5.《ネタバレ》 そもそも傑作の呼び声高いキューブリックの「シャイニング」は、キングの原作小説とはかけ離れた終焉を見せ、原作者自らに「俺は映画版は認めん」と言わしめた代物だ。
おかげで本作は「映画版の続編」でありつつ、かつ、原作小説の続編として執筆された「ドクター・スリープ」の映画化でなければならない。
ややこしいが、とっても脚色が難しそうだということである。
しかしながらマイク・フラナガンは映画版と小説版との噛み合いを上手く調整し、キングお墨付きの「ドクター・スリープ」を完成させた。
ここで留意して欲しいのは、「ドクター・スリープ」は「シャイニング」の続編であることは間違いはないが、「シャイニング」を下敷きとして、世界観を発展させた別の作品であるという事だ。
宣伝やコピーを見る限り、成長したダニー坊やが例のホテルに戻って恐怖に見舞われる…というような印象を受けるが、本作は原作の時点で「シャイニング」とはまったくの別物であり「ドクター・スリープ」としては、これは正解なのである。
初見では続々と出てくる新キャラや、世界観の広さに面食らうだろう。
しかし、印象操作のせいで「シャイニング2を観に行ったら、X-MENっぽいバトル映画だった。ナニコレ思ってたのと違うから受け付けねぇ」と早々に本作を切り捨てるのはあまりに勿体ない。
「ドクター・スリープ」は、手に汗握る攻防や、前作から発展したドラマを内包した素晴らしいエンターテインメント作品だ。
孤立と閉塞の前作から一転、追跡と逃避の目まぐるしいスリリングな展開が良い。
「子どもの誘拐」というアメリカに蔓延る闇を足掛かりにし、彼らに対する凶悪な拷問シーンで敵軍の狂気を強烈に印象付けたのも上手い。(「ワンダー 君は太陽」「ルーム」のジェイコブ君のリアルな演技に、レベッカ・ファーガソンも恐怖を感じたとのこと)
ローズ・ザ・ハットやらスネークバイト・アンディやら、とんだ中二病軍団と思わせながら、その実態は危険なカルト教団である。若く正義感に溢れるアブラが怒りをぶつける相手として不足はない。
他にも、前作とまったく異なるジャンルでありながら、「シャイニング」の世界観を上手く匂わせている点も楽しめる。
あくまでも前作の延長線上にあるからこそ、狂戦士として登場するオーバールックホテルにも熱い必然性が出る。
これぞワイルドカード。
毒を以て毒を制す、活劇の締めはこうでないとつまらない。
また、エンタメ方向に走った本作が、それでも大人の鑑賞者に静かな余韻を与えるのは、本作が扱う(特にアメリカで顕著な)諸問題の内包に他ならない。
「これは…薬なんだよ」
実際に中毒から立ち直ったキングの経験則もあるのだろうか、悪夢的なジャックの登場は空気の重さが違う。
また先に述べた子供の誘拐にも関連するが、子どもに対して大人たちがどのように接するのかという点にも踏み込んでおり、ダニーの成長、ひいてはシャイニングの謎にまで昇華させているのが素晴らしいところだ。
酒をかっ喰らった挙句、斧振り回して追い掛け回すなど持ってのほか。実は誰もが持つシャイニングという個性を、大人たちは守り、道を示してあげねばならない。
それが悪夢を呼ぶのなら、悪夢を閉じ込める箱を与え、それを振りかざす者があれば、身を守り闘う方法を共に考える。
ディックがダニー坊やを導いたように。
バッグス・バニーの決まり文句「ワッツアップドク?(どったのセンセー?)」の通り、ドクター・スリープへと成長したダニーもまた、アブラの良きメンターとして彼女を導いていくのである。
キングが込めたヒューマン・ドラマがしっかりと息づいていることを感じた。
(この人オビ=ワン・ケノービみたいなことやってるなと思ったら、たしかにオビ=ワン・ケノービでしたわ)