2.《ネタバレ》 これは「試し」の映画である。
主人公の青年が精巧な人工知能に対してチューリングテストを試すことを軸にして、映画世界内外において試し試される構図が浮き彫りになる。
人工知能に対してテストを試みている主人公自身も、実は人工知能を開発した“社長”に試されている。
人間に試されているはずの人工知能も、実は淡々と人間を試している。
そして、或る結末を迎えるこの映画そのものに、我々観客をはじめとする現実世界の人間すべてが試されているようだった。
現実世界の天才物理学者が警鐘を鳴らしたことも記憶に新しいところだが、人工知能の進化は、いよいよ人間社会の仕組みそのものを変えてしまう領域まで達しようとしている。個人的には、その流れ自体はもはや止められまいと思う。
手塚治虫や藤子・F・不二雄が描いた世界が目前に近づいていることは、彼らが生み出した漫画世界に等しく描かれた希望と恐怖が、渦巻くように迫ってくるように感じ、高揚感の反面、困惑を否定出来ない。
ただ、それらの漫画やこの映画を観て確信したことは、新たな生命体とも言える人工知能を生み出した人間が、自身を「神だ」と驕った時点で、強烈なしっぺ返しを食らうだろうということだ。
この映画は、己を神であるかの如く“或る進化”を導き、それを支配できると、驕った人間たちの「惨敗」の様を描いている。
様々な意味で“新しい映画”ではあるが、繰り出されたストーリーテリングとその顛末は、想定よりも捻りはなく、それ故にストレートで重い。
光に満ち溢れるように映し出されるラストシーンは、前述の希望と恐怖を同時に表現しており、見事だと思う。
最後に、主要キャストの3人の俳優はみな素晴らしかった(キョウコ役の日系女優も良かった)。
その中でも特筆すべきはやはりアリシア・ヴィキャンデルだろう。
主人公をはじめとして観るものすべてを虜にしたであろう人工知能エヴァを演じた様は、勿論この映画において最大の成功要因だろう。
日本の映画ファンにとっては「リリーのすべて」の圧倒的な好演も記憶に新しい。“彼女”が今年最大のトピックスであることはほぼ間違いない。
そんな“彼女”に試されるのならば、それも悪くない。