1.ジメジメしてなくて、でもドライっていうパサパサしてる感じでもなく、どちらかというと個々の人物は脂ぎっている。しかしベトつかないのだ。とにかくクルクルと走り回る左幸子が圧巻で、駅へ根上淳を送りにサーッとまわり込んで駆け込んでくるところなど。愛はスレッカラシになることよ、なんてセリフ、戦前版にあったかな。石渡ぎんが水戸光子のひたすら純情なのとは違って、仲間内から見れば嫌な女に見えるのが納得できるように描かれているのが、1950年代のポイント。戦前と戦後の女性の変化が、こう見事に表われた例も珍しい。このたくましさを左幸子は60年代の『にっぽん昆虫記』や『飢餓海峡』で、さらに極めていくことになるわけだ。この監督は野添ひとみのちょっと気味悪いところをつかんでいて、手の手術を受けながら、パッチリ天井を見ているところなど。