11.《ネタバレ》 割と面白かったと思う。人に勧められなくもない。
いきなり提示される、人間のもつ属性の違い。それを車という資産で表現するあたりにいやらしさを感じるが、作り手の思惑通りだろう。斜めにさえ見なければ本来善人のステロタイプであるはずの二人の職業、階層もしくは人種といった部分が、少しずつズレ始める。その原因が所々に挟まれたいやらしさにあるが、何となく意識されないまま物語が進んでいく。
こういうスピーディさはさすがにハリウッドと言うべきか、非常に洗練されている。
何となく黒人を善人にして、白人弁護士を撃破するような暴力的な話を望んでしまいそうだし、脳内でそういう話に変換してみると、確かに面白そうではあるが、もう少しネジのゆるんだ話に進めてみるとやっぱりこういう厭味な方向というのも確実にアリだろう。
ヨーロッパの映画であれば、ちょっと油断すると逆ハリウッドのごとくただ生きているだけでなぜ悲劇を見なければならないのか、と二人を「無常観」で設定したり、突然解決しない悲劇を家族愛に絡めたりしかねない。しかしアメリカ人はそんな方向には絶対持って行かない。
加害者被害者の関係にあった彼らは、嫌がらせの応報でその垣根を越えて悪人になってしまうのをサックリと見せてしまうあたりはさすがとしか言いようがない。最後の最後も実にアメリカらしい。
ヨーロッパ映画なら片方が苦悩しながら悪行を続け、片方が自殺でもするんだろう。そういう嘘くさい憂鬱はいらない、このこの映画は違う。こんなに努力してまでなんで犯罪行為しなくちゃならねーんだよ、ニューヨークで弁護士やってりゃ誰でも気づくわいアホが、といわんばかりに投げやりに元の善人に戻ってしまう。片方もそうだ。
何で最後善人になっちゃうの?悪に手を染めれば簡単だろ、強いだろ、などという発想を吹き飛ばす。当たり前のことだが、マンハッタンの最有望株若手弁護士が手段を選ばず反撃に出たら一発で芋づるで悪徳弁護士事務所などアウトだ。このラストの自暴自棄的な善人への回復っていうのは、実に爽快だった。
ただ、ほとんどサスペンスアクションみたいな攻防が続くので、そんなに深みや含みは無いように感じた。内容的には必ずしも優れてはいないかもしれない。だけど文芸調に作られていたなら観ていなかったとも思うので、このくらいがちょうど良かったのかもしれない。