1.「詐欺師映画」として見たならば、ストーリーテリングは正直弱い。特にラストの顛末などはもっと手際の良い展開で、小気味良く見せるべきだったと思う。
しかし、実在の詐欺師と実際の事件を元にしているが、この映画は決して真っ当な詐欺師映画ではないのだと思う。
この映画の主題は、心の屈折を抱えた人間たちの人間模様であり、滑稽で愚かで愛おしい愛憎劇だ。
それであれば、“騙し合い”を主軸にしたストーリーの小気味良さなんて二の次で、手際の良さを敢えてハズして、「人間」ならではのまどろっこしい“関わり合い”が終始繰り広げられるのも納得出来る。
クリスチャン・ベール扮する詐欺師が、丹念に“自家製”のカツラを仕上げる様から始まるこの映画は、登場するキャラクターの全員が誰かを欺こうとしている。
ただし、その最たる対象は他の誰でもない自分自身であるように見えた。主要キャラクターの四者が四様に虚栄を張り、自らを欺いている。
その姿は滑稽で愚かに見えるけれど、きっと世界中の誰しもがそういう“偽り”を抱えているのだと思えた。
そして、こういう屈折した人間模様を撮らせたら、今やデヴィッド・O・ラッセルの右に出る映画監督はいない。
近年の彼の作品に出演し、その才能を引き出されたスター俳優たちの競演はもはや「オールスター」と言って過言でなかろう。
その上、ロバード・デ・ニーロが彼の十八番的な役柄登場するのだからたまらない。
考えてみれば、クリスチャン・ベールは、今もっとも“デ・ニーロ・アプローチ”に秀でた俳優と言え、彼が本物のロバート・デ・ニーロと対峙するシーンは映画世界内の設定を超越して感慨深い。
軽薄で愚かなFBI捜査官を演じたブラッドリー・クーパーも、出演作を重ねるごとに俳優としての安定感が備わってきていることは明らか。
Wヒロインとして対立するエイミー・アダムスとジェニファー・ローレンスの女優同士のせめぎ合いもサイコーだった。
ストーリーテリングの弱さを補って余りある文字通りの「競演」は、おそらく繰り返し噛み砕く程に味が深くなるだろう。