11.《ネタバレ》 ひとり列車で去っていく老手品師の感情を追うように、街の光が一つずつ消えていくラストシーンを見終えて、一寸の間、心に空虚感が漂う。
あまりに悲し気な終幕に、突き放されたような印象さえ覚えるが、必ずしもそうではないことに気づく。
じっくりと落ち着いてみることが出来なければ、誤解を生みやすい作品であることは間違いない。けれど、このアニメーション映画は紛れもない傑作だ。
主人公の老手品師は、人格者のように見える。
実際、この作品の中の年老いた彼はそうなのかもしれないけれど、“マジック”という一芸一つで長い年月を生きてきた彼という人間の根本にあるものは、もっといい加減で、危ういものだと思う。
もしかしたら、それが原因で己の娘とも生き別れなければならなかったのかもしれない。
そして、その心に染み付いた空虚感と孤独を埋めるために、ふいに出会った田舎娘に自分の娘を重ね合わせていたのかもしれない。
そこには、手品師の悲哀、芸人の悲哀、“それ”しか生きる術を知らない者たちの決して拭いされない「孤独」が満ち溢れていた。
とても悲しくて、切ない。
この作品で描き出される田舎娘との交流も、意地悪な見方をすれば、貧しい老人に無知な少女がたかっているように見えなくもない。
本当にそこに“心の交流”があったのかということも疑わしくなってくる。
しかし、たとえそうだったとしても、老手品師は「満足」だったろうと思う。
己一人が生きるためだけのものだった“マジック”が、最後の最後で、一人の少女を“未来”へと導いた“マジック”になった。
その様を見たことで、彼は自分の手品師としての「役割」が終わったことを知ることができたのだろう。
すべてを手放して列車で旅立つ老手品師。
同席した幼女がお絵描きのちびた鉛筆をなくす。
彼は一瞬、マジックで自分の長い鉛筆を彼女に差し出そうか迷う。
しかし、彼はそうせずに、短くちびたそのままの鉛筆を幼女に返す。
マジックとの決別は、彼自身の人生との決別のようにも見える。
やはり、悲しく切ない。でも、なんだかあたたかさも感じる。
“赤い靴”を与えられたことで、田舎娘は外の世界へ踏み出すための「意思」を得た。
それは必ずしも幸福なことばかりではなかったのかもしれないけれど、それでも人生は悪くないと思える。