1.この作品に登場する階段も、エスカレーターも、エレベーターも大半は下降の為のもの。
意識朦朧状態の主人公(アイヴァー・ノヴェロ)が、マルセイユからロンドンへと向かう
船のステップを肩を支えられながら船室へと降りていく。
階段を降りる主人公の下向き主観ショットとして撮られた、難儀な移動撮影。
その少しぎこちない揺れが、精神不安定の主人公とシンクロしあって生々しい。
レコード盤の回転運動と二重写しになりながら迫る彼の妄想。
町をほぼ無意識に彷徨う彼の主観ショットを幾重にもオーヴァーラップさせる
テクニックも、街の情景の生々しさもあって決してあざとさを感じさせない。
背もたれの深い椅子によって手前と奥の人物が互いに見えないといった、
縦の構図の活用によって生まれるちょっとしたサスペンスの面白さ。
強いライトを利用した印象的な画づくりなど、他にも見所は数多い。