2.スタローンやチャック・ノリスが出てきそうな勇ましい邦題ですが、アクション映画でも戦争映画でもありません。生きることにひたすら執着する男の物語であり、戦争らしい戦争は皆無。主人公は途中で銃を捨ててしまうし。銃を捨てる理由にしてもそこに反戦的な意味合いはなく、ただ「銃はジャングルを生き抜くためのツールにはなりえない」という判断で捨てられます。このメッセージ性のなさこそが本作の味であり、思想というノイズに邪魔されないことで、シンプルな物語が一層際立って感じられます。そもそも男が生き延びようとする理由だってシンプルで、「とにかく死にたくない」という一心で男は修羅場を潜り抜けます。「祖国に残してきた婚約者の元に帰りたい」とか、「兵士としてのプライドをかけた戦い」みたいなありがちな図式は一切なし、主人公は途中から婚約者の「こ」の字も言わなくなります。生きるか死ぬかの局面で、愛だの恋だの言ってる余裕はないわけです。。。
極限状態に追い込まれた男たちを描くために、これを演じる俳優たちも極限下に置かれています。「マシニスト」で鶏ガラ人間になり、続く「バットマン・ビギンズ」では30kgの体重増加をし、その次の本作でまたしてもガリガリに痩せたクリスチャン・ベールは、生きたウジを食べたり、本物のヒルに血を吸わせたり、ヘビに噛り付いたりと、往年のダチョウ倶楽部をも超える体当たりに挑んでいます。もっと凄いのがジェレミー・デイビスで、痩せに痩せた彼はどう見ても死にかけです。彼らは狂気の世界に落ちるまいと踏ん張っているものの、人間としての尊厳を奪われた上に生きることすらままならないという過剰なストレスを受け続けたため、言動に多くの異常が見られます。狂気にどっぷり浸りきった描写よりも、”本人はまともであろうとするが、まったくまともではなくなっている”という描写の方が遥かに恐ろしく感じます。この絶妙な描写も本作の味なのです。。。
なお、本作は昨年公開された「エッセンシャル・キリング」とそっくりなのですが、面白さでは本作の方が断然上。完全にアートに走った「エッセンシャル~」が驚くほどつまらなかったのに対して、本作は一定以上の娯楽性は残しているというバランスの取れた作りとなっています。