9.《ネタバレ》 もう随分昔の事だ。期末テストの準備に取りかかっていると、やばいビデオを見つけたという同期のニッキーが持ってきたのは、電人ザボーガーの第一巻と黒いジャガーだった。狂喜乱舞した私はそのまま何度も何度も間抜けなザボーガーを繰り返し楽しんだのだが、彼はそっちじゃ無い、ザボーガーじゃ無いからそっちはおまけだ。と強い口調で私を咎めた。
うるせえうるせえじゃあ持ってくんなよ電人ザボーガーの一巻をと、抗議しながら見始めたシャフトだがこのつまらない脚本と、ふざけてんのかと思わせるラブシーンは正直攻殻機動隊のマンガを取り出す寸前まで私を追い詰めたのは間違いないのだが、メーンな黒人のニイチャン達の服だとかしゃべり方と、BGMの格好良さに劇が終わる頃にはお気に入りになっていた。
その後しばらくは学食でヤミーヤミー言いながら生姜焼き定食をほおばったり、全く似合わない皮のジャケットをなけなしの貯金で買ったりしたのだ。ソウルやファンクのCDを買いあさり、アシッドジャズなどを聞いて居た友人に対抗意識を燃やしたりもしたのである。
日がすっかり短くなって寒くなりはじめた頃、夜中に電話が鳴り響く。今時間大丈夫?と電話の向こうには不安な声色を隠せない同期の女の子がいる。
「シャフト(脳内変換)!私つけ回されてる。アパートの近くにずっと立ってる男がいるの、昨日は車でずっと待ってるのを見たわ……。今もドアの前に気配をずっと感じるの。」
決して気のせいでは無い事を彼女に確認し、私は現地に向かった。自転車でだ。
しかし着いてみるとそこに待っていたのは完全にやばい表情をした彼女の元彼の先輩である。このままノコノコ出て行ったら高確率で刺される事を確信した私は、そのまま最寄りの電話ボックスで110番をしたのだった。
これでもかと丁寧にお願いをして、お巡りさんを一人送り込んでもらい彼を説得してもらったのだった。
一応この件は解決したのだが、お巡りさん以外全く活躍していないため、脳内ではシャフトだった私に、
「いやー、頼りになるわー。寅さんだね君は」
と無念極まりないコメントを叩き付けたあげく、そのジャケットが寅さんにそっくりだと彼女はとどめを刺した。
帰り道、例年より暖かい気温がことさら寒かったのを思い出す。ちなみに何度も再生した黒いジャガーをちゃんと最後まで見たのは数年前である。