1.『ガッジョ・ディーロ』の女版。『ガッジョ・ディーロ』の青年はロマの中に入って行き、ロマの人々と触れ合うことでロマの生き方に共鳴してゆくのだが、この『トランシルヴァニア』の女はべつにロマの人々に共鳴したわけではなく、「何もかもを捨ててただ生きる」という野生的ともいえる本能に沿った行為が結果としてロマの生き方に被さってゆくのだ。格闘の真似事をする女を見た土地の人間があきれるくらいだから、けしてロマ的な女ではないのだろうが、絶望から逃げるのではなく、絶望の中で生きることを選んだ彼女は次第に生きる喜びを見出してゆく。ラストに見せる眩しいばかりの表情にやられた。女はどうしようもないくらいに弱いくせにとてつもなくたくましい。かなわない。そう思わせたアーシア・アルジェントも凄い女優だ。そしてこんなにも生命力に満ちた映画を作ったトニー・ガトリフも凄い監督だ。