3.《ネタバレ》 ◆「日本は法治国家だから無条件にそれに従う義務がある」という常識に捕らわれない一風変わった家族の物語。
◆父親は80年代に活躍した過激派の活動家でアナーキスト。税金や年金を払わない。日本に住んだまま国籍を離脱するなどと言い出す。執筆業。豪胆で頑固だが、さばさばしている一面もある。笑顔が多い。
◆母親は夫の信奉者。学生時代に活動を行い、ジャンヌダルクとも呼ばれた。裏切った仲間をナイフで刺して、刑務所暮らしも経験。お金持ちの実家と絶縁状態、実母と20年会っていない。原作では長女と夫とは血縁関係がない。近所で喫茶店経営。
◆小6の長男が暴力事件を起こす。不良からカツアゲされ、いいカモにされている友達をかばったため。学校、教育委員会、被害者の家族などから責められ、父親のふるさとの西表島へ移住を決意。
◆先祖から受け継ぐ土地に住み込んだが、そこは他人の土地だった。リゾート開発目的で東京の会社が地元の建設会社を介して二束三文で購入していた。立退きを頑固拒否。強制退去執行。抵抗して捕まる。脱出して南の島へ向かう。題名(船が南へ向かうの意)もここから来ている。アナーキストにとっては日本は住みにくい?
◆多くは子供目線で語られる。このような両親をもつことは子供にとって大変なストレス。それでもくじけないたくましさを持っている。校長先生がいい人で本当に良かった。
◆「汚い大人になるな」「違うと思ったら闘え。負けるとわかっていても闘え」「人と違ってもいい。孤独を恐れるな」「理解者は必ずいる」これらがメッセージ。内容はともかくも、心は純粋。修学旅行の学校と業者の癒着の件など正しかったこともある。
◆子供を残して逃避行しても何の解決にもならないが、いい経験にはなるだろう。気の済むまで突っ走らないと気が済まない夫婦だ。子供のたくましさを信じているから置き去りにしたのだろう。親子間に信頼関係があり、お互い認め合っている。
◆日本脱出のラストシーンで観客がカタルシスを得られるかどうかで作品の成否が決まる。感情移入した人は拍手喝采するだろう。そういう人は少数と思う。夫に従順すぎる母親の人物像が描けていないし、子供が不憫に思えるから。自由奔放な生き方は羨ましいが、何をやりたいのかがよくわからないし、幸福になれそうもないのだ。いい年をして、自分探しの旅に出たのだろうか。