3.《ネタバレ》 おそらくはご予算控えめの作品、尺も1時間半に満たない小品ですが、これが意外に面白いのです。
爆弾テロに立ち向かう捜査官をボンド役就任前のピアース・ブロスナンが演じていて、やや線が細い印象。男前ではあっても、特徴が薄い・・・と思いきや、大胆なようでいてホントは弱い男を、好演。これは、彼の功績というより、短い尺の中で省略するところは省略しつつ、主人公像を端的に描いてみせた脚本と演出の上手さ(割り切り、と言ってもよいかもしれないけれど)にあるのでは。時に軽いノリを見せたりしつつも、過去の個人的な事件が彼の人生に暗い影を落としていること、それゆえ、妻との関係も破綻しつつあることが、最短の一筆書きで、しかししっかりと、描かれます。
爆弾事件が題材なもんで、爆破シーンは再三盛り込まれますが、こういう安いアクション映画の中盤を支えるであろうカーチェイスや銃撃戦といった要素が無く、スペクタクルも散発的になりがち。その意味では、物語のスピード感にはやや欠けるかもしれません。しかし爆破シーンにおけるスタントマンの活用などは間違いなく、見どころ。一部、どう見ても人形、なシーンもありますが、まあ、そこは、安全第一、ということで。爆薬も無いのになぜか発生する爆破事件の謎。とある液体を飲まされることでに人間が爆弾と化す、という突飛なアイデアもナイスですが、爆発前に目が充血して真っ赤になっていく、などという描写も緊迫感を煽り、陳腐なカウントダウンより余程、面白いじゃないですか。
中盤に無かった銃撃戦も、クライマックスではしっかり展開され、その辺りはサービス満点。
ねちっこい濡れ場なんかもあったりしますが、これはサービスと言ってよいのかどうか、どうなんでしょうね、ちょっと何とも言えず。。。
映画の中では他にも色々工夫が凝らされていて、例えば、脅す者と脅される者が電話で会話している場面、片や窓の外は暗く、雨が降りしきっている。もう一方は、明るい昼間、なんですが、会話の終わりに開いた窓から強風は吹き込んできて、やがて雨となってきます。こういうのを見てると、脅迫者の影が忍び寄ってきたような凶兆を感じさせたりもするのですが、そういうメタファー的な捉え方に限定されることなく、単に「脅迫者は外国にいるのかと思ったけど、案外、近くにアジトがあるんじゃないか」という現実的な予感も、感じさせます。
あるいは、向かい合う二人の男の後ろに、それぞれ鏡があるシーン。鏡自体も向かいあっているので、彼らの無数の姿がそこに映っている。カメラはそのうち一方の人物の斜め後ろからその姿を捉えていて、カメラマンの姿は鏡に映ってないんですが、角度からすると、そりゃそうかな、と。ただ、気になるのは、鏡に映る二人の登場人物を見ていると、鏡は彼らのすぐ後ろにあるらしい。とすると、あれ、カメラを設置するスペースが無いのでは・・・? とか考えると、なんだか楽しくなってくるではないですか。
クライマックスでは主人公が爆弾処理の達人らしく、迫りくる敵に対し、さまざまなトラップを仕掛けて、ちょっと『F/X 引き裂かれたトリック』などを思いこしたり。こういう場面でも、「何をやってるのか」という質問に対し、ただ「保険に入ってるのか?」と返すのが、シャレていて。説明はしないけど、少なくともロクはことは、いたしません、ってな感じ。
はたまた、『真夜中の処刑ゲーム』みたいに即席の武器を作ろうとする主人公。天井からパイプをひっぺがすと、そこから裏金の札束がこぼれてくる。憎き男と今は共闘しているけど、そうそう、コイツ嫌なヤツだったんだよな、と再確認させてくれる、演出の妙。
すべてのエピソードにケリをつけ、過去の不幸から主人公が立ち直るであろうことが示唆されるラスト。それをあくまで軽いノリでやっちゃう小気味よさ、いや、まいりました。