63.映画鑑賞が趣味だと言って、何千本の映画を観ていたとしても、当然ながらその全てを観られるはずも無く、絶対的な名作にも関わらず、未鑑賞の作品が多々ある。
「ロッキー」もまさにそういう作品群の中の1本だった。(ちなみに「ロッキー4」は観ている……)
「圧巻」だった。
有名すぎる映画なので、未鑑賞であってもラストの顛末に至るまで大体のストーリーは知っていた。
驚くべきは、それにも関わらず、まったく予想外のドラマを見せつけられたことだ。
もっと分かりやすい主人公のアメリカンドリームを描いた映画だと思い込んでいた。
が、実際に描きつけられていたのは、不遇な環境と自分自身に対するコンプレックスからの脱却に対する飾り気の無い「願望」だった。
そこには、大義名分もなければ綺麗ごともない。ただ幸運に恵まれたチャンスを生かし、現状から抜け出したい。
もっとあざとくいえば、降ってわいたラッキーをものにして、名声を得て、幸福を掴みたい。
ひたすらにその思いしかない。だから凄い。
ストーリーをもっと盛り上げようと思えば、いくらでも感動的な要素を加えられたはずである。だが、敢えてそういう安直な“創作”を加えず、無骨に鍛え上げられた肉体のように、物語が研ぎすまされている。
これはまさに、シルヴェスター・スタローンという映画人のドキュメントなのだと思う。
オーディションに落ち続け、日銭をかせぐ毎日だったスタローンが脚本・主演を務め、一躍スターダムにのし上がった様は、まさしくロッキー・バルボアそのものである。
「自分の夢で名声を得たい」というロッキーとスタローンの思い。
そこにあるものは、決して綺麗ごとだけでは済まされてない野心に溢れた強かさだ。
だからこそ、この映画は長年色褪せることのないリアルなエネルギーに満ち溢れている。
だから知っていたラストシーンを初めて観て、涙が溢れた。