3.驚いた。まさかこんなに“ちゃんとした映画”になっているとは思っていなかった。
「二宮和也主演はないだろう」という違和感が、実際に鑑賞に至るまでずうっとつきまとっていた。
このアイドル俳優の演技力を認めつつも、原作漫画とのビジュアルのあまりのかけ離れ具合を受け付けられず、人気取りだけを見込んだ安直なキャスティングだと思わざるを得なかった。
結果として、「映画化」を熱望していた原作ファンにも関わらず、相反する失望を恐れて劇場に足を運ぶことはなく、今の今までスルーしてきた。
詰まる所、非常に「後悔」している。予想通りに一般の評価は極めて低いようだが、はっきり言って見事な「漫画の映画化」だ。原作ファンだからこそ自信を持ってそう言いたい。
よしながふみが描き出す原作漫画の画風に対して、人物のビジュアルが乖離してしまっていることは確かだ。
特に主人公の「水野」はもっと分かりやすく美男秀麗であるべきだとは思う。はっきり言ってしまえば、二宮くんは明らかに“チビ”すぎる……。
しかし、そういった表面的なキャラクター描写については、わりと早い段階でどうでも良くなった。
主演の二宮和也をはじめ、俳優たちの演技がそれぞれ与えられたキャラクターに対して的を得ており、“正しい”演技を見せてくれるからだ。
「吉宗」役の柴咲コウも大きな不安要素の一つだったけれど、気丈で明晰なこの物語ならではの吉宗像を見事に体現していた。発声や目線に至るまで、細かい演技にまで説得力があったと思う。原作漫画には特に描かれていなかった、城内を“早足”で闊歩する様などは、このキャラクターの決断力を如実に表す良い演出だったと思う。
その他の俳優もパフォーマンスがことごとく良かった。
そして、それぞれのキャラクターにおいてきちっと“見せ場”を作る演出も的確だったと思う。
所々、原作漫画には無いエピソードや細かい描写も付与され、それらが効果的にドラマ性を高めていた。
そもそもが荒唐無稽な設定の上にエグさやタブー的な描写を多分に含んだ物語なので、好き嫌いが大いに分かれる原作である。故にこの映画においても“拒否感”を拭えない人も多いと思う。
が、この映画の方向性は圧倒的に正しい。その意外な真っ当さに対して驚きと喜びを感じずにはいられなかった。