1.《ネタバレ》 はい、またネット映画ですよ。
Netflix映画がアカデミー賞で幅を利かせ始めて以来、昨年のコロナの影響で近年調子あげまくりのネット映画ですよ。
いえね、ネット映画は悪いとは言わない。
でもなんだろう…昨今の映画の、小粒感…
面白いけど歴史に残るかっていうほどでもない佳作が多いこと多いこと…。
そしてネット映画の最大のデメリットは、配信サイトと契約しないと見れない敷居の高さもあって
レビューサイトの感想が少なかったり、レビューページの開設が遅いこと。
見たい映画だけ見るためにお金を払ってはい終了っていうのと違って、「『サウンド・オブ・メタル』を見るために、アマゾンプライムに契約しないといけないのかぁ…」ってなってる人も少なからずいると思うんですよね、二の足踏んでるみたいな。
まぁ、コロナと一緒で、いやがおうにも適応していかないとダメな時代なんでしょうけど。いやな時代ですね。
特にこの映画、アカデミー賞で音響賞を取ったくらい、音が命。
聴覚障害の主人公の音の聞こえ方(素の状態での人の声や物音の聞こえ方、収音マイクの聞こえ方など…)が作品の見どころのひとつなので、劇場公開なしで家のTVやPCで見ろってのも、もったいないですしね。
WOWOWの授賞式の放送で、ゲストのケンティーが「ぜひヘッドフォンで聞いてほしいです」って言ってたけど
新作でアカデミー賞2冠の作品を、ちっこい画面でヘッドフォンで聞かなくちゃいけないなんてね。
うちはYAMAHAのスピーカーをTVとは別に入れているので、ある程度いい音では聞けますけど、やっぱり見るなら劇場のほうが
いいでしょう。
…と一通りぼやいたあとで。
作品の内容はまぁまぁです。
耳が聞こえなくても何とかドラマーを続けたがる主人公。無茶な男です。
聴覚障害者のコミュニティに入る際は、外部といっさい連絡禁止なのに
コッソリと運営者のオフィスに侵入してPCで恋人と連絡とっちゃう。我慢ってものをできない男です。
気持ちのもちようをどうにかするんじゃなくて、手術で治したいって、音楽機材もトレーラーも売り払い
手荷物ひとつになってでも、なんとしても手術を受ける。短気で強引です。こうと決めたら頑として気持ちは変えられない。
でも収音マイクで聞く音は、雑音のように不快…人生は思うようにいかない。
彼女のもとへ戻ったけれど、彼女は彼なしの、金持ちパパのもとで裕福で何不自由ない生活の中で、腕をかきむしる自傷行為もストップしていて
そこそこ幸せそう。もはや彼女を貧乏生活の道連れするわけにもいかない。
”こうと決めたらやり抜く”性格で突っ走っても、その勢いで壁を突き破ることはできない。
壁にぶち当たり、どんなにあがいても聴覚を失ったことで、音楽も恋人も失うという現実に抗うことはできない。
自分は主人公と性格が似てるから、その気持ちよくわかる。
無茶して、それが後で無駄になって、途方にくれる。
ラストシーンでは、現実にうちのめされ、街中のベンチに座るルーベン。
人の足音、声、車の音…街の喧騒が、収音マイクを通して耐え難い雑音として響く。
美しい教会の鐘の音も、不気味なほどの不快な音となる。
ふと彼が収音マイクをとると、映画から音がさっと消え…スケボーで遊ぶ子供たちや、風にゆらぐ木の葉っぱが映し出される…
そうだ、収音マイクで雑音にすがって聴覚を持つより、
収音マイクを頼らず、物を見て
”音を心で感じる”ことのほうが、幸せかもしれない。
おそらく彼はそう気づいた瞬間。
シーンはここで終わるが、たぶん彼はまたコミュニティに戻るだろう。
彼はそこでは歓迎される。
運営者の右腕になるか、先生になってほしいと言われていたのだから、あらたな生きがいをそこで見つけられるだろう。
アリシア・ディキャンベル似のあのコミュニティにいた女性とも、けっこう仲良しモードだったから
おそらく彼女が新恋人になるだろう。
いくつかのハッピーな展開を想像させてくれる伏線を中盤でばらまいておく、なかなかうまい構成ではあった。
でもね、劇中にレズビアンな女性をモブとしてぶっこんできてるけど、LGBTに対して偏見ありませんみたいな
優等生っぽい作りにしてるなって感じて、そういうのがいちいち気になるんですよね。
あと、収音マイクでは雑音に聞こえるっていうことを、映画でさんざん有名にさせちゃったから
世界中の収音マイクインプラントをやってる病院の、営業妨害になってると思う笑