1.《ネタバレ》 素晴らしかったです。個人的には人生ベスト級の音楽&青春映画でした。
まず脚本と演出について細部まで手が行き届いていて、とても丁寧な印象でした。例えば、臨時教師として柏木ユリが赴任してくる場面、ユリとその前任者で身重のからだであるハルコを並んで立たせることによって、ユリの大人としての未熟さ、成長する必要のある人物であると第一印象で観客に伝えている。またハルコに「(コンクールを見に行けるかは)この(お腹の)子、次第ね」という台詞で、コンクール当日まで長くて2,3ヶ月しか余裕が無いことを示している。こういう色々な情報を省略的に伝えている場面がとても多いです。並みの脚本ならダラダラ台詞で説明しているでしょう。
音楽をずっと10年以上演っている身としては、とても感慨深いというか、何故自分は演奏するのだろうという意味に気付かせてくれ、また共感させてくれた映画でした。それはこの映画ではハッキリと描かれている通りです。誰かを幸せにする音楽を奏でるために、私たちは演奏する。ユリの文集に書かれていた台詞ですが、その台詞をバックに、ナズナの心を癒すために、過去の恋人の死と決別するために、ベートーヴェンのピアノソナタ『悲愴』を奏でるシーンの感動は言葉では言い表せないものでした。尚、ベートーヴェンも実らなかった恋をした孤独な男です。また、そこで画面に映り込む、部訓でしょうか、「勇気を失うな。 くちびるに歌を持て。 心に太陽を持て。」という言葉もとても素敵だと思います。
そして人々を幸せにするために、また前に進むために、演奏するなら笑って歌おうという音楽に対する姿勢。それまで仏頂面を続けていたユリが「笑って」と言ってコンクールの舞台を始める。その時の彼女には序盤で見せていた未熟な面影など一切ありません。それを踏まえたコンクール曲「手紙 拝啓 十五の君へ~」の歌詞の素晴らしいこと!
ユリ以外にも、ナズナやサトルの個別のドラマも見応えがあります。両者共に自分が生まれた意味に対し苦悩しています。特にサトルについては、兄が自閉症を患っているという設定が出て来ます。以前に自閉症の方の著書を読んでどういう癖や傾向が出てしまうのかを浅く知ったのですが、映画で描かれる症状の描写はとても的確だったように思われました。