37.《ネタバレ》 つまらはないが、面白くもない映画。
面白くない理由は、バスキアの「人生」や「苦悩」があまり見えてこないからだろう。
彼の「人生」の苦悩は確かにきちんと描かれてはいる。
貧乏時代の友人を失い、愛してくれた恋人を失い、支えてくれた画商を失い、「成功」を手に入れたはずの男がどんどんと「大切なもの」を失っていく。
「成功」したことによって、豊かになるのではなく、どんどんと貧しくなっていく様がきちんと感じられる。
また、自分の生い立ちにコンプレックスをもち、成功しても黒人ゆえに“下”にみられてしまうことが彼の人生に悲劇を生んでいるようにも思える。
偽札かどうか調べられるというキャビアの購買エピソードは面白いものだった。
レストランでの食事の際にも、白人の金持ち連中に自分がバカにされているのではないかと疑心暗鬼になり、彼らの分まで彼らに知らせずに払うという方法でしか、自分を満足させることができなくなっているエピソードは彼の人生を描き出していると思う。
そのように精神的に貧しくては、アーティストとして優れた作品を残すことはできないのだろう。
ヘロインによって身を滅ぼすのが分かる仕組みになっているが、肝心の彼の姿がどこか薄く感じてしまう。
大きな理由としては、他のキャラクターがあまりにも強烈なインパクトを発揮しているので、主人公の姿が見えてこないのではないか。
シュナーベル監督は画家だけあって、作家ではないというのが分かる。
主人公の内面を深く深く掘り下げて描くことはできていない。
一方、面白く感じられる理由は、まさに画家というビジュアル面の面白さだろう。
ウォーホルの死を聞き、取り残される「アヒル」がまさに画家的な描き方ではないか。
「夜になるまえに」ほどではないが、映像の面白さはやはり天性の才能を感じられる。
だが、肝心のバスキアのアートがあまり美しく描かれていない気がする。
本作を見ても、バスキアのアートがまったく印象に残っていない。
印象に残っているのは、冒頭のピカソのゲルニカ、中盤のウォーホルの小便アート、終盤のオールドマンが演じた画家がキャンバスに大量の陶器のようなものを貼り付けたアート(シュナーベルの得意分野)である。
バスキアの芸術の凄さではなく、他の芸術家の凄さしか感じられないのでは、「バスキア」という画家を描いた作品としては評価することはできないのではないか。