1.《ネタバレ》 映画を見た段階ではわけがわからず面倒臭いだけと思ったが、その後に原作を読むと、小説の内容を手短にまとめた形になっているようではある。「悼む」ことの動機が何かということよりも、主人公の姿から何を感じ取るかが大事というのは映画でもわからなくはなかったが、しかし映画では観客の心に訴える事例の積み上げが不足している感じで、「悼む」ことへの共感度が高まらないまま物語が展開していく印象があった。
また主に序盤で見る者を苛立たせる類の演出が連続するのは不快でしかなく、特に息子を殺された母親の話し方が非常に耳障りで、これに耐えて見たことをありがたく思えと言いたくなる。加えて雑誌記者が父親の店で、自分の世界からしかものが見えない視野狭窄の傲慢オヤジに嫌味を言われて反省したように見えたのが非常に腹立たしく、そういう点で映画自体に反感を覚えたため、結局最後まで皮肉含みの感情のまま終わってしまった。
ちなみに映画で感動するところはなかったが、さすが原作には問答無用の説得力があって引っかかるところも特にない。ただし分量が多いのでかなり時間を食う。ほか映画では同行者の人物(石田ゆり子)に年齢なりの色気があって大変よかったが、主人公役もそれらしい感じで悪くなかった。
なお原作者インタビューでは原作の発端になった世界的事件のことが語られていたが、どうも社会問題の見方が皮相的というか、そもそも社会全体を視野に入れようとする意識が決定的に欠落していると感じられる。息子を殺された母親に関していえば、親の心境がどうあれ警察が身内の犯罪を隠蔽することが許されていいわけではない。個人の問題と社会の問題はあくまで別次元で捉えるべきものであって、自分が「悼む」ことに共感できるのは個人レベル限定である。