1.舞台となる1992年は長く続いたフランコ独裁が終わってから15年が経ちオリンピックと万博が公開された年であり、スペイン人にとっては日本にとっての1964年オリンピックと同じような意味を持っていそうです。とはいえこの作品はそんな世相とはほぼ関係ないシングルマザー家庭の少女が主人公で、その学校と家庭での出来事が淡々と描かれているだけです。スペイン人ならば当時の空気感が再現されていると評価もできるのでしょうが、激しいドラマもメッセージ性もないため当時のスペインの雰囲気をよく知っている人間以外が楽しむのは難しいと思います。ミツバチのささやきのアナ・トレントを生んだスペイン映画らしく主演のアンドレア・ファンドスはかわいいのでそこは救いです。劇中で映画を見る場面もありますし意外と意識しているのかもしれませんね。他にも保守的なカトリックの学校に通い母親との軋轢もあるというプロットはグレタ・ガーウィグ監督のレディ・バードに似ているところもありますね。修道院学校の押し付ける窮屈な道徳と世俗的な文化のもたらす自由という対比ですが、アメリカに比べると世俗文化の力が弱いためかどうしても暗く陰鬱な印象の方が強くなってしまっています。