2.仕事として「嘘」をつくプロフェッショナルがいるのならば、それは「真実」を生み出すことが出来る人間のことなのだろう、とこの映画を観て思った。
「公安の魔物」と称される渡部篤郎演じる主人公の生業は、まさに「嘘」を操り「真実」を作り出すことである。それはもちろん「捏造」と言えるが、それが本当の意味でまかり通ったなら、その時点で「嘘」は「真実」に転じる。
このポリティカルサスペンスのエンターテイメントの醍醐味は、「嘘」と「真実」が表裏一体に存在する社会の真相そのものだと思う。
まずテレビドラマシリーズの評になるが、「公安」しかも国際案件を担う「外事警察」という存在を、これほどメインに描いたドラマはこれまでなかったので、その題材自体が新鮮であったことは言うまでもない。
実際に描かれるドラマの世界観において、どこまでのリアリティがあるのかは一般人には判別が付けきれないが、安直な娯楽性に走らず、たとえ“地味さ”が先行しても「現実感」を優先したドラマづくりはNHKならではで、クオリティーの高さを保っていたと思う。
そして満を持しての映画化。キャラクター設定や基本的展開の説明省略等、テレビシリーズを礎にして成立している映画作品であることは否めない部分があるにはあるが、そういう部分をさっ引いても、充分な質の高さと、これまでの国内のサスペンス映画にはない新しい緊張感を備えた作品に仕上がっていると思えた。
今作はキャスティングが素晴らしい。
渡部篤郎をはじめとするメインキャストはもちろん、今回の映画作品においても田中泯や真木よう子の起用とその配役は抜群だったと思う。両者とも大河ドラマ「龍馬伝」の主要キャストであり、NHKの息のかかったキャスティングであることは明らかではあるが、そう言う部分の“間違いなさ”も流石だと思う。
ストーリーとしてはやや様々な要素を詰め込み過ぎている印象もあり、そのせいで主要キャラクター同士のドラマ性が希薄に映ってしまう感もあるにはあるが、ポリティカルサスペンスの娯楽性という部分では充分なクオリティーを示していると思う。
ラスト、立て続けに映し出される「真実」と「嘘」の関係性などは、テレビシリーズを観ている者として薄々感づいてしまう部分ではあるけれど、それでもニヤリとしてしまうし、陰に隠れて見えない主人公の表情で締めるラストカットは思わず唸ってしまった。