6.《ネタバレ》 前作「私を愛したスパイ(77)」の予告では、次作は「ユアアイズオンリー」になっていたが、様々な事情から「ムーンレイカー(79)」が製作されたようだ。
大きな理由としては「スターウォーズ(77)」や「未知との遭遇(77)(本作でもパロっている)」のヒットに便乗してSF大作を作ろうとしたのだろう。また、大詰めを迎えていたスペースシャトル計画(81年に初めて打ち上げ)という時勢も影響したようだ。時事問題を取り入れるというのは、ボンド映画の慣例にもなっていて、本作は制作するのに時期的にはまさにぴったりの作品となっている。
要所要所のコメディ的な空気が作品の質を下げてはいるものの、全体としてみると質は高い作品に仕上がっている印象を受ける。特に、冒頭のダイビングシーン(撮影したヤツが凄い)はいまの基準で考えても、素晴らしい出来となっている。サメに飽きたのか、犬や大蛇といった工夫を取り入れており、宇宙にまで舞台を広げるという挑戦は敢行したものの、やはりどことなく既視感を感じられる。いわゆるマンネリ化しているといわざるを得ない。
しかし、一点だけ他のボンド作品に符号しない展開は用意されていた。
それはジョーズの存在である。敵側の女性がボンドの魅力によって寝返るというパターンは過去にも多くみられるが、男性の殺し屋であるジョーズがボンドに寝返るというのは面白い展開であった。しかし、寝返る際の理由があまり明瞭でないことや、最後はボンドを助けてメガネっ娘と宇宙船とともに爆発するという展開を個人的に望んだものの、ご都合主義で結局彼らを殺さないという展開にしてしまうのは、がっかりしてしまう。ジョーズを殺さないメリットがどこにあるというのか。彼は前作で何人もの人間を殺している犯罪者であり(本作では寝返ることが前提のため殺しが成功していないものの)将来的に利用価値の存在である。エモーショナルな展開を描けるはずなのに、ジョーズというせっかくの素材を上手く調理できなかったのはマイナスだ。
その他にも、シークエンスの繋がりが悪い点が目立ったり、不必要に多いボンドガール(リオの局員マニュエラなど)と不必要に多いベッドシーンなどの欠点もある。
肝心のCIAのグッドヘッドはやや魅力や存在感を欠いているのも高得点をつけることに躊躇してしまう点だ。チャーの剣道には別に呆れることはなかった。あれはあれで面白い嗜好ではないか。