1.《ネタバレ》 石井輝男監督による鶴田浩二と高倉健のダブル主演のヤクザ映画で、脚本に石井監督のほか、深作欣二監督と笠原和夫という「仁義なき戦い」のコンビが参加しているという豪華さを感じさせるパッケージの映画で、これだけでなにか期待させるものがあるのだが、実は本作は当初は深作監督が笠原和夫の脚本で手がける予定だったものだが、脚本でもめて(このときもめた二人が後年、「仁義なき戦い」で一世を風靡するのだから世の中分からない。)深作監督が降板、かわって石井監督が脚本を手直ししててがけたもの。話としては笠原和夫らしい見ごたえのありそうな感じなのだが、石井監督が好き放題やってしまったという感じで、どこかカルトめいていて変な映画という印象があるし、脚本にも不備を感じる。高倉健が劇中で「網走番外地」の主題歌を歌っているのはご愛嬌かもしれないが、これだけで本当に「網走番外地」シリーズの一本を見ているような気にさせられるのはちょっと違和感があるし、クライマックス近くで健さんの恋人である孤児院の職員(三田佳子)が夜中に孤児院でピアノを弾きながらこの歌をうたっているのもシュールで、これがシリアスなクライマックスの緊張感を若干削いでいるような気がする。佐久間良子演じる鶴田浩二の妻が目が見えないという設定がまったく生かされておらず、むしろその設定は空気と化している。最初の脚本ではどうなっていたのかが気になってしまった。ほかにもいろいろツッコミどころが多く、脚本段階での混乱ぶりがうかがい知れる。でも、そういうツッコミどころの多いところも含めて見る前に思ったより楽しめたのは事実。しかし、やはりもっと普通にやってもよかったのではと思ってしまうのもまた事実ではある。高倉健や鶴田浩二、それに天知茂はいつものようにカッコ良かったし、まだお竜さんを演じる前の藤純子もかわいらしい。撃たれた後にパンを食べながら死ぬヤクザは思わず笑ってしまった。印象に残るシーンがないというわけでもなく、鶴田浩二が詰めた指を親分が「こんなものは鳥の餌にもならない」と突き返すシーンはとくに印象に残る。でもやっぱりこの映画、あまりおすすめはしないな。