが決めたことだから」と、その決断を受け入れた気がします。言い方は悪いですが、これは先生の職務放棄です。ピーちゃんを助けたいなら、卒業生か先生自身が飼育し続けるのが筋です。自身の労力と痛みを回避して他者に責任を委ねる発想は、飼えなくなったペットを捨てることと大差ありません。子供たちに答えを出させるのは構いませんが、”何でもあり”は間違いです。ガイドラインを設定するのは先生の役目でした。最初から最後まで、この試みは不出来だったと思います。でも、先生を責める気にはなれません。その理念は悪くありません。もし自分が子供たちの親だったら、先生の至らぬ部分を責めるのではなく、フォローしたいと思いました。それにしても、校長は偉いです。公務員は波風立てることを嫌います。それは教師とて同じ。面倒を厭わず、『百害あって~』の一利に賭けた校長先生は、教育者として尊敬できます。苦情を申し出た母親たちを説得し、先生には責任の所在をきちんと把握させました。こういう上司の下だと、能力のある部下は伸びます。子供たちには、気の毒な事をしたかもしれませんが、忘れられない1年間になったことでしょう。何年後か、あるいは何十年後か、この経験の本当の価値を子供たちは知ることになるのだと思います。(以下おまけ)自分が小学5年生の頃、祖父の家で飼っていた鶏を潰した事がありました。老いて、卵を産まなくなった為です。締めてさばく所まで、鮮明に記憶しています。肉も食べました。衝撃的な体験でしたが、不思議と納得していたのを覚えています。今思うと、周りの大人が平然としていたからなのでしょう。子供は大人の様子をよく観察しているものです。[DVD(邦画)] 7点(2010-02-12 18:25:26) 824. 秋深き 《ネタバレ》 「オッパイを失うくらいなら死んでもいい」ではなく、「どうせ死ぬならオッパイを残しておきたい」が一代の気持ちだと受け取りました。彼女は自分の死期を悟っていた気がする。手術でボロボロになって寺ちゃんを悲しませるより、治癒の希望を夫に抱かせたまま死にたいということ。ブラを焼き捨てたのは生還出来ない事を知っていたから。自らの選択のケジメでもある。胸が痛みます。自分は当初、「オッパイを切らないで頑張ってみたい」という一代の言葉を、寺ちゃんは鵜呑みにしたのだと考えていました。その結果、狂って暴走したのだと。だから腹が立った。少しでも長く彼女の傍に居てやれ。一刻も早く手術を受けるように説得しろ。殴って目を覚まさせてやりたかった。でもラストの寺ちゃんの顔を見て、それが勘違いだった事に気づきました。あれは悔いのない人間の顔。彼はちゃんと一代の想いを受け止めていた。何もかも承知で彼女の我侭を許したのだと感じます。それがどんなに辛い決断だったことか。励ましの言葉をかけるのは容易い。でも「無理しないでいいよ」は愛していなかったら言えません。彼は間接的に“このまま死にたい”という一代の願いを叶えたのだと思います。勿論、ガソリンを飲んでも助からないことや、壷がインチキだってことは百も承知。でも、奇跡を願わずにはいられない。それが人の心。後追い自殺だけは許せませんが、彼の精一杯の足掻きを自分は批難できません。終末医療については様々な考え方があると思います。自分自身、当事者になってみないと判らない。でも最期は自分で決めたいと思う。秋深き。冬支度の頃。少しでも穏やかな冬が我が身に訪れんことを、心から願います。[CS・衛星(邦画)] 7点(2010-01-19 20:25:16)(良:2票) 825. 芸者VS忍者 《ネタバレ》 久々に“ちゃんとした”剣劇を観た気がします。カッコ良さに主眼を置いたケレンミ溢れる生身の殺陣。ワイヤーワークを取り入れている辺りは今風か。同じ進化形の立ち回りでも『VERSUS』の坂口拓の殺陣より取っ付き易いのは、慣れ親しんだJAC(現JAE)のアクションが基礎にあるからかもしれません。エフェクトてんこ盛り「なんちゃって剣劇」より、遥かに見応えがあります。主演女優がポスト「志穂美悦子」と呼ばれるのも納得です。ただ不満が無いわけではありません。それは脚本が仕事をしていないこと。復讐劇の真相を明かした以上、父や仇の思惑、主人公の葛藤等、人の心情部分をきちんと処理しなくては無責任です。何故父はわざと弟子に殺されたのか?娘を襲った刺客たちの真の目的は?掘れば深いドラマが隠されているのに勿体無いです。「アクションだけは良かったね」で終わる作品ではつまらない。まずは人間を描くこと。それが基本。人物の魅力がアクションに乗り移ってこそ、感動が生まれます。タイトルから受ける印象は、ツッコミ上等のB級アクション。同監督の『お姉チャンバラ』と同類です。でも違いました。縫製はB級ですが、生地は一級品。この方向性は、邦画剣劇の未来像のひとつと考えます。自分基準の採点では6点ですが、アクションスター候補生、佃井皆美嬢の美脚に+1点のおひねりを。[DVD(邦画)] 7点(2010-01-10 18:55:24) 826. 接吻 (2006) 《ネタバレ》 漆黒の背景に浮かぶ「接吻」の赤い文字。エンドロールをしばし呆然と眺めました。意味が分らなかった。でも改めて彼女に自分を重ねてみると、おぼろげながらその行動が理解できた気がします。以下自分なりの京子の心情の解釈。誤読ご勘弁ください。彼女が坂口に惹かれたのは、彼に共感したから。同じ虐げられてきた仲間。初めて出合った同胞でした。バッシングに立ち向かう私。悲劇のヒロイン。彼女は自らの境遇に酔い痴れます。ところが坂口は控訴すると言い出しました。なんで?世間が私たちを無視してきたように、今度は私たちが世間(司法制度)を無視する番じゃないの?彼女の想いは裏切られた。失意の中、京子は坂口を殺すことを決意します。彼と同じ人殺しの心境を味わうため。当初の計画通り、世間に復讐するためでもある。“2人を殺して死刑に”。それが彼女の新しい筋書きでした。ところが坂口を刺した瞬間、彼女の中の枷が外れた。もうどうなってもいい。錯乱状態の中、抑圧されていた願望が露になります。それは長谷川への愛。本能は彼女に接吻を命じました。交わりたい。一つになりたい。坂口との間で適わなかった同一化を、長谷川との間で成し遂げようとします。思い返してみると、京子が長谷川を意識した台詞は随所にありました。いつも自分を気にかけてくれた人。それが彼の職務だとしても、彼女は嬉しかったに違いありません。それに京子が坂口に傾倒したのは、辛い現実から逃れるための、ある種の逃避行動。一方、長谷川への好意は交流の中で芽生えた自然な感情。縛るものが消えたとき、彼女は自分の本当の気持ちに気づいたのだと思います。京子の去り際の言葉は、戻ってきた理性が言わせた偽り。本心は「助けて欲しい」「愛して欲しい」。以上です。タイトルにすっかり騙されましたが、こういう裏切りなら大歓迎。トヨエツの演技は圧巻でした。小池も及第点以上の出来。女優の素質十分でしょう。今後の活躍を期待します。[CS・衛星(邦画)] 7点(2010-01-07 18:23:36)(良:1票) 827. 荒野の用心棒 《ネタバレ》 (黒澤『用心棒』の内容に触れますので、未見の方はご注意ください)黒澤版の脚本を忠実に擦っている本作。ソックリと言うより、まんまです。だのに満足度に大分差がある。何故か。それは“余白の有無”だと思いました。オリジナルには程よい遊びがあった。例えば丑寅の存在。親分の弟で腕っ節は強いが少々足りない憎めない男。彼のおかげで随分なごめました。主人公のキャラクターもそう。三十郎の魅力は「凄腕」と「頭の切れ」だけではありません。豪胆さの中に垣間見える茶目っ気を忘れてはいけない。こっちが心配になってしまう程のいい加減さ。その余裕が観客に安心感を与えています。リラックスした「緩」があってこそ、シビれる銃撃戦の「急」が際立つのだと思います。そういう意味で、本作は真面目過ぎたと思いました。酒場の親父と主人公の繋がりは物語のキモ。どうして親父は拷問を受けてなお、主人公の居所を喋らなかったのか。その想いが観客に届かなければ、主人公の最後の戦いの意味がぼやけてしまいます。オリジナルに在った“親父の満面の笑み”を描かないのは解せません。真似るなら、徹底して良い所を取り入れればいいと思います。以上、少々厳しい言い方をしましたが、本作がダメな訳ではありません。本作は本作で及第点以上の作品。ラストの対決の緊張感たるや素晴らしかった。主人公の計画は単純です。でも鋭い観察力と判断力、そして勇気なくしては成立しなかった。“奴は心臓以外を狙わない”という伏線の張り方など、丁寧な仕事ぶりが光ります。オリジナルに沿っていない部分の方がむしろ出来がいいです。[CS・衛星(字幕)] 7点(2009-08-15 19:49:23)(良:1票) 828. 皆殺しの天使 《ネタバレ》 何故ブルジョワだけが、神の仕掛けた罠に絡め取られたのでしょう。危機を察知して、屋敷から逃げ出した使用人たちとの違いは何か。ブルジョワたちは、いろんなモノを身につけ過ぎたのだと思いました。地位、名誉、金、プライド…。装飾が足枷となり、本来動物が持っている危機感知力を鈍らせた気がします。理性を失い罵りあう人々。足枷が外れたから、彼らは助かったのだと思いました。もっともそれは一時的なもの。一度服を着た人間はもう裸に戻れない。だからあの結末なのだと思います。不条理映画ではありますが、体裁はサバイバルサスペンス。『CUBE』や『SAW』と同じソリッドシチュエーションスリラーとも言えます。そういう意味でこの状況設定は秀逸です。物理的な拘束より心理的な抑圧の方がずっと強固な監禁状態だと思えました。お見事。謎の多い映画なので、鑑賞後にあれやこれやと自分なりの解釈をして楽しむのがお勧めです。[CS・衛星(字幕)] 7点(2009-07-26 18:53:16) 829. スピード(1994) 《ネタバレ》 TV地上波で何度も放送されるのは伊達じゃない。確かに面白いです。自分の採点基準を当てはめれば、6点以下ということはありません。ただし、8点以上を付けるのは躊躇われる。“惜しい”部分が目に付くのです。例えばバスジャック。高速道路が途切れている件は遣り過ぎでした。台も無いのに高々とジャンプするバスをみて、一気に現実に引き戻されました。著しくリアリティを欠きます。成功確率1%未満のミッションが何度成功しても構いません。それが娯楽映画の正しいかたち。ワクワク出来ます。でも確率0%が成功するのは違う。サスペンスじゃなくファンタジーになってしまうから。地下鉄の戦いがバスジャックより見劣りしたり、キアヌVS犯人の決着があっけなかったりするのも勿体無い。後半、明らかに失速しました。折角素材がいいのだから、もっと丁寧に調理して欲しいと思いました。[地上波(吹替)] 7点(2009-07-14 20:37:59) 830. カリフォルニア・トレジャー 《ネタバレ》 精神を病んだ父親はひたすら夢を追いかけ、現実を生きる娘はそんな父を疎ましく思う。当然のことです。でもそこは親子の情。子は親を切り捨てられない。離れていた2人の心を結びつけたのは宝探しでした。一緒に力を合わせることで、一緒の時間を過ごすことで、2人は親子関係を再構築していたのだと思います。ある意味、育て直し。ウェットに寄らずホームコメディ風のタッチが心地よいです。戯言だと思いつつ父の夢に付き合った娘。ついには法を犯す一線を越えます。理由の一つは、家を差し押さえられて自暴自棄になっていたこと。もう一つは何処かで父を信じてみたいと思っていたから。“信じること”=“愛すること”。真剣にバカをやる父親は、ドン・キホーテに見えました。手にした金貨は父からの贈り物。海から上がってきた裸の中国人は、父の妄想が嘘でなかったことの再確認。物語は優しく父親を肯定して終わります。ティム・バートンの『ビック・フィッシュ』に近い喉ごし。悪い話だとは思いません。ただ、親の愛情が金で換算されたように思えたのは残念。厄介者は消えた。大金は手に入れた。冷静に考えればハッピーエンドです。でも映画の中くらい、嘘みたいなキレイ事で終わって欲しいとも思います。妄想で結構。宝なんかいらないから、お父さん帰って来てよ。川と海は繋がってるでしょ。[DVD(字幕)] 7点(2009-06-11 19:39:20)(良:1票) 831. 片腕マシンガール 《ネタバレ》 ストーリーだけを評価するなら0点でも甘いくらい。胸糞悪い。悪趣味極まりないないです。ところが映画として観てみるとコレがなかなかイケる。『キル・ビル』や『プラネット・テラー』を煮しめて煮しめて、バカを塗りこんだ感じ。どんなジャンルでもそうですが、振り切れている映画は魅力的です。クサ過ぎる芝居も、グロ過ぎる描写も、チープ過ぎる設定も、トータルバランスが取れているので心地よい。アクションも見応えがありました。何気に感心したのは弟くんの友達が、イジめっ子と戦う場面。ダサダサの弱虫キャラが本格志向のローキックを放つのです。これが超ウソ臭い。見るからにインドアのオタク系ですから。でも母親に格闘技の素養があるなら、その息子だってあれくらい蹴れてオカシクない。気の利いた設定です。もちろん残りの99%はバカ設定ですけど。難点は他人に薦められないこと。自分が鑑賞した事も出来れば隠しておきたいくらい。ちなみに監督主演の「本作の正しい鑑賞法」はギャグというより作品批判(モラル批判)に対する保険だと思います。マジで怒らないでネっていう。気持ちは分かりますが粋じゃない。無くていいかも。[DVD(邦画)] 7点(2009-04-24 20:59:49)(笑:1票) (良:1票) 832. ミンボーの女 《ネタバレ》 伊丹十三監督の「女」シリーズは基本的にどの作品も同じプロット。宮本信子演じるスゴ腕のプロが問題を解決していく爽快感がウリ。ワンパターンと言えなくも無いですが、どれも娯楽映画として高い水準にあるのが素晴らしいです。本作もそんな作品のひとつ。今回の「女」は民事介入暴力専門の女弁護士。ただ主役は彼女ではありません。彼女はあくまでキッカケであり手段。暴力団に相対する主人公は、一介のホテルマンです。彼らは最初何も持っていない。女弁護士のサポートを受け、徐々に戦う術を身につけていくのが見所。大切なのは相手を知ること。怖い時に目を瞑るともっと怖くなる。震えた時ほど眼を見開かなければならない事を本作は教えてくれます。ただ、現実にはこう簡単には行かないだろうという事も想像できます。深いようで浅い、浅いようで深いのが暴力団。怯えずされど侮らず。出来ることなら、彼らと関わり合いなく人生を過ごしたいものです。[DVD(邦画)] 7点(2009-04-15 20:54:29)(良:1票) 833. バースデイ・ガール 《ネタバレ》 ニコール・キッドマンという女優、いや女性のタイプとして、個人的に苦手です。演技がどうこうではなく、顔が。あの目つきが怖い。いわゆる「性悪女」タイプに見えます。でも超がつく美人なのも間違いない。彼女に迫られて、断れる男はこの世に居ないと断言できます。自分も含めて(何のこっちゃ)。ですから主人公がナディアに惹かれていく過程には説得力がありました。彼女の危機に主人公が取った行動は、完全に常軌を逸しています。テンパリ過ぎにも程がある。でも人を愛すると人は狂うもの。彼女の正体を知り罵倒し嘲るのも、真剣だった事の裏返し。本気で人を好きになった気持ちは簡単には切り替えられないもの。バカな主人公に感情移入してしまいまいました。ラブストーリーとして納得できます。ただし先に述べたように、ナディアは小悪魔。最初からこの出会いに裏があるのはミエミエ。ですからサスペンスとして驚きが無いのが難点でしょうか。会話場面は少なめですが、「キリン」の件など小粋なネタにはニヤリ。[DVD(字幕)] 7点(2009-04-06 20:02:33) 834. 全然大丈夫 《ネタバレ》 人物造形が的確。各人がどのように考え、どう振舞うか理解し易く、物語の流れに合点がいきました。人がきちんと描かれている映画は好きです。では内容について感想を。主要キャラは、恋愛成就組と失恋組に分けられます。前者と後者の違い。それは“実力”の有無だと思いました。魅力と言い換えても構いません。蟹江には枯れ男の哀愁と弾き語りのスキルがあった。ココリコ田中は自然体の生活様式が素敵。木村もその美貌と独特のセンスが光ります。弱みの在る人間ばかり。でも、それを補う実力が他者を惹き付けた。一方、失恋組はどうでしょう。岡田の優しさは長所です。でも自己保身の術でもある。故に対人関係の踏み込みが浅い。荒川は大きな子供。幼稚な自我が勝っている。人として薄いです。でもだからと言って岡田や荒川がダメだとは思わない。自分も完全に後者タイプの人間ですし。小倉一郎の説教、「若者はギラギラしてなきゃダメ」は正論っぽいけど真っ平御免。だけど彼らを「全然大丈夫」と言い切ってしまう事にも躊躇いがある。「全然大丈夫」って言葉、額面どおり受け取って本当に大丈夫?例えば「毎日1杯のコーヒーを我慢するだけで人生が潤うんですよ。ローンなんて全然大丈夫」とか。ストレスで押し潰されそうなサラリーマンが口にする「全然大丈夫」とか。大丈夫と言われれば言われるほど、実は危うかったりする。ラストエピソードの地、奈良。観光客である岡田と荒川、そして其処に根を下ろしている田中夫妻の対比。観光として奈良を楽しむことと、生活して奈良を味わうことは違う。生き方も同じ。2人がこのままビジターの幸せを望むなら、今のままで多分大丈夫。でもそうでないなら、少し危機感を持ったほうがいいかもしれない。自分が変わらなきゃ、人生は変わらない。2人はこれからどんな生き方を選ぶのでしょうか。[CS・衛星(邦画)] 7点(2009-03-28 21:29:20) 835. 観察 永遠に君をみつめて 《ネタバレ》 「人の良心は何処からやってくるのか?」昔そんなテーマで話を聞いた覚えがあります。曰く、良心とは“心の内にある強い父親像”のこと。親に叱られて社会のルールや倫理規範を身につけていく子供。いつしか自分で善悪の判断がつくようになるのは、親の基準が身に付くから。心の中の父親(母親、祖父母等)が叱ってくる。他者の良心をコピーするという意味です。真偽の程は知りませんが、なかなか説得力がある。「子は親の鏡」なんて言い方と同じでしょうか。さて、本作の主人公、茂樹の場合。父親(小倉一郎)は子供とお友達感覚。息子のストーカー行為を知ってなお容認する姿勢。なるほど、主人公の中の良心がこの父親をコピーしたのなら、行き過ぎた性癖を許してしまうのも納得です。一方、人との距離感が分らないという弥生。集団生活の経験不足がうかがえます。また親の愛情も十分に受けていない様子。「見守って欲しい」は、本来親に対して求めるもののはず。彼女の人物造形にも説得力があります。主役2人の伴侶も、何処にでも居るタイプ。キャラ設定は確かです。だから御伽噺にリアリティが生まれるのだと思います。面白かった。個人的な価値観を持ち込むなら、弥生はド変態。茂樹は大馬鹿モノだと思います。特に茂樹には本気で腹が立つ。奥さんには絶対に秘密を隠し、誤魔化し通せ!泣いて詫びて縋り付けと思う。でも茂樹と弥生の関係だけを見れば、コレで恋愛物語として成立してしまうのだからホント嫌になる。ちなみに茂樹が弥生の想いに早い段階で気づいていたらという“もしも”。2人は幸せになれたのだろうか。勿論結果は誰にも判らない。でも茂樹はずっとそんな事を考えながら、この先の人生をやり過していくのだと思う。それが彼に科せられた罰だ。[DVD(邦画)] 7点(2009-02-07 22:28:44) 836. ダブリン上等! 《ネタバレ》 手持ちカメラの多用や、ハイセンスを装うクレジットは鼻につきます。監督に非はないけど、邦題のセンスもダサいです。でも脚本は上等でした。濃いキャラの面々をきちんと描き分け、絡んで団子にならないさじ加減で各人の人生の糸を交差させる。上手いと思います。身から出た錆で窮地に陥る者もあれば、アクシデントで人生を狂わされる人もいる。いずれにしても、思い通りにならないのが人生です。石を投げつけてくるクソガキは、“人生の落とし穴”あるいは“不確定要素”といったところでしょうか。彼が基点となって、それぞれの人生が動いていく。“女を殴る”最低の行為をしたチンピラにはキツ過ぎるお仕置き。自分勝手な連中にも罰が与えられました。銀行マンは終身刑ですか。ご愁傷さまです。でも結果的には、ほとんどの者が好転したと見て良さそう。バス運転手も車椅子の王様になりましたしね。ずっと自分と向き合うことを避けて来たヒゲ娘。ギブスで固められた心の傷。ずっと外す勇気が出なかった。それだけ重症だったのも理解できますが、腐らせてしまったらお終いです。痛みに耐えて、次ぎのステップに進まなきゃ。辛い目にあった彼女には、いっぱい幸せになってもらいたいです。一方、ソース男の方は納得がいかない。あれだけダダをこねて、迷惑かけて、最後にヨリを戻してハッピーって何?腹立たしい。いや羨ましい(笑)。でも、あの2人が上手く行くとは限らない。「禍福は糾える縄の如し」は実証済みです。人生ままならぬから面白い。でしょ?[DVD(字幕)] 7点(2009-02-04 18:54:01) 837. 河童のクゥと夏休み 《ネタバレ》 クゥを無力な小動物ではなく、怪物(妖怪)として描いたところが、本作のポイントと考えます。しかしクゥの“危さ”を、主人公家族は認識していません。観客も同様。拾ってきた犬と似たような感覚です。この無防備さ、無自覚ぶりが、実に人間らしいと感じました。相撲で妹を放り投げたり、カメラを念力で壊したり、その恐るべき能力はきちんと示されています。でもその事実を誰も本気で受け止めていない。だからリスク管理もせずに、クゥをテレビカメラの前へ立たせてしまう。一歩間違えば、どんな惨事が起きてもおかしくなかった。河童を家族の一員に受け入れた家族の善意にウソはありません。それが人間の素晴らしさだと思います。でも正しい判断だったワケでもない。クゥはいわば「自然」の象徴。生命を育む母であると同時に、無慈悲に命を奪う残酷さも併せ持っている。とても人間がコントロールできる代物ではありません。適正な距離を保ち、敬意を払い、お付き合いさせていただくのが筋。かつて人と河童が共存していた時代は、そういう関係が成り立っていたのでしょう。人間は遣りたい放題でここまで来た。繁栄もした。でもそれがいつまで続くのか。「力任せでは勝てない」。主人公がクゥから教わった相撲の秘訣は、いろんな事に当てはまりそうです。クセの無い絵柄は、飾りが無い分テーマと純粋に向き合えます。これは長所。でも反面、魅力に欠けるとも言えます。原監督は、絵力で勝負するタイプでない事は承知していますが、それにしても華がない。キャラクターデザインも然り。ここを改善できれば、更なる飛躍が期待できる監督だと思います。[DVD(邦画)] 7点(2009-01-23 22:29:17)(良:1票) 838. スクールウォーズ HERO 《ネタバレ》 自分は山下真司主演の大映ドラマをリアルタイムで観た世代です。でもうちの学校は、校内暴力はほとんど無かったと記憶しています。BE-BOPハイスクールに感化されたであろう短ランは流行っていましたが。自分はノーマルの学ランに“つぶしていない”鞄。どちらかと言うと真面目タイプでした。いや臆病だったのかもしれません。完全燃焼した青春ではなかった。ツマラナくは無いけど、もっと後先を考えずに行動しても良かったかなと。なので、本作に出てくる子供たちを見ると羨ましい。ラグビーに心血を注ぎ、負けて悔しいと泣ける無防備さ。リスク管理は不可欠だけど、過ぎると身動きが取れなくなる。下手に小賢しいより、バカになってチャレンジする方が幸せなんだと、今になって思う。子供は未熟なのでバカで当たり前。でも分別ある大人がバカになれるのはスゴイこと。ですから山上先生のように損得勘定抜きで動ける人間を心から尊敬します。物語的には3年生が卒業した時点で、「学校を立て直す」当初の目的が、ほぼ達成されています。ゆえにクライマックスで得られるカタルシスが目減りしているのが惜しい。フーローの件も、同じく勝利の余韻を打ち消す作用があり、ラストで失速した感は否めません。それでも鑑賞後、十分な満足感が得られるのは、照英の熱演があったればこそ。実は『魁!!男塾』での、彼の吹っ切れた演技を見て本作の鑑賞に至ったのですが、予想通り素晴らしかった。バラエティ畑での「熱血バカ」というポジションは松岡修造が独占していますが、俳優界では照英が今や第一人者。表裏を感じさせないキャラクターは貴重。これからの活躍に期待したいです。[DVD(邦画)] 7点(2009-01-17 19:56:35)(良:1票) 839. 俺たちフィギュアスケーター 《ネタバレ》 スポーツサクセス系物語をベースにしたコメディ。定番のプロットを利用しているので、観易いと思います。ただ設定として苦しいのは、主役2人がハナから世界トップレベルのアスリートだということ。腐っても鯛です。今さら特訓して云々という次元じゃない。ですから“アイアンロータス”なる秘儀の習得というお題目を用意したワケですが、コレがマズかった。首チョンパはいけません。それまでの雰囲気と合っていない。ブラックも過ぎたら醒めてしまいます。このあたりの感覚は大切にして欲しいところ。死の危険性に言及するのは構いませんが、それは包帯グルグル巻きとギブスで足りる。「オイオイ関係ないところまでケガしてるよ」なんてツッコミが楽しいんですよね。とは言いつつ、ウィル・フェレルの濃さには笑えたし、愛しのナポレオン・ダイナマイト君が出ているので、個人的にはアリということで。[DVD(字幕)] 7点(2009-01-07 20:52:14) 840. 降霊<TVM>(1999) 《ネタバレ》 役所と風吹がリビングを行き来する場面。霊が映り込むでも、恐怖を煽るBGMが流れている訳でもありません。でも無性に不安になる。役所が動く度に画面にリビングの鏡が映り込みます。たったそれだけなのに気が気じゃない。西日が差し込む部屋。陽の光が作り出す陰影。生ぬるい空気感が、自分以外の存在を喚起させる。でもだからといって、何が出てくるのでもありません。結局のところ“恐怖”とは、自分の心が創り出している事がよく分かる。経験や知識を拠り所とする内的要因です。観客の内にある“恐怖の素”を引き出すのが、黒沢監督は抜群に上手い。裏目を引き、堕ちていく夫婦の姿が恐ろしいのも同じこと。主人公夫婦と同じ過ちをしかねない自分自身に怯えるのです。オカルトの要素は無くても問題なかったでしょう。初出のTVドラマでこのクオリティには恐れ入ります。良作。[DVD(邦画)] 7点(2009-01-04 22:09:59)(良:1票)
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