2.《ネタバレ》 先にリメイク版の『クライシス・オブ・アメリカ』の方を観ているのでだいたいのストーリーは把握していましたけど、『クライシス…』の方では副大統領候補になるのがレイモンドで母親は上院議員の設定、そしてラストで引き金を引くのは操られたマーコ少佐だったと思います。まあ確かに、レイモンドが立候補していなければ『満洲人の候補者』という原題に意味がなくなってしまいますからねえ。陰謀をたくらんだ黒幕もソ連・中国から巨大国防企業コングロマリットに、そしてマーコやレイモンドを操るのは埋め込まれたチップという違いも時代を感じさせてくれます。 そうは言っても、このオリジナルの洗脳シークエンスもけっこう怖いですよ。洗脳された面々が階段教室みたいなところでソ連・中国の軍人にお披露目されているけど、彼らの眼にはヴィクトリア朝風のドレスを着こんだオバンたちが園芸学の講義を受けているところに紛れ込んでいると映っている。ご丁寧に黒人兵士にはそのオバンたちがみんな黒人女性として見えている。どことなくシュールで不気味な絵面なんだけど、フランケンハイマーが後に撮った『セコンド』に通じるところがあって興味深い。こういうぶっ飛んだところのある脚本だけど、ある意味けっこう雑なところがあります。だいいち、わざわざ政界の黒幕的な女性の息子レイモンドを手間暇かけて洗脳し、勲章をもらえる軍功をでっちあげてまでして何がしたかったのかが判りづらい。大統領候補をレイモンドに暗殺させて木偶の棒の義理の父親を大統領にする、この男が大統領になってソ連にどんな利益があるんでしょうか?そもそもソ連の関係者は中盤以降は全くストーリーに関与しなくなっちゃいますけどね。マーコ少佐がソリテアを使って尋問するところでも、洗脳状態のはずなのに自分のしてきた殺人を客観的に説明するなんのも、なんかおかしい。 というわけでいろいろと粗も目立つ作品で公開当時は不評だったのに、近年になってじわじわと評価が上がってきたのはやはりケネディ大統領暗殺があったからかな。レイモンドがライフルを組み立てて銃弾を装填してゆくところは、やはりボルトアクションのカルカノライフルでケネディ大統領を狙撃したオズワルドの姿みたいに見えてしまいます。あと大統領選挙にソ連が謀略を仕掛けてくるというところも、トランプ当選のときのロシア介入の疑惑を彷彿させてくれるのかもしれません。